アイリスオーヤマは2026年6月26日、法人向けDX清掃ロボット『JILBY(ジルビー)』を発表、7月1日より発売を開始する。

同社グループとして初めてハードウェアとソフトウェアを完全内製化した清掃ロボットで、現場の声を反映した「ユーザーイン設計」を採用。自動充電やオートスタート、交換式バッテリーなど、実運用を重視した数々の機能を備えたほか、NTT西日本グループのAIロボティクスプラットフォームと連携するAIエージェントにも対応した。

同社はこれまで、累計2万5,000台を超えるサービスロボットの出荷を達成した。
その蓄積した知見を結集し、「現場で使われ続けるロボット」を目指して開発された「JILBY」。その特徴と機能、開発背景、そしてアイリスオーヤマが描くロボット事業の次のステージについて、報道関係者向け発表会の内容を交えながら紹介する。

■アイリスオーヤマ初、ハード・ソフト完全内製のDX清掃ロボット「JILBY」
JILBYは、吸引清掃に対応した自律走行型の業務用DX清掃ロボットの新製品。オフィスビルや商業施設、スーパーやコンビニ、工場、ホテル、医療・介護施設、学校など、日常的な床清掃が必要となる施設を主なターゲットとしている。DX清掃ロボットに関する問い合わせは増えていて、最近では自治体や公共施設からの相談も多いという。
本体サイズは幅470mm、長さ534mm、高さ722mmとコンパクトで、小回りの利く車体を採用した。大型の清掃ロボットでは入りにくい場所でも運用しやすく、施設内を自律走行しながら吸引、除じん作業を効率よく行うことができる。

アイリスオーヤマグループとして初めて、ハードウェアとソフトウェアの両方を自社グループ内で開発した完全内製モデル。
これまで同社は、他社製の業務用清掃ロボット『Whiz i IRIS EDITION』や、配膳・運搬ロボット『Servi IRIS EDITION』などを展開し、導入支援や運用サポートまでを含めたサービスロボット事業を拡大してきた。
一方、JILBYではハードウェアの設計・製造とソフトウェア開発の双方をグループ内で担うことで、企画・設計から販売、保守、アップデートまで一貫して提供できる体制を構築した。

これにより、導入後に寄せられる現場の要望を迅速に製品へ反映できるだけでなく、ソフトウェアアップデートによって継続的に機能を進化させられることも大きな特徴となっている。
また、アイリスオーヤマは2026年1月、自律移動型警備ロボット『SQ-2』などを手がけるSEQSENSE(シークセンス)をグループ会社化している。清掃ロボットに加え、警備領域のロボットもラインアップに加えることで、施設内で稼働するサービスロボットの領域を広げる狙いがある。営業面でも市場拡大の効率的な展開を目指す意図もあるだろう。

さらには『JILBY』で進める完全内製化や運用データの蓄積は、将来的に清掃以外のサービスロボット開発に生かされるメリットも考えられる。
「JILBY」の名前に込めた思い
JILBYという名称には、アイリスオーヤマがこのロボットへ込めた開発思想が表れている。
名称は、「Job(仕事)」「Intelligent(知能的)」「Labor(労働)」「Bot(ロボット)」「Your Side(あなたのそばで)」という5つの言葉の頭文字から名付けられた。
「人のそばで知能的に働き、清掃という仕事を支えるロボット」。単なる自動清掃機ではなく、人手不足が深刻化する現場で、人と協調しながら新たな価値を生み出すパートナーを目指すという思いが込められている。
今回の発表会でも、この「人の代わりに掃除をするロボット」ではなく、「人と一緒に働き、現場へ定着するロボット」という考え方が繰り返し語られた。
■現場の声を徹底的に反映した「ユーザーイン設計」
「JILBY」の大きな特徴のひとつは、アイリスオーヤマが「ユーザーイン設計」と呼ぶ開発思想にある。開発を担当したシンクロボでは、ロボットの性能を起点に仕様を決めるのではなく、営業担当者やユーザーから寄せられた改善要望を出発点として設計を進めた、という。

実際の運用現場では、「もう少し静か(静音)なら昼間も使える」「毎日スタートボタンを押す作業をなくしたい」「紙パック交換をもっと簡単にしてほしい」といった、日々の運用に関する数多くの要望が寄せられてきた。
JILBYでは、こうした現場の声を一つひとつ反映しながら設計を進めた。
自動充電機能と着脱式のバッテリーを両立
例えば、「自動充電機能」では、清掃終了後に自動で充電ドックへ戻るだけでなく、あらかじめ設定した曜日や時間になると、自動で出発して清掃を開始する「オートスタート機能」も搭載した。質疑応答では、この2つの機能について「営業現場から最も多く寄せられていた要望だった」と説明された。

