ロボカップ世界大会2026 現地レポート【前編】ヒューマノイドとフィジカルAIが変えるロボット競技の未来

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ロボカップ世界大会2026 現地レポート【前編】ヒューマノイドとフィジカルAIが変えるロボット競技の未来
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「RoboCup 2026 INCHEON」(ロボカップ2026世界大会・仁川)が、2026年7月2日から7月6日まで韓国・仁川で開催された。世界約40か国・地域から約3,000人が参加した。日本発祥の世界的なロボット競技大会として知られるロボカップだが、高い身体能力を備えた商用ヒューマノイドの登場によって、大会の様相も大きく変わり始めている。長年ロボカップの運営に携わってきたアールティの中川友紀子氏による、最新動向と現地レポートをお届けする(前編)。


RoboCupは、1997年に日本で第1回世界大会が開催され、現在まで続く世界最大級のロボット・AI競技会である。RoboCupは毎年、開催国を変えながら世界各地で開催され、ロボット・AI研究者が一堂に会する国際大会として発展してきた。

この大会を世界的に知らしめたのが、「2050年までに、完全自律型のヒューマノイドロボットチームが、人間のサッカーFIFAワールドカップ優勝チームに勝利する」という壮大な目標だ。

日本の研究者らを中心とするグループによって1995年に構想が始まり、1997年に第1回大会が名古屋で開催された。当時、この目標は一見すると夢物語のようにも聞こえた。しかし、そこにはロボット研究に必要な技術的課題が凝縮されており、世界中の研究者を引き付ける一大エコシステムを形成する原動力となった。

RoboCup2026の集合写真 RoboCup FederationのFacebookより

ロボットがサッカーをするためには、歩行、画像認識、自己位置推定、複数台の協調、戦略判断、リアルタイム制御、機械設計、電源設計、通信、転倒からの復帰など、多様な技術を統合しなければならない。

個々の技術を開発するだけでなく、それらを一つのロボットシステムとして機能させる高度な統合技術も求められる。RoboCupは競技という形式を取りながら、AIとロボット技術全体を押し上げる国際的な研究プラットフォームなのである。

現在は「フィジカルAI」という言葉が広く注目されているが、人工知能という概念が生まれた1950年代から、現実世界を認識し、判断し、行動するロボットは、AI研究が目指す重要な到達点の一つと考えられてきた。

RoboCupはサッカーから始まったが、その後、阪神・淡路大震災を契機に生まれた災害対応分野の「RoboCupRescue」(レスキュー)、家庭内支援を対象とする「RoboCup@Home」(ホーム)、物流や製造現場を対象とする「RoboCupIndustrial」(産業)、教育分野の「RoboCupJunior」(ジュニア)などへと領域を広げ、現在の構成に発展した。

家庭内のタスクで競う「RoboCup@Home」

世界大会だけでなく、各国・地域でも大会や活動が行われており、世界中の大学、研究機関、企業、学生など、年間6,000人を超える参加者が新しい技術を持ち寄って競い合っている。

RoboCupは競技会であると同時に、研究成果を発表する国際シンポジウムも開催している。世界中の研究者が集まり、「次にロボットはどのような課題を解くべきか」を議論する場でもある。

筆者は、1997年に開催された第1回RoboCup世界大会から、約30年にわたってRoboCupを見続けてきた。初期には選手として参加し、車輪型ロボットによるサッカー競技「Small Size League」(以下、SSL)の国際委員として大会運営にも携わった。また、ヒューマノイドリーグの立ち上げにも関わった経験を持つ。

2015年には、RoboCup出身のロボットベンチャーの経営者として、世界大会と併催されたシンポジウムで基調講演を行った。競技者、運営者、そして企業経営者という複数の立場から、RoboCupの発展を見てきたことになる。
ちなみに、現在のAmazon Robotics(旧Kiva Systems)につながる物流ロボット技術の源流の一つに、RoboCupで培われた技術があることは、関係者の間ではよく知られている。

本稿では、RoboCup 2026を「競技」「技術」「産業」という三つの視点からレポートする。

前編では、RoboCupを知らない読者に向けて大会の概要と、ヒューマノイドによるサッカー競技を紹介し、フィジカルAI時代を迎えたRoboCupで何が変わり始めているのかを解説する。

後編では、RoboCupが世界のロボット技術と人材を育ててきた役割を振り返るとともに、研究開発の担い手が大学中心の時代から企業へと広がりつつある変化を考察する。

さらに、韓国・仁川市がRoboCupを活用して進めるロボット産業振興の取り組みを紹介し、日本が今後、世界のロボット開発競争とどのように向き合うべきか、現地で感じたことをまとめたい。

RoboCupはいよいよ「フィジカルAI」の時代へ

これまで筆者は、AIBOの時代、NAOの時代、そして各チームが独自にロボットを開発するヒューマノイドリーグまで、RoboCupの変遷を見続けてきた。
そして今回のRoboCup 2026では、これまでとは明らかに異なる変化を感じた。それは、RoboCupがいよいよ「フィジカルAI」の時代へ入ったということだ。

