社内の情報検索を劇的に短縮するAIチャットボット、IBM Watsonと連携した「AI-Q(アイキュー)」木村情報技術

ソフトバンクによれば、IBM Watson日本語版(以降、Watsonと表記)を活用したソリューションで、最も問い合わせが多いのは「チャットボット」だと言います。そして、それは社内向け・社外向けの両方で高いニーズがあります。

木村情報技術が開発した「AI-Q(アイキュー)」は、社内のQ&Aシステムを構築するWatsonと連携したサービスです。総務関係や機器の使い方、製品や在庫等に関する質問など、社内の問い合わせ先として24時間、どこからでも問い合わせでき、即座に回答が返ってくるシステムを構築することができます。


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「AI-Q」は社内の問い合わせにかかる時間や人件費などを削減するシステム。「社員みんなで育てる、成長させていく。」がキャッチコピー

Watsonの学習を顧客が行うことで導入コストの低減を図り、「AI-Q」を社員全員で育成していく楽しみを持つことができるサービスとして、ソフトバンクはWatsonを活用したソリューションパッケージとしてラインアップし、販売していくことを今年1月11日に発表しました。

■参考動画(AI-Q 概要編)




医療・製薬業界に強い企業が開発した「AI-Q」

社員がAI-Qに質問します。
「音が出ない」
即座にAI-Qが回答します。「何から音が出ない状態でしょうか?」
そして同時に3つの選択肢が画面に提示されます。
「パソコン」「パソコンのスピーカー」「パソコンのヘッドホン」・・
選択肢の中から社員が選んで応え答えると、AI-Qは「パソコン本体からスピーカーをはずして音が出るか確認してください」と答えて、その結果の選択肢を続けて表示します。
このように、Watsonを使ったAI-Qは、曖昧な質問に対しても適切な回答を返すように学習させることができます。

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AI-Qとのやりとり。「音が出ない」という質問に対して、パソコンのトラブルだとWatsonが認識し、回答する。回答の右上にフィードバック(回答に対する評価)のボタンが表示されている。チャット形式なので会話は下から上へ(赤い数字の順番;編集部が追記)進む

木村情報技術は医療・創薬業界に強いシステム開発企業です。更に独自でインターネットのライブ配信を行うサービスを提供するという異色な面も併せ持っています。日本ではWatsonの市場をソフトバンクがエコシステムパートナー制度を作って開拓していくことを知った同社は真っ先にその制度に参画、医療・製薬業界向けにWatsonと連携したシステムの開発を始めたという経緯があります。
そんなバックグラウンドを持つ木村情報技術が開発した「AI-Q」は、セキュリティ管理面が強固な社内向けQ&Aシステムです。
(質問応答システムやチャットボット全般については、既報「IBM Watsonのソリューションと予算感がわかる、ソフトバンクがエコシステムパートナーと提供する「ソリューションパッケージ」とは」をご覧ください)


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AI-Qのプレゼンテーションとデモを行う木村情報技術株式会社 企画室で新規事業を担当する伊藤敦氏。




外部に出したくない重要なデータをAI-Qのサーバに保存

同社は医療・創薬関係に顧客が多いこともあって、企業の視点に立ったデータ・セキュリティを重視しています。
自社の顧客や製品に関わるデータや、統計に繋がるビッグデータを外部のサーバに置くことを敬遠する企業が実は多いのが現状です。直接取引のあるシステム開発会社のサーバに置くならまだしも、関係性の低いWatsonのサーバにデータを置くことは一般に好まれません。その点を考慮し、AI-Qでは質問と回答を分割して保存しています。
具体的には、質問データをWatsonのサーバ内、回答データを木村情報技術が管理するサーバ内に保存し、質問に対する回答はコードによって紐付けされています。

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Watsonのサーバ内に自社の機密データや学習データが保存されることを嫌う企業も多い。機密データの保持を要求するクライアントが多い木村情報技術は、質問応答システム「AI-Q」に登録する質問はWatsonのサーバに保存するものの、回答や機密性の高い情報は木村情報技術のAI-Qのサーバに保存するしくみを採用した




AI-Q導入までの流れ

まず、初期の学習に使うQ&Aのデータファィルを用意します(通常はエクセルなどで作成したCSVファイルを使用します)。現場のスタッフが日頃から対応している質問とそれに対する回答を入力します。1対1でなくても、1対多、多対1でも構いません。入力作業はワンタッチです。既にコールセンターなどで使用しているQ&Aファイルがあればそれらも利用できます。このときWatsonは自然言語解析機能を使って、言葉の意味を捉え、内容を理解します。

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Q&A集を作成し、ワンタッチでインポート(登録)すると「AI-Q」は回答を返すようになる。従来はQ&Aの登録やトレーニングを専門のエンジニアが行っていたので導入コストがかかっていた。AI-Qはそれを導入企業ができるようにした