ロボットが自動で掃除できても、毎日誰かがスタートボタンを押す必要があれば、次第に運用が形骸化し、人が掃除する運用へ戻ってしまう。「人が介在しない運用」を実現することが、現場へ定着するための重要な条件だったという。
さらに、バッテリーは交換式を採用した。
長時間の運用でも予備バッテリーへ交換するだけで清掃を継続できるため、充電待ちによる停止時間を減らすことができる。
ルート設定は初回に押して教えるだけ
導入時の設定もシンプルだ。
最初にスタッフが一度ロボットを押して走行させることで、施設内の地図作成と清掃ルートの登録を同時に自動で実施。その後はスケジュールに従って出発し、清掃終了後は自動で充電ドックへ戻るまでを自律動作で行う。

誰でも簡単に紙パック交換、操作性を向上
また、紙パック(6.3L)交換には家庭用掃除機で培ったノウハウを取り入れ、誰でも簡単に交換できる構造を採用した。

病院や介護施設、ショップの店内などを想定した「静音モード」、初めて操作する人でも分かりやすい10インチ大型ディスプレイなど、毎日の運用負荷を軽減するための工夫も数多く盛り込まれている。


筆者も「静音モード」を体験したが、吸引しているとは思えないほど静かだった。小倉氏によれば、これほど静かにも関わらず、ノーマルモードと比較しても吸引力に大きな差はないという。
高い安全性に配慮
さらに、安全性にも配慮した。LiDARに加え、3Dカメラや超音波センサー、段差センサー、バンパーセンサーを組み合わせることで、人や障害物、ガラス面などを高精度に検知。施設内を安全に自律走行できるよう設計されている。

■AIエージェントで清掃DXを実現 自然な会話でロボットへ指示
JILBYは、清掃性能だけでなく「生成AI」を活用した新しい運用にも対応する。特に、NTT西日本グループが提供する「AIロボティクスプラットフォーム」と連携することで、AIエージェントを利用したロボット運用には注目だ(オプション)。

「AI エージェント」により、タブレットやスマートフォンなどの端末を通じ、ユーザーとロボット間のテキストや音声で、自然言語による双方向のコミュニケーションが可能となっている。
さらに、蓄積された清掃データなどを基にAIが学習し、最適な清掃ルートや頻度、時間帯などを「AI エージェント」が提案することで、清掃業務の効率化と最適化を実現する。

タブレットから「このフロアを掃除して」「会議室前を清掃して」と自然な文章で入力すると、AIエージェントがその内容を理解し、JILBYへ清掃指示を送信。ロボットは指示されたエリアへ向かい、自律走行によって清掃することができる。まるで、人に依頼するような手軽さでロボットに指示できることが特徴だ。
また、生成AIが清掃の状況を報告したり、今後の清掃計画を提案する機能も持っている。汚れの度合いをセンサーで検知し、大きな汚れがなかったときは「清掃頻度を減らしても大丈夫」、大きな汚れがあった時は「もう一度しっかり清掃した方がよい」「×曜日は汚れが多いから"しっかり清掃"がおすすめ」などと言葉で提案してくれる。
発表会では、実際にAIエージェントを利用したデモも披露された。自然言語による画面操作で清掃を指示するとロボットが動き出す様子や、清掃結果からロボットが次の清掃作業について提案する様子が紹介され、報道関係者はその一連の流れを興味深く見守っていた。



質疑応答では、このAIエージェントはロボット本体ではなく、クラウド上で動作する大規模言語モデル(LLM)が処理を行っていることも説明された。
また、この機能はNTT西日本のAIロボティクスプラットフォームのオプションサービスとして提供されるため、JILBYはAIエージェントを利用しなくても通常の清掃ロボットとして運用できる。
将来的には、施設内の各種設備とも連携する構想だ。それが実現すれば、例えば、フラッパーゲートやエレベーター、自動ドアなどと連携することで、人の操作を介さずフロア間を移動しながら清掃できるようになる。
建物設備やクラウドサービス、AIが連携することで、施設全体の運用効率を高める総合ソリューションとして、JILBYはその第一歩となるプラットフォームとして位置付けられている。

■2万5,000台の社会実装が導いた「現場で使われ続けるロボット」という答え
JILBYは、アイリスオーヤマが2020年から展開してきたサービスロボット事業を通じて蓄積した知見をもとに開発された。現在、同社が導入したサービスロボットは累計2万5,000台を超え、導入企業は7,000社以上に達している。

