ロボットのユーザー体験を最大化する方法とは? 埼玉西武ライオンズ導入「モノマネPepper」開発のアイネスに学ぶ

「正解は、フェンス近くでセンターフライをキャッチする斉藤彰吾選手です!」
こんな一言と共に正解を読み上げるPepperに、集まったファンが笑顔になる。

これは「Pepperの”このモノマネだーれだ?”(以下”モノマネPepper”)」というアプリを、Pepperがライオンズファンの前で披露している時の様子だ。



先月、埼玉西武ライオンズの本拠地「メットライフドーム」に隣接するファン向けのショップ「ライオンズストア」に、モノマネクイズをするPepperが導入された。

このモノマネPepperは、Pepperが埼玉西武ライオンズの選手たちのモノマネクイズを出題するという単純明快なアプリだが、ユーザー体験がとても良く考えられているのが印象的だった。

「それ本当にロボットでやる必要があるの?」というアプリが巷に溢れる中、効果的なロボットの活用法として、とても良い事例なのでご紹介したい。



「モノマネPepper」はどんなアプリ?

モノマネPepperは、ライオンズストアの目の前にいるPepperに導入されている。ここは、特に休日の試合前などとても混み合う場所で、会計待ちのお客の列ができる場所だ。

そこでPepperは集まったファンに向けて、埼玉西武ライオンズの選手たちのモノマネクイズを行う。

Pepperが選手のモノマネを行い、その回答の選択肢が胸のタブレットに表示される。ファンの方々はスマホから専用ページにアクセスし回答を行うことも可能だ。


Pepperの隣にはQRコードが設置されている。これを読み取ることで専用の回答ページにアクセスすることができる。

Pepperのクイズ系アプリには、胸のタブレットもしくは音声で回答できるものが多い。しかしそれでは1名しか回答することができず、多くの方がクイズに参加することが難しい。そこで考えられたのがWEBページからの回答という方法だ。

スマホの回答画面。選択肢が表示される。

Pepperの動きとWEBページは連動しており、Pepperが選択肢を表示すると同時にWEBページの方にも選択肢が表示される。スマホ上から各々が回答することが可能だ。



「モノマネPepper」は似ていない…?

そんなモノマネPepperだが、「モノマネはそれほど似ているわけではない」と話すのは埼玉西武ライオンズの事業部長を務める井上純一氏。井上氏は主に球場への集客施策を担っている。

編集部

Pepperのモノマネが似ているわけではないとおっしゃってましたが、どうしてでしょうか?

井上氏

株式会社西武ライオンズ 事業部長 井上純一氏

動きがわかりやすい選手については、モノマネを見た瞬間にわかります。アンダースローの牧田投手やメヒア選手のようなポーズが浸透している選手ですね。

しかし、全ての選手に特徴があるわけではないので、そこは「ライオンズファンの方々ならわかる」といったものになっています。似ていることよりも、Pepperのモノマネを見て楽しんでもらうということを目指しました。

編集部

今回のアプリを導入することで、どのような効果を期待しましたか?

井上氏

ライオンズのファンの方、これからファンになる方々にライオンズに親しみを持ってもらいたいと思って導入しました。

Pepperのモノマネを通じて「こういう選手がいたんだ」っていうことを知ってもらいたいですし、それを元に試合観戦を楽しんでもらいたいです。


そこで「本当にこのフォームしているんだ」「この投手ってやっぱりこういう投げ方なんだ」という、興味を持ってもらえるきっかけを作りたいと思いました。

特に子供達ってモノマネが好きじゃないですか。ロボットを通じてモノマネをやることで記憶として残して頂いて、その後野球をするときに選手たちのモノマネをしてもらったり。

Pepperをどう活用しようか、ということは昨年5月に導入して以降模索してきましたが、今回は特に球団や選手への親しみを持ってもらうということを意識しています。



それでは、ここで「モノマネPepper」の流れを紹介していく。


Pepperのモノマネだ〜れだ? のクイズがスタート

近くに人が通ると、Pepperが「モノマネクイズをやりませんか?」と声をかける。


体全体を動かしてモノマネを開始

タブレットから開始ボタンを押すと、モノマネがスタート。全3問のクイズが始まる。


ちらっと横を見てアピールするPepper

最後に両手をあげてポーズを取ります

このようなモノマネが複数パターン用意されているため、何度来ても飽きずにPepperのモノマネクイズを楽しむことができる。


さて、この3択の中で正解は誰でしょうか?

