SoftBank World 2016 では、IBM Watsonハッカソンのチャンピオン大会とも呼べる「SoftBank World Challenge 2016」の決勝戦が18時から開催されました。
今まで3回のIBM Watsonハッカソンが開催されましたが、決勝進出した13チームが再び選出されて、7月22日の14時から行われた予選にのぞみました。つまりこれに勝てばチャンピンの中のチャンピオン、グランドチャンピオン(ロボスタ編集部で勝手につけた呼び名です)に輝くのです。
予選の結果、決勝戦に進出したのは下記の3チーム。
決勝戦は同日の18時から開催されました。
・インキュビット
・弁護士ドットコム
・ahacraft(アハクラフト)
各チームそれぞれ発表時間(デモ)が5分、質疑応答が2分の、合計7分の時間が与えられ、発表にのぞみました。
それぞれの作品は、ビデオ動画の内容解析、法律相談の内容分析と最適な回答、メール文章からストレスを診断、と、いずれも従来のコンピュータでは難しいとされていた分野に切り込み、とても見応えのある内容となっていました。では、その3作品を見てみましょう。
インキュビット
インキュビット社は6人のエンジニアで構成されるスタートアップ企業で、自然言語処理やディープラーニングの技術を用いて開発を行うことも可能です。
動画広告に関するあるアンケート調査によると10人中6人がYouTUBEの動画広告を常にスキップすると回答しており、10人中4人が動画広告を配信しているブランドに対して悪い印象を持った経験があると答えているそうです。しかも、配信された広告が自分にあっていると感じた人は10人中1.5人に留まっているとのこと。
それは視聴者の興味と無関係の広告を配信していることが理由のひとつとし、スキューバダイビングの動画を観ている人には沖縄旅行のバナーを配信し、猫の動画にはペット関連の広告を、料理の動画には料理に関する広告を表示することで、不満が解消するとしています。
「Smart Video Ad」は、動画の内容とメタデータを解析することで、適切な広告を表示するシステムです。
使用している技術としてはIBM Watsonの3つのAPI「音声認識」「自然言語分類」「画像認識」に加えて、自社の「自然言語処理」と「ディープラーニング」を掛け合わせ、動画から4つのメタデータを抽出します。ひとつは動画に写っている物体認識、音声解析を使って話している言葉や会話から内容を解析、テキスト抽出、どのカテゴリーに該当するかを分類し、どの広告が最適化を選択します。
デモは築地市場をテレビのキャスターがレポート、動画中の物体をディープラーニングで解析するほか、音声解説や会話に出てくる「お寿司」というキーワードを認識し、更に全体的にはこの動画のカテゴリーは「グルメ」であることを解析しています。
これらよって、このシーンではマグロの広告バナーが表示されます。シーンが変われば、解析結果も異なり、表示される広告も変わります。
動画メタデータの解析、広告運用ツール、ユーザのオーディエンスデータ等を活用し、機械学習を通じてどのような広告表示が最適か、どのタイミングで表示するのが最適かを判断していて、改善も自動で行われいくと言います。
これによって、動画メディアの広告収益の最大化を目指します。
売上げの目論見としては、初期導入費用で30万円、月額料金として15万円を予定し、これで試算して初年度100社で年間2.1億円の売上を想定しています。
今後の成長性としては、アドテク市場は毎年10%程度の成長率、2020年には3800億円の規模となる見込みです。
発表終了後に審査員から質問がありました。
「最近流行している6秒動画など、ユーザーが気軽にアップしている動画に。このシステムはとても有効かと思うが、どのように考えているか」との質問に対して、インキュビットの回答は「6秒動画等の場合も、低コストで最適な広告が自動的に判断できるこのシステムはメリットだと思うし、長い動画でも短編動画であってもシーンごとに変わるテーマに合わせて適切なパナーに切り替わっていく点は有効ではないかと考えていますろとのことでした。
弁護士ドットコム
「皆さんは弁護士に相談したことがあるでしょうか?」このひと言から発表ははじまりました。
離婚、浮気、交通事故に巻き込まれた等、様々な場面で弁護士に相談したいことは訪れます。
ある調査によると1年間で法律相談が必要なトラブルに遭遇した人は約1060万人、しかし実際に弁護士に相談した人はたったの2割しかいません。
約8割、800万人強の人が弁護士に頼らず、慣れない法律に苦労しています。
私達、弁護士ドットコムはそういった人たちへのサービスを提供していて、「みんなの法律相談」もそのひとつです。
