【神崎洋治のロボットの衝撃 vol.12】「AI x ロボット最新事例」Pepperのビジネス活用徹底研究 参加レポート

「Pepperのビジネス活用徹底研究 〜各種ビジネス系ソリューションと、最新トレンドを一挙に紹介〜」(M-SOLUTIONS主催)が、2016年3月9日に開催されました。「AIがロボットを進化させる、AI x ロボット 最新事例 」や「Pepperの心を理解する、Pepper感情生成エンジンの秘密」など興味深い話題の講演が行われました。今回はこのセミナーに参加した人も改めて楽しめる内容で、補足情報や動画の紹介を交えたレポートをお届けします。

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「AIがロボットを進化させる、AI x ロボット 最新事例」など、Pepperのビジネス活用事例やヒントを多数紹介




AIがロボットを進化させる、AI x ロボット 最新事例

トップで登壇したのは、ソフトバンクとソフトバンクロボティクスの主席エヴァンジェリスト、中山五輪男氏。「AI x ロボット 最新事例」と題した、PepperとIBM Watsonの最新事例です。IT最先端のビジネス活用に興味のある人が最も聞きたい話題のひとつでしょう。

ちなみに「エヴァンジェリスト」とは、昔からIT業界では頻繁に使われている用語です。ただ、以前は最先端の情報を発信するコアとなる有志やファン層を指していましたが、最近では最新技術や製品の情報を、講演や執筆によって発信・告知・啓蒙する伝道者の役割を担う人物をそう呼んでいます。企業内でも正式にエヴァンジェリストの肩書きを持っている人が増えてきました。そして、中山氏もそのひとり。

中山氏はソフトバンクが取り扱っているiPhoneやiPad、Apple Watchなどのスマートフォンデバイス、Pepper、IBM Watsonなどのエヴァンジェリストとして多数の講演を行っていて、聞きやすい独特な語り口と解りやすい内容が特長。iOS関連製品はもちろん、Pepperと人工知能はいま最もホットな話題の中心ですから、各地のセミナーに引っ張りだこです。今回のセミナー内容も「Pepperと人工知能について」ですから、中山氏が話す最新事例が聞きたくてセミナーに参加した人も少なくなかったと思います。

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ソフトバンク株式会社 ICTイノベーション本部 主席エヴァンジェリストの中山五輪男氏




Pepperが番組MC、ムービーの主役もつとめる

前半はPepperの導入事例が紹介されました。中山氏によれば、Pepperは既に40の銀行などの金融機関で受付や社内利用に採用されていると言います。

また、三井住友海上火災保険では社内向け動画にPepperがキャスターとして出演して活躍。大手銀行や生保の中には自社内にスタジオを持ち、社内向けや広報用に番組動画を制作しているケースが多く、ソフトバンクでも女性社員が入れ替わりでキャスターを行い、自社向けの番組を制作しているとのことです。そんなキャスターの代わりにPepperが司会やMC、最新の業界ニュース、新製品の解説などをしている事例が増えていると言います。

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三井住友海上火災保険の事例紹介。標準の開発ツール「コレグラフ」を使ってアプリを開発し、本日のニュース等のキャスターとして活躍。

Pepperの独特の声と言い回し、キャラクター性には人を惹きつけるチカラがあり、それを活用して番組のMCや案内役として起用しているのです。

セミナーの話題からは少しはずれますが、Pepperが主演しているプロモーション動画が大手企業によって制作されています。最近話題になったのはみずほ銀行が制作した動画、Pepper the Movie「404」。饒舌なPepperの役者ぶりを堪能することができます。全5話構成で視聴は無料。6月10日まで公開記念キャンペーンも実施しています。(日産自動車が制作した動画も後述で紹介しています)


▼Pepper the Movie「404」特設サイト(みずほ銀行)
http://www.mizuho-fg.co.jp/pepper/index.html


また、代理店向け説明会でPepperが商品説明等のプレゼンテーションをしたり、提携している海外企業が来社した際に英語で出迎えるケースもあります。

三井住友海上火災保険の事例では、Pepper標準の開発ツール「コレグラフ」を使ってMCや案内役のアプリを制作しているとのことですが、セミナーを主催したM-SOLUTIONSではコレグラフを使わず、技術者でなくても簡単にPepperにプレゼンテーションさせるツールを提供しています(詳細は後述)。これによってPepperに何かを説明させる目的での導入が一層すすむ可能性があります。



