【神崎洋治のロボットの衝撃 vol.15】京浜急行や小田急電鉄がPepperを活用 観光や介護の課題にロボットで挑むフューブライト

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空港や駅で観光客をウェルカムメッセージでお迎えする、そんなPepperの導入が進んでいます。京急電鉄の羽田空港国際線ターミナル駅の改札口では駅員さん風にカラーリングされたPepperが活躍しています。また、新宿駅でも小田急電鉄がPepperを実証実験のため期間限定で導入、箱根観光をPRしたり観光名所や名産品を紹介していました。

これら電鉄会社と共同開発したのはどちらもフューブライト・コミュニケーションズ(以下、フューブライト社と表記)。医療介護分野でも、Pepperの実証実験を積極的に行い、知見を積み重ねている会社です。


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羽田空港国際線ターミナル駅の改札口でウェルカムメッセージやカートの利用方法を案内するPepper。京急電鉄とフューブライト・コミュニケーションズが共同開発した




京急電鉄ではウェルカムメッセージを伝えるマルチリンガルPepperが活躍中

羽田空港国際線ターミナル駅、京急電鉄の改札口付近では駅員さん風のPepperが活躍しています。京急電鉄とフューブライト社の共同開発によるもので、国際線ターミナルの改札口に入ってくる旅客に向けて、ウェルカムメッセージを伝えています。到着ロビーを経て京急で都内方面に向かう旅客を対象に想定したもので、日本語と英語、中国語で歓迎しています。


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旅客がPepperに気付いて集まってきた。Pepperと一緒に記念撮影を撮ったり、おみくじゲームをして笑顔がこぼれる



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また、このPepperは旅客が使う言語を解析する機能も持っています。誰かがPepperに近付くと自動的に検知して胸のタブレットでウェルカムメッセージや動画が流れ、多言語対応のリスニングモード(聞き手)に入ります。そのとき旅行客が英語で「Hello」と話しかければPepperは英語で案内し、中国語で「ニーハオ」と話しかければ中国語で案内します。

ウェルカムメッセージのほかに、構内用カートの利用方法を日本語と英語でアナウンスしたり、おみくじゲームも提供しています。

改札口を入ってすぐの場所にいるので多くの旅客がPepperに気づきます。しばらく様子を見ていましたが、足早に通過する人が大半ではあるものの、時間に余裕がある人はPepperのタブレットでおみくじを引き、一緒に写真を撮る家族連れもいました。特に多くの子供が敏感にPepperに反応し、一緒に写真を撮りたがっていました。

「旅客がPepperと呼んだらその呼びかけに応えて欲しい」などの要望も出ていて、京急電鉄Pepperは常設ロボットとして今後も機能アップを重ねていくとのことです。


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なお、羽田空港国際線ターミナルでは家電量販店ラオックス内においても、Pepperが活躍していました。オーブニングイベント期間中の限定稼働だったため現在はいませんが、中国からの観光客に対して商品の説明などを中国語で行う、いわゆる「爆買い」をサポートしていました。これもラオックスとフューブライト社との共同開発によるものです。



箱根の観光案内を中国語と英語で案内するPepper

小田急電鉄の「新宿駅」西口改札付近でもPepperが活躍していました(期間限定のため現在はいません)。場所は観光案内と旅行代理店の店舗施設の店頭です。小田急電鉄ではロマンスカーなどによる箱根観光を推進していて、それにPepperがひと役買っていました。おいしい食事の写真などをタブレットに表示しながら、英語と中国語で箱根観光を案内していました。


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新宿駅西口で観光案内を行う小田急電鉄のPepper

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案内の言語は英語か中国語。タブレットで選択する

この小田急Pepperには実はスゴ技の隠し機能があります。フューブライト社のボードメンバーは元々、電話関連の通信会社の技術者だったこともあり、Pepperに音声回線での通話機能を持たせることができる専用のロボアプリ「ロボ電」を開発しました。

この「ロボ電」を応用し、Pepperを介して顧客と現場スタッフ、コールセンターにいる通訳の3者を電話回線で繋いだのです。例えば、中国語を話す観光客が箱根について現場スタッフに質問したとします。もしも現場スタッフが中国語を話せなければ、質問を聞き取ることも答えることもできません。そういう時はPepperのタブレットからコールセンター通話ボタンをタップし、通訳コールセンターに通話接続します。Pepperがスピーカーフォンのような役割を果たし、グループ通話の要領で外国人観光客と通訳、案内スタッフの3者コミュニケーションがとれるしくみです。

フューブライト社のサービス企画部長、近藤幸一氏によれば「一次対応はPepperが通常のシナリオに沿った観光案内を行い、観光客から質問があれば “僕では解らないからスタッフを呼んで〜” と言ってスタッフに対応してもらいます。外国人観光客が使う言語をスタッフが理解できない時はスタッフがPepperを通じて通訳コールセンターに電話機能で繋ぐ手順です。あくまでもPepperができることはPepperがやり、できないことは人間がPepperをサポートする、という考え方に立っている」としています。

