【ATRオープンハウス2016 レポート vol.3】ATRのナカの人はこう考えていました

宮下さん ATRオープンハウス2016
日本の科学技術をリードするATRが、毎年恒例のATRオープンハウス2016を11月10日(木)〜11日(金)に開催しました。筆者はロボスタ大阪特派員として去年に引き続き2回目の訪問を果たしましが、正直に告白しますと、ATRの技術が私たちの日常の中でどのように利用されているのか、ATRは何を達成しようとしている組織なのか、いまひとつ理解できませんでした。実は、筆者はATRが大阪市から受託した起業家育成プロジェクト「AIDORプログラム」に参加していますが、今回特別に知能ロボティクス研究所ネットワークロボット研究室 室長の宮下 敬宏氏にインタビューをさせて頂くことができました。ナカの人ならではの視点や情熱、研究者の生き様など、ご多忙にもかかわらず終始和やかにお話し頂きました。ロボスタの記事としてご紹介できることを光栄に思います。

ATRのナカの人はこう考えていました。

筆者・藤原(以下、藤原と表記)

7月からAIDORプログラムでお世話になっていますが、今日はATRオープンハウスの取材ということで、ひとつよろしくお願いします。ATRのナカの人が何を目指しているのか、特に、ATRの研究者として宮下さんが何を成そうとして現在どういう段階なのかをお聞きしたいと思っています。


宮下氏(知能ロボティクス研究所ネットワークロボット研究室室長)

うーん、そういう質問はお答えするのが難しいかもしれないですね。(笑)
まず、そもそも論でお話ししますと、ATRで働く研究者の中には、ATRを世の中の役に立たせようとか、ATRを儲けさせよう、なんて考えてる研究者は1人も居ないんです。研究者はみんな自分の研究をしたいんですね。それぞれが研究課題を持っていて、サイエンスの原理を追求したいが為にATRに集まっています。


藤原

それでは、宮下さんは珍しいタイプの研究者なんですね。肉食系で、経産省や総務省の補助金をガツガツ獲得してATRや周辺企業を儲けさせてますからね。(笑)


宮下氏

ハハハ。そんな(自分の欲求に忠実な)研究者が集まると、「わたしコレ研究してるけど、あなたアレ研究してるね。一緒にコラボして研究すると面白いね。」というように研究者同士がお互いに触発されて新しい研究が始まることがあります。ATRの中で様々な取り組みが行われているのですが、研究内容に合致する行政のファンド(補助金)を獲りに行くという流れですね。


藤原

そうだったんですか。ずっと勘違いしていました。順番としては官公庁の補助金状況を見ながら研究内容を決めているのかな、と思っていたのですが、研究内容に合わせるというアプローチで研究費を探しているんですね。


宮下氏

そうなんですよ。ですからファンドを獲りに行くアドミニストレイター(研究チームのプロジェクトリーダー)はシナリオライターなんです。研究者みんながどんな研究をしているのかを把握していて、この研究とこの研究を組み合わせたらこんな素晴らしい社会を実現できる、というシナリオを書き上げて、ファンドに提案しています。提案が採択されれば、やりたい研究ができるようになります。


藤原

提案が採択されなくて、研究費がでない場合もあるんですよね?


宮下氏

(他の研究機関からの提案と)接戦になって採択されない時も当然あります。その時は給料が出なくなります。


藤原

え? クビって訳ではないんですよね?


宮下氏

採択されなかったら辞めるしかないです。


藤原

厳しい世界なんですね! ファンドを原資とするプロジェクトは何年くらいの期間に渡って研究できるものなのですか?


宮下氏

そうですね、ここ最近の傾向として最長でも3年ですね。過去には期間10年のプロジェクトもあったのですが、どんどん短くなっています。


藤原

3年のプロジェクトが獲れれば、3年間は喰い扶持を気にしなくても良いのですか?


宮下氏

いえいえ、毎年毎年、評価されるんですよ。途中で打ち切られることもありますので、結果を出さないと生きていけません。


藤原

ATRの研究者の方々って本当に真剣勝負されているんですね。想像もつかなかったです。


宮下氏

1年間の研究期間で4月に公募が始まったとしても10月に採択されれば、研究に充てられのは実質6ヶ月程度じゃないですか。それでもやることは1年分で変わらなかったりします。そういう感じです。(苦笑)


藤原

ひぃー厳しい世界なんですね。

誤解があってはいけないので、用語の確認をしたいのですが、先ほど仰られたシナリオライターの役割をするという「アドミニストレイター」は、宮下さんのような組織の中で偉いお立場の方が務められているのですか?


