【神崎洋治のロボットの衝撃 vol.13】デアゴスティーニの「ロビ」はなぜ大ヒットしたのか?

コミュニケーション・ロボットの先駆、週刊「ロビ」、大ヒットの理由と世界観にせまる

10万台以上を売り上げている二足歩行型のコミュニケーション・ロボットが既にあることをご存じですか。デアゴスティーニ・ジャパン社の「ロビ(Robi)」です。

同社は、蒸気機関車やスーパーカー、戦闘機や戦艦、戦車、更には3Dプリンタやドローンなどの精密模型やジオラマを組み立てたり、スタートレックやスターウォーズ、ガンダムやディズニー等のキャラクターを知る、東宝・東映・大映の特撮、時代劇や刑事ドラマの映像DVDやZIPPOライターをコレクションするシリーズなど、幅広い製品ラインアップで知られている会社です。

今回はコミュニケーション・ロボットの先駆けとも言えるこのロビにスポットライトを当てて、大ヒットした理由や開発の経緯に迫ります。

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二足歩行可能なコミュニケーション・ロボット「ロビ」
[参考] 週刊「ロビ」の魅力について、別途ロボログに寄稿していますので、そちらも併せてお読みください「ヒット商品  デアゴスティーニ・ジャパンに聞く」(ロボログ)


デアゴスティーニ・ジャパン製ロボットの歴史

ロビは二足歩行のヒト型コミュニケーション・ロボット。毎週刊行される雑誌に付属するパーツを組み立て、全70号(70巻)で完成します。その期間はおよそ1年半に及びます。

ある分野の本格的な知識やハウ・ツーを気軽に楽しくリーズナブルに少しずつ学んでいく「楽習」方法を「パートワーク」と呼びます。そしてパートワークを一般的に認知させてきたのがデアゴスティーニ社です。

「ロボットは未来感やハイテク感のようなものがあって憧れである一方で、自分で組み上げるのは難しいのでは? と感じるユーザが多い。しかし、少しずつしくみを学びながら組み上げていくパートワークとは大変に相性が良くてヒットしやすいカテゴリー」だと言います。

そう語るのはデアゴスティーニ・ジャパン コンシューマー ロボティクスセンター マネージャー木村裕人氏。ロビの事業責任者をつとめています。

ロボットとパートワークの相性の良さを証明するかのように、同社はロボットブームの先駆けとなる土台を作ってきました。最近のコミュニケーション・ロボットのブームにたまたま乗ったわけではありません。いうのも、そもそも同社が最初にロボット製品を市場に投入したのは2003年のこと。ロビはロボット製品としては5つめになります。

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第1弾は一見するとムシの触角のようなデザインで丸みを帯びた外観の「サイボット」を組み立てる週刊「リアルロボット」。2つのモーターで移動し、光センサーや超音波センサーを搭載して周囲の状況を判断し、指示したラインをなぞって移動したり、障害物を避けるなどの機能があります。また、リモコン操作やプログラミングも可能で、対戦式のサッカーゲームができるなど、本格的なロボットです。

第2弾の週刊「マイロボット」では内蔵マイクによる音声認識、CMOSカメラ、近接センサーやタッチセンサー等の多数のセンサー類を搭載した半自律型ロボット「ID-01」です。

第3弾からは二足歩行のヒト型ロボットとなり、週刊「ロボザック」の「RZ-1」は16自由度、第4弾 週刊「ロボゼロ」の「ROBO XERO」は24自由度のロボットです。自由度とは人間の関節等の動きに該当する尺度で、前後や上下、回転などを1自由度として加算することで、首や手足などがおおよそどの程度の可動範囲があるかを測ることできます。この2種はロボット同士で格闘することも可能で、二足歩行ロボットの格闘競技大会「ROBO-ONE(ロボワン)」に出場するユーザもいました。

