【森山和道のロボットの見方vol.1】Doog、どこでもすぐに使える自動追従搬送ロボット「サウザー」を本格展開へ

移動ロボット・ベンチャー企業の株式会社Doog(ドーグ)は、2016年4月18日、人に自動追従する台車ロボット「サウザー」により実用的な機能を追加したと発表して東京・秋葉原で記者会見を行った。2015年10月に発表した「サウザー」に機能を追加し、工場や倉庫などの狭い通路(幅80cm)、角(幅100cm)でも自動追従できるようになった。カートを手押しする必要がないので作業性が向上するほか、製造工場での製品運搬業務、物流倉庫でのピッキング業務などの効率化に貢献できるとしている。

また、ライン上を無人走行できるようにもなり、人力から無人、無人から人力へと切り替えることで運搬業務の半自動化も可能になった。現在既に数社の倉庫や工場で試験運用中だ。

今年度は商社や販売店などパートナー企業とも手を組んで販路拡大を目指す。年度内に100事業所に数台を導入し、数百台の普及を狙う。価格はオープンプライスだが、基本的にロボット単品での導入というよりは、システムとしての導入が基本となる。


汎用運搬ロボット「サウザー」

「サウザー」プロモーション動画

「サウザー」は広視野の赤外線レーザーセンサーを用いて、人のあとを追いかけること(追従)ができる台車型ロボット。最大120kgまでの荷物を運ぶことができる。レーザーを使っているので屋内外や明所暗所に対応し、障害物を自動回避することができる。人の追従には専用の発信機などは不要。

追従速度は時速7.5km、3.75kmの2段階。バッテリーは自動車用の鉛蓄電池で、航続距離は20km。3cmまでの段差を踏破可能だ。

上部は荷台となっており、導入先に応じて自由に変更できる。操作はジョイスティックか、リードを用いる。リードを引っ張って指示を与えることで、離れた場所から操作することもできる。また人が混在する場所でもリードがあることで、より周囲と馴染んだ状態で扱えるようになる。電磁ブレーキを手動で解除すれば、押して移動することもできる。

特徴は通常のロボットと違って、本当に簡単に導入できること。既存の設備をいじることなくそのまま搬入して稼働させられる。操作自体も単純で、すぐに覚えられる。スイッチを入れれば使うことができる。



80cmの通路幅で自動追従可能に

幅80cmの通路、幅100cmの角でも自動追従可能になった

今回、Doog社独自の移動ロボット用アルゴリズム「Doog Navigation Engine」を刷新、搭載したコンピュータの性能を上げたことで、従来は無理だった80cmの通路幅でも動けるようになった。「サウザー」本体の横幅は60cmなので、横に20cmの空間があれば動けることになる。また角を曲がるときも幅100cmあれば滑らかに走行できる。なお労働安全衛生法規則で設けられている通路幅が80cmであり、規則を守っている工場内であれば動けることになる。

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また、防滴性能もあるので、建屋内だけではなく建屋間の運搬にも用いることができる。複数の「サウザー」同士を追従させることも可能だ。「サウザー」を使うことで、作業者は両手をあけたままスムーズに作業できるようになる。

また、光を反射する再帰性反射材を使った無人走行用ラインを通路に敷設することで、通常運用から無人ライン走行へと簡単に切り替えができる。Doogでは、手押し台車を使用している現場に「サウザー」を導入すると、時間あたり仕事量が1.8倍、3台導入すると3.1倍になると見積もりしている。

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自動追従ロボット技術で物流現場、製造現場を人にやさしく

Doog取締役の一人、内山祐介氏は「2015年10月の発表後、物流関係、メーカー、製造現場から多数の問い合わせがあった」と語った。今回の改良は、いくつかの現場で検討した結果受けた要望を活かしたものだという。

大規模な製造現場工場ではFA化(工場自動化)が進んでいる。だが多品種・小ロットの製品は自動化が難しく、まだ人手に多くを頼っている。いま多くの工場は単位面積あたりの業務効率性を追求するために通路幅が狭くなり大型機材が通れなくなっている。その結果、自動化が進んだ工場であっても、人手による手押しピッキングカートを使った運搬作業量が増加しており、逆に人手が増えてきているという。作業者の歩数は1万数千歩から、多いところで2万歩にも及んでいる。2万歩というと少なく見積もっても10km以上にもなる。

