【森山和道のロボットの見方vol.3】コグニティブ技術のロボット応用を容易にするロボット共通基盤とは IBM Watsonサミット2016

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2016年5月25日、26日の日程でグランドプリンスホテル新高輪にて「IBM Watsonサミット2016」が行われた。IBMのQAシステム「IBM Watson」を中心としたIoT、コグニティブ技術、クラウド基盤やヘルスケア、FinTechなどの新技術ソリューションのビジネス活用事例を紹介するイベントで、公式サイトによれば1万人の来場者があったという。日本アイ・ビー・エム株式会社 代表取締役社長執行役員のポール与那嶺氏による基調講演と、ロボット関連のデモ展示について簡単にレポートする。



デジタイゼーションからデジタライゼーションへ

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日本アイ・ビー・エム株式会社 代表取締役社長執行役員 ポール与那嶺氏

日本アイ・ビー・エム株式会社 代表取締役社長執行役員のポール与那嶺氏は、「これからの時代はデジタイゼーション(digitization)から、デジタライゼーション(digitalization)の時代だ」と述べ、そのための技術がIBMのコグニティブ・ソリューションズ(Cognitive Solutions)だと話を始めた。情報をデジタルフォーマットに変換するプロセスがデジタイゼーションだが、目標はむしろデジタライゼーションであり、それはビジネスモデルの変革や新たな価値創出をもたらすデジタル技術の活用という意味だという。


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非構造化データと構造化データをWatsonで理解し、推論し、学習していく

IBMはこれまでに1997年にe-ビジネス、2008年にはスマータープラネットというコンセプトを打ち出してきた。そしていまのコンセプトがコグニティブ・ソリューションズである。構造化データだけでなく、ネット上にある非構造化データを合わせてIBM「Watson」で理解し、推論、学習していく。そして企業の支援ができるようにしていくというものだ。

Watsonは競合他社のAIと比較してどう違うのか。ポール与那嶺氏は「AIといういのはもちろん仕組み自体は重要。それよりもデータが重要。AIのエンジンが学習するということが重要だ」と述べた。そして学習には時間がかかるため、はやく活用するのがポイントだと語った。「AIに関する議論は無駄な議論。はやく使い熟す。それが一番重要」だという。

Watsonは今年2月に日本語化をプレス発表した。すでに業種ごとのベストプラクティスを提供可能であり、早期にソリューションとして活用して付加価値が出せるものとなっているという。



「Watsonではじめるコグニティブ・ビジネスの時代」

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日本アイ・ビー・エム株式会社 常務執行役員コグニティブ・ソリューション事業担当の松永達也氏、同 グローバル・ビジネス・サービス事業 コグニティブ・ビジネス推進室長パートーナーの中山裕之氏

続けて、「Watsonではじめるコグニティブ・ビジネスの時代」と題して、日本アイ・ビー・エム株式会社の常務執行役員コグニティブ・ソリューション事業担当の松永達也氏と、同 グローバル・ビジネス・サービス事業 コグニティブ・ビジネス推進室長パートーナーの中山裕之氏が講演を行って、すでに実用段階にあるというワトソンの利用例について事例紹介を行った。

Watsonの大きな特徴は自然言語を理解することであり、銀行コールセンターの回答においては正答率90%を超えており、4000冊以上の医療論文を1秒で把握することができるという。さらに、従来は人間が理解していた空気感まで理解できるようになりつつあると述べた。


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Watsonを使った表情認識

そしてIBMフェローの浅川智恵子氏による、視覚障害者が大学の構内で知り合いとすれ違う、その表情をWatsonを使って認識するというデモや、自然言語から感情・社会的印象を分析する「Tone analyzer」を紹介。Watsonには自然言語、画像認識、音声認識、感情認識など様々なサービスが追加されていると語った。


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Personality Insightsによるツイート分析

また「Personality Insights」という機能を使えば、自然言語から性格や行動を読み取ることができるとし、ポール与那嶺氏のツイートを分析した結果を示した。このような機能は結婚相手探し、上司と部下のマッチングや、技術者の派遣に使うなど様々なケースに使えるのではないかと考えられるという。


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すでに実用段階に入ったWatson

流通、ヘルスケア、保険など各分野でデータの質の向上が求められており、業種別にコグニティブソリューションを展開していくと語り、技術分野専門の人材サービス派遣会社である株式会社フォーラムエンジニアリングでのマッチング創出にWatsonを用いている例が紹介さえた。ユーザー自身がWatsonとチャットしてデータを入力することで、興味関心や人間性といった要素もDBに入れて統計解析して相性を論理的にデジタル化して算出できるようになった。公平性や正確性も増したという。