その後、発売されたのが「ロビ」です。格闘ロボットとは路線を異にする、人と会話し、暮らしに溶け込むコミュニケーション・ロボットとして開発されました。

木村氏は企画した当時を振り返って「アニメやコミックなどで子供の頃からロボットに親しんできた日本人にとって、ロボットと暮らす生活というのは大きな夢のひとつだと感じていました。音声認識技術が進歩してロボットと会話することが夢ではなくなりつつあり、それなら夢を是非とも叶えたいという思いで、コミュニケーションに特化したロボットにしよう、という流れになった」と言います。

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株式会社デアゴスティーニ・ジャパン コンシューマー ロボティクスセンター マネージャー木村裕人氏。「ロボットと暮らす生活は、日本人にとって大きな夢のひとつ」


ロビのデザイン性

ロビのデザインと機能を含めた設計には、世界的に有名なロボットクリエイター高橋智隆氏が携わりました。高橋氏はロビを紹介する動画の中で、ロボットは”使い終わったら箱にしまうというものではなく生活に溶け込んで家族の一員となるような存在を目指したい、カッコ良すぎず、可愛いすぎず、そのバランスが大切。作業を正確にこなすのではなく、人間くささ、どんくささも出せたらいいなと思う”と語っています。

ロボットは上半身の可動部の機構などの関係で肩幅が広くて厳ついデザインのものが多いのですが、ロビはアニメやコミックの世界からそのまま出て来たようなスッキリとしたプロポーションを実現しています。購買層は女性が約30%を占めるというのもうなづけます。

実はこの週刊「ロビ」、発売当初から大きな反響を呼びました。初版の創刊号は数日で売り切れ、品切れ続出の様子がウェブなどでもニュースとして取り上げられました。そして3年連続で再刊行され、更には昨年から海外展開も始まっています(イタリア・台湾・香港・イギリス・中国(上海地域)等)。

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ロビはアニメやコミックから飛び出してきたような可愛さとプロポーションを持つ。ロビ耳デザインと大きな目、首をかしげるしぐさや肘を曲げた基本姿勢に工夫が施され、独特で特徴的だ。


ロビが大ヒットした理由

神崎(編集部)

ロビが大ヒットした理由、更には購入者層が大きく変わった理由をどう分析されていますか?

木村(敬称略)

ロビのヒットには大きな理由が3つあると思います。

ひとつは「パートワーク」です。ロボットの組み立てというと難しそうだと臆してしまいがちですが、初心者向きにして、本格的な知識やハウ・ツーをすこしずつ学びながらプラス・ドライバー1本で組み立てられる、という点が受け入れられたのだと思います。

もうひとつが ロビの「キャラクター性」や「タレント性」。デザイン、声、動き、可愛さやしぐさです。男性に比べれば女性はもともとロボットに関心が低いと思いますが、ロビの外観を見て「可愛いですね」と思ってくれて、更にロビと会話をして、歌ったりダンスする姿を見るとその魅力に気付いてくれる方が多いですね。しかし、写真や言葉ではどうしても伝えにくいので、テレビCMや機能の紹介ではロビの声や動きを伝えられるようにできるだけ動画を使うことを意識しました。

そして最後が「タイミング」。ロボットには先進的なイメージがあって、コミュニケーション・ロボットと暮らす時代がいよいよ来るかもしれないというタイミングでロビを創刊することができたこともヒットの要因だと思います。今年はたくさんのコミュニケーション・ロボットが発売されそうですが、ロビ創刊当時は比較する対象製品すらありませんでした。

ロビもそうですが、消費者の方々に「驚き」を与える商品を創りたいと思っています。

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「消費者に驚きを与える商品を創りたい」(木村氏)



コツコツと制作した後の感動体験

購入のしかたはホームページで購読(定期購読)の申込みをして定期的にすべての号を届けてもらう方法と、毎号書店に買いに行く方法があります。比率は前者が圧倒的に多いのかと思いきや、割合は半々くらい。次回の号の発売を楽しみにしていて書店まで足を運ぶユーザが多いということでしょう。