生成AIの進化によってAIは社会のあらゆる分野へ広がった。しかし、現実世界で働くロボットには、画面の中のAIとは異なる難しさがある。身体を持つAIは、転び、滑り、見失い、遅れ、ときには壊れる。それでも周囲の環境を認識し、人と協調しながら動き続けなければならない。

RoboCup 2026のヒューマノイドサッカーは、その難しさと可能性を最も分かりやすく示していた。

1. RoboCupとは

「2050年までに完全自律型ヒューマノイドロボットチームが、人間のサッカーFIFAワールドカップ優勝チームに勝つ」。この目標には、ロボット研究に必要な課題がほぼすべて含まれている。

歩行、画像認識、自己位置推定、AIによる判断、複数台協調、リアルタイム制御、機械設計、電源設計、通信、転倒からの復帰・・。前述のようにサッカーには、これらすべてを高いレベルで統合しなければならない。そのためRoboCupは競技会であると同時に、ロボティクス研究を推進する世界最大級の研究プラットフォームとして発展してきた。

RoboCupにはどんなリーグがあるのか

「ロボカップ」と聞くと、多くの人はロボットサッカーだけを思い浮かべるかもしれない。しかし実際には、RoboCupは教育から社会実装まで幅広い分野をカバーする総合的なロボット競技会である。

大学生以上が参加するMajorリーグには、次のような競技がある。

  • Soccer (サッカー)
    RoboCupの原点となるリーグ。車輪型ロボットやヒューマノイドなどが完全自律でサッカーを行う。画像認識、AI、歩行、協調行動など、ロボット技術を総合的に競う。

    車輪型ロボットによるサッカー競技「Small Size League」
    毎回、恒例となっている「Middle Size League」のロボット 対 人間 によるエキシビジョンマッチ
    サッカーシミュレーションリーグの様子(日本のチームではない)

    ほかにも、日本の小型リーグのチームがDivB(サイズの小さいコートのDivision)で優勝したので、ここでは写真だけ紹介するが、素晴らしい試合展開であった。

    小型リーグには日本からKIKS(豊田工業高等専門学校)、TRAPS(KIKSのOBチーム)がDivBに参加しており、TRAPSはDivBで優勝した。(写真左がKIKS、バナーが取れかけている右隣がTRAPS)

    写真左がKIKS、バナーが取れかけている右隣がTRAPS
  • Rescue (レスキュー)
    災害現場を想定し、倒壊建物や瓦礫の中で探索や情報収集を行う。現在はクローラー型や四足歩行ロボットなども活躍している。災害現場で人間が入れない場所へロボットを送り込むための技術が問われる。

    クローラーでフィールドを練習するレスキューのチーム
    四足歩行ロボットを使ったのチームの様子(レスキュー)
  • @Home (アット・ホーム)
    家庭内で人を支援するサービスロボットの競技。音声対話、物体認識、移動、把持などを組み合わせ、家庭で求められる総合能力を競う。この競技は特にフィジカルAIとの親和性が高く、活発に研究が行われ、参加チームも増えている。

    洗濯物をたたむタスクに挑む人型ロボット(@Home)
  • Smart Manufacturing League(SML)
    物流や製造現場を想定したリーグ。自律搬送やピッキング、作業計画など、産業用途を意識した競技が行われる。

    工場を模した中でロボットが作業し、ピッキングして別の場所へ運ぶ競技中の様子
  • Junior (ジュニア)
    小中高校生など若い世代を対象とした教育リーグ。サッカー、レスキュー、オンステージなどの競技を通じて、ロボットやAIに触れる入口となっている。ポスターセッションなども大人顔負けの研究発表もしており、ロボットを動かすだけでなく、発表などもできるようになりましょうということで文武両道な育成がなされている。

ジュニア会場のポスターセッションの様子
ジュニア会場での技術交流の様子

つまりRoboCupは、サッカー競技大会だけではなく、教育、人材育成、最先端研究、そして産業応用までを一つにつないだ、世界最大級のロボット・AIコミュニティなのである。

会場レイアウト。東京ビッグサイトくらいの大きさでないと収まらないくらい競技数がある。

2. ヒューマノイドに注目

今回、筆者が最も注目したひとつは、ヒューマノイドによるサッカー競技だった。
RoboCupのヒューマノイドリーグでは、人間に近い形のロボットが「自律的」にサッカーを行う。人間がラジコンのように操作することはない。

ロボットは自分のカメラでボール、ゴール、フィールド、味方ロボット、相手ロボットを認識し、自分がどこにいるかを推定する。そして歩き、走り、止まり、方向を変え、ボールに近づいて蹴る。倒れた場合は自分で起き上がり、試合に復帰する。味方ロボットがレッドカードなどで退場した場合には、そのポジションも自律的にカバーする。

RoboCup 2026のヒューマノイドサッカーでは、ロボットの大きさによってSmall Division、Middle Division、Large Divisionが設けられていた。人間に近いサイズになるほど、歩行やバランス制御にはより高度な技術が求められる。一方で、小型機には小型機ならではの俊敏性や安定性という強みがある。