運輸や観光の現場に導入してみて最も困難だった点は通信回線の確保。近藤氏は「電鉄会社の本社と駅構内の施設運営はたいてい同じ部署ではなく、事業者が異なる場合もあります。そうなると有線による通信回線をお借りするのは簡単ではないケースも多く、一方でWi-Fiやモバイル(3G/LTE)などの無線では安定した通信と動作ができない」ことが悩みだったと言います。


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芦ノ湖の遊覧船や大涌谷のロープウェイなど、箱根観光を写真で案内するPepper




観光大使と「ロボてなし」

フューブライト社が開発している分野は、大きくわけて3つの柱があります。ひとつめはここまで解説してきた電鉄会社と共同開発したPepperを含む、観光業界向けPepper。同社では「ロボてなし」と銘打ち「あなたのまちの観光大使をつとめます」というキャッチコピーでPR展開しています。

ロボてなしを構成する技術やアプリはいくつかありますが、いずれも地域の観光組合や商店街、交通機関等とタイアップして地域の活性化を促すものです。そのひとつが「モニター連動のプレゼン機能」です。大画面テレビの中に登場する”ゆるキャラ”とPepperが連動し、掛け合いによって街の特徴や観光名所などを解説することができます。ゆるキャラとPepperのセリフ、各々の身振り手振り、ゆるキャラのカメラワーク等、クライアントがパソコンで登録しておくことができます。


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「Pepper 」(A)と「ゆるキャラ」(B)の掛け合いによるストーリー進行やプレゼンテーションが手軽に作成できる。この例では、ゆるキャラはプロジェクタ(C)で投影した映像の中で動作している

また、「ロボてなし散歩」は絵地図による観光案内とPepperの連動。グラフィックデザイナーで絵地図師の高橋美江氏の描いた絵地図を大画面テレビに表示したり、Pepperやゆるキャラと組み合わせてまちの魅力を紹介するという趣向です。

他には、Pepperを街の観光名所等、数カ所に設置しておき、観光客のスマートフォンをPepperに近づけるとビーコンを使ってアプリに信号を送信するスタンプラリー機能を開発しました。これは謎解きなどのクイズ・イベントとしても利用できるとしています。

また、商店街や店舗とタイアップして割引クーポンを配信するシステムもあります。同社の代表取締役の居山俊治氏は「従来、専用アプリとBluetooth(通信)を使ってPepperからスマートフォンにクーポンを配信するしくみをとっていました。しかし、中国からの観光客をターゲットにした場合、割引クーポン取得のために専用アプリをインストールしたり、Bluetoothの設定をオンに設定することは、利用者にとって敷居が高いと感じました。そこで「WeChat」(中国ではLINEのような感じで広く利用されているメッセージと通話アプリ)を使ってクーポン配信ができるように機能拡張しました。多くの中国人のスマートフォンには既にWeChatがインストールされているので、そのままのスマートフォン環境で利用できます」。

同社は他に、Microsoft PowerPointを使ってPepperにプレゼンテーションさせることができる「ロボピッチ」(アプリ&クラウドサービス)も開発しています。PowerPointで作ったプレゼン画面をタブレットや大画面ディスプレイと連動させて表示したり、PowerPointのメモ欄に入力したテキストをPepperに読ませることができます。商店街や観光案内、イベント会場などで、Pepperを手軽に活用するためのツールと位置づけています。

「ロボピッチはPepper for Biz 向けロボアプリマーケットで4月からダウンロード販売を開始する予定です。2020年に向けて観光客はますます増加すると見られていて、観光事業でのロボット導入の需要は更に高まると予想しています」(居山氏)。


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今年の2月「Pepper World 2016」に展示された「ロボピッチ」のブース。観光案内役としてのPepperが、PowerPointで作成した東京の名所をプレゼンするデモが注目を集めた




介護分野では「いきいき脳体操」などが運用フェーズへ

ふたつめの柱は医療介護分野です。フューブライト社はPepperの公式アプリコンテストで過去「ニンニンPepper」と「いきいき脳体操」で最優秀賞を二度も受賞しています。また昨年は、高齢者・介護施設のレクリエーション時間のPepper活用で、10数回にわたる実証実験を繰り返し、大きく報道もされてきました。そのため、Pepper関連のロボアプリ開発者や関係者の中には「フューブライト社と言えば介護分野」と言う人も多いことでしょう。

同社では認知症の進行を予防するのに有効と期待されている「頭の体操」と「身体の体操」の2種類のPepper向けロボアプリを開発しています。頭の体操は仙台放送の番組「川島隆太教授のいきいき脳体操」のロボアプリ版「いきいき脳体操」、ニンテンドーDSで大ヒットしたゲーム「脳を鍛える大人のDSトレーニング」(脳トレ)の川島隆太教授が監修しています。身体の体操は、青少年から高齢者、介護現場でレクリエーション活動の支援を行っている余暇問題研究所の山崎律子代表が監修しているロボアプリです。同社は医療介護分野では有識者による監修が欠かせないという方針のもと、実証実験で効果を確認してきました。同社の取締役の吉村英樹氏によれば「介護や医療の現場では実証実験とエビデンスにより効果を示すことが重要です。エビデンスを得るには専門家の方の監修が不可欠と考え、実証実験や開発にご協力をお願いしています」。