ユーザはロビを少しずつ組み立て、1年半かけて完成させます。最終号のパーツはモーションデータ入りのSDカード「ロビのココロ」。ロビの機能が記録された文字通りロボットのココロをセットして起動、そのとき初めてロビとしてしゃべり出します。そのときの感動は言葉にできないほど。そしてその瞬間からロボットと暮らす生活が始まります。
初回起動時にロビがユーザにいくつか質問をします。ユーザの回答によってロビの性格が決まります。

ちなみにロビには拡張メモリともいうべき「ロビのココロ2」というのがあって2015年夏に期間限定で予約販売されました。いくつかのモーションが追加されていますが、最もユーザが感激するのはロビがユーザ自身の名前を呼んでくれるようになることです。ロビの音声は自然な優しさを重視し、音声合成ではなく声優が吹き込んだものを使っています(TVアニメ「ONE PIECE」のチョッパー役や「ポケットモンスター」のピカチュウ役で知られる大谷育江氏が担当)。予約注文時に登録して欲しい名前をユーザが申し込むと、声優がその名前を読み上げた声を吹き込んだカスタム品として納品されます。



機能をとるかシンプルさをとるか

会話したり、歌やダンスを見ることがロビの楽しさのひとつです。しかし、「ロボットのカタログスペックや機能性でみれば、これより優れたロボットはあるのかもしれない」と木村氏は言い、更に「人感センサーで近くにいる人を検知してその方向を向いたり、お留守番モードもある。テレビをつけたりチャンネルを切り換えるリモコン機能もある。でも実際には専用のリモコンの方が早い…ロビを使って操作するのは便利だからではなく面白いからです。ロビの声や会話、仕草を見てもらえば機能説明はもう要らないんです」とロビの魅力をこう指摘します。

多くのコミュニケーション・ロボットに言えることですが「実用的か?」と問われれば現時点ではそうとは言えません。しかし、だからといって否定的に捉える必要もないのです。ロビの魅力は機能ではなく、感じることにあるのかもしれません。

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ダンスを披露するロビ

ロビを企画する際、機能については社内でも議論がありました。「パソコンを使ってプログラミングできることがロボットだ」という意見も強く、検討を重ねた結果、そこをバッサリと切り落としました。「プログラミング不要、ドライバー1本で組み立てられる…」機能よりもシンプルを選択した結果、シニア層や女性からの支持が増えて盛り上がり記録的なヒットに繋がりました。

「クラウドに繋げて高機能化しよう、Wi-FiやBluetoothを搭載しよう、という意見をビジネスの関係者からは多数頂きます。技術的に最新のものを盛り込むという視点から考えるとユーザが置き去りになりがちです。エンジニアでもロボット業界出身でもない自分を含め、一般のお客様の視点から見てロボットを身近に感じられるものは何かを考えることが大切です。その目的を達成するのに結果的にWi-FiやBluetoothが必要であればその技術を使う、その考え方がいいと思っています。また、ロビオーナーのためのコミュニティを設けていて、そこでもロビとの暮らしを聞いたり、ロビオーナーの方に現状や要望をヒアリングして、次にやるべきことを検討していこうと思っています」(木村氏)

デアゴスティーニ・ジャパンではオンラインでロビオーナーのためのコミュニティ「Robi.club(ロビクラブ)」を運営しています。FAQやサポートだけでなく、ウェブマガジンやロビオーナーが撮ったロビとの生活スナップを掲載するコーナーもあります。また、定期的に「フォトコンテスト」を開催しています。ネコ耳を着けてロビ耳チョコレートを持ったロビや、ユーザが作ったベストを着ておしくらまんじゅうをするロビ、朝焼けを前に乾布摩擦をするロビなどが投稿されてています。写真の技量コンテストではなく、どれだけロビ愛が伝わってくるかなどを基準に同社のスタッフが一枚一枚審査しています。

