2026年10月20日、ラウンドテーブル「フィジカルAI最前線 社会実装の当事者が語る、日本の勝ち筋」がロボットショールーム「MIRAI ROBO SQUARE(ミライロボスクエア)」で開催された。
登壇したのは、株式会社Preferred Robotics代表取締役CEOの礒部達氏、ugo株式会社代表取締役CEOの松井健氏、GROOVE X株式会社代表取締役社長の林要氏である。
後半のクロストークでは、ファーストライト・キャピタル株式会社 マネージング・パートナーの頼嘉満氏がモデレーターを務めた。
本記事では、セッションやクロストーク、質疑応答の内容をダイジェスト形式でご紹介する。
Preferred Robotics 礒部氏:家庭で磨いた技術を工場に持ち込んだ
Preferred Roboticsは、2023年に家庭向けの搬送ロボット「カチャカ」を発売し、2024年には産業向けの「カチャカPro」を投入した。2025年には、100kgまで運べる「カチャカEvo」を開発している。


カチャカが棚を運ぶ形になった経緯について、礒部氏はこう説明した。トヨタ自動車で生活支援ロボットHSRを手がけた同氏は、腕を付けた片付けロボットでは当時の技術と量産規模のもとで価格が上がると考えた。家が散らかるのは、しまう場所が遠いからでもある。そこで腕をなくし、棚そのものを運ぶ形にした。
家庭に売る難しさは、環境の多様さに加えて競合の相手にあったという。ライバルになるのは他のロボットではなく、旅行や新型スマートフォン、子どもの留学費用である。
法人向けでは、歯科医院で導入が先に進んだ。自分で事業を営み、人手不足を見越して技術で手を打つ経営者が多いためだという。工場にも、土地あたりの生産性を高めるために通路が狭い現場が多く、家庭で磨いた狭所の走行技術が役立った。Wi-Fiの設定にLinuxへのログインが要る法人向けロボットもある中で、カチャカはスマートフォンだけで設定できる。家庭向けと部品を共通化することで、カチャカProは100万円以下で導入できる価格を実現した。
今後の課題として礒部氏は、初期設定を熟練のエンジニアが時間をかけて行っている現状を挙げた。現在は、経済産業省とNEDOによる生成AI開発の支援事業「GENIAC」の支援を受け、Preferred Networksと共同で移動ロボット向けの基盤モデルを開発している。出荷場か検査場か、立ち入ってよい場所かどうかを、ロボット自身が判断できるようにする狙いである。

ugo 松井氏:フィジカルAIの学習サイクルとQoπ
ugoは、警備ロボット「ugo Pro」と点検ロボット「ugo mini」を展開し、ugo miniの出荷台数は100台を超えた。売上高は3年連続で約2倍に伸びている。組み立てのラインを社内に持ち、品質や組み立てやすさを自社のエンジニアが調整できる体制だという。
点検ロボットの需要は、移動の負担から生まれている。インフラ設備は遠方にあることが多く、点検員は離島なら半日から1日をかけて現場に通う。ロボットを常駐させて自動で点検すれば、移動時間が省ける。センサーによる記録は、人の感覚に頼る点検より品質が一定になるという。

2026年9月16日には、国産のセミヒューマノイド「ugo Nova」を発表した。腕、首、腰を合わせて22自由度を持ち、双腕で最大10kgを持てる。バッテリー駆動は約6時間で、松井氏は二足歩行のヒューマノイドが約2時間にとどまることと比べた。
松井氏が課題に挙げたのは、データ収集、モデル開発、現場運用、フィードバックという学習サイクルを、自社単独で回す負担である。ugoは、データ収集キット、収集代行の「ugo Data Factory」、基盤モデル開発を支援する「ugo Model Lab」、ugo Novaを組み合わせた「ugo Physical AI Fabric」で、この循環を支える。