宮下氏

ATRの組織を綺麗にご説明すると、文鎮構造なんです。

ATR文鎮構造
私のところの研究所(知能ロボティクス研究所)では萩田所長が(文鎮の頭として)居て、その他のメンバーは横並びなんですよ。ですから誰がプロジェクトリーダーをやっても構いません。「こんなこと思いついちゃった!」という人がアドミニストレイターをします。


藤原

本当に誰でもできるんですか? 「君はまだ年が浅いから早いよ」とか言われないんですか?


宮下氏

はい、誰でもチャンスはあります。面白い提案ができれば良いんです。ただ経験を積んでいる人のほうが上手に提案書を作れるでしょうし、省庁と話す機会も多いので、提案が採択されることが多くなっていくとは思います。ですが、経験の少ない人がプロジェクトのリーダーをできないか、というとそんなことはありません。


藤原

そういう環境の中で、起業家支援の「AIDORプログラム」は、宮下さんが「やります!」と言って始まったプロジェクトなんですか?


宮下氏

AIDORプログラムを始めた経緯からお話すると、大阪イノベーションハブを作った後の続きのプロジェクトになるんですが…


藤原

ええーーー、大阪イノベーションハブを作ったのは宮下さんだったのですか!?


宮下氏

私が(独りで)作った、というと語弊がありますが、設立メンバーですよ。


藤原

そうだったんですか。今、初めて知りました。なるほど、大阪で起業家をサポートしていこうという流れの中で、大阪市の予算でロボットを推し進めようとされているのですね。


宮下氏

まあ、大阪でロボット、ロボットと言うと、若干盛り下がってしまう雰囲気はありますけどね。フフフ。(笑)


藤原

歴史的背景のそれ、何回か聞いたことがありますね。ハハハ。(笑)


Osaka_Innovation_Hub
注釈:大阪イノベーションハブは、大阪キタエリアの新名所「グランフロント大阪」内に大阪市の予算で開設された起業家交流・支援拠点。大阪市では過去にロボットに取り組むプロジェクトが幾つかあったのですが、どれも成功といえる成果までは出せなかった背景があります。大阪では、ロボットに関連したプロジェクトであっても「IoT」等の他の言葉に置き換えるのが知恵者の工夫となっているようです。

宮下氏

藤原さんの最初の質問に戻りますと、私がやりたいことは、ロボットに限らずに、先端技術を社会に浸透させていくことです。一般の生活者なのか法人ユーザーなのかはこだわりませんが、自分たちが研究してきた技術をユーザーの皆様に届けてサービスとして運用していきたいですね。その結果としてユーザーのライフスタイルに変革を起こすことができれば良いと思っています。ATRは技術を研究して(ライセンス等を)販売していますが、サービスレベルまで作り込まないと、人のライフスタイルって変わらないですよね。


藤原

知見のある宮下さんご自身がサービスを作り込めば、先端技術が一般消費者に届いて、ライフスタイルに変化が起こってイノベーションが起こるというのはすごく分かりますし、ATRがやるべきことだろうと理解できます。そういう目標から逆算すると、AIDORプログラムでは、宮下さんの大切な時間やその他のリソースを割いて、私のような素人を技術に精通した起業家に育てようとされている訳で、宮下さんの目標に到達するとは思えないのですが。私自身は、AIDORプログラムに参加させて頂いたことで得るところが多く、献身的に協力してくださるコーディネーターの宮下さんを初めとして事務方の皆さんに感謝し切れない程です。今、宮下さんの目論見を聞いて、正直なところ、私は宮下さん達に何かをお返しをする自信が持てないですよ。


宮下氏

藤原さんは素人じゃないですって。今さら、何言ってるんですか。(笑)


藤原

もちろん、私だって(AIDORプログラムに参加してるからには)イノベーションを起こしたい! という気持ちはありますよ。気持ちは。


宮下氏

AIDORプログラムは大阪市の委託事業として、ATRと、大阪市都市型産業振興センターに運営を委託されているのですが、インキュベーション施設の運営と企業家の育成カリキュラムという施作のお題目があります。


藤原

なるほど、起業家育成という前提があるんですね。


宮下氏

大阪市がなぜ起業家を育成したいかというと、産業振興の一環でして「起業家が増えることで産業が育ちます」という長いスパンでの取り組みのうちの、育成部分をやっています。


藤原

税収増や、雇用の拡大に繋げたいのですね。


宮下氏

はい、起業したベンチャーさんが事業を拡大して、ゆくゆくは大阪本社のままIPOして欲しい、と考えています。


藤原

別に「大阪から出て行っちゃダメ」などの縛りはないんですよね?


