高齢者介護施設で導入が進む介護ロボット(1)【サービスロボット最前線 / 初級ロボット講座 第2回】

ロボット業界を短時間で把握する連載企画「サービスロボット最前線」。
前回「サービスロボットと会話ロボット、スマートロボットとは」に続いて、第二回は「介護ロボット」について解説します。


介護ロボットと言うと、介護施設や一般家庭で、人間に代わって高齢者や障害者のお世話をしてくれるロボットを想像すると思いますが、残念ながらそのようなロボットは未だ存在していません。
介護をする人を限られた範囲で助けてくれる、そんな段階にようやくたどり着いたという感じです。しかし、それでも介護する人の負担を軽減しようと、開発が日夜、進められています。


介護ロボットにも大きく分けて2種類があります。



ロボットスーツ、アシストスーツ

ひとつは介護士などの、介護する人が高齢者の方などを抱えたり、運んだりするときにかかる足腰の負担を軽減するためのロボットです。ロボットというより身体に装着して補助してくれる道具で、「ロボットスーツ」や「アシストスーツ」などとも呼ばれます。サイバーダインのロボットスーツHALなども有名です。


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重量物の上げ下ろし動作時の身体負担を軽減するアシストスーツの例「AWN-03」(アクティブリンク株式会社)

介護する人が腰痛や筋肉痛に悩まされては仕事が長続きしないため、これらロボットスーツは重要な役割を担うとして期待されています。また、要介護者や身体の不自由な方が装着することによって、歩いたり動いたりすることを支援するロボットスーツもあります。これは「自立支援型ロボット」等とも呼ばれます。これらの支援型ロボットは、まだ開発中や実証実験の段階の製品も多く、広く普及するのはこれから、といった状況です。


アクティブリンクの動画 (介護向け利用のシーンは途中に何度か登場)

また、広義の介護ロボットとしてはロボットスーツのほか、ベッド型、モビリティ型(電動移動機)、食事を支援するロボットなどの研究・開発が進められています。

食事を介護するロボット

セコムが展示した食事を支援するロボット。アーム型ロボット等が食事を介添えする



コミュニケーションロボットによる介護支援

もうひとつは「コミュニケーションロボットによる介護支援」です。
コミュニケーションロボットは力作業で人間を支援するというわけにはいきません。では、どのようにして介護現場で役立っているのでしょうか。



会話ができなくてもココロを癒す

世界で最も導入されている介護ロボットのひとつがアザラシ型ロボット「PARO」(パロ)です。アザラシ型なので人間の言葉で会話をしたりはしませんが、アニマルセラピーの効果で高齢者らに楽しみや安らぎを与え、元気付け、動機付け、ストレスの軽減など、心身を癒すロボットとして海外でも広く利用されています。世界で最もセラピー効果のあるロボットとしてギネス世界記録(2002年)にも認定されています。

アザラシ型ロボット「パロ」

アザラシ型ロボット「パロ」は本格的なセラピーロボットとして大和ハウス工業知能システムが展開している。おしゃぶりをくわえているのは充電中



会話が健康のみなもと

前回、サービスロボットの中でも会話ができるロボットを「コミュニケーションロボット」や「会話ロボット」と呼ぶと解説しましたが、高齢者施設や介護施設に導入が進んでいるロボットでは、大型のものは「Pepper」、小型のものは「PALRO」(パルロ)などです。会話や体操ができるロボットは、介護施設や一般家庭の介護の現場での活躍が始まっています。

レクの時間に会話するPepper

高齢者施設を訪問し、レクの時間に会話をするロボット「Pepper」。フューブライト・コミュニケーションズ社は数回にわたり実証実験を重ねて効果を確認した(写真はフューブライト・コミュニケーションズ社提供)

高齢者にとって会話は健康を保ったり、ココロの活性化、元気づけにとても重要とされています。しかし、ただ会話するだけといっても介護の業務に追われている介護士にとっては簡単なことではありません。また、要介護者の方が繰り返し同じことを言うなどのケースもしばしばありますが、ロボットなら何度同じ会話をしても苦になりません。

また、介護施設の場合、高齢者などの要介護者のココロと身体の健康を維持するため、「レクリエーション」(レク)の時間を設けています。みんなで歌を歌ったり、健康体操などが行われていますが、毎回の内容を用意するのも大変な作業です。そこでレクの時間をPepperやPalroなどのロボットがみんなの前に立って、健康体操や旗上げ体操をしたり、クイズを出したり、ゲームをしたり、歌を歌ったりして楽しませるのです。


レクの時間に体操を行うパルロ

高齢者たちの中心で健康体操を先導する身長約40cmの会話ロボット「PALRO」。既に330以上の施設に導入実績がある。レクの時間にパルロに会うのを楽しみにしている高齢者も多いという(写真は富士ソフト社提供)

このようにコミュニケーションロボットはレクの時間や会話で高齢者の方々と会話したり、体操したり、歌を歌ったりして楽しませてくれています。これは介護スタッフの方の負担の軽減にも繋がっています。

また、ロボットの会話能力はまだまだ完璧とは言えませんが、高齢者との会話にはいろいろな面で相性がいいと言われています。既に多くの高齢者向け介護施設にロボットが導入されはじめています。効果が認められれば、助成金制度などもありますので、今後も一層導入が進むとみられています。

ちなみに、スマートフォンやパソコンと同様に、ロボットだけを導入したのでは不十分です。ロボットに組み込む高齢者/介護施設向けソフトウェア、ロボアプリによって何ができるか、どのような効果が期待できるかが異なります。

次回は介護ロボットの続編として、具体的にどんなアプリがあるのかを解説していきます。

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神崎 洋治

神崎洋治(こうざきようじ) TRISEC International,Inc.代表 「Pepperの衝撃! パーソナルロボットが変える社会とビジネス」(日経BP社)や「人工知能がよ~くわかる本」(秀和システム)の著者。 デジタルカメラ、ロボット、AI、インターネット、セキュリティなどに詳しいテクニカルライター兼コンサルタント。教員免許所有。PC周辺機器メーカーで商品企画、広告、販促、イベント等の責任者を担当。インターネット黎明期に独立してシリコンバレーに渡米。アスキー特派員として海外のベンチャー企業や新製品、各種イベントを取材。日経パソコンや日経ベストPC、月刊アスキー等で連載を執筆したほか、新聞等にも数多く寄稿。IT関連の著書多数(アマゾンの著者ページ)。

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