RSJ2017オープンフォーラム「2020年World Robot Summitは何を競うのか?」レポート


第35回日本ロボット学会学術講演会(RSJ2017)が東洋大学にて開催された。初日の9月11日には「2020年World Robot Summitは何を競うのか?」と題したオープンフォーラムが行われた。主催はWorld Robot Summit実行委員会。

「World Robot Summit(http://worldrobotsummit.org)」は、2020年オリンピックの年に合わせて開催される。ロボットの競演会。競技会「World Robot Challenge」と、最新ロボット技術の展示会「World Robot Expo」の二つに分かれている。主催は経済産業省と新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)。

WRSのメッセージは「Robotics for Happines」。競技はものづくり、サービス、インフラ・災害対応、ジュニアの4つに分かれている。

スケジュールは、2018年10月17日(水)〜21日(日)にプレ大会として一回目の大会を東京ビッグサイトで実施したあと(Japan Robot Week 2018と同時開催)、2020年には、8月に「福島ロボットテストフィールド」でインフラ・災害カテゴリの競技が行われ、その後、10月上旬に、愛知県にて建設中の愛知県国際展示場で他の競技が行われる予定になっている。



人とロボットの協働をテーマとするサービスカテゴリー

WRSサービス競技委員会 委員長の玉川大学工学部情報通信工学科教授長 岡田浩之氏

今回のオープンフォーラムでは3つの競技カテゴリーについて、それぞれの委員長から解説が行われた。

まずサービスカテゴリーは、大きく分けて二つのチャレンジに分かれている。「パートナーロボット・チャレンジ」と、「フューチャーコンビニエンスストア・チャレンジ」だ。いずれも人間とロボットとが近い距離で協働することをテーマとしている。


「パートナーロボット・チャレンジ」と「フューチャーコンビニエンスストア・チャレンジ」

パートナーロボットチャレンジは、家庭における仕事の協働を競う。ポイントは、人だけ、ロボットだけでは満点がとれないこと。家にあるインフラ、人、そしてロボットの3者が協働するような競技設計になっているという。


パートナーロボットチャレンジ

種目はSkill ChallengeとOpen Demonstrationの二つに分かれている。「あれをとってきて」というとロボットがとってきたり、「部屋を片付けて」といったら一定時間内に片付けてくれるような競技と、未来のロボットと人々の生活の姿をデモで見せて採点形式で評価する競技だ。前提は「Robotics for Happinessを実現すること」。ルールは年内を目処に策定中だ。

片付け競技では、ロボットは完全自律で、ゴミと、そうでないものを判断して、正しい片付けをする必要がある。単なる一般物体認識だけではなく、「どう扱えばいいのか」をロボットに把握させる必要がある。


ロボットに部屋を片付けさせる

Open Demonstrationは、バリアフリーな未来のロボットと人々の生活の姿を示す。得点は二つの競技の得点の合計点となる。


オープンデモンストレーション競技のイメージ

今年中には2018年版のルールを確定し、2018年1月から参加者を募集する。書類審査を経て、2月には参加チームが発表される。参加決定チームには、標準機として決定しているトヨタ「HSR」が貸し出される。なお、HSRにはある程度の独自オプションを付けることを許可するかたちで検討中とのことだ。

そして講習会やトライアルキャンプを何回か実施したあと、10月にビッグサイトで競技大会実施となる。2020年の本大会で何をするかは、2018年の結果を見て決められる。


参加チームにはトヨタ「HSR」が貸し出される

いっぽうシミュレーションリーグもある。こちらは国立情報学研究所(NII)の稲邑哲也氏らが中心となって開発している社会的知能発生学シミュレータ「SIGVerse(http://www.sigverse.org/wiki/jp/)」を用いて、人とロボットが協働する競技を行う。


SIGVerseを使ったシミュレーションリーグも実施

「フューチャーコンビニエンスストアチャレンジ」では、ロボットに、1)弁当やおにぎりなどの陳列・廃棄、2)接客、3)トイレ清掃を行わせる。陳列・廃棄では賞味期限を認識して廃棄を選び、新たな商品を並べる必要がある。こちらは2017年12月に競技会を実施してルールを確定する。こちらには標準機はない。


フューチャーコンビニエンスストアチャレンジ


学校と家でロボットと暮らす、ジュニアカテゴリ

ジュニアカテゴリは、19歳以下を対象としたチャレンジ。学校・家庭を舞台として想定した種目を行う予定だ。スクールのほうはソフトバンクのPepperを用いて学校環境においてニーズのありそうなタスクを実現する。すでにトライアル大会を実施している。


スクールロボットチャレンジにはPepperを利用

ホームロボットチャレンジは、パートナーロボットチャレンジのジュニア版を想定している。テーブル上にのるような小型のロボットを使って、何かのタスクをやらせる。


ホームロボットチャレンジはパートナーロボットチャレンジのジュニア版


製品組立だけにフォーカス、迅速な一品ものづくりを目指すものづくりカテゴリ

WRSものづくり競技委員会 委員長の神戸大学大学院 工学研究科教授 横小路泰義氏

ものづくりカテゴリーは変種変量生産や人手不足に対応することを目的として実施される。競技は製品組立チャレンジだ。産業用ロボットは1980年を「ロボット普及元年」として普及してきたが、最近はやや頭打ち傾向にある。ロボット導入においては、本体だけではなく、周辺設備やシステムインテグレーションにコストがかかる。本体のコストは全体の3割を占めるにすぎない。


ロボット導入はシステムインテグレーションコストが高い

これからのロボットは導入コストが安く、治具不要で簡単な教示で使え、変種変量生産に対応でき、無駄がないように使い回しができるようなものがベターということになる。現状の「プログラマブルな専用機械」から、ロボット本来の「プログラマブルな汎用機械」になる必要があると横小路氏は述べた。

