【森山和道のロボットの見方 vol.4】復活したPLENプロジェクトが見る新しい風景とは

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オープンな小型ヒューマノイド「PLEN」

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PLEN2(左)とPLEN.D(右)

プレンプロジェクトの「PLEN(https://plen.jp/jp/)」は卓上サイズの小型二足歩行ロボットだ。主たる用途は教育・ホビー。身長は約20cm、重さは約450g。連続動作時間はおよそ25分。18自由度あり、6軸センサ (ジャイロ + 加速度)を搭載している。操作はPCやスマートフォンの専用アプリからBluetooh経由で行う。

スケボーとローラースケートで滑るPLEN

二足での歩行のほか、ローラースケートやスケートボードで滑ることもできる。愛らしい動きとデザインは、デモでもいつも人目を集める。


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モーションを簡単に組み合わせて動かせる「Scenography」

動作を組むためのツールとしては、初心者の教育用のビジュアル・プログラミング・ツール「Scenography」のほか、中級者向けの「Motion Editor」などを提供している。


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中級者向けのモーションエディター

もちろんC++で直接コードを書くこともできる。ユーザーコミュニティサイト「PLEN Playground(http://plen.jp/playground/)」もある。


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外装の3Dデータも公開されておりユーザーが自由にプリント可能

いまのモデルの正式名称は「PLEN2」だ。特徴はオープンなハードウェア/ソフトウェアで構成されたロボットであること。コントロールボードはCPUにAtmel ATmega32U4を搭載したArduino互換ボード。付属サンプルプログラムのソースも公開されている。フレームほかの3DデータもGitHubで公開されており(https://github.com/plenprojectcompany/PLEN2)、必要であれば3Dプリンタで部品をプリントしたり、改造したりできる。

価格は、ユーザーが自分で組み立てるロボットキットで ¥116,640 (税込)。完成済みモデルは¥129,600 (税込)だ。モーターやボードだけのDIYキットは¥71,280 (税込)である。



ROSでの開発にも対応

頭部にIntel Edisonを搭載したROS対応バージョン

Developer Edition として、ロボット開発者に人気のロボット用ミドルウェア「ROS」に対応したモデルも販売している。ROS対応モデルは頭部にIntel Edisonを搭載しており、ROSの豊富なライブラリを利用したアプリケーション開発を行うことができる。プレンプロジェクトでは、主に研究開発用プラットフォームとして使われることを想定している。

現在、従来モデルに加え、カメラ搭載モデルや下半身をクローラーにしたモデルなども開発中だ。前述のようにオープンプラットフォームなので、ユーザーが勝手に改造することも可能だし、推奨もしている。ちなみに海外では部品だけを売ってくれという要望のほうが高く、ユーザーが自分でフレームなどを出力したり、イギリスではPLENだけのハッカソンが行われた例もある。



ジョイント・ベンチャー「PLENGoer Robotics」立ち上げの狙いは?

PLEN2のプロモーション動画

「PLEN2」は国内外のクラウドファンディングで資金を募集して始まったプロジェクトだ。募集開始したのは2015年3月6日だった。その後、ファンディングは無事成功。合計約1200万円弱の資金を得て、プロジェクト開始となった。これまでに生産した台数は250体。ようやくクラウドファンディングでサポートしてくれた人たちへの発送を終えたところだという。

プレンプロジェクト有限会社は2016年2月には社名をプレンプロジェクト・ホールディングス有限会社に変更。持株会社に移行した。事業部門は分社化し、全額出資事業子会社「株式会社プレンプロジェクト」へ譲渡した。

PLENGoer Roboticsプロモーション動画

そして中国の大手メーカーGoerTek(ゴアテック)グループと「PLENGoer Robotics株式会社」を共同で設立。個人及び家庭用サービス・ロボットの開発に取り組むと発表された。

これは何を狙ってのことなのだろうか。ちなみに、5月に出されたCES Asia2016 出展の同社プレスリリース(http://www.plengoer.com/pdf/CESAsia2016Pressrelease.pdf)には、「2016 年末までにこれまでにない実用的で人々の生活を効率化させる家庭及及び個人用のサービス・ロボットの開発を目指します」とある。

イメージ画を見せてもらった。一言でいえば、家庭用のコミュニケーションロボットである。「何をしてくれたらいいのかはいま探索中」としながらも、「役に立つロボットとして必要なものは何かと考えると、そんなに機能はなくてもいいけど、与えられた機能はバシッと確実にこなすことが重要」と赤澤氏は語る。「よくある機能でいいので、気持ち良くやってくれるロボットにしたい。何よりも大事なのはデザイン、質感、クオリティ。さわってみたいと思えるものでないといけないと思っています」。