今年はいよいよこれらのアプリを発売していく計画で、約 15 種類の脳トレゲームや、準備体操や指おり体操などをパッケージにして、仙台放送様から6月にリリースする予定です。

いきいき脳体操(川島隆太教授 Pepperへの期待)



▼川島教授の「テレビいきいき脳体操」とは?
「いきいき脳体操」の効果のしくみ」 (http://www.ox-tv.co.jp/brain/brain_1.html

近藤氏から聞いた実証実験の際の興味深いエピソードを紹介します。

「実証実験を何度か行う際、高齢者の方々が飽きてしまわないように、レク用のアプリはなるべく毎回新しい内容のものを用意しようと考えていました。しかし、専門家の先生によると”あまり新しいものを頻繁に更新するよりは繰り返し行った方が良いのではないか”という提案がありました。そこでそれを確認するため、同じ人たちを対象にして、あえて4週(4回)連続で同じレクの体操アプリをやってみる、という実証実験を行いました。私達は、いくらなんでも同じコンテンツを4回連続でやられたら、高齢者の方々も当然飽きてしまうだろうと予想していました。

当日は、専門家のスタッフの皆さんにもレクに立ち会ってもらい、12人全員の高齢者の表情をチェックして記録してもらいました。その結果、4回連続で同じ内容のレクを行った場合、回を重ねるほど高齢者の方々の反応が良くなっていくという結果が出たんです。

前回やった記憶をはっきり覚えている高齢者の方は「Pepperくん、次はこれをやるんだよね」と言って率先して体操を行ってくれましたし、一方で前回のことを既に覚えていない高齢者の方は、毎回新鮮な感覚で「面白い、面白い」と言って参加してくれたわけです。この結果は驚きだったとともに、繰り返し行ったとしてもこんなに喜んでもらえると、私たちの中で大きな自信になりました。コンテンツの内容は定期的に更新していきますが、最も効果的と思われるタイミングで行っていく予定です」



Pepperと電話機能の融合「ロボ電」

3つめの柱が「ロボ電」です。

Pepperを電話機のように使える機能です。使用用途として考えられるのはまずは企業での受付業務。現在、「Pepper for Biz」の標準アプリに受付機能が用意されていることもあり、受付にPepperを導入する企業が増えつつあります。しかし、多くの場合は次のような利用の流れになっています。

来社した顧客は受付でPepperをみつけ、タブレットから訪問先の部署や担当者の名前を選ぶと内線番号を表示し、来訪客はPepperに隣に設置された電話機を使い、Pepperが表示した内線番号を押して担当者を呼び出します。すなわち、Pepperは内線番号リストの代わりになるだけのケースが多いと言います。

これに疑問を感じた同社は、自分たちの考えるロボットはそうじゃない、ロボット自身が内線で担当者に繋ぐまでが役割のはずと考えました。しかし、それにはPepperから音声回線(IP電話)を利用する技術を開発する必要がありました。こうして誕生したのが「ロボ電」です。

ロボ電 Cloud PBX フューブライト・コミュニケーションズ株式会社 ロボアプリマーケット for Biz用アプリ(ソフトバンク)



このロボ電の技術を応用したのが前述した、小田急電鉄と共同開発したPepperの実証実験に導入した通訳コールセンターに音声通話で接続する機能です。通訳コールセンターの事業者とは業務提携しています。


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観光客とスタッフ、Pepperを介して通訳のコールセンターで3社会話を可能にした

こうして着実にPepperのビジネス利用を拡大しているフューブライト社。居山氏は「3つの柱で開発してきた製品サービスの体制が整ってきたので、今年はこれらを販売に繋げていく」としています。

2020年に向けて急激に増加している海外からのインバウンド観光客。深刻化する少子高齢化社会と介護問題。これらの社会問題をITやロボットの技術で立ち向かう同社の挑戦はいわばこれからが本番。今後の展開が一層楽しみです。


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向かって左からフューブライト・コミュニケーションズ社の取締役の吉村英樹氏、代表取締役の居山俊治氏、サービス企画部長の近藤幸一氏

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神崎 洋治
神崎 洋治

神崎洋治(こうざきようじ) TRISEC International,Inc.代表 「Pepperの衝撃! パーソナルロボットが変える社会とビジネス」(日経BP社)や「人工知能がよ~くわかる本」(秀和システム)の著者。 デジタルカメラ、ロボット、AI、インターネット、セキュリティなどに詳しいテクニカルライター兼コンサルタント。教員免許所有。PC周辺機器メーカーで商品企画、広告、販促、イベント等の責任者を担当。インターネット黎明期に独立してシリコンバレーに渡米。アスキー特派員として海外のベンチャー企業や新製品、各種イベントを取材。日経パソコンや日経ベストPC、月刊アスキー等で連載を執筆したほか、新聞等にも数多く寄稿。IT関連の著書多数(アマゾンの著者ページ)。

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