ユーザーの本当の要求を見出し、仕様に落とし込め「埼玉県 第4回農業ロボット研究会」レポート

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全日本空撮サービスによる農薬散布用ドローン「Z006 SKY CAP H900MAX豊作」

各産業分野で、ロボットやICTを使った省人化や、新たな付加価値の創造が期待されている。2016年12月7日には、埼玉県 先端産業創造プロジェクトの「埼玉ロボットビジネスコンソーシアム」プラットフォームの取り組みの一つして、第4回農業ロボット研究会「農業ロボット・ICT活用セミナー」が、JR北与野駅前にある「新都心ビジネス交流プラザ」で開催された。セミナーのほか、関連企業からの展示も行われた。


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NECによる営農指導支援システムの展示

農業分野は、実際のフィールドで活躍するロボットのもっともわかりやすいアプリケーションの一つであり、今後拡大する余地が大きいという点からも興味深い。国内だけを見るとマーケット自体はそれほど大きくないといった側面もあるものの、レポートしておきたい。


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株式会社イノフィスによるマッスルスーツ


単位面積あたりの費用対効果が重要

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株式会社NTTデータ経営研究所 事業戦略コンサルティングユニット 産業戦略グループ長 アソシエイトパートナー 三治信一朗氏

まずはじめに、株式会社NTTデータ経営研究所の三治信一朗氏が、「農業分野におけるロボット・ICT導入の動向と課題」と題して基調講演を行なった。アスパラガス収穫ロボットなどの導入に携わった経験から「技術屋にとっては面白いが、お金にするのは難しい分野だと考えている」と語った。

農業分野では従事者の平均年齢が66歳を超えている。生産体系を維持するためには、もう違う観点が必要だという。次世代に対する投資、農業を継がせるための動機として農業用ロボットは良い道具なのではないかと述べた。単に現場の生産性の維持だけではなく、社会課題の解決システムの一つとしての農業用ロボットだ。

現時点の農業用ロボットは、農業のバリューチェーン全体から見ると収穫分野に偏っている傾向があるという。三治氏は、いわゆる6次産業化も踏まえて、全体を見て付加価値を獲得する観点が必要だと述べた。

具体的な事例としては、ヤンマーと北海道大学によるGPSを使ったロボットトラクター、全自動種まき水やり・除草ロボットのFarmBot、パナソニックによる3Dセンサーを使ったトマト収穫ロボット、ドローンの活用などを紹介した。

FarmBot
ヤンマーと北大によるロボットトラクター

農業用ロボットでもっとも成長しているのはドローンである。単位面積あたりの効率が高いからだ。ドローンは飛ばす区域が限定されているが農地は農家が所有している。そのため責任分担がわかりやすいという側面もある。

エンルートによる農業用マルチロータードローン

ロボットなりICTなり技術を使うためには、土地面積あたりの管理方法、すなわち最小単位を決めて検討することで費用対効果の計算ができるようになるが、事前にそれをやっておかないと後々の導入が困難になるので必ずやっておくべきだと述べた。どのくらいの面積に対してどのくらいの作業を実行するのかということだ。また、「シンプルイズベスト」で、簡単な方法を使って面積あたりの効率を上げていくことが重要だ。

そして、人工知能技術の発展や、まだ研究開発段階にあるため国や自治体の開発関連施策、地域ごとの課題との連携が重要であり、「良い課題を解けば、それは参入障壁にもなる」と指摘した。

費用対効果のほかに、副次的効果として「従業員満足度が上がる」という点があるという。ロボットや先端技術には「かっこいい」というイメージがある。そこから次世代の農家作りができるようになると語った。社会的役割が大きいのが農業用ロボットだという。

パナソニックのトマト収穫ロボット。国際ロボット展での展示の様子


目標設定が重要 ホウレンソウ収穫ロボット

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国立大学法人信州大学工学部 教授 千田有一氏

この後、産学官の取り組みとして4名の講演が行われた。まずはじめに、制御工学の立場から2010年からホウレンソウ自動収穫に取り組んでいる信州大学工学部の千田有一教授は、「ほうれん草など軟弱野菜自動収穫ロボットの研究開発」と題して講演した。千田教授はレタスとホウレンソウの自動収穫に取り組んでいる。

