ユニバーサルロボット、新主力製品「e-シリーズ」の説明会を実施 UXを刷新、より幅広い現場で速やかに使えるように


2018年7月13日、デンマークの協働ロボット企業Universal Robots(ユニバーサルロボット、https://www.universal-robots.com/ja/)社は、6月にドイツ・ミュンヘンで開催された「Automatica 2018」で新しい主力製品として発表した協働ロボット「e-Series」の記者向け説明会を東京都内で開催した。

「e-Series」は力覚/トルクセンサーを内蔵し、精度と感度を向上させた。コントロールパネルや制御ソフトウェアも刷新。より広範囲のアプリケーション開発を迅速化できるとしている。

従来機種同様、可搬重量によって3kg、5kg、10kgの3種類をラインナップする。出荷開始は8月1日。納期は5日間。日本での納期は従来同様3−4週間となっている。現行シリーズの販売も継続する。価格は非公表だが、現行機種よりも高くなっていることは間違いないようだ。ただしその部分は、従来機種だと必要だったコストで吸収できると考えているという。


e-シリーズの一つ「UR3e」


協働ロボット市場占有率6割のユニバーサルロボット

ユニバーサルロボット 北東アジア ゼネラルマネージャ 山根剛氏

ユニバーサルロボット 北東アジア ゼネラルマネージャの山根剛氏は「世界での累計販売台数が今年6月に2万5000台に達した」と話を始めた。同社が世界初の協働ロボットを発売したのは2008年。2018年5月にユニバーサルロボットの共同創業者で最高技術責任者であるエスベン・オスターガード氏が、米国ロボット産業協会(RIA)によるオートメーション産業分野の賞である「エンゲルバーガー・ロボティクス賞」を受賞したことについても触れ、協働ロボットへの理解が進んできたと語った。


ユニバーサルロボットは2005年に設立、2008年に協働ロボットを発売

同社は昨年の売り上げが1.7億ドルを超えており、これは前年比72%増にあたる。協働ロボット市場での占有率は6割。世界で300を超える同社ロボット関連の開発メーカーががあり、15カ国に22の拠点、従業員数は3月時点で500人を設けている。本社技術者の数も増大中だという。


ユニバーサルロボットの成長

同社は市場占有率を維持しつつ、年60%の市場拡大に伴って高成長を続けている。特にこの2年で状況は大きく変わったという。山根氏は「競合メーカーの参入状況を見ても、今後大きく協働ロボット市場は伸びる」と語った。


6割の市場占有率を維持しつつ、年60%の市場拡大に伴って高成長を続ける

ユニバーサルロボットは協働ロボット専業で、しかも3種類のアームだけを売っている会社だ。この方針は今後も変えないという。各社には代理店を置き、代理店が直接本社からロボットを入れて販売する方式をとっている。日本での代理店は現時点で9社。今後も増やしていくという。

顧客から見た場合のロボットはシステムだ。アームだけでは使えない。エンドエフェクタやビジョンシステム、各種アクセサリや周辺設備がいる。同社ではユニバーサルロボット向けにカスタマイズされた製品群を「UR+エコシステム(https://www.universal-robots.com/plus/)」と呼んで、拡大させている。なかには日本の会社も数社含まれているという。今後はコンポーネンツだけではなく、アプリケーションとしてひとまとめにしたかたちでの「UR+」を提供することで、より使いやすいシステムとすることも目指しているという。

またロボットのトレーニングを行うeラーニングを始めている(https://www.universal-robots.com/ja/urアカデミー/)。これまでに世界で2万8000人が講習を受けており、日本国内でも毎月数百人が受けているという。eラーニングの価格は無料。協働ロボットの裾野を広げることを目的として実施している。現場で簡単に使えるロボットシステムとサービスを目指しているという。なお現時点ではeラーニングのカリキュラムは既存機種に対応したものとなっている。e-シリーズ対応版は現在製作中とのこと。


「UR+」と呼ぶ他社とのエコシステムや、eラーニングによる裾野拡大を重視

同社が考える協働ロボットは、単に産業用ロボットにセンサーをつけて安全性を高めるだけではなく、迅速なセットアップ、狭い工場でも使える柔軟な配置、簡単なプログラミングなどが重要だとしている。固定ではなく再配置が可能で、人とスペースが共有でき、単一作業ではなく、様々な用途に変更できること、そして投資回収期間が短いことが重要だと述べた。山根氏は、プログラミングがユーザーが行えることで、トータルコストも安く済むと強調した。


既存の産業用ロボットと協働ロボットの考え方の違い


UXが刷新されたe-シリーズ 導入がより容易に

ユニバーサルロボット テクニカルサポートエンジニア 西部慎一氏

e-シリーズは、さらにセットアップが迅速に、再配置がより柔軟に、プログラミングはより容易に、そしてより安全になったとテクニカルサポートエンジニアの西部慎一氏は語った。

