株式会社グッドツリー(http://www.goodtree.jp/)は、複数の介護施設向けアプリをセットにした「ケア樹あそぶ for Pepper」を7月1日に発表し、提供を開始している。
このシステムはさまざまな介護施設への導入を想定し、複数のアプリを搭載していることが特徴だが、中でも特に注目したいのは「ミッケルアート」という絵をつかった認知症プログラムだ。
昔の写真や絵を見たり、音楽を一緒に聴いて、スタッフと高齢者が会話を弾ませるコミュニケーション方法は「回想法」と呼ばれ、認知症の学会でも高く評価されている。「ケア樹あそぶ for Pepper」では、職員の代わりにPepperがミッケルアートを使って会話をリードすることで、職員負担を軽減させながら、同時に質の高い認知症ケアが提供できる、としている。
周辺症状緩和へのエビデンス
2000種類以上ある絵の中から、Pepperが利用者の好みに合わせてミッケルアートをテレビ画面に表示させることで、高齢者との自然な会話を引き出すことができる。
開発したのは静岡大学発ベンチャー企業の株式会社スプレーアートイグジン。代表の橋口論氏は日本認知症予防学会でも委員会のリーダーを務めるなど学会でも注目されている。「Pepper君がミッケルアートを使うことで、データ収集・解析など、ロボットしかできないエビデンスに基づく認知症ケアができると期待しています。」と話す。
ミッケルアートの表示方法は2通り用意されていて、高齢者との1対1ではPepperの胸のタブレットに表示し、レクのように多人数の高齢者が対象の場合は外部の大型ディスプレイに表示する方法も選択できる。また、音楽回想法では仙台にある音楽療法の専門家と連携して開発に当たっている。
既に10施設以上の高齢者施設で20回以上の実証実験を実施していて、施設の種類も特養、老健、通所介護、短期入所、グループホームなどで効果の査定を行っているため、さまざまな施設に対応できるとしている。
グッドツリー社は2011年から介護ソフト「ケア樹」をリリースし、介護施設のスケジュールを管理したり、業務の漏れやミスの防止、高齢者との会話やコミュニケーションなどのアプリを提供し、700施設以上の導入実績がある。今回はこのシステムの一部をPepperと組み合わせた。
介護施設向けのロボットは従来、レクリエーションの時間に司会進行役になったり、ゲームや体操を行うアプリが主だった。
同社によると「介護施設にロボットを導入してもらうのだから、付加価値として、エビデンスのある認知症予防を通じて、施設の差別化、人件費のコスト削減に寄与することが、費用対効果として重要」と考えたと言う。
日本医療研究開発機構のロボット介護機器開発・導入促進事業にも採択
同社は2016年5月の国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)のロボット介護機器開発・導入促進事業にも採択されている。2016 年 8 月からの実施では、世界保健機関(WHO)の基準でアプリの効果を測り、その結果をアプリ改善につなげ、介護現場でより高い支援効果が得られる製品へと成長させる予定だ。
この促進事業には、同社の「ケア樹 あそぶ」のほか、フューブライトコミュニケーションズの体操レクリエーションのアプリや、ソフトバンクロボティクスのJOYSOUND健康王国アプリ、富士ソフトのPALROを使ったシステムなども採択され、実証実験のための導入促進の対象となっている。
コミュニケーションロボットのリスト(1000台ロボット実証実験に採択:AMED(日本医療研究開発機構))
http://www.amed.go.jp/koubo/020120160519_list.html
ケア樹あそぶ for Pepper
http://www.caretree.jp/caretree_pepper.html
京浜急行や小田急電鉄がPepperを活用 観光や介護の課題にロボットで挑むフューブライト
https://robotstart.info/2016/04/12/kozaki_shogeki-no15.html
福祉施設で活躍するPALROと、ロボット相撲大会の魅力と軌跡を富士ソフトに聞く
https://robotstart.info/2016/06/07/kozaki_shogeki-no24.html
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神崎 洋治神崎洋治(こうざきようじ) TRISEC International,Inc.代表 「Pepperの衝撃! パーソナルロボットが変える社会とビジネス」(日経BP社)や「人工知能がよ~くわかる本」(秀和システム)の著者。 デジタルカメラ、ロボット、AI、インターネット、セキュリティなどに詳しいテクニカルライター兼コンサルタント。教員免許所有。PC周辺機器メーカーで商品企画、広告、販促、イベント等の責任者を担当。インターネット黎明期に独立してシリコンバレーに渡米。アスキー特派員として海外のベンチャー企業や新製品、各種イベントを取材。日経パソコンや日経ベストPC、月刊アスキー等で連載を執筆したほか、新聞等にも数多く寄稿。IT関連の著書多数(アマゾンの著者ページ)。