【IoT業界探訪 vol.6】天井を変えるIoT家電 AGRA Light 「暮らしに演出を」

10月24日に Pepperの無料開発体験施設、アトリエ秋葉原があることでおなじみのArtsChiyoda 3331にてアビダルマ株式会社がIoT家電 AGRA Lightを発表しました。

今回は、その様子をお伝えします。

アビダルマ株式会社(以下アビダルマ)はPepperの無料開発体験施設、アトリエ秋葉原を運営していることもあり、ロボットコミュニティ界隈の方ではご存知の方も多いのではないかと思います。しかし、コミュニティ運営以外にも株式会社NTTドコモやアプリックス株式会社などの実証実験を通してモノづくりをしてきた会社でもあります。

そのアビダルマが今回自社プロジェクトとして発表したAGRA Lightとはどのような製品なのでしょうか。


AGRA Light全景

AGRAはサンスクリット語で「天井、先端」を意味する単語。天井に位置することを表しているだけでなく、今後天井というスペースをベースに展開していく野心が見て取れる。

この製品は一言でいうと「ダクトレールに設置可能な、スマホで操作できるムービングライト」です。

ダクトレールとは、天井に設置するレール状の電源供給部品で、自由に照明機器などを設置できるため、室内レイアウトの変更に照明の位置を簡単に対応できることが特徴です。カフェや美術館などではよく見かけますが、最近は一般家庭の天井にも増えてきていますね。

ただ、照らす向きを操作可能な照明やムービングライトは舞台などではよく見かけますが、家庭用というのはかなり珍しそうです。

ここまで聞くと、業務用機器のような武骨なものを想像してしまいますが、製品情報をみるとサイズは143mm x 88mm x 205mm、重量は305gと非常にコンパクト。E11サイズの家庭用スポットライトに対応しているので舞台などで見られるタフな製品の印象は薄れ、モダンな暮らしにマッチする軽やかなデザインになっています


では、なぜこのような製品が生まれたのでしょうか。同社代表の横田昌彦さんのプレゼンから紹介していきます。

横田さんはパナソニック株式会社でマーケティングに携わっていたこともあり、空間マーケティングの観点から天井で稼働する新しい家電のシリーズ「AGRA」を考案しました。

アビダルマ代表取締役 横田さん
AGRAのコンセプトを語る横田さん

現在、床面には様々な家具、家電があふれています。ロボットなどが稼働するようになれば、その状況はさらに加速し、「ルンバが動けるように部屋を片付けるようになった」という冗談のような話もあります。

横田さんは、今後ますます設置面積をめぐる家具、家電の生存競争は厳しくなってくると予想しました。

そんな中でダクトレールや水道の配管などのインフラが整っているわりに設置機器が少ない「天井」は空間マーケティング的にみると家電におけるブルーオーシャンなのではないか、と考えたそうです。

そして、天井に設置する家電シリーズ「AGRA」の第一弾に、「天井にあるとうれしいもの」の代表として、照明器具「AGRA Light」を開発したということです。

照明演出はショーやイベントの印象を大きく変える要素です。それを暮らしに取り入れることで「ドラマチックに演出された日常」が当たり前になってくるかもしれませんね。

基本機能としては明るさや照らす位置をスマホから操作するというシンプルなものですが、APIの公開を検討しているので、今後搭載する予定、という目覚まし機能や、定点照明以外にも様々な使い方が開発者の方々から提案されていきそうですね。


また、AGRA Lightのコンセプトを実現するのにあたって見逃すことができない要素として「デザインと機能の高次元での融合」というものがあります。

それを一手に担ったのがデザインエンジニア、神山友輔さん率いる株式会社スプラインデザインハブです。

株式会社スプラインデザインハブ代表 神山友輔さん
機械設計、電気設計、ソフトウェア開発などのエンジニアリング能力とハードウェア、ソフトウェアのデザイン能力を併せ持ったデザインエンジニアを率いる神山さん、ご自身も当然デザインエンジニア

神山さんは機能性と意匠性を併せ持つロボットなどを多数制作されているインダストリアルデザイナー、山中俊治教授に師事し、多くのロボット制作プロジェクトにかかわってきました。


flagella

山中俊治教授とともに作り上げた初期作品flagella。
神山さんがこだわったBIO-LIKENESSな動きを持つロボットの姿はこちらのリンク1:15、1:38、2:25から。

今まで制作した作品の多くがBIO-LIKENESSをテーマにした「動き」にフォーカスされており、「動く家電」であるAGRA Lightにはその知見が活かされているとのことです。

「ここまで全幅の信頼をおいて開発させてもらえたプロジェクトは初めて」と語る神山さん。コンセプトやシナリオの設計から始まり、デザイン、機構、電気、アプリケーション、すべての開発フェーズで自身の持つデザインのエッセンスを注入できたのではないでしょうか。

量産に関してはハードウェアスタートアップの旗手、株式会社Cerevoが担当し、すでに数回の試作を重ねているとのこと。マーケティングと商流の確保を兼ねてTsutayaグループのクラウドファンディングサイト、greenfunding にて11月中に出展開始予定です。

もし国内での量産、販売が順調であれば、2017年冒頭には海外でのクラウドファンディングにも出展、販売も検討しているというこのプロジェクト、ぜひ日本発のIoT家電として世界でも話題になってほしいですね。

僕はこう思った:
正直にいうと、初期コンセプト制作にかなり関わっていたこともあり、「ステマじゃねーか!」という心と闘いながら記事を書いたのですが、中立的に書けたか心配です。
ただ、このプロジェクトのように「大手メーカーで身に着けた知見」をうまく活用して「大きな組織では作りにくいようなプロダクト」を出していくチームが増えていけばいいな、と心から思ってるんで、そこに対する肩入れだと感じてもらえるとありがたいですね。
※こちらの映像は”Bio-likeness ー生命の片鱗ー”展の記録として、展示作品の作者(有志)によって制作・公開されました。

ABOUT THE AUTHOR / 

梅田 正人

大手電機メーカーで生産技術系エンジニアとして勤務後、メディアアーティストのもとでアシスタントワークを続け、プロダクトデザイナーとして独立。その後、アビダルマ株式会社にてデザイナー、コミュニティマネージャー、コンサルタントとして勤務。 ソフトバンクロボティクスでのPepper事業立ち上げ時からコミュニティマネジメント業務のサポートに携わる。今後は活動の範囲をIoT分野にも広げていくにあたりロボットスタートの業務にも合流する。

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