WatsonにQ&Aデータをインポートすると、質問に対して回答を返すようになります。ここからテストとトレーニングのフェーズです。質問の仕方が異なっていても意味する内容は同じものや回答が同じというものも多く、Watsonはそれを把握することに長けています。とはいえ、効果的に学習するには現場の人間が手助けを行うことが必要で、評価とフィードバックを行います。Watsonが返した回答が適切であれば「Good」、不適切なら「Bad」ボタンを押して知らせます。これが次の学習の糧になります。
導入からトレーニングまでの大まかな学習期間は約2ヶ月とのことです(質問は300問くらいが目安で)。

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Watsonによる回答はテキストだけでなく、さまざまな形式に対応しています。例えば回答として画像を表示したり、URLを提示したり、Microsoft Officeのファイルをダウンロード提供することも可能です。

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「申請書類はどこですか?」という問いに対して、エクセルファイルを回答として提示している例

AI-Qはウェブベースのインタフェースのため、質問応答システムはパソコン、スマートフォン、タブレットなど、幅広い端末から利用することができます。

なお、親しみやすさを感じるアイコンや、社員で育てるイメージを象徴した、オタマジャクシからカエルに成長していくキャラクターなども採用しています。

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利用料金は

導入時に必要な初期費用は2百万〜、月額料金は24万円(400 ID)からとなっています(いずれも税別)。IDは利用する人の数で、全社員が直接 AI-Q に質問する場合は社員数になります。社内コールセンターの担当者がAI-Qを利用する場合はオペレータの数になります。

同社ではAI-Qへの問い合わせ数をコール数と呼んでいます。契約プランに応じてコール数が月額利用料に含まれ、そのコール数を超えた場合は別途料金がかかります。
なお、導入前の試用にも対応する用意があるとのことです。



Watsonの「学習」には業務に精通する知識が必要

Watsonと連携したシステムの開発と導入には、業界に精通しているかどうかが実は大きなポイントとなります。
というのも、導入時のWatsonは人間で言うと赤ちゃんのようなもの。大きな可能性を持っていますが、学習と育成によって一人前に成長させることが重要です。そこで、導入時には医薬品や製薬業界に関わる知識、用語や常識などのビッグデータをもとに「コーパス」(テキストなどのデータを構造化し大規模に集積したもの)を作り、密度の高いトレーニングを行いますが、これらがシステムの性能を大きく左右することになります。すなわち業界ごとに精通し、ルールやしくみなど、高度な専門知識を理解したスタッフ達が開発チームに参加することこそ、精度の高いシステムを構築できる条件とも言えます。

そのため、医療・製薬業界向けにシステムを開発するなら、木村情報技術のように業界にもシステムにも精通した企業が開発するのが望ましいのですが、一般企業向けとなると学習に最適な人材は導入する企業の中で業務に精通したスタッフでありチームである、ということになります。

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AI-Q 導入までの流れ。業務に精通したメンバーによって学習とトレーニングが重要となる

木村情報技術は「高度な質疑応答技術」を核としたシステム開発にも注力していて、製薬業界向け「問合せ受付対応システム」「MR教育支援システム」「オウンドメディアでの活用」など、質問応答支援システムを開発していて、システムを拡張する体制を持っています。

その技術と知見を活かし、広く一般業界向けの廉価版として「ソリューションパッケージ」として提供することになったのが「AI-Q」です。現在、メーカーや計測会社、住宅販売業など、さまざまな分野の企業からAI-Qについて問い合わせがあり、ほとんどの内容は社内コールセンターで活用したいということが主だと言います。ソリューションパッケージの登場によって、質問応答システムを自社で育成していく、という新たなコグニティブ・コンピューティングの世界がひらけたとともに、企業にとっては導入の敷居が一気に下がったように感じます。

関連サイト
木村情報技術

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神崎 洋治

神崎洋治(こうざきようじ) TRISEC International,Inc.代表 「Pepperの衝撃! パーソナルロボットが変える社会とビジネス」(日経BP社)や「人工知能がよ~くわかる本」(秀和システム)の著者。 デジタルカメラ、ロボット、AI、インターネット、セキュリティなどに詳しいテクニカルライター兼コンサルタント。教員免許所有。PC周辺機器メーカーで商品企画、広告、販促、イベント等の責任者を担当。インターネット黎明期に独立してシリコンバレーに渡米。アスキー特派員として海外のベンチャー企業や新製品、各種イベントを取材。日経パソコンや日経ベストPC、月刊アスキー等で連載を執筆したほか、新聞等にも数多く寄稿。IT関連の著書多数(アマゾンの著者ページ)。

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