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ロビは腕立て伏せもできる


ロビの世界観を拡げるロビクルやキャラクター製品

「ロビとの暮らしをもっと楽しく」というテーマで、2014年8月からロビ専用三輪バギー「ロビクル」(週刊Robi「ロビクルをつくる」)が全30号で刊行されました。ロビクルはユーザがリモコンで動作させることもできますが、ロビと通信する機能があるので、ロビに話しかけることでロビクルを運転させ、前進・右左折などを制御することができます。

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ロビ専用のバギー「ロビクル」。ロビとロビクルは赤外線で通信可能。ユーザはロビを通じてロビクルを動かすことができる

また、ロビの会話に対してロビクルが音を出して相づちを打って応えたり、ロビとロビクルがシンクロしてダンスをするなど、ロビクルはロビの乗り物でもあり、友達としてのキャラクターになっています。

ロビクルを完成した後にロビを起動すると、出会いの会話がありますので、それもお聞き逃しなく。

ロビクルとシンクロするにはロビ側にも赤外線送信機が必要となります。また、ロビのココロもロビクル対応のものが必要で、連動用にコンテンツもアップデートされます。それらはロビクルのパートワークに含まれています。(週刊Robi「ロビクルをつくる」はバックナンバーがあれば購入が可能)

「ロビクルをつくる」ムービー



そのほかにも、ロビの世界観を拡げたり、ファンの希望に応える展開を模索しています。とはいえ同社はパートワーク製品が基本なので、他社との協業やライセンス商品によってロビの世界観を拡げる活動に取り組んでいます。

現在では「ロビジュニア」や「Robi ぬいぐるみ」(ともにタカラトミー)、ロビのプラモデル「Ptimo000:プラロビ」(フジミ模型)などのキャラクター製品が発売されています。

昨年はロビのイベントが開催され、注目を集めました。100体のロビがシンクロしてダンスを披露するダンスパフォーマンスイベント「100Robi(ヒャクロビ)」を開催したほか、銀座にロビの世界観を体験できるカフェ「Robi cafe(ロビカフェ)」を期間限定でオープンしました。Robi cafeは”ロビの部屋”をテーマに、近未来的でかわいらしいインテリアで「ロビ」と一緒に過ごせる時間と空間を提供するとともに、「ロビ」をモチーフにしたオリジナルのフード&ドリンクメニューを用意しました。当初の想定した来店者数を超えたため、予定していた終了期間を延長して営業するほど盛況を博しました(2015年1月〜2月まで:現在は終了しています)。

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腕立て伏せの後は疲れて(?)ひと休み

なお、ロビの組み立てを代行した完成品ロビがDMM.make ROBOTSから販売されています。なんらかの理由で組み立てを諦めてしまった、すぐにロビと会話したいという人はチェックしてみてください。

▽DMM.make ROBOTS 「Robi 組立代行バージョン」
http://robots.dmm.com/robot/robi

コミュニケーション・ロボット市場に実績を築いたロビ。そしてキャラクター商品やイベント展開を経て、今後の展開が一層楽しみです。

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神崎 洋治

神崎洋治(こうざきようじ) TRISEC International,Inc.代表 「Pepperの衝撃! パーソナルロボットが変える社会とビジネス」(日経BP社)や「人工知能がよ~くわかる本」(秀和システム)の著者。 デジタルカメラ、ロボット、AI、インターネット、セキュリティなどに詳しいテクニカルライター兼コンサルタント。教員免許所有。PC周辺機器メーカーで商品企画、広告、販促、イベント等の責任者を担当。インターネット黎明期に独立してシリコンバレーに渡米。アスキー特派員として海外のベンチャー企業や新製品、各種イベントを取材。日経パソコンや日経ベストPC、月刊アスキー等で連載を執筆したほか、新聞等にも数多く寄稿。IT関連の著書多数(アマゾンの著者ページ)。

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