その結果、以前は一つのポジションに対して多くの候補者を提案していたが、いまは絞り込めるようになったという。今後は音声認識も可能にして、より良いユーザーインターフェースを実現していく。

このほか、損害保険業界や旅行代理店のプランニング、製造業への導入、家電へのWatson の組み込みなどがあり得ると紹介された。たとえば電子レンジにWatsonを組み込むことで電子レンジが自動でよりよい調理をしてくれたり、自動車に導入することでこれから行く先の交通情報や趣味嗜好にあった情報、保守関連情報などを適切に提示できるようになる。


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エコシステムでコグニティブソリューションを展開していくIBM

肝は、企業に埋もれているダークデータを誰でも使える知識にできるようにすること。非構造化データをコンピュータが理解できるようにすることだ。現状では社内にある構造化データさえもうまく使えてないかもしれない。それらを学習で活用できるようにして、商品やサービスにワトソンを組み込んでサービスを創出していくことができるようになる。ノウハウもデジタル化して一般の従業員でも使えるようになる。IBMだけの自前主義ではなく、エコシステムのなかでWatson関連のソリューションを開拓していくという。



IBM Watsonのコミュニケーション・ロボットへの応用、ロボット共通基盤とは

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デモ会場は大勢の人でごったがえし

展示会場ではいくつかロボット関連の展示もあったので紹介しよう。「Communication Robot with Watson – 対話型ロボットが拓く世界」では、いくつかの対話型ロボットが出展されていた。Watson と連携することでコミュにケーションロボットを容易に実現できるようになるという。


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タケロボ株式会社「ロボコット」

そのなかの一つとして出展されていたタケロボ株式会社のコミュニケーションロボット「ロボコット(Robocot、http://www.takerobo.co.jp/robocot/)」は、タブレットにぬいぐるみ外装をつけたロボット。顔のアニメーションとメニュー画面でユーザーとインタラクションする。中身はWindowsだ。また、腕もついていて連動して動かすこともできる。腕はマグネットで簡単に脱着できる。外装もキャラに応じて変えられる。背面にはUSB端子があり、周辺機器と接続できる。


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ペッパー

もちろんソフトバンクロボティクスのペッパーも。IBMとソフトバンクロボティクスは、「Pepper」向けのIBM Watson開発について、2016年1月7日にプレスリリースを出している(IBM WatsonがソフトバンクロボティクスのPepperを強化)。


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IBM Watsonとペッパー、ソータを組み合わせた対話

IBM WatsonとIBM東京基礎研究所が開発した「ロボット共通基盤」、そしてペッパー、ソータを組み合わせた対話についてもデモが行われていた。ペッパーとソータがかけあいを行いながら、書類への記入方法を紹介するというもの。


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ロボット共通基盤を使うことで対話ロボット構築が容易に

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各種お役所的な手続きが必要な場所で使えるという

なお、「ロボット共通基盤」とは人とロボットとの対話や複数のロボット同士の連携をIBM Watson等の外部サービスを使いながら動作制御・管理を担う共通基盤ソフトウェア。みずほ銀行でのペッパーなどに用いられている。データはJSON形式で記述される。2016年2月のプレスリリースはこちら(IBM Watsonとロボットの融合による新たなおもてなしへの挑戦)。


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ロボット共通基盤
IBM Watson ロボット共通基盤デモンストレーション


Watson は製造業への応用も

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三菱電機との共同出展では工場での応用をアピール

このほか三菱電機との事例として製造業にWatsonを応用するというデモも出展されていた。三菱電機の「eF@ctroy」との連携を今後は探っていくという。また「ロボット予知保全」としてアドバンテック株式会社、日本フィジカルアコースティック株式会社、株式会社東芝、三井物産エレクトニクス株式会社らは「IoT Smart Factory」と題した展示を行っていた。


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ロボット予知保全の展示も行われていた

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森山 和道

フリーランスのサイエンスライター。1970年生。愛媛県宇和島市出身。1993年に広島大学理学部地質学科卒業。同年、NHKにディレクターとして入局。教育番組、芸能系生放送番組、ポップな科学番組等の制作に従事する。1997年8月末日退職。フリーライターになる。現在、科学技術分野全般を対象に取材執筆を行う。特に脳科学、ロボティクス、インターフェースデザイン分野。研究者インタビューを得意とする。WEB:http://moriyama.com/ Twitter:https://twitter.com/kmoriyama 著書:ロボットパークは大さわぎ! (学研まんが科学ふしぎクエスト)が好評発売中!

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