ホウレンソウ自動収穫ロボット

ホウレンソウ収穫は20-30人がアルバイトで行なっている。人がやっても茎や葉が折れやすい軟弱野菜であるホウレンソウは収穫が難しい。


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現状の人手によるホウレンソウ収穫

人の確保が難しいなか、規模拡大ができない理由にもなっている。既存装置ではホウレンソウの商品価値をそこなってしまうなどの問題があった。


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自動収穫ロボットの目標

そこで、地表面の位置を変位センサで検知し、刃物を土のなかでうまく動かすことで、収穫できるようになった。


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2014年のホウレンソウ自動収穫ロボット

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当初評価はバラついたという

だが、向きが揃ってない、また土がついていては後工程が大変で使えないといった課題があったので、いまは改良版を長野市のカイシン工業株式会社と共同開発している。


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圃場での収穫実験の様子

なお12月14日から開催される「アグリビジネス創出フェア(http://agribiz-fair.jp)」にビデオが出展されるとのことだ。


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農業機械の導入=収益向上になるとは限らない

農業機械の場合は、楽にはなるが生産量が上がるとは限らない。収益を上げるためには、作付け面積を拡大したり、削減できた労働力を他のことに使わないといけない。

収穫ロボットのデモを行なったときの評価も生産農家と事業者によって全く異なったという。生産者の要求は高い。一言でいうと「半人前ならいらない」と言われる。だが10年後は猫の手も借りたいような状況になってしまう。そのときには半人前でも必要とされるかもしれない。現状の技術では後者はを狙おうとしているという。

千田教授は、農業用ロボットの開発においては、「誰がどんなふうに使うのか。目標設定が非常に重要になる」とまとめた。


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ロボットにもとめられる要求の絞り込みが難しい


埼玉農業ロボット研究会の取り組み

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公益財団法人埼玉りそな産業経済振興財団 産学官連携推進室 室長 真鍋伸次氏

次に、産業振興戦略の立場から公益財団法人埼玉りそな産業経済振興財団の真鍋伸次氏が「埼玉農業が抱える課題と農業ロボット研究会の取組」と題して講演した。

埼玉県は農業産出額で全国17位、野菜は全国6位となっている。また食料品製造出荷額は全国3位だ。つまり加工業務用野菜の必要性は高いが、いっぽうで、生鮮出荷が中心で、加工・業務用野菜の産地育成が「稼げる農業」とするためには重要だと考えられている。そのために産業界も含めた異業種連携プラットホームを作ったのだという。

一口に加工業務用といても用途は多様だ。単品で周年供給を求める大口需要もあれば少量多品種のニーズもある。農業用ロボットはなかなか市場が見えない部分もあるが、産業用と近い世界である施設栽培などへの適用は見えやすいという。


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加工業務用野菜へのニーズの多様性

農機具には専用機が多い。一つの作業に一つの専用機が用いられている。大規模農業ができる地域ならばそれでもいいが、小規模農家では一つの機械で他の用途にも使えるものが望ましい。開発コストに見合った地域産業活性化が開発環境としても重要だと述べて、現在進めているプロジェクトとして、ネギ収穫機などの事例を紹介した。


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ロボットや農機具の地域連携モデル


あるべき姿と実際の姿を見える化する NECが考える農業ICTソリューション

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NECソリューションイノベータ株式会社 イノベーション戦略本部 農林水産事業推進室室長 村田淳夫氏

NECソリューションイノベータ株式会社の村田淳夫氏は、みかんの質向上を例にして、「学習塾モデル」というものを紹介した。目標値と現状の達成値を出し、PDCAサイクルを農業において回そうという考え方だ。


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匠の技を見える化して、データ活用で予測制御できるように

コンピューターが生産者の目標に対する達成度合いを自動判断する。センサー類は、自分が見たいところにきちんと置くことが重要だという。


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目標を設定し、自動診断

これからの農業への取り組みとしては、高級化をあげた。人気の高級ぶどうのシャインマスカットの品質管理・保証をしようとしているという。房ごとにICタグと糖度計をつけて、システムに過去データから成長予測曲線を描かせ、様々なアドバイスを自動生成する。さらにICタグをつけた状態で店頭まで並べる。こういったことが、今後は各県の指導員や普及員の仕事の一部になるのではないかという。


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ICTを活用した高付加価値化を狙う

農作業はただでさえ大変なので、余計な仕事はしたくない。分析するためのデータの入力も面倒だが、スマートフォンを使うことで、容易な仕組みができ、生産者には好評だったそうだ。ただ、仲卸業者からはあまり細かいデータを出されると、という声もあったという。

NEC 営農指導支援システム


ユーザーが本当に求めているものは? 徳島県での農業ロボット

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徳島県農林水産総合技術支援センター 高度技術支援課 課長補佐 沢田英司氏