最後に表示される3択の中から、ファンの方々が回答していく。上述の通り、スマホから回答可能だ。


シンキングタイムのあと正解発表! 正解は金子選手でした。

このように体全体を使って、走るモノマネや投げるモノマネなどをするPepper。Pepperが正解を喋り出すと、ファンの方々が笑顔になるのがわかる。特に子供達がPepperの目の前に立って、座って、Pepperのモノマネクイズを楽しんでいる様子が印象的だった。



そして、驚くべきことに、一切当てることができなかった筆者に対して、次々と回答していく子供たち。子供たちに「Pepper、似てる?」と聞くと「似てない」と答え、「じゃあなんで当たるの?」と尋ねると「この選手は走るのが得意だから」と答えてくれた。つまり、井上氏の説明の通り、ライオンズの選手たちの情報を少しでも知っているライオンズファンであれば、Pepperのモノマネがそれほど似ていなくても正解することができるのだ。

家族連れの方々も皆楽しそうにクイズで遊んでいった。



「モノマネPepper」にみる、ユーザー体験の重要性

今回のアプリを作ったのは、SIerとして50年以上の歴史を持つ株式会社アイネス。社員数は会社単体で約1,400名でその大半がエンジニア。技術力にも定評がある会社だ。

今回のロボアプリは、昨年末に開催された西武グループのアイディアソンの中で生まれたものだ。ICT活用の取り組みを進める同グループで、「店舗での待ち時間に使えるアイディア」を考えたところ、生まれたのが今回のアプリ。アイディアをPepperに実装する際に、同グループのメンバーにアイネスの開発チームがアドバイスをしていく形で加わった。開発もそのままアイネスが行うことになる。

開発期間はなんと2週間。その期間内にモノマネのモーション作成、シナリオの準備・実装、クイズ回答のWEBサイトの構築、複数のクイズパターンのテストなどを行なった。開発チームはモーションエンジニア以外に2名のみ。社内でも若いチームだった。


開発を担当した、株式会社アイネス アプリケーション本部 社会基盤ビジネス第三部 畑野亮太氏(左)と府川鉄平氏(右)

西武ライオンズで、Pepperの導入を担当した岡宏俊氏はこう話す。

岡氏

株式会社西武ライオンズ 事業部プロモーション担当 岡宏俊氏

アイネスさんは、丁寧でかつ開発スピードが早い。開発期間も2週間という短納期。遅い時間にご連絡してしまうこともありましたが、急ピッチで対応して頂きました。



アイネスでは、驚くべきことに、ほとんどのロボットアプリをフルスクラッチで開発しているという。今回のような大手企業への導入だけでなく、自治体や地方銀行などへのPepper導入事例も豊富だ。

今回の展示において、Pepperはセーフティモードを切ることができなかったため、手の動きなどの可動範囲は限定的だった。だからこそ、Pepperを選手に似せることはそもそも不可能なのである。そこを逆手にとって生まれたのが、このモノマネが似ていないPepperだった。似ていないけど、なんか面白い。Pepperが正解を読み上げた時に思わず笑顔になる。



「それ本当にロボットでやる必要があるの?」 ついそんなことを言いたくなるようなロボットアプリが少なからず巷に存在している。おそらくコミュニケーションロボットに関わっている人であれば、一度はそのようなアプリを見たことがあるはずだ。

しかし、このモノマネPepperは「ロボットならでは」というポイントをきちんと考えて作られている。コミュニケーションロボットとタブレットの違いが何かというと、究極的には「身体性があり存在感があること」、「私たち人間が近しい存在として認識すること」だと思う。

その意味では、Pepperが体全体を使ってモノマネをするということ、そのPepperがまるでライオンズのファンのように振る舞うことは、ライオンズファンにとってのロボットの体験を最大化していると言えるだろう。

今回ライオンズ、そしてアイネスから学んだ「ユーザー体験を最大化する方法」とは、結局のところ「ユーザーがこのロボットを体験してどう感じるか?」を考え抜くことだ。これは実は、ロボットに関わる多くの会社が考えているつもりで考えきれていないことでもある。

自分と同じライオンズファンのPepperが、ライオンズファンにしかわからないモノマネクイズをしている。それだけで、ファンは親しみを持って受け入れているのだ。



モノマネPepperの導入は、数日間のみの実証実験としての導入だった。今後ユーザーからのフィードバックを基にさらに良いアプリとして球場に帰ってくることだろう。

そして、アイネスが作る次のアプリも、きっとロボットならではの工夫に満ちたアプリになるに違いない。

なお、アイネスが運営するオウンドメディア「たぷるとぽちっと」では、同社のロボットアプリの導入事例なども掲載されている。こちらも併せてご覧頂きたい。

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ロボスタ編集部
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