予定では、来年1月にプロトタイプを発表。来年夏頃までに量産に入る。じわじわと展開しているPLENとは異なり、中国市場を核としつつ、一気に数万台を世界展開しようという大きな話だ。

コミュニケーションロボットには各社が参入しており、レッドオーシャンと化しつつある。だが「まだ本当にすごいもの、シーンをガラッと変えてしまうようなロボットは出てきていない」。チャンスはある、と見ている。というより、この波に乗らない理由は赤澤氏にはなかった、といったところが正解に近いかもしれない。

PLENはいま、どんな新しい風景を見ているのか。大阪に拠点を置く、株式会社プレンプロジェクト代表取締役社長の赤澤夏郎(あかざわ・なつお)氏に話を伺った。



10年ぶりの再起

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株式会社プレンプロジェクト代表取締役社長 赤澤夏郎氏

PLENは実は新参者ではない。十年前にも一度登場していた。赤澤氏らが開発を始めたのは2005年。翌2006年に株式会社システクアカザワから発表された「PLEN」は、身長約25cm、重さ約600g程度で、200体が作られた。当時も既に卓上サイズでBluetoothによる無線コントロールが可能で、売りのローラースケートもできた。デザインもほぼ同じだ。

「PLEN」は、「国際ロボット展」に出展されたり、アップルストアでもデモを行ったりしていたため、ロボットファンのあいだでは愛らしい姿で知られた存在だった。


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資生堂「花椿」2000年1月号。PLENは愛らしいデザインで他のロボットとは違うコラボも多かった。

ちなみに当時の価格は262,500円で、初ロットは50体だった。数年で徐々に売れて200体を達成したという。2009年にはオーストリアの「アルスエレクトロニカ(http://www.aec.at/about/jp/)」にPLENが誘致されたこともあり、そのうち半分は海外で売れたそうだ。


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アルスエレクトロニカ(2009)でのイベントも。PLENは今でも海外でウケる

その後、長らくの沈黙を経て、再び復活したのが「PLEN2」だった。赤澤氏は「実のところロボットを再び新規に開発するつもりはまったくなかった」と語る。ではなぜ、再び復活となったのか。

赤澤夏郎氏は1971年生まれ。以前、PLENの開発主体だった株式会社システクアカザワは赤澤氏の家業だった。リゾート会社を経て家業に2004年に入社した赤澤氏だったが、2009年、精密部品加工を本業としていた同社は倒産する。日本の製造業が新たな課題と向き合いはじめたころだ。

当時、システクアカザワはロボットによるサッカー大会「ロボカップ」世界大会に出場して優勝した「Team OSAKA」での活躍などを通して、大阪でのロボット開発では知られた会社だった。2006年8月には全ての市販ロボットの修理に対応するという触れ込みで、世界初となるロボットの修理専門店「ロボットクリニック」を立ち上げたりもしていた。そのため、ロボットブームが下火になった折での同社の自己破産は、ロボットよりも本業の課題だったとはいえ、前回のロボットブームに参入していたプレイヤーたちのあいだでは、それなりの衝撃をもって受けとめられた。

PLENそのほかで知られるようになっていた赤澤氏は大手メーカーの受託開発などを経て、2009年からは大阪ハイテクノロジー専門学校ロボット学科の教育顧問、そして2010年からはマインドストームを使ったロボット教室などを行う株式会社ロボライズで教材やコンテンツ開発を担当していた。

前述のように、赤澤氏は「新しいロボットを作るという気持ちももうなかった」。といっても、後ろ向きな理由でなはない。やりたいことや表現したいことはだいたいやりきったし、達成感があったため、同じことをもう一度やる気持ちはもうなかったのだという。そのため、再度、自分たち独自の製品を開発しようという気持ちはなくなっていた。



「そんなの7年前にもやってたよ」

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以前のPLENの一つ。外装にウッドチップ入り素材を使ったモデル

ではなぜ新しい製品開発を志すようになったのか。開発のきっかけは、端的にいってしまえば、いわゆるメイカー・ムーブメントである。Rasbery PiやArduinoの普及を通して、「もともとそこに触れたい欲求を持っているのに触れられない人たち」が、嬉々として新たに電子工作やロボットに参入する。それが赤澤氏には新鮮で面白く感じられた。

直接のきっかけは2013年、大阪市グローバルイノベーション創出支援事業として行われた第一回「ものアプリハッカソン」。赤澤氏は審査員、運営として参加した。同じ時期にラズパイを使ったロボット「Rapiro」がクラウドファンディングで資金を集めて大成功をおさめるのを見た。

これらの一連の動きを見ていて、赤澤氏は「そんなの僕らも7年前にもやってたよ」と思った。じゃあ、もう一度いまのやり方でそのまま立ち上げ直したらどうだろう。そう考えて、復活に至ったのだそうだ。「成功というより少なくとも失敗はしないだろう」、そんな考えだったという。