普段は農業技術開発、営農指導をしている徳島県農林水産総合技術支援センター 高度技術支援課 課長補佐の沢田英司氏は「徳島県における農業ロボット導入の取組」について紹介した。ロボットのニーズは高まっているという。重たい根菜類の収穫においてコンテナを運ぶ作業の軽労化のための和歌山大による農業用アシストスーツ、害虫防除、ドローンなどの導入に携わって来たそうだ。


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基本的な開発事業の進め方

ただし、現場が実際に欲しているのは軽労化技術であり、ロボットとは限らないという。現場が「ロボットが欲しい」「あったら便利だ」「できれば開発して欲しい」と言っていても、現場が本当に要求していることが何なのかを突き詰めて考えると、解がロボットだとは限らない、ということだ。本当に農業者が求めているニーズを探すのが大変だという。

「あったら便利」は「なくても大丈夫の裏返しでしかない」そうだ。また、最終的な導入検討においては費用対効果が重要になる。


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ユーザーの声のイメージ。この中から本当に開発すべきターゲットを絞る必要がある


パネルディスカッション「農業分野にロボット・ICTを普及するために」

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三井住友海上火災保険株式会社 公務開発部 開発室 上席課長、埼玉県ロボット事業化推進アドバイザー 北河博康氏

続いて行われたパネルディスカッションでは、三井住友海上火災保険株式会社 公務開発部 開発室 上席課長で、埼玉県ロボット事業化推進アドバイザーを務めている北河博康氏がファシリテーターとなり進行した。

北河氏は、まずはスキューズ株式会社が開発している「トマト自動収穫ロボット」開発事例を紹介した。


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スキューズ トマト自動収穫ロボット

「トマト自動収穫ロボット」は夜間にトマトを収穫するロボットだ。センサーと多軸ロボットアームを使って色づいたトマトの実を収穫する。最初から完璧を目指しているわけではなく、収穫率の目標は7割程度。プロトタイプではユニバーサルロボット社のアームを使っていたが、新型では独自のロボットアームを使い、足回りも改良。ディープラーニングを使った画像認識技術も活用する。


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農業の成長産業化に必要なもの

保険業界がロボットに関わっている理由は、今後想定される自動車業界の縮小や、農業分野における異業種連携などの変化がある。ロボットを開発したあとの付加価値に繋げるためのマッチング支援、繁忙期と閑散期の平準化のための加工提案、販路拡大などを行なっているという。

また北河氏は、ロボット導入の前に、それが活用できる人材を集めるための工夫も必要だと指摘した。特に綺麗なトイレや更衣室の整備なども重要だと考え、トレーラーハウスなどの活用を提案しているという。


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三井住友海上火災によるロボットメーカーとのマッチング

ロボット導入に関しては、ロボットと人との役割分担や、ユーザーへのアンケートでは不十分な本当のニーズの把握などが重要だと述べ、パネルディスカッション形式で議論が行われた。

ディスカッションでは、整備された状況で動く工業用機械とは違う農業ならではの難しさやメーカーの考え方の違い、一様ではない農業事業者のなかでロボットやICT導入を検討する上で組むべき人たちはどんな人たちか、実際の事業参入における方向性作りのためのやり方、ビジネス化のための本質的課題の見極め方、現場ニーズを適切に汲み出して機械屋と結びつけることができるキーマンの見つけ方、企画提案力のあるシステムインテグレーターの必要性などが議論された。


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パネルディスカッションの模様

ロボット導入には生産量の増大、効率向上や軽労化、質の向上や安定化など定量的・定性的な効果のほか、実際の購入においては「従業員満足度の向上」など分かりやすく会社の業績に直結しているわけではないファクターがカギになるという。これは他分野でも言えることではないだろうか。

また、このセミナーでは特に触れられていなかったが、農業用ロボットを開発しているのは国内の事業者だけではない。海外の研究開発に負けないロボット開発を期待している。

About the author / 

森山 和道

フリーランスのサイエンスライター。1970年生。愛媛県宇和島市出身。1993年に広島大学理学部地質学科卒業。同年、NHKにディレクターとして入局。教育番組、芸能系生放送番組、ポップな科学番組等の制作に従事する。1997年8月末日退職。フリーライターになる。現在、科学技術分野全般を対象に取材執筆を行う。特に脳科学、ロボティクス、インターフェースデザイン分野。研究者インタビューを得意とする。WEB:http://moriyama.com/ Twitter:https://twitter.com/kmoriyama 著書:ロボットパークは大さわぎ! (学研まんが科学ふしぎクエスト)が好評発売中!

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