株式会社AiTraxは、2026年3月16日(月)から18日(水)にかけて、佐賀県に所在する名村造船所伊万里事業所の実稼働工場敷地内において、走行する大型部品運搬台車に搭載したWi-Fiアクセスポイントを介した映像のリアルタイム伝送に成功した。
台車走行中に接続先アクセスポイントが順次切り替わる過酷な環境下でも映像の途絶を感知させることなく通信を維持しており、実運用に耐えうる水準であることが確認された。
過酷な制約下での実証
実証は稼働中の工場敷地という制約のもと、台車への機器搭載は実工程の合間を縫った限られた時間内での作業となった。搬送物が数十トンに及ぶ大型造船部品であるため、アクセスポイントやネットワークカメラの設置場所は積載物との接触を避けるべく車両前部の外部内側に限定された。
アンテナ本来の電波放射特性が十分に発揮されない可能性が事前に懸念されていたほか、走行中は積載物の金属材質による電波遮蔽・反射が刻々と変化するという、通信の安定維持が極めて難しい条件下での実証となった。
こうした制約にもかかわらず安定した映像伝送を実現できたのは、同社が3年間の研究開発を通じて蓄積したアンテナ選定とファームウェアパラメーターの最適化に関するノウハウが実環境で機能した成果と位置付けられる。
独自アルゴリズムと3年間の技術的積み上げ
本成果はNEDO SBIR推進プログラム(令和5年度)および国土交通省交通運輸技術開発推進制度(令和6~7年度)における3年間の国家プロジェクトの集大成として得られたものだ。
同社が独自開発した「パスコスト基軸型オンディマンドアルゴリズム」は、電波強度のみで経路を判断する従来製品とは異なり、スループット・遅延・パケットロス率等を統合したパスコストをリアルタイムで算出し、ネットワーク全体として最適な経路を自律的に選択する。総延長約1,200メートルの工場敷地内においてもミリ秒単位での経路切替と安定した映像伝送を実現した。
3年間の技術開発の経緯は以下の通りだ。令和5年度のNEDO SBIR推進プログラムでは5段中継・321Mbpsの多段中継基礎実証を完了し全評価項目で目標を達成。令和6年度は750メートルの中・長距離伝送と指向性・無指向性アンテナを組み合わせたオーバーレイメッシュWi-Fi方式を実証。令和7年度の本実証では、移動体に搭載したアクセスポイントがネットワークノードを兼ねながら走行中に安定通信を維持するという新たなアーキテクチャの実用性を確認した。
関連する知的財産権は同社に帰属しており、日本・米国・欧州・シンガポールで特許取得済み。NTT研究開発部門による外部比較試験においても、既存の競合製品と比較して全6評価項目で優位性が立証されている。本実証には名村情報システムが参画し、今後の台車位置測位やクレーンと地上間の情報連携等への本技術活用に向けた具体的な展開意向が確認された。
ロボティクス・ドローン編隊・エッジコンピューティングへの波及
「移動体がネットワークノードを兼ねながら安定通信を維持する」アーキテクチャは、造船所の台車に留まらず産業界全体への応用が期待される。AGVや自律移動ロボットが現場を移動しながら安定通信を維持できることで、通信断絶が障壁となっていたロボティクスの実用展開が現実のものとなる。
また現場近傍のエッジサーバーへのリアルタイムデータ伝送が途絶えなく維持されることで、AIカメラによる危険検知や設備の予兆保全が現場で完結するエッジコンピューティングの実現を通信基盤として支える。さらにミリ秒単位の経路切替は、複数のドローンが動的に編隊を変化させながら協調して作業を行う編隊運用においても、各機体との通信継続性を確保するための通信基盤として直接適用できる。

AiTraxは今回の実証成果を踏まえ、造船所クレーン(高さ50~80m級)のオペレーター室と地上間の安定通信をはじめ、港湾・建設・土木・社会インフラ分野への横展開、AGV・ドローン編隊との連携システム開発を順次進める方針だ。IEEE国際標準規格に準拠した本技術の海外展開についても、ブラジルを起点としたグローバルサウスへの普及を推進するとしている。