宮下氏

もちろん、自由です。(笑) それでも「大阪ありがとう」という気持ちで大阪市で納税して欲しいのです。地方自治体にとって税収を増やすのは大事なことですから。


藤原

なるほど分かります。冒頭で「やりたい目標に合致したファンドを見つけてくる」というアプローチをお話してくださいましたが、そもそも宮下さんはこのAIDORプログラムで何をやりたいとお考えなのでしょうか?


宮下氏

私がやりたいと思っているのは、先端技術を使って事業を起こそうとする人を育てたいんですよ。


藤原

はい、私、育ちたいです。育てて欲しいです!


宮下氏

(前述スルー気味で)ざっくり言いますと、先端技術を作っている研究者や技術者の連中って、世の中に自分達の技術を出したいと思っていますが、サービスまでは作れない人達なんです。彼等は先端技術を作れます、論文を書けます、特許も書けます。だけどサービスを作れないと思い込んでいるのです。なぜなら、事業を起こそうとするには超えられないハードルがあると勘違いしてしまってるんです。(新規ビジネスを立ち上げるには)「デスバレー」があると世の中では言われているじゃないですか。デスバレーを超えるためにトランスレーショナルリサーチ(=橋渡し研究)をしなくちゃいけなくて(やりたく無い苦労が沢山あって好きな研究だけする訳にはいかないので)研究者はビジネスを作れないですよねー、って考えているんです。ふざけた考えですよね。デスバレーというのを本当に見たことがあるのか? と。(笑)


藤原

研究者ども、ビジネスやれよ! と。(笑)


宮下氏

そんな感じです。自分の研究以外はやりたくない、って素直に言えば良いのに。デスバレーとか関係ないし。(笑)


藤原

やりたくないことは強要できないですものねえ。研究だけやりたいんですね。


宮下氏

それでも研究者の多くは良い人達で、世の中の役に立ちたい、と思っています。そこで、やりたくないことはやらなくても構わない、という方向に舵を切りまして、ビジネスをやりたい人を育てることにしました。研究だけしたい人と、研究成果を使ってビジネス化したい人をマッチングできれば皆幸せですからね。先端技術で事業を起こしてサービスを作りたい人がいるのかなと思って、大阪イノベーションハブを作っていっぱい人を集めた訳なんですよ。


藤原

どうでした? (有能は人は)集まりました? 大阪イノベーションハブって何年経ったのでしょう?


宮下氏

今年で4年目で、年間1万2000人くらいが集まる場所にはなったんです。集まってくるのは、起業家もいれば、投資家もいれば、中小企業経営者もいます。色んなタイプの人が集まってくるのですが、意外に、起業しようとする人の中にはあまりテクノロジーに詳しくない人が多いということが分かったんです。テクノロジーを知らないというのは別に馬鹿にしているのではなく、ただ知る機会がなかったのだと思います。


藤原

そういう起業家のリテラシーの問題でいうと、大阪の起業家はレベルが低いってことはありませんか? 東京だったらもっと知ってる、みたいな。


宮下氏

それは関係ないですね。東京でも大阪でもレベルの差というのは無いと思います。人口の差はありますが。どうやって技術をつかうのか、どこに技術があるのか、そしてどうやってビジネスを作れるのか。それらを学習し、事業を起こそうとする人を増やす必要があると思うのです。方法には2つあって、発掘するのと、育成するという方法があると思っています。


藤原

核心に迫ってきましたね。


宮下氏

(大阪イノベーションハブのような場所のビジネスコンテスト等で)多くの人の中から出来そうな人をピックアップするのが「発掘」で、出来そうにない人でもできるようにするのが「育成」です。私は「育成」のほうを選択しました。「発掘」というのは私はあまり好きではなくて、というのも私の見解ですが「発掘」というのは発掘を待っている人を馬鹿にしているとしか思えなくて。


藤原

ほう、そういう見方をされるんですね。


宮下氏

大勢の中から出来そうな人をピックアップするということは、選ばれない人の気持ちに配慮しないといけないですし、謙虚であることが必要です。(ビジネスコンテスト等の参加者を評価している)選ぶ側はそんなに偉い立場なんでしょうか、と。むしろ、ビジネスをやりたいと思う気持ちは作れないので、評価は後からで良いと思っていて、まずは育てる方に注力しています。まあ、育てるというのも上から目線で不遜なんですけれども。