鉄道や観光案内などで導入が進む

そのほか、鉄道や店舗、観光案内所では外国語で商品や施設の解説をPepperが行う事例が急増していることが紹介されました。

海外を回る豪華客船の中では、Pepperが乗船していて英語・イタリア語・ドイツ語で船内のレストランやイベントで案内を行ったり、寄港地の観光情報をガイドをする事例もあります。ただし、イタリア語やドイツ語での会話はまだできないため、その2言語についてはPepperからの一方的な案内になります。

鉄道会社での導入事例として名鉄や京急の事例が紹介されました。羽田国際線ターミナル駅の京急Pepperは英語と日本語で、ウェルカムメッセージやカートの使い方を案内しています。ウェルカムメッセージは韓国語や中国語、ポルトガル語、スペイン語でも表示対応しています。国内でニーズが急増しているのは中国語の対応です。羽田国際線ターミナルには家電量販店のラオックスがありますが、そこではPepperが中国語で中国人観光客の爆買い対応の接客をしていて、その様子が動画で紹介されました。

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羽田国際線ターミナル駅で活躍する駅員さん風Pepper。京急電鉄とフューブライトコミュニケーションズ(ロボアプリパートナー認定企業)が開発した

また、うきは市(福岡県)の場合は外国語ではなく方言で観光案内を行っているとのことです。観光案内や名所、特産物などをロボットが案内する時代は既にはじまっています。



自動車販売店ではPepper導入効果が数字で明らかに

中山氏が次に紹介した事例は、報道でも大々的に告知されている日産自動車の女性顧客を視野に入れて展開する「レディーファーストショップ」。既に100店舗に導入され、販売店で接客を担当しています。日産自動車Pepperの特徴的なところはPepperに自動追尾機能を用意したところ。Pepperが来店客を認識し、障害物を避けたり停止しながらも自律移動をして追尾することで、自動運転技術の理解促進をはかります。

また、ソフトバンクの広報動画によれば、これらのPepperの導入効果は数字に表れていると言います。日産自動車の全店平均の来店客数上昇率を100%とした場合、Pepperを設置した店舗の上昇率は118%となり、集客効果が上がっていることを示しています。更に、Pepper設置店ではPepperがいることによって82%の来店客が「待ち時間が短く感じた」、77%が「居心地がよかった」と回答しているとしています。

日産自動車もまた、Pepperが主演したプロモーション動画を公開し、話題を集めていますので下記に紹介します。

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日産自動車の事例紹介。自動追尾技術を応用したインテリジェントクルーズ接客を実施。



▼ Pepper導入事例 日産自動車株式会社さま(ソフトバンク)



▼ 日産自動車によるPepper出演のプロモーション動画
 「とあるPepper 配属先の山形から」(日産自動車)



「Pepper導入事例 日産自動車株式会社さま」の動画の中のコメントにもあったように、ロボット店員が来店客に更に喜んでもらうためには、今後は来店客の顔を見て名前を覚える機能が欲しいという意見があります。名前を覚えてくれることでより親しみがわくからです。Pepperは標準では30人まで顔を覚えられるものの、より多数の顔を判別して記憶することは現時点では技術的に難しいといい、今後の課題となりそうです。

大手中古車販売店でもPepper導入が進められています。Pepperが対応することによって査定時間が30分も短縮、買い取り希望額など店員には話しにくいこともPepperのタッチパネルでヒアリングすることができるようになったと言います。



受付のシステム化にPepperを導入

その他、変わった事例では、採用の面接官をPepperが担当しているケースが紹介されました。求職者の本音を聞き出す任務に従事していると言います。

介護施設、ホテルの受付でインバウンド観光客対応など、Pepper導入事例を約10社紹介した後、アプリ開発パートナー紹介として、Pepperアプリの開発企業「ロボアプリパートナー」と代表的なシステム事例が紹介されました。

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イサナドットネット(ロボアプリパートナー認定企業)が開発した、企業・イベントでの受付管理アプリとPepper。QRコードをかざして受付を行う。



最近では多くのセミナーの入場管理にQRコードが利用されていますが、受付にPepperを置いてQRコードをかざすことで受付を行ったり、担当者のスマートフォン等に受付の通知が送られるシステム、Pepperとタブレット、大画面テレビを連動させたプレゼンテーション・システム、受付番号の発行と受付票のプリント、自分の順番までの残り人数をスマホに通知する受付管理サービス等が紹介されました。



IBM Watsonの機能と導入事例

Pepperの導入事例に続いて、ソフトバンクが日本IBMと提携して販売するコグニティブ・システム「IBM Watson」(以降、Watsonと表記)が紹介されました。既に大手銀行をはじめとして10数社に導入が決まり、150社を超える案件が寄せられていると言います。