10年間で変わった点は小規模製造文化の誕生

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PLEN2のコントロールボード

赤澤氏は、10年で変わったこととして試作の速度とコストの違い、そして文化の違いを挙げる。10年前は、小規模の零細企業がマニアックとはいえ一般へ向けてモノを作るという文化自体がなかった。だから当時は、いかにも大企業がやってるようなカタログやパッケージをきれいに作ることにこだわった。だが今は、小さい会社がとんがったことをやってるほうがカッコイイ、と言われるようになった。まわりの反応が変わった。するとやる側も影響を受ける。「やってていいんだ」と思う。

「PLENはフレームがプラスチックなので、金型が必要なんです。その金型代が膨らんでいったときに『ものすごく馬鹿なことをやってるんじゃないか』といった気分に陥るんです。そのときに支えになるのは展示会に出したときの反応や周囲の声だったりするんです」。

できるかどうかもわからないなかで、ゆっくりと始めたプロジェクトだったが、いっぽう、時間はそれほどなかった。PLENがそのままだったのも、動画を撮影するスケジュールを決めてしまったので、そこに間に合わせるためには新規に作るのではなく、以前のものをそのまま使うしかなかったからだ。といっても、知っている人は知っているけど、大半の人が見るのは初めてだ。やはり予想通りの反響を得て、PLENはファンディング成功となった。


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クラウドファンディングでの達成率

ただ、ちょっとタイミングが遅かったため、微妙だな、とも思ったと赤澤氏は率直に振り返る。クラウドファンディングだけではないが、ネットカルチャーの流行り廃りは早い。



異業種の血で協業が加速

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株式会社プレンプロジェクト 富田敦彦氏

話が加速し始めたのは、外資系の証券会社で働いていたキャリアを持つ富田敦彦氏が2015年10月に取締役として参加してからだった。実際に動くロボットを見て、すごいと思ったという富田氏は、業界のことを知らない。だから逆になんでもありで、どんどんイベントやコラボの話を進めていった。うまくいったものいかないものあったが、人脈は増えていき、それがまた新しい流れを呼んだ。

kickstarterで成功しそうなタイミングで海外企業からアライアンスのメールがババッときた。おそらくハードウェアで成功しそうなところには同じようなアプローチがあるらしい。単なるやりとりを超えた協業となると、深い対応が必要となる。時間も人手もないため赤澤氏は基本的に簡単な受け答えだけで放置していたが、その多くのメールのなかから、富田氏が「気になる」といって拾い上げたのがGoerTekグループからのメールだった。富田氏が日本事務所に出向いたあとのGoerTek側の動きも、とにかく早かったという。彼らの要望は、自社ブランドのロボットを作りたいというものだった。

彼らが作ろうとしているロボットの詳細はまだ明らかではない。赤澤氏はとにかく「僕らにしかできないロボット」まで持っていかないといけない、そう考えているという。現在、プレンプロジェクトの正社員は3名。他にPLENGoer Robotics独自の社員が5名、アルバイトの学生たちも多数出入りしている。非常に活気づいているとのことだった。



「PLEN3」はさらに小型で賢く

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PLEN2(左)とPLEN.D(右)。3はさらに小型化を目指す

次世代の「PLEN3」は、もっと小さく、もっと賢く、機能を持ったもの、自律性を持ったものにしたいという。GoerTekと作っているロボットと違い、PLEN自体は今後も教育やホビー用途の世界でのじわじわとした展開を目指している。ただ、「使い道がなかったから教育という感じではない」。PLENをデモすると、世界各地の人たちが熱烈な関心をもって迎えてくれる。それは他の教材にはないと感じている。

「時間はかかるけど確実に需要はある。適切な製品を提供したいという思いです」。

PLENのチームには、一度ブームの一部を作った人たちにしか見えない風景があると思う。彼らにしか見えないこと、できないことを武器に新たな市場を切り拓くことを期待している。

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今後のPLENはどこへ進化していくのだろうか

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森山 和道

フリーランスのサイエンスライター。1970年生。愛媛県宇和島市出身。1993年に広島大学理学部地質学科卒業。同年、NHKにディレクターとして入局。教育番組、芸能系生放送番組、ポップな科学番組等の制作に従事する。1997年8月末日退職。フリーライターになる。現在、科学技術分野全般を対象に取材執筆を行う。特に脳科学、ロボティクス、インターフェースデザイン分野。研究者インタビューを得意とする。WEB:http://moriyama.com/ Twitter:https://twitter.com/kmoriyama 著書:ロボットパークは大さわぎ! (学研まんが科学ふしぎクエスト)が好評発売中!

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