これはYahoo!知恵袋のようなQ&Aサービスで、法律の悩み相談に弁護士が回答してくれるのが特徴のひとつです。
しかし、このQ&Aサービスにも課題があります。ある程度、「法律の知識がないと正しく質問するのが難しい」ということです。
弁護士に対してどのように質問していいのか解らない、ということで質問が非常に長文になるケースが多いため、弁護士も全てを見ないでポイントだけ見るようになります。書く方にも読む方にもストレスになります。そこで知識レベルのギャップを埋めることが重要になります。
一般に「不倫 慰謝料」と検索してみると、10万件以上がヒットしてしまいます。この中から自分の状況と似たようなものを発見したり、自分で絞り込もうとしても、法律に詳しくない人にはキーワードが解りません。
そこでWatsonを使ったシステムを考えました。
例えば、「夫が不倫した」と言う場合、大量の検索結果を返すのではなく、「慰謝料の相場」や「請求方法」といったガイドコンテンツを表示する表示するようにします。
このようにポイントを抑えた上で、更に具体的な質問で絞り込むと自分の状況に近いケースでは、慰謝料は200~300万円が相場だな、などと解ってきます。
また、交通事故の過失割合など、状況に関する質問に対して回答することで、パターンがあてはまったケースの過失割合が出るといったサービスも嬉しいと思います。これをWatsonで実現できます。
これらのシステムで使用しているWatsonのAPIは3つ。R&R(検索&ランク付け)、NLC(自然言語分類)、Dialog(対話)です。R&Rではベストアンサー・弁護士与同意などから回答の質をスコアリング、NLCは既存の質問を教師データにカテゴリ分類を作成して、確信度が高ければ更に深いカテゴリーを所得、Dialogは過失割合や財産分与など判定方法が定まっている場合には、対話的に情報を取得、判定します。
みんなの法律相談は累計で150万件を超え、月間23,000件ずつ増えています。
昨日「コグニティブ法務案件」をプレスリリースしました。企業内の法律相談に対して、Watsonを使って膨大な判例・法令データから最適な回答を自動で返したり、各企業ごとの方針や業界ごとに適した法的なアドバイスも回答できます。
ahacraft(アハクラフト)
これから15年でもっとも人類を苦しめることは「うつ」。2030年にはうつ病が疾病負荷で第一位になるという予測がWHOで出されています。
ターゲットは「うつ予備軍」、障害で1度はうつのなる人は6%で、仕事で強いストレスがある人は46%、うつ予備軍は3,000万人に登ります。
日本でもストレス診断テストが導入されていますが、これには課題が3つあります。
昇進への影響を感じると嘘の回答ができること、テストは1年に1度きりである、社員も会社もテストの実施に労力がかかるという3つです。
それに対して私達の考えたのが、会社のメールサーバーを読み込むだけでストレス状況を可視化できるシステムです。
デモをご覧ください。メール感情分析です。Watsonがメールの本文を読んで感情分析し、ストレス度が非常に高いことが解りました。
すべての社員についてメールを解析すれば、社員ごとにストレス状況が把握できます。
部署ごとにどれくらいストレスがたまっているかもが、わかるかもしれません。診断の後、状況をグラフ化、うつになりやすいストレスなのか、本人へ通知してまずは気付いてもらうことを重視しています。「ストレス状況の可視化」と「該当者に注意喚起のメッセージ送信」です。
優勝は弁護士ドットコム
3つの作品ともに、IBM Watsonの特徴を活かし、今までにないシステムを提案したと思います。しかし、第1位に輝くのは1チーム。
栄冠は弁護士ドットコムが勝ちとり、今年の10月に米国で行われるワールド・オブ・ワトソンツアーに招待されることになりました。
IBM Watsonハッカソンは、コグニティブシステムWatsonを使った様々なアイディアが見られる絶好の機会です。
新しい発想で社会が変わろうとしている今、ぜひ、これから先も続けていって欲しいイベントだと感じています。
出場者のみなさん、お疲れ様でした。
【神崎洋治のロボットの衝撃 vol.28】IBM Watsonハッカソンがビジネスのビッグチャンスに繋がる理由 ~ソフトバンクと日本IBMに聞く~
https://robotstart.info/2016/07/05/kozaki_shogeki-no28.html
【神崎洋治のロボットの衝撃 vol.11】 IBM Watsonハッカソン〜「心臓MRI自動診断」や「コンシェルジュ」「VR連携」でAIを活用
https://robotstart.info/2016/03/15/kozaki_shogeki-11.html