発表会では、ロボティクス事業本部 本部長の吉田豊氏が、サービスロボットの普及において重要なのは、性能だけではなく「現場へ定着すること」だと説明した。
実際の運用現場では、「充電されていなかった」「担当者が変わり使い方が分からなくなった」「毎日の起動が負担になった」といった、一つひとつは小さな課題が積み重なり、せっかく導入したにも関わらず、人が掃除する運用へ戻ってしまうケースも少なくないという。

JILBYでは、こうした運用上の課題を一つずつ見直し、「誰でも、無理なく、毎日使えること」を重視して設計した。自動充電やオートスタート、交換式バッテリー、メンテナンス性を高めた紙パック構造などは、その代表的な例と言える。
吉田氏は、社会実装が進むほどデータや知見が蓄積され、ロボットの改善にもつながると述べ、完全内製化によってその取り組みを強化していく考えを示した。
サービスロボットは、一般的な家電製品のように「購入すればすぐに使える、すぐに成果が出る」というものではない。施設の規模やレイアウト、清掃頻度、現在の作業内容などによって最適な運用方法が大きく変わるためだ。
そのため同社では、導入前も清掃仕様書や作業内容を確認し、現在の清掃オペレーションを分析した上で提案を行っているという。
例えば、どのエリアの清掃をロボットへ置き換えることで最も効果が得られるのか、何時間分の作業を削減できるのか、投資回収(ROI)はどの程度見込めるのかといった点までシミュレーションし、それぞれの施設に合わせた運用方法を提案する。
こうした提案は、ロボットを販売することが目的ではなく、「現場で使われ続けること」を重視しているからこそのアプローチと言える。質疑応答では吉田氏が、「ロボットは納品して終わりではなく、実際に運用が始まってからが本当のスタート」と説明した。
そのためアイリスオーヤマでは、サブスクリプションによる提供を積極的に採用。法人営業も市場からの情報をダイレクトに収集しやすい直販にもこだわっている。
定期的な保守やソフトウェアアップデートだけでなく、運用状況を見ながら迅速に改善提案を続けることで、ロボットが現場へ定着するまで伴走する考えを示した。
「サービスロボットは、一度導入しただけでは社会実装とは言えない。実際に毎日稼働し、人手不足の解消や業務改善へつながって初めて、その価値が生まれる」(吉田氏)という考え方だ。

こうした考え方は、データを収集し、改善し続けることで精度が向上するフィジカルAIの本質とも繋がる。
■小倉氏が目指すのは「現場で育つロボット」
JILBYの開発を担当したシンクロボの小倉崇氏は、「現場で育つロボット」という考え方を重視する。ロボット開発やAI分野で培ってきた経験を生かしながら、「実際の現場で使われるロボット」を目指してJILBYの開発を進めてきた。
今回、自社グループ内で開発から運用改善までを一体で進められる体制を整えた。これにより、現場から寄せられる改善要望を従来よりも迅速に製品へ反映できるようになった。
その考え方は、ロボット開発を単なる「製品づくり」ではなく、導入後の運用まで含めた「サービスづくり」と捉えている点にも表れている。プレゼンテーションでは、ロボットは完成した時点で価値が決まるものではなく、導入後もユーザーの利用状況や要望に応じて改善を重ねていくことが重要だと説明した。

そのためには、ハードウェアだけでなく、ソフトウェアを継続的に更新できることが欠かせない。JILBYでは、ソフトウェアアップデートによる機能改善に加え、AIエージェントや建物設備との連携、新たなサービスへの対応など、導入後も機能を拡張できる設計を採用した。
さらに、営業担当者やサービス担当者が現場で収集した要望を開発チームへ共有し、実際の運用に合わせた改善を進めていく考えだ。
小倉氏は「ロボットは一度完成すればそれで終わりではなく、現場で使われることで初めて改善点が見え、ソフトウェアの更新を繰り返しながら価値を高めていく」と説明した。こうした改善サイクルを自社グループ内で回せるようになったことも、JILBYの完全内製化による大きな特徴の一つとなっている。
■JILBYはアイリスオーヤマの新たな一歩
今回の発表会では、単なる新製品の紹介にとどまらず、アイリスオーヤマがサービスロボット事業をどのように次の段階へ進めようとしているのかも示された。
JILBYは、サービスロボットを社会実装してきた同社の知見を自社グループによるハードウェア・ソフトウェア開発に反映した製品と位置付けられる。

ロボット業界では、フィジカルAIやヒューマノイドなど先端技術への注目が高まっている。一方で、実際の社会実装では、毎日安定して動き、誰でも扱え、導入後も改善を続けられることが重要になる。
JILBYは、そうした現場の課題に向き合いながら、AIエージェントや建物設備との連携によって、清掃業務の効率化を進めることを目指す。