藤原

それ、すごく分かります。私も、評価されるだけの人格や事業計画を持ちたいと向上心を持っているつもりなんですが、行政の人達リスクを取ってチャレンジしたこともない人達に、正当な評価をする能力があるとは思えないですから。


宮下氏

やりたい人がやれる道筋をつけてイノベーションが起こる環境を作ろうとしています。「なんでお前に育成されないといけないんだ、偉そうに言うんじゃない。」というご意見もあるとは思うのですが。


藤原

いえいえ、私はAIDORプログラムを通じてこの3ヶ月、宮下さんには辛抱強く育成して頂いたな、という気持ちありますよ。有り難く思っています。まだまだ育ってなくて発展途上なのは重々承知してるんですが。


宮下氏

育成するということ自体がずいぶん不遜な言葉でして、育てる、というよりは、育って欲しい、と考えています。育つのは(AIDORプログラムに参加している)自分たちである、という前提で、育つためには「こういう技術ありますよ」、「こういうアイデアはどうでしょう」、「こういう団体と繋がると良いですよ」といったハンズオンをしていきながら、一緒に事業を育てていきたいのです。そうしたら面白い人、事業としてサービスを作る人も出てくるでしょう。その時に、研究者ってビジネスとは関係のない別の人種だね、とは思って欲しくないのです。「いやいや研究者の先生だから」という言葉を今まで散々に聞いてきました。残念ながら研究者とはビジネスの話ができないという偏見や風潮がとても多いのです。そういう風潮を作ってきたのは、大学や研究者たちの責任でもあるのですが、それでも世の中を変えたいという研究者も沢山います。だけど方法が上手くない、と。だからこそ、起業家と一緒にビジネスをやって世の中を変えていくというイノベーション エコシステムは、絶対に必要だと思います。ですからAIDORプログラムでは起業家と研究者を繋げるという、大阪イノベーションハブでは出来なかったことをやっています。


藤原

なるほど、起業家と研究者が、一緒になって事業を育てていくという枠組みなのですね。


宮下氏

そういう研究者と起業家を繋げる場所が必要だと思ってます。なので、AIDORプログラムでは講師として研究者や大学の先生方をしつこくお呼びしましたし、AIDORプログラムに参加している皆さんには研究者と繋がって欲しいと思っています。


藤原

そうだったんですね。大阪大学や、奈良先端大学の先生方がわざわざ来て、素人の我々受講者に教えてくださっていますね。


宮下氏

大阪イノベーションハブでは、施策上の理由から、起業家育成カリキュラムを新たに実施するのは困難でした。大阪イノベーションハブは年間180回くらいイベントを開催するという仕様が決まっています。運営しながら思ったのは「リピーターを増やさなければいけない」と。


藤原

それ分かります。1回イベントに参加して「楽しかったなー。為になったなー。」ではイノベーションに繋がらないですよね。


宮下氏

そうなんですよね。イノベーションに繋がらないし、コネクションもできない。このイベントに参加した人は、こっちのイベントにも参加するときっとビジネスに活かせる、という設計でイベントを企画するのですが、年間カリキュラムとしては実施できなかったんです。そこで、もっと育成にフォーカスしたプロジェクトということで、AIDORプログラムを作りました。


藤原

AIDORプログラムは、今年が第1回目ですが、来年もやるんですか? やれるんですか?


宮下氏

来年もやれれば、やりたいですね。


藤原

「来年2回目のAIDORプログラムをやれるか、やれないか」は、我々参加者の成果に頼るところも、きっとあるのではと思うのですが。


宮下氏

それはその通りで、藤原さんの双肩に掛かっています。


藤原

うっ(と息が詰まって)私が何を達成すれば、宮下さんがやりたいAIDORプログラムを来年も継続できるのでしょうか? 何を為せば良いのか、今まで聞いてこなかったのですが。というか誰もそんなの聞いてないですよ。(笑)


宮下氏

来年2017年2月24日のデモ デイで発表してもらいます。


藤原

はい、デモ デイで発表するとします。今まで一生懸命にピッチの練習してきましたし。そこで参加者のうち資金調達が何件、事業提携が何件きまりました等の具体的な数値目標は設定されているのでしょうか?