冒頭で、WatsonはたくさんのAPIの集合体であること、2月18日に日本語版が発表されたこと、日本語版APIの機能紹介を中心に解説されました。

「Natural Language Classifier」(NLC)は、人間が話した会話を理解することができるAPI。Watsonに話しかける言葉の文法が少々おかしくてもWatsonは意図を理解し、時には行間まで読んでくれる点が優れていることを強調しました。

「Retrieve and Rank」(R&R)は人間の質問を理解した上で、回答を用意するAPI。その際、回答をひとつではなく、複数用意し、優先順位(ランク付け)を提示してくれる点を解説しました。

そして3つめが「DIALOG」(DLG)、シナリオベースで日本語の会話を生成していくAPIです。

そのほか「Speech to Text」(STT)は音声のテキスト変換、「Text to Speech」(TTS)はテキストを音声合成して発話することが説明されました。そして、今後はほかにも様々なAPIの日本語化を進めていくとしています。


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IBM Watsonの「DIALOG」を解説する中山氏。ユーザの会話を追跡し、ユーザ情報を収集することにより、ユーザプロファイル情報に基づく意思決定を行う



続いてWatsonの導入事例が紹介されました。コールセンターへの導入では、みずほ銀行、三井住友銀行、東京三菱UFJ銀行がそれぞれ導入を進めているということです。

また、最もWatsonが期待されている分野のひとつが法人営業だと言います。ソフトバンクは自社の事例として、数千人の法人営業をWatsonによってサポートするための営業支援システム「SoftBank BRAIN」を開発中ということでそのイメージ動画が紹介されました。

ソフトバンクではモバイルや固定通信回線、電気、Pepper、エンタープライズ・ソリューションなど、扱う製品数は2,500種類を超えています。営業担当はすべての製品に詳しいわけではないので担当窓口に問い合わせるなど、案件のクローズに時間と手間がかかっています。専門知識を含めたそれら窓口の知識や問い合わせ先の情報をWatsonに統合し、営業担当がスマートフォンを使って言葉で質問すると、Watsonを使ったシステムから迅速に適切な回答が得られるしくみです。今年の夏に導入し、営業部門の業務の効率化を目指す予定です。

IBM Watsonの機能、導入事例、Softbank Brainについては今までこの連載コラムでも詳しく解説してきたので、そちらも併せてご覧ください。

▼ビジネスを大きく変える「IBM Watson」の特長とその凄さ(1)
 ソフトバンクに聞く(1) Watson導入の最適な分野とは
https://robotstart.info/2016/01/26/kozaki_shogeki-no5.html

▼ビジネスを大きく変える「IBM Watson」の特長とその凄さ(2)
 ソフトバンクに聞く(2) WatsonとPepperの連携、SoftBank BRAIN、エコシステムプログラムとは
https://robotstart.info/2016/02/09/kozaki_shogeki-no7.html

▼ビジネスを大きく変える「IBM Watson」の特長とその凄さ(3)
 日本IBMに聞く(1) 導入実績と仕組み、開発環境。ボブ・ディランと会話して歌い、レディー・ガガの性格を分析するWatson、その軌跡と全容
https://robotstart.info/2016/02/16/kozaki_shogeki-no8.html

▼IBM Watson日本語版が会話を理解して最適な答えを助言する日
 〜「ロボット」と「人工知能」(AI)の最前線
https://robotstart.info/2016/02/23/kozaki_shogeki-no9.html

▼IBM Watsonハッカソン 日本語化された6つのAPI
https://robotstart.info/2016/03/15/kozaki_shogeki-11.html




Pepperの心の秘密

中山氏による講演のほか、アスラテック株式会社の事業開発部部長 羽田卓生氏による「Pepperだけじゃない、ロボットOS V-Sido 活用事例」やcocoro SB株式会社の取締役 大浦清氏による「Pepperの心を理解する、Pepper感情生成エンジンの秘密」も行われました。いずれもソフトバンクグループの企業でアスラテックはロボット用OS「V-Sido」(ブシドー)を開発販売している企業、cocoro SBはPepperの感情エンジンの開発で知られている企業です。

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アスラテック株式会社 事業開発部 部長 羽田卓生氏。ロボットの歴史や最新の技術、V-Sido OSについて解説



cocoro SBの「Pepperの心を理解する、Pepper感情生成エンジンの秘密」では、一般家庭に導入するPepperにとって要となっている感情エンジン群についての紹介、とても興味深い内容でした。