あわせて松井氏は、単純な自動化はゴールではないと述べ、「Qoπ(Quality of Physical AI)」という考え方を提案した。結果の質、物や環境の扱いの質、人との関わり方の質、次の工程への引き渡しの質を、データの集め方、モデルの事後学習、現場への適用の各段階で作り込み、測るという内容である。

GROOVE X 林氏:タスク遂行型と並ぶ関係形成型を提案
GROOVE Xの林氏は、フィジカルAIを2種類に分けた。人の代わりに仕事をする「タスク遂行型」と、人のそばにいて信頼される「関係形成型」である。
同社が2026年10月に実施した一般生活者調査(全国20~69歳、n=1,500)では、家事などのタスク遂行を期待する人が43.7%、家族のような関係を感じる可能性があるとした人が33.1%だった。

※ただし2項目は別の設問であり、両者の優劣を示す数字ではないと資料に注記されている。
同社が「スロー・リレーションロボット」と位置づけるLOVOTでは、魅力の変化が調査で示された(オーナー調査、2026年10月2~8日、n=2,001)。「見た目のかわいさ」は、お迎え時の56.5%からお迎え後の25.6%に下がった。一方、「自分を覚えて寄ってきてくれる」は27.2%から58.2%に、「目を見ると気持ちが通じる」は26.9%から40.2%に上がった。林氏は、見た目が出会いをつくり、反応が関係を育てると説明した。

※お迎え時の数値は現在のオーナーによる回想であり、追跡調査ではない。

LOVOTは言葉を話さない。言葉は評価や評判も運ぶため、話すロボットが多くの人と話すと、自分のことが誰かに伝わるという不安を生むと林氏は考える。チャットボットは自分としか話さないので、その不安がない。非言語の表現に開発資源を集中した理由である。
林氏は、日本がロボットを友達として描く作品を多く持つ文化であることにも触れ、今のうちに関係形成型のフィジカルAI領域を築いていくことが重要だと語った。
頼氏:競争の軸が「使われ続けるか」に移ると指摘
クロストークの冒頭で頼氏は、ヒューマノイドの現在地を資本、量産・価格、作業性能の3軸で示した。VC(ベンチャーキャピタル)の投資額は2026年1~9月で94億ドルに達し、投資先は中国が63%、米国が12%を占める。日本は数字に表れない。世界出荷に占める中国製の比率は、2026年上半期で97%である。

作業性能については、どの国も100%に達していないと頼氏は述べた。中国ではヒューマノイドロボットが店頭や24時間無人の薬局で使われ始めている。そのうえで頼氏は、日本が勝つための6つの仮説を示した。現場、一点集中、導入後10年、家庭、IP(キャラクターなどの知的財産)、部品での標準の6つである。鍵となるのは「日本の勝ち筋は量産ではなく、『使われ続ける』ことにある」だと述べた。

日本らしさが論点になったクロストーク
特に印象的だったのは、松井氏が語った日本人の所作がフィジカルAIの価値になるという意見だ。例えば、配膳で皿を丁寧に置く動きと雑に置く動きは、自動化の結果が同じでも受け取る側の感じ方が異なる。また、丁寧な動きのデータから学習したモデルも、品質が変わる。
最後の質疑応答では、ロボット普及の人の心理的なハードルや環境の壁をどう越えるかをロボスタ編集部から質問した。
松井氏は、人の流れが時間帯で変わる現場では、状況を理解して動きを監督するモデルが必要なのではないかと答えた。礒部氏は、数千の現場に入れてきた今も苦労する現場があり、設定の自動化が普及の鍵になると述べた。
一方で林氏は、LOVOTが空港の検査場を通過して飛行機にも同乗できるようになっていることを事例として挙げ、ハードルをむしろ超え始めている段階であることを説明した。

まとめ
3社は共通して、ロボットを量産して売って終わりにせず、現場や家庭で使われ続ける仕組みを整える方向性を示していた。
日本ならではのフィジカルAIへの向き合い方や、社会実装の進め方が今後重要なテーマになるだろう。