韓国のチームのロボット、ロボット名はALICE
横から見たALICE

人間のサッカーでは当たり前に見える「歩く」「周囲を見る」「ボールへ向かう」「転んだら起きる」という行為も、ロボットにとっては非常に難しい。しかも試合中は、相手ロボットが予想外の動きをする。ボールは思った方向へ転がらず、照明条件も一定ではない。転倒も起きる。

ヒューマノイドサッカーは、一見するとゆっくりした競技に見えるかもしれない。しかし実際には、フィジカルAIに必要な技術が数多く詰め込まれた、極めて難度の高い競技である。

近年はAutoRef(オートレフェリー)の導入も進んでいる。
オートレフェリーは、フィールド全体を俯瞰するカメラなどの情報を基に、ボールがラインを越えたか、ゴールが成立したか、試合状況がどのように変化したかなどを自動的に判定する仕組みである。さらに、GameControllerと呼ばれる競技管理システムから、キックオフや試合停止、再開などの情報が各ロボットへ送信される。

つまり、RoboCupではロボットだけでなく、競技を支えるソフトウェア基盤も進化している。複数のロボットが共通のルールと情報基盤の上で自律的に行動する姿は、将来のロボット社会の縮図のようにも見える。

Small Divの試合の様子を見ていくと、こちらは、Booster社のBooster K1の初期型、右側の小さいほうは、High Torque Robotics社のPiのチームだ。

Learge Sizeの決勝戦で相手チームが全部ファウルなどでいなくなってしまい、ゴールを決めに来る動画(筆者はちょうどゴール裏にいた)。

公式動画は要チェック

公式が出している11体 vs 11体 のエキシビジョンマッチを見てほしい。実際には、10台(赤チーム)対9台(青チーム)だったが、赤チームはMiddle Div.で優勝したB-Humanのロボットたち。足さばきが非常によくできており、ここはメーカーが出しているロボットの動作は一切使わず、自分たちで作成したロボットモーションを活用している。フィジカルが強く、ぶつかり合っても競り負けずにボールをける姿は圧巻だった。

3. フィジカルAI時代になって見えてきたこと

長年RoboCupを見てきた身として、今回強く感じたのは、フィジカルがある程度機能するようになって初めて見えてきたものがある、ということだった。

AIBOやNAOの時代には、同じ機体を使うことで、各チームのソフトウェアの差が見えるという意義があった。特にNAOを利用したStandard Platform Leagueでは、すべてのチームが同じロボットを使うため、歩行制御、画像認識、自己位置推定、戦略、フォーメーションなど、ソフトウェアやAIの違いが際立つ。現在でもNAOは出場可能であり、同じハードウェアで競うからこそ、ソフトウェアの実力差が見えるのである。

小型のヒューマノイド「NAO」を使ったチームのパドックにて

一方で、かつての人型リーグのように各チームが独自にハードウェアを開発する競技では、別の現実が見えてくる。こちらも現在でも出場可能だ。

それは、ソフトウェアやAIだけではフィジカルを超えられない、ということである。

どれほど優れたAIを搭載していても、機体が安定して歩けなければボールへたどり着けない。アクチュエータの性能が足りなければ素早く蹴れない。重心設計が悪ければ倒れやすい。剛性が不足すれば動作が不安定になる。電源や熱設計が十分でなければ、試合を通して動き続けることができない。

今回の大会では、Divisionごとにサイズの上限はあるものの、下限が明確ではないため、小型で俊敏なロボットが有利になる場面も見られた。大きいロボットの方が人間に近いとはいえ、競技として勝つには、小さく軽く、俊敏に動ける設計が有利になることがある。

今回は、ハードウェアを自作するチームは、ハードウェアの開発に手いっぱいになり、ソフトウェアやAI、戦略まで十分に手が回らず、上位を狙い切れていないケースも見受けられた。

これは非常にRoboCupらしい現象である。

自作ロボットのチームのパドックにて

そして、ある意味、ルールが技術の方向性を決める。参加者はそのルールの中で最適解を探す。競技としては合理的でも、「2050年に人間のサッカー世界王者に勝つ」という長期目標に照らしたとき、その方向が本当に望ましいのかという問いも生まれる。

RoboCup 2026のヒューマノイドサッカーは、そのことを非常に分かりやすく示していた。
フィジカルAIとは、AIが身体を持つという意味だけではなく、身体そのものが、AIの能力を決めるという側面もあり、そういう試合を見ることができる時代がやってきたことを実感した。
2050年まであと約25年でもあり、やっとこの時代まできて、ここからガンガン加速していくのだろうと思うとわくわくした大会でもあった。
(後編「競技が育てる技術・人材・産業 フィジカルAI時代の日本への提言」につづく : 7月15日(水)に公開予定)


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本記事では、RoboCup 2026の見どころや、ヒューマノイドとフィジカルAIがもたらした大きな変化について紹介しました。ロボカップの最新情報、ロボット競技へのヒューマノイドやフィジカルAI活用について、さらに詳しく知りたい方に向けて、ロボスタではロボカップ日本委員会理事長であり、東京情報デザイン専門職大学教授の岡田浩之氏を講師に迎えたオンラインセミナーを開催します。

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《中川友紀子(アールティ)》

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