感情エンジン群は、感情生成エンジン(Pepper自身の感情を司る)、感情認識エンジン(相手の感情を認識する)、自然言語処理 雑談エンジン、物体認識エンジンからなっていて、それぞれエンジンのしくみやディープラーニング、「Pepperの心」等について説明されました。セミナーでのスライド公開は禁止ということですので、このコラムでは別の機会に改めてじっくり迫っていきたいと思います。

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cocoro SB株式会社 取締役 大浦清氏。感情エンジン群を構成する4つのエンジンの機能としくみを解説




Pepperのセリフや動作を技術者なしでかんたん設定

この「Pepperのビジネス活用徹底研究」セミナーはM-SOLUTIONS株式会社が主催しましたが、同社はソフトバンク・テクノロジーの100%出資のシステム開発を行う企業です。すなわち、今回のセミナーはソフトバンクグループによる注目のロボットと人工知能に関するイベント構成となっていました。

M-SOLUTIONSはウェブシステムやモバイルアプリ等の開発を行っていますが、Pepper向けアプリも積極的に開発しリリースしています。主力となっているシステムは、MCやプレゼンテーション、受付管理です。

おしゃべり動作設定アプリ「Smart at robo for Pepper」は、セリフや身振り手振りの動き、動画や画像を簡単な画面操作で指定するだけで、Pepperを簡単に動作させることが可能です。設定にはサイボウズの「kintone」(キントーン)を使用しているのがユニークな点です。一般的には開発者がPepperの標準開発アプリ「コレグラフ」を使ってアプリを開発していますが、「Smart at robo for Pepper」では技術者がいなくても、パソコンのスキルがある担当者がいればkintone画面でPepperの動作を設定することができます。

動作を設定したPepperは、プレゼンテーションで製品紹介をしたり、店舗の受付やイベント会場等で様々な案内をPepperに行わせることが可能です。「Smart at robo for Pepper」の料金は月額38,000円です。


▼動画「Smart at robo for Pepper 設定の手順」(M-SOLUTIONS)

また、同社は「Smart at robo for Pepper」に追加できる「ミラクルサイネージ連携オプション」を3月9日に発表しています。

「ミラクルサイネージ」は大画面ディスプレイやプロジェクタに表示するためのセットトップボックスで、これをPepperのSmart at roboと連携することで、プレゼンテーションやイベント会場、店頭などで、Pepperのタブレットに表示される画像や映像コンテンツ等を大画面で表示したり、大画面に表示した画像をPepperが手で示して注目させたり、デジタルサイネージをより効果的に活用することができます。Pepperの存在そのものが注目されていますので、訴求するには有効な手段になり得るかもしれません。

サイネージ連携用セットトップボックスは198,000円、サイネージ連携サービスは月額5,000円、Wi-Fiオプションが15,000円となっています(いずれも税別料金)。

サイボウズとM-SOLUTIONSは、「kintone」とPepperを連携して受付業務やアンケート作成などロボアプリの開発を共同で行っています。アンケートはタブレットのボタンでタップして回答してもらうほか、音声でも回答を集め、蓄積したデータを分析することができます。

当日のセミナーでも同社の受付をPepperが担当していました。受付ではiPad用受付アプリ「Smart at reception」のPepper対応オプションを使用して実現し、その様子を演出・解説したイメージ動画が公開されています。

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セミナー当日にM-SOLUTIONSの受付を担当するPepper



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Pepperにはチョウチョのデコレーション



▼動画「Smart at robo for Pepper アンケート編」(M-SOLUTIONS)



▼Smart at robo for Pepper(M-SOLUTIONS)
http://smartat.jp/robo/system.php


▼M-SOLUTIONS 公式ホームページ
http://m-sol.co.jp/


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神崎 洋治

神崎洋治(こうざきようじ) TRISEC International,Inc.代表 「Pepperの衝撃! パーソナルロボットが変える社会とビジネス」(日経BP社)や「人工知能がよ~くわかる本」(秀和システム)の著者。 デジタルカメラ、ロボット、AI、インターネット、セキュリティなどに詳しいテクニカルライター兼コンサルタント。教員免許所有。PC周辺機器メーカーで商品企画、広告、販促、イベント等の責任者を担当。インターネット黎明期に独立してシリコンバレーに渡米。アスキー特派員として海外のベンチャー企業や新製品、各種イベントを取材。日経パソコンや日経ベストPC、月刊アスキー等で連載を執筆したほか、新聞等にも数多く寄稿。IT関連の著書多数(アマゾンの著者ページ)。

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