内山氏は「サウザーの自動追従機能を使ってもらうと搬送量を2倍、3倍と増やせる。その結果、作業者の歩行数を減らすことができ、業務の改善だけでなく、怪我や疾病などによる離職率を減らすことも可能だ。やさしい職場環境が実現できる」と述べた。

また通販用の物流ニーズが増大しており、そこでも製造現場同様の課題がある。自動追従機能を使うことでピッキングエリア内での業務改善が可能だという。製造業と違って、通販業でにおいては、ピッキングエリアから離れたところに集荷エリアがある。いまはピッキングした商品を集荷エリアまで、人が手押し台車を押して運んでいる。Doogでは幾つかの倉庫で無人ライン走行の試験運用を行なっている。作業を半自動化することで大幅な業務改善が可能になったという。


秋葉原ダイビル8Fで「サウザー体験会」を実施

複数のサウザーによる自動追従走行(カルガモ走行)

Doogでは、「サウザー」を導入して終わりではなく現場改善のための方策や有効活用方法を積極的に模索していきたいとしている。また実際に体験してもらうために、4月19日(火)から6月30日(木)までの日程で、秋葉原ダイビル8Fで「サウザー体験会」を実施する(予約制)。

今回の移動ロボット技術の改良は、Doogの他のロボットにも適用されるほか、今後の開発が検討されている、より大型(500kg以上搬送)台車ロボットや、乗り物型ロボットなどにも応用できる。新たな可能性を模索する商談が期待できる。

屋外でも使用可能


現場で本当に使えるロボットでビジネスを

「サウザー」という名前は、サウザー犬(ジャイアント・シュナウザー)に由来する。「大型使役犬並の能力と従順さで真に使える運搬ロボット」という意味が込められている。なお社名のDoog(ドーグ)も、「道具」という意味と「Dog」をかけたものである。

今回の「サウザー」が実現した、狭い場所でも動ける技術は、地味で当たり前のように見えるだろうが、実は難しい。他の自律移動ロボットのデモを見る機会があれば比べてみるとわかるかもしれない。

Doogは代表取締役の大島章氏が2012年に立ち上げた会社だ。大島氏のほか、前述の内山氏、同・取締役の城吉宏泰氏も、移動ロボット研究で知られる筑波大学システム情報工学研究科を経て日立製作所の研究所という経歴である。これまでに、広告などに用いることができるかるがも追従ロボットや、二人が横に並んで座れる移動ロボット「モビリス」などを開発してきた。

行楽施設用モビリティ「モビリス」(茨城県かみね動物園での実証実験の様子)

今回、業務拡大に合わせて、さらに4人のメンバーが加わった。3人同様、日立製作所や他の大企業に在籍していた人たちもいる。

ロボットの研究室を経て、大企業でロボット開発に携わっていた人たちが、よりフットワークの軽さと「現場で本当に使えるロボット」を求めてベンチャーに参加するという流れは、いかにもありそうに思えるかもしれない。だが、日本国内では案外このような例は少ない。それだけに、彼らが成功するかどうかは、彼ら自身はもちろんだが、後輩となる学生たちにとっても興味深い試金石だ。学生時代から研究開発を続けてきた自分の技術、それを使ってビジネス展開し、成功し、結果的に世の中を変えていきたいと思っている人たちは少なくないだろう。

物流はもっともロボット導入に適した業界でもある。同様のコンセプトの搬送ロボットも世界各国で開発・発表されている。それぞれの特徴があるが、人の後ろをついていくことに特化した「サウザー」の「スイッチを入れればすぐに使える」という単純な点は大きな強みだろう。現場は忙しいからだ。

また各社で開発されているロボットはそれぞれ狙っている用途/分野が異なり、想定している導入先/システムの規模も、だいぶ違うようだ。私見ではあるが、案外それぞれ棲み分けることができるのではないかとも思っている。できれば、本連載で今後それらのロボットについても一つ一つ紹介していきたい。

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森山 和道

フリーランスのサイエンスライター。1970年生。愛媛県宇和島市出身。1993年に広島大学理学部地質学科卒業。同年、NHKにディレクターとして入局。教育番組、芸能系生放送番組、ポップな科学番組等の制作に従事する。1997年8月末日退職。フリーライターになる。現在、科学技術分野全般を対象に取材執筆を行う。特に脳科学、ロボティクス、インターフェースデザイン分野。研究者インタビューを得意とする。WEB:http://moriyama.com/ Twitter:https://twitter.com/kmoriyama 著書:ロボットパークは大さわぎ! (学研まんが科学ふしぎクエスト)が好評発売中!

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