障害を超え人を繋げるためのロボットと情報技術 「ロボット・情報×つながり」レポート

講師の佐世保工業高等専門学校電子制御工学科 助教 槇田諭氏(左)と東北大学 男女共同参画推進センター特任助教 瀬戸文美氏(右)

2018年1月26日、文部科学省 情報ひろば サイエンスカフェ「ロボット・情報×つながり テクノロジーを駆使してより豊かな生活へ」が行われた。講師は佐世保工業高等専門学校電子制御工学科の槇田諭氏(https://www.sasebo.ac.jp/~makita/index-j.html)。ファシリテーターは東北大学 男女共同参画推進センター(http://tumug.tohoku.ac.jp)特任助教で、『絵でわかるロボットのしくみ』などの著作でも活躍している瀬戸文美氏。

講演は、槇田氏のトークに対して、瀬戸氏が随時ツッコミを入れるというかたちで進められた。槇田氏は最初、移動機構のあるテレプレゼンスロボットの「Double」を操作して登場。価格は50万円程度なので「頑張ればみんな購入できる」と紹介した。テレプレゼンスロボットには他にも身振り手振りを使ったコミュニケーションが可能なタイプもある。


文部科学省 情報ひろばで行われた


ロボットによる2種類のモノの持ち方:幾何学拘束と力学拘束

佐世保工業高専 電子制御工学科 助教 槇田諭(まきた・さとし)氏

槇田氏はロボットハンドによる物体操作の研究を専門としている。筋電義手をより使いやすくするための研究も行なっており、人と異なる構造を持つロボットに適したハンドの使い方を研究しているという。


槇田氏はロボットハンドの研究を行なっている

また最近は、バレーボールのオーバーハンドトスの解析なども行なっており、トスがうまい人とうまくない人の差を計測・解析したところ、うまい人はボールに与える力の大きさとタイミングがほぼ同じで、下手な人はバラついていることがわかったという。繰り返し同じ動作をするのであれば、ロボットのほうが得意だ。

ここでファシリテーターの瀬戸氏が「では、なぜ家庭用にロボットハンドが普及しないのか」と突っ込んだ。


ファシリテーターを務めた東北大学 男女共同参画推進センター特任助教 瀬戸文美(せと・ふみ)氏

槇田氏は、家庭内にロボットが入ってこない理由は、家庭内の状況が時々刻々変化していることだと答えた。掴むべき物体が、常に全く同じところにあれば、位置制御が得意なロボットは毎回ちゃんと持つことができる。だが位置が違うと、毎回、カメラなどで撮影・画像処理をしてロボットハンドを適切な場所にまで持っていくために計算を行わないといけない。槇田氏は「人の場合は毎回状況が違っていても対応できるところがすごいところだ」と述べて、ロボットと人の能力の違いを強調した。

たとえばモノを持っているときに滑りそうになったら力をコントロールして滑らないようにするが、それをロボットが制御で実現するのは難しい。そこで槇田氏は、複雑な制御の必要がない持ち方を研究している。

物体を扱うためには、その位置を拘束する必要がある。位置を拘束するには力を加えて強引に押さえつけるだけではなく、指や手のひら部分を使ってうまく囲い込むという方法もある。それがロボットに有利な物体の拘束方法の一つではないかというのが槇田氏の研究アプローチだ。


物体操作のためには拘束する必要がある

コップの持ち方一つとっても上から持つのか下から支えるのか、あるいは取っ手を指でつかむのか、どういう操作をしたいかによって、持ち方は異なる。専門用語を使うと「力学拘束と幾何学拘束の両方を評価した物体操作手法の確立」をテーマとして今は研究を行なっているといったんまとめた。


「力学拘束と幾何学拘束の両方を評価した物体操作手法の確立」の研究


離島地区に科学技術に触れる機会を

JST科学技術コミュニケーション推進事業

槇田氏はJSTの科学技術コミュニケーション推進事業の枠組みで、ツシマヤマネコの調査研究にも関わっている。対馬だけでなく長崎市の離島などまで活動の場を広げ、サイエンスカフェなどを行い、遠隔操作ロボットなどを使って、様々な魅力を感じられるようにしたいと考えて活動をしているという。

離島地区では交通網が限定されている。船や飛行機でしか行けない。結果的に外部とのふれあいの機会がない。そして、あまり科学技術に触れる機会もない。槇田氏は物理的障害を技術で克服できないかと考えて活動と研究をしていると語った。



テクノロジーで人と人をつなぐ

人と人をつなぐテクノロジー

槇田氏は「ロボットとは何か」という話を、定義や例を示して紹介した。たとえば、自動販売機や食器洗い機などはロボットなのか。センシングやアクチュエーション、情報処理を伴う現在の我々を取り巻く多くの人工物には、たとえロボットと言われていなくても、様々なロボット技術が使われている。


自動販売機もロボット?