ティーチングペンダントも新デザインに。200g程度軽くなり、防湿性が強化された。画面もより大きくなり、解像度はより高く、タッチも感圧式から静電容量方式になった。


軽量になった新ティーチングペンダント

また、ユニバーサルロボットの独自OS「POLYSCOPE(ポリスコープ)」のGUIも大きく更新された。階層をいちいちたどったりする必要がなくなり、より簡易なティーチングが可能になったとしている。


POLYSCOPEのUXも一新

セットアップについては、ロボットアーム根本のベースデザインが、手の挟まりを防止できるように、より安全性の高い形状に統一された。コントローラハードウェアも複数ボードに別れていたものをワンボードにし、一体化した。ソフトウェア全体のアップデートもより簡単になった。UR+関連のSDKも更新されているという。


コントローラーもよりコンパクトに

現行機種のUIはこれまで通りだが、一部機能が追加されていくことになるという。ユーザーが新規のUIに慣れることができるのかという質問については「これまでのユーザーにとってもより簡単に触れるし、新規ユーザーもより導入しやすいUIとなっている」と答えた。現行機種の機能を新機種に移植することは可能だと述べた。

ジョイント部分はボルト数を大幅に減らし、従来の1/10程度の短時間で交換できるようになった。不具合にも素早く対応できる。


ジョイント部は早ければ2分程度で交換できるという

手先部分にはトルクセンサーを内蔵。ロボットが作業するためには、手先に付けたエンドエフェクタやワークなどの荷重や重心がどこにあるのか正確に知る必要がある。従来は手入力だったが、e-シリーズではティーチングペンダントのウィザードに従っていくつかの支点を設定するだけで重心の自動推定ができるようになった。


手先部分にトルクセンサーを内蔵

ツールからのシリアル通信もできるようになった。グリッパやカメラなどのエンドエフェクタが、先端部分とつなぐだけで、さらに複雑な作業をさせやすくなった。ケーブルと本体その他との干渉を気にする必要がない。従来のアナログ通信を使ったツールもそのまま使える。


手先部のシリアル通信用ポート

システムバスも125Hzから500Hzと4倍になり、応答精度が向上した。フィードバックの応答性能も上がった。これによって、たとえば非定常な動きをするベルトコンベア上の物体であっても、ピッキングが治具などを使わずに、より安定してできるようになったという。繰り返し精度も3e/5eは±0.03mm、10eは±0.05mmと向上した。より複雑な組み立て作業が可能になり、研磨作業の品質精度も上がることが期待される。


繰り返し精度も向上

安全性も全ての機器がカテゴリー3安全規格に準拠。停止までの時間/距離を設定できるようになった。たとえば人が近づくと停止するようにロボットと赤外線センサーを組み合わせて使うような場合に、リスクアセスメントに基づいて停止距離や時間を細かく設定できる。


安全性も向上

また、ツール先端だけではなく、エルボー(肘)部分も常に監視するようになり、肘が人や周辺設備と接触しないように設定できるようになった。ツール先端部の安全性についても、周辺機器や人と接触しないように、中心から一定半径の球を仮想に設定してティーチングできる。

ロボットのリスト(手首)部分も広がって、これによって手が挟まりにくくなった。


リスト部分に手が挟まりにくくなった

西部氏は最後に「自動化を全ての規模の会社で可能に」という同社のポリシーを強調。e-シリーズはそれをさらに推進するものだという。


自動化を全ての規模の会社で可能に

協働ロボットが広がっている背景について、山根剛氏は「従来はロボットを入れることで完全自動化・コスト削減という方向でのオートメーションが進められいた。だが今は人不足でロボットを入れるしかない状況にある」と述べた。西部氏も「これまでは完全な自動化を目指すために莫大なコストがかかっていた」と述べて、今はむしろ、自動化が難しい部分については人と協働ロボットを組み合わせて活用する方向にあると語った。

なお同社のロボットがもっとも使われている分野はやはり自動車だが、他にも幅広い分野で使われるようになっているという。特にこれまでロボットを使ったことがなかった現場で活用したいという声が増えており、同社もそれに応えられるような地域密着型の販売代理店やSIerを選んでいるとのことだった。同社のYoutubeチャンネル(https://www.youtube.com/channel/UCM09iVHDc416V8qLj-qhcWQ)には日本企業を含む多くの事例が動画で公開されている。

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森山 和道

フリーランスのサイエンスライター。1970年生。愛媛県宇和島市出身。1993年に広島大学理学部地質学科卒業。同年、NHKにディレクターとして入局。教育番組、芸能系生放送番組、ポップな科学番組等の制作に従事する。1997年8月末日退職。フリーライターになる。現在、科学技術分野全般を対象に取材執筆を行う。特に脳科学、ロボティクス、インターフェースデザイン分野。研究者インタビューを得意とする。WEB:http://moriyama.com/ Twitter:https://twitter.com/kmoriyama 著書:ロボットパークは大さわぎ! (学研まんが科学ふしぎクエスト)が好評発売中!

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