宮下氏

数値目標はですね… ちょっと記事にできないので非公開とさせて頂きます。


藤原

やはり、そういう数値目標があったんですね。大阪市からの委託を獲得する時に、これだけはやります、とニギっていたんですね。当然ですよね。


宮下氏

デモ デイで発表をするというのは、我々から大阪市にゴール設定として提案したんですよ。(受講者に)なんでピッチの練習を重点的にして貰ったかと説明しますと、ピッチをすることでビジネスモデルが進化するはずだと考えています。ピッチするというのは相手に伝えるだけではなくて、自分の学習が進むんですよね。


藤原

そうですね。分かります。分かります。アウトプットするということは自分の頭の中で整理できていないとダメですからね。


宮下氏

学習が進むと、だんだんと欠点が見えてくるようになります。「これじゃダメだ」と自分で気付くことがとても大事で、それは試作を作るプロトタイピングよりも大事だと思います。プロトタイピングは技術があれば独りでもできますし、(AIDORプログラムを受講する時期とずらして)後からやっても構わないです。むしろ自分のビジネスモデルが本当にこれで良いのかを内省して、考えられることが一番大事だと思っています。それを思って、AIDORプログラムでは重点的にピッチの練習をやってもらいました。ピッチすると外部から意見が貰えるじゃないですか。しかも厳しめの意見ばかり言う人が揃っているじゃないですか。(←注釈:揃えたのは宮下さん自身です。)


藤原

はい、随分と凹まされました。(笑)

AIDORプログラムメンター陣

様々な業界で実績のあるメンター陣が、時に厳しく、時に優しくAIDORプログラムの参加者を叱咤激励してくださります。


宮下氏

一度ヘコむと、次回ピッチする時に、あの人はこんな事を言うんじゃないか、と仮想の聴衆を想像できるようになりますよね。そうすると転ばぬ先の杖で、こういうスライドを用意しておかないといけない、こういう風に言ったほうが良い等の準備をしますよね。それが一番大事な能力でして、研究者はそれを皆やっているんですよ。


藤原

ほほう、研究者の皆さんが。


宮下氏

研究者は1年に何回も、海外も含めて発表に行くのですが、自分が何年もやってきた研究を10分なり15分に圧縮して話します。そこでは、超厳しい先生方がいらっしゃって、割と錆び錆びの刀で斬りつけてくるんですよ。


藤原

くくく、切れ味が悪い刀なんですね。(笑)


宮下氏

そうそう、殺すなら早く殺せ、と。(笑) ですからそれなりに理論武装して臨むんですが、それでもやっぱり殺られるんです。すると、今度は殺られないぞ、と研究をまた進めていくんですが、それを何度も繰り返すのです。研究者も、一番大事なのは発表する能力でして、発表資料を作り込む時に研究の失敗するところが見えてきます。発表だけではなく論文を書く時も同じなんですが、足りない実験や、もっとこうしたほうが世の中のためになる、とアウトプットしようとする時に気付くんです。実験をやっている時は楽しいんですよ。ただ、いざ論文を書くとなると「この実験やってないわ」と気付くのです。発表するとまた突っ込まれるんですね。そして最初に戻ってきて、この実験も必要だわ、と繰り返します。そうやりながら過去の発表を振り返ると、研究内容が断然良くなっています。そして、そこまでやったからこそ、更に研究の先が見えるようになってきます。ですからアウトプットが大事なんです。


藤原

なるほど。そのご説明に関しては、AIDORプログラムが始まって最初に聞きたかったですね。


宮下氏

ハハハー。


藤原

でも、大丈夫です。(笑) 今、腹落ちしましたので2月24日(金)のデモ デイ頑張ります。今日は、ご多忙のところ長時間お付き合いくださいまして有り難うございました。


私はこう思った
手前事情ながら某ピッチコンテストに登壇することになりまして、参加が義務付けられている事前ワークショップに行ってきました。宮下さんが言うところの「発掘」のほうの産業振興策ですね。そこでは不遜で傲慢な(そのくせ明らかな準備不足が痛々しい)御仁が嬉々と講釈しているのを目の当りにしたのですが、やはり宮下さんは稀有な存在なんだなぁ、と改めて思った次第です。なお、今年開催されているAIDORプログラムでは、只今「モビリティ・エコ」コースの申し込みを受け付けています。申込締切日は11/30(水)ですので、関西在住でご関心のある方は是非お仲間になってください。

http://www.imedio.or.jp/aidor/

Aidorプログラム

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ふじわら@ロボットジョーズ

ロボットジョーズのCEO 兼 Pepperの話し相手。大阪ペッパー友の会のメンバーでもあります。ただ本命ロボットはBlue Frog Robotics のBUDDYと心に秘めています。

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