【森口将之コラム:モビリティの未来 vol.1】自動運転の現在、近づく自動車メーカーとロボットメーカー

本日より、乗り物の未来を描くコラム「モビリティの未来」をスタートするモータージャーナリストの森口将之です。初回となる今回は自動運転の現状について概要をまとめていきます。



著者:森口 将之
1962年東京都生まれ。早稲田大学卒業。自動車専門誌編集部を経て独立。自動運転からクラシックカーまで幅広いジャンルを担当。新聞、雑誌、インターネット、ラジオ、テレビなどで活動中。自動車以外の交通事情やまちづくりなども精力的に取材。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。著書「パリ流環境社会への挑戦」(鹿島出版会)「これでいいのか東京の交通」(モビリシティ)など。


自動車メーカーに先駆けて自動運転技術を発表した「グーグル」

自動運転を表舞台に押し上げた立役者は、間違いなくグーグル(現アルファベット)だ。自動車業界とは縁がないと思われていた同社が2010年、いきなり自動運転の研究を行っていると公表した。


グーグルカー

グーグルカー

それ以前から自動車メーカーも自動運転の研究はしていたが、クルマの魅力のひとつとして、自分の意志で自由に移動できることがあったから、自己否定になるような自動運転は表に出さないという空気があった。でもグーグルにはそんなしがらみはない。

同社は高度なセンサーを車両のルーフに取り付け、地図を作っていった。その経験から、地図をクルマに読み込ませ、センサーを使えば、自動でクルマを走らせ、交通事故を減らせるのでは? と考えたようだ。この一件がきっかけになって、カーメーカーも自動運転の研究開発をアピールするようになった。



自動運転の仕組み

テスラモデルS

テスラモデルS

自動運転の仕組みを簡単に書くと、GPSやダイナミックマップと呼ばれる高精度地図で自車位置を認識し、カメラ(映像)、レーダー(電波)、レーザー(光線)などのセンサーで人物や他車、建物などを認識しつつ、アクセルやブレーキ、ステアリングを操作するというものだ。

うち一部は市販車にも搭載している。スバル(富士重工業)のアイサイトが代表で、指定速度あるいは前車と同じ速度で走行し、センターラインなどの白線に合わせてステアリングも切る。

ただしこれ、自動運転の程度を示す指標になっているNHTSA(米国運輸省高速道路交通安全局)のレベル分けでは、アクセル・ブレーキ・ステアリングのいずれかをAI(人工知能)が行うレベル1より上だが、アクセル・ブレーキ・ステアリングのうち2つをAIが行うものの、運転主体は人間というレベル2に留まっている。

その上のレベル3になると、主体がAIに切り替わり、人間は非常時などに対応することになる。ドライバーというより、オペレーターに近い立場だ。そしてレベル4では人間がまったく関与しない完全自動運転となる。正式に自動運転と呼べるのはレベル3以上だ。

もっともこのレベル分け、米国運輸省が作ったことでわかるように、カーメーカー基準だ。なぜならグーグルはその後、ステアリングもペダルもない卵型の2人乗り超小型車を製作し、実験走行まで始めたからだ。最初からレベル4を考えていたのである。グーグルはクルマを作る技術がないと考えていたカーメーカーは再び衝撃を受けた。


「ハイウェイ型」と「シティ型」

そこに第3の勢力が加わる。EUが研究開発資金を一部援助することで2006年に始まった「シティモビル」というプログラムから生まれた自動運転車が、実験走行をスタートしたのだ。

シティモビルは欧州内の企業・自治体・大学など45もの団体が共同で進めており、この中に車両を開発したフランスのITベンチャー、イージーマイルとナヴヤが属していた。この2社が独自に欧米やアジアを走りはじめたのだ。このうちイージーマイルは日本にも上陸している。


イージーマイル

千葉の幕張でも実証実験を行なった「イージーマイル」

2社の自動運転車は、グーグル同様ステアリングもペダルも持たないが、10人程度乗れる箱型であることや、高速道路は走らず、一定のルートを走行することが異なる。つまり乗用車よりバスやタクシーに近い。日本ではソフトバンク・グループのSBドライブが、同様の方向性を目指しているようだ。

同じ年にはライドシェア(相乗り)の代表企業であるウーバーやリフトも自動運転に乗り出すと表明。ウーバーはトヨタ自動車やボルボ、リフトはGM(ゼネラルモーターズ)と手を結んだ。同じ米国のベンチャー企業ヌートノミーは、三菱自動車工業やルノーの電気自動車を使い、シンガポールで自動運転タクシーの実験をスタートした。

ここまでは、IT企業は都市内移動、カーメーカーは高速道路をメインに自動運転を導入するという違いがあった。筆者はこの状況を見て、カーメーカーは「ハイウェイ型」、IT企業は「シティ型」と名付けた。

ところが同じ2016年、IT側の主役だったグーグルが方向性を変える。5月にFCA(フィアット・クライスラー)と提携を結ぶと、年末には自動運転プロジェクトを新会社ウェイモに移管させた。さらにこのウェイモは本田技研工業とも手を結んだと発表した。

つまり昨年は、いままで敵対関係にあると思われてきたIT企業とカーメーカーが手を結びはじめた年でもあったのだ。



カーメーカー × ロボットメーカー

でも現状では、自動運転車は公道を通常走行できない。事故を起こした際に誰が責任を取るかなど、ルールが決まっていないからだ。この点については米国・欧州・日本ともに動きはじめており、日本は欧州と手を組んで制定に向けて動いている。

このうち日本はちょっと特別な立場にある。2020年に東京五輪・パラリンピックが控えており、なんとかしてこの場で自動運転を実用化したいとしているからだ。この動きに欧州側は困惑しているというけれど、欧州と同調すれば主導権を握られる恐れもある。

それに多くの人は、日本全国が自動運転になるのははるか先と思うだろう。それよりもイージーマイルやウーバーのように、バスやタクシー、ライドシェアでの運用として、限られた地域をオペレーターを乗せて走らせるほうが実現は早いし、高齢者や身障者など移動に苦労している人のアシストにもなる。その点で2020年の東京は最適の舞台だろう。

もうひとつ、自動運転が実用化される前に発展させねばならない技術がある。つながるクルマ、コネクテッドカーだ。運転から解放されるからこそ、移動の間に何をするかが大事になってくるのだから。やはり2016年、BMWとインテルが提携したのは、自動運転もそうだが、その結果重要となるコネクテッド技術の発展も見据えているはずである。

今年初めに米国ラスベガスで開催されたCES(家電ショー)では、いくつかのカーメーカーが、つながるクルマの先を行く、考えるクルマを出展していた。乗る人の性格に合ったレストランを紹介したり、気分が優れないときは自動運転に切り替えたりするというものだ。


トヨタつながるクルマ

CES2017で発表されたトヨタのコンセプトカー「TOYOTA Concept-愛i」

そんな説明を聞きながら、自動運転はロボットの世界に近づいていると感じた。もしかすると今後は、ロボットメーカーとカーメーカーの提携が活発になるかもしれない。

ABOUT THE AUTHOR / 

森口 将之

1962年東京都生まれ。早稲田大学卒業。自動車専門誌編集部を経て独立。自動運転からクラシックカーまで幅広いジャンルを担当。新聞、雑誌、インターネット、ラジオ、テレビなどで活動中。自動車以外の交通事情やまちづくりなども精力的に取材。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。著書「パリ流環境社会への挑戦」(鹿島出版会)「これでいいのか東京の交通」(モビリシティ)など。

PR

連載・コラム