現在、産業用のロボットの世界でも、Rethink Robotics社「バクスター」や、カワダロボティクス「NEXTAGE」のように、人と恊働するロボットが活用され始めている。いずれもセンサーなどが全部最初から入っていて、ティーチングもしやすく、基本的には入れてすぐに使える方向性を志向している。WRSでは「このもっと先を目指したい」と考えているという。

そのための二つの評価軸として、変種変量に対応できる「agility」と、使い回しができる「leanness」を挙げた。「迅速な一品ものづくり(agile one-off manufacturing)」を目指すという。要するにどれだけ使い回しができるか、段取り替えがしやすいかだ。ものづくり関連の競技会は他にもあるが、この二つの軸をうたった競技会はないという。


これから求められるロボットは「agility」と「leanness」

なお、昨年時点では、ものづくり競技では、製品分解組み立て、物流、食品産業分野の3つを行うとしていた。だが他の競技会とかぶることや対象物の扱いが難しいことなどから、「製品分解組み立て」だけに絞ったという。

今年(2017年)はトライアル競技を国際学会の「IROS(IEEE Robotics and Automation Society)」で行われる競技のなかで間借りするかたちで行い、デモを国際ロボット展で実施する。


ものづくりカテゴリーの競技は製品組み立てのみにフォーカス

具体的にはギアユニットを組み立てる競技を実施する。部品点数は11。部品はMISUMIから世界各国で入手可能。もっとも難しいのはベアリングとシャフトのはめあいで、それは人でも難しいという。


今年行うトライアル競技はギアユニット組み立て

ロボットはネジロック剤をシャフトに塗り、規定トルクでボルトを締めて(ハンドツール使用可)、ギアをはめる。二つ目のギアをかみあわせるのはなかなか難しいという。そしてナットを締め付ける。競技は完全自律で行う。治具を使わずに部品を自由配置の状態から始めたりすると、ボーナスポイントが得られる。


ギアユニット組み立て競技の詳細

2018年にはベルトドライブユニットを組み立てさせる予定だ。なお、この特定のモノを組み立てることだけに特化することが競技趣旨ではないので、2018年の場合は、サプライズプロダクトを競技の当日に発表し、迅速にいかに段取り替えができるかを競わせる予定。


2018年にはベルトドライブユニットを組み立てさせる

競技内容は2017年12月までに公開される。協賛企業の協力を得て、産業用ロボットや周辺機器の提供も検討されている。賞金も出る予定だという。将来的にはハードウェアだけではなくソフトウェア、そしてどう使われたかというデータも循環する循環型生産社会を目指す。


循環型生産社会を目指す


技術要素の積み上げを目指すインフラ・災害対応カテゴリ

WRSインフラ・災害対応 競技委員会 委員長の東北大学大学院 情報科学研究科教授 田所諭氏

田所氏は「World Robot Summit」はロボット導入・普及の契機であり、研究開発の促進と実証実験の場を提供することに意味があると話を始めた。競技会は市場未成熟な段階での基盤や潮流の形成という意義があり、2020年の後も続けていくべきものだと述べた。特に災害対応分野では市場がドライブしないため、競技会は重要だという。


ロボット研究開発における競技会の意義

インフラ・災害対応カテゴリでは、1)プラント災害予防、2)トンネル事故災害対応・復旧、3)災害対応標準性能評価の3つのチャレンジを行う。

プラント災害予防では、モックアップを使って、プラントの点検やメンテナンス自動化を競う。標準プラットフォームはない。


プラントモックアップ

内訳は4つのミッションからなる。日常点検・設備調整、異常検知、設備診断、災害対応である。


プラント災害予防チャレンジは4つのミッションからなる

トンネル事故災害対応・復旧チャレンジでは、2018年にはシミュレーション競技を行い、2020年には実機での競技実施を目指す。福島ロボットテストフィールド内に実際にトンネルモックアップをつくる。プラットホームとしては大阪大学の建設ロボットと、早稲田大学の4脚ロボットが想定されている。


トンネル事故災害対応復旧チャレンジ。2020年には実機でのチャレンジを目指す

ミッションは障害走破、車両調査、スプレッダーなどの道具を使用した車両内の調査と救助、経路の確保、消化作業、そして瓦礫の下敷きになった車両内部を検索して救助するショアリング(安定化作業)・ブリーチング(穿孔作業)となっている。


トンネルモックアップ

3つ目は災害対応標準性能評価チャレンジだ。たとえばプラント災害予防にはどのようなテストが必要なのか、性能評価試験法自体を開発することを目指す。


災害対応標準性能評価チャレンジ

10月にはチームの募集を開始する予定。技術チャレンジだけでなく、一般の人々のロボットへの理解レベルを上げることを目標とし、ロボットの社会への定着促進を目指す。田所氏は、成功のためには世界中から多くのチームが参加し、レベルの高い競技内容とすること、社会実装を進めることが重要だと述べた。


インフラ・災害対応分野の課題マップ

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森山 和道

フリーランスのサイエンスライター。1970年生。愛媛県宇和島市出身。1993年に広島大学理学部地質学科卒業。同年、NHKにディレクターとして入局。教育番組、芸能系生放送番組、ポップな科学番組等の制作に従事する。1997年8月末日退職。フリーライターになる。現在、科学技術分野全般を対象に取材執筆を行う。特に脳科学、ロボティクス、インターフェースデザイン分野。研究者インタビューを得意とする。WEB:http://moriyama.com/ Twitter:https://twitter.com/kmoriyama 著書:ロボットパークは大さわぎ! (学研まんが科学ふしぎクエスト)が好評発売中!

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