槇田氏は、ロボットと情報、すなわちテクノロジーを使って、人と人とを繋ぎたいという。現実には、人と人とのつながりを妨げる不自由さがある。距離や時間の問題だ。しかし移動手段も発展してきたし、手紙や電話など情報伝達手段も発達した。技術進歩によって伝えられる情報も、どんどんリッチになっている。

人が人と話すには、距離の問題だけではなく時間も重要だ。技術導入によって複数のタスクがパラレルに実行できるようになり、余暇が生まれた。またインターネットの普及によって様々な情報が流通するようになり、話題も多様化した。機械やロボットは物理的移動の障壁を下げ、情報通信技術は仮想的な移動手段と見なせるという。


技術によって時間が生まれたと語る槇田氏

離島では移動手段が限定されている。槇田氏は「物理的移動が限定されているのであれば、より積極的に情報通信技術を積極的に使う必要があり、その価値も出てくる」と述べ、都会で行われるセミナーや講演会を小学生たちに対してインターネット中継で紹介する活動や、ロボット学会のオープンフォーラム「このロボットがすごい!(http://konorobo.main.jp/)」の活動を紹介した。情報通信技術を積極的に使うことで、場所や時空も超えることができると述べた。オープンコンテンツとしているのも、そのためだという。


人とコトをつなぐ技術

なお「このロボットがすごい!」については本誌でも以前紹介している。

移動可能なテレプレゼンスロボットの価値については、テレプレゼンスロボットに対して、あえて背面に回り込んで会話する少女の様子を例として示し、「開発者たちが思いもよらなかった、新たなコミュニケーションのかたちが今後生まれてくるのではないか」と述べた。



テクノロジーは障害を克服し、能力を拡張するためにある

能力を拡張する技術

槇田氏は「なんのためにテクノロジーを使うのか」と会場に問いかけた。たとえばメガネは視力補正のための技術だ。だがレンズを使えばさらに遠くまで見ることができる。裸眼では見えなかった微細な物体を見ることもできる。すなわちテクノロジーは「能力の拡張」だと槇田氏は述べた。将来はARのような技術によって、天然の視覚では決して見ることのできない情報も見ることができるかもしれない。

槇田氏は研究開発をしているなかで好きな言葉として、MITのヒュー・ハー教授の「身体に障害を持つ人なんかいない。テクノロジーに障害があるだけだ」という言葉と、義足のモデルとして知られるエイミー・ムラン氏が義足で身長を変えたことに対して言われた「でもエイミー、それはフェアじゃないわ」という言葉を挙げた。

槇田氏は「これらはテクノロジーが発達することで障害が克服されるだけでなく、それがアドバンテージになりうることを示しており、そこに研究開発する面白さと意味がある」と語った。

ロボットと情報が克服できる障壁として、物理的距離の克服例としては佐世保高専の槇田氏の研究室の様子を360度撮影した画像と、身体能力の拡張としてジョージア工科大学による3本目の腕をつけてドラムを演奏する研究のデモ動画、そしてテレプレゼンス技術を使った地域の課題の克服を示した。

「体験を1にすることはできなくても、0.01、あるいはもうちょっとリッチな体験をさせることは技術でできる」とし、「既にある技術を積極的に使い、できることはどんどん任せてしまおう」と語った。そして最後に「人と人が繋がることがロボットや情報技術を研究開発する意味だ」と槇田氏は講演を締めくくった。


講演の進行に合わせてグラフィックレコーディングで描かれた議事録メモ。似顔絵も。

このあと、会場も交えて質疑応答も行われたが、そちらは割愛する。なお、槇田氏らが主催する「サイエンスアゴラin福岡
このロボットがすごい!(http://konorobo.main.jp/2017/12/08/20180203_konorobo_fukuoka/)」が2月3日、4日に福岡市科学館で行われる。入場は無料で、フォーラムのインターネット中継や、ロボット展示も行われる。

ABOUT THE AUTHOR / 

森山 和道

フリーランスのサイエンスライター。1970年生。愛媛県宇和島市出身。1993年に広島大学理学部地質学科卒業。同年、NHKにディレクターとして入局。教育番組、芸能系生放送番組、ポップな科学番組等の制作に従事する。1997年8月末日退職。フリーライターになる。現在、科学技術分野全般を対象に取材執筆を行う。特に脳科学、ロボティクス、インターフェースデザイン分野。研究者インタビューを得意とする。WEB:http://moriyama.com/ Twitter:https://twitter.com/kmoriyama 著書:ロボットパークは大さわぎ! (学研まんが科学ふしぎクエスト)が好評発売中!