会話やオーダー、決済もPepperひとりにおまかせ!ヘッドウォータースが「Pepper App Challenge 2017」で提示したロボットの未来

Pepper App Challenge 2017 Autumn」が2017年11月22日に開催される。
Pepper App Challenge(PAC)はユニークなアイディアと技術を競う祭典だ。4回目の開催となる今回はPepperとAIやIoTと連携させたロボアプリが多数出展されることが予想され、いつも以上に注目すべきイベントとなるだろう。

前回のPAC「Pepper App Challenge 2017」は2017年2月に開催された。決勝に残ったユニークな作品はどれも素晴らしいものだったが、中でも個人的にこれが実現すればヒットは間違いないと感じた作品のひとつが「MS Cloud Robotics 賞」を受賞した株式会社ヘッドウォータースの「Pepper Commerce」だ。

Pepper App Challenge 2017でMS Cloud Robotics 賞を受賞したヘッドウォータースの参加メンバー(最左は審査員の日本マイクロソフト株式会社 執行役員最高技術責任者 榊原彰氏)


顧客に合わせて会話し、オーダーからクレジット決済までPepperだけでこなす

ヘッドウォータースがPACに応募した作品は挑戦的で素晴らしいものだった。Pepperが店舗の店員となってオーダーをとり、クレジットカード専用ながら決済までこなすシステムになっている。しかも、顧客の顔を覚えて、はじめての来店と二度目の以降の来店で話す内容を使い分けることができる。


詳細は動画を観ると解りやすいが、簡単に解説するとこのようなシステムだ。
Pepperはハンバーガー店の店員になり、受付とレジを担当している。そこへお客様がやってきて、Pepperはいつものように出迎える。


お客様は「甘いココナッツジュースが飲みたい」とPepperに話しかける。Pepperはあいにくココナッツジュースはメニューにはないことを告げる。


次にお客様がハンバーガーをリクエスト。Pepperはハンバーガーのメニューを提示し、お客様が選択してオーダーが完了。


次にクレジットカード端末を操作して決済も完了、小型のプリンタでレシートを発券する。


お客様は注文したハンバーガーを店員が運んでくるのを待つ。Pepperだけでオーダーとクレジット決済のレジが担当できることになる。
しかし、これだけでは終わらない。同じお客様が次に来店したとき、Pepperは前回のやりとりを覚えていて、「あ、お客様、前回のご来店時には取り扱いがなかったココナッツジュースがメニューに追加されました。いかがですか?」と薦めるのである。

■Pepper Commerce【Pepper App Challenge 2017 応募作品】

来店客の言葉を理解し、商品のリコメンドや注文受け、クレジット決済までもPepperがこなすというシステムだ。現状の業務にロボットが入るとすれば、コミュニケーションロボットによる自動化としては最も説得力のあるデモだった。それが受賞の評価に繋がったのではないかと感じている。

ヘッドウォータースはどのような経緯でこのシステムをPACに送り出したのか。PACに出場し、受賞することで、どのようなメリットや仕事上の変化があったのだろうか。前回のPAC出場でリーダーを努めた松山氏に話しを聞いた。

株式会社ヘッドウォータース 人とロボット事業部 インタラクションデザイン部 部長 松山玄樹氏


「未来に繋がるコンセプトモデルを見せたかった」

編集部

ヘッドウォータースさんと言えば、Pepper関連のロボアプリの開発数は200本以上、日本で最も多い実績を持つ企業のひとつで、よしもとロボット研究所などとの連携が深いことでも知られています。前回、出場したPACではどのような意気込みで参加されたのでしょうか。

松山(敬称略)

PACは第一回から出場していますが、前回の出場は今までで一番注力して取り組んだ気がしています。最近話題になっているキーワードである「AI」と「IoT」、そしてロボットを組み合わせて使うと、近い将来はこんなことができるようになるんだ、という未来を示すコンセプトモデルを展示したいと思って開発しました。

編集部

ロボットがひとりで受付、オーダー、決済までこなし、顧客に合わせて気の利いたセリフまでしゃべる・・・多くの店舗がそんなロボットが欲しいと思いながらも、実現するのには意外と難しいシステムですよね。ただ、御社はこれを実現するのに必要な要素技術を既に実際に開発してきました。

松山

はい。当社は製品サービスとして「SynApps(シナップス)」を販売しています。Microsoft Azure(アジュール)のFace APIを活用した「顔認証」やLUIS(Microsoft Azure Cognitive Services LUIS)を使った「自然言語認識」(意図理解)などのシステム開発を行っています。PACでもそれらの技術をベースにして、今は未だないもの、本気で面白いものを作って応募しようと考えました。そこで出たアイディアが決済まですべてをこなして業務を完結できる「Pepper Commerce」でした。PACが開催された当時、金銭が伴う「決済」についてはセキュリティや保証、コンプライアンスなど、さまざまな課題があって、どこもロボットでの決済サービスとしての製品化はまだ難しかったのです。

編集部

なるほど、コンテストなら保証やサポートを考えずに「これが未来だ」というアイディアを発表できますね。

松山

はい。「コンテスト」だからこそ、制約もリスクがなく、私達がイメージしている未来のアイディアを提案することができました。結果的にPepperが前面に立ち、クラウドで顧客の顔を認識したり、言葉を正確に理解し、更には小型のプリンタやAzureのIoT Hubを使った連携で実現することができました。コンセプトモデルとしてでもこのような一連の技術を発表することができたこと、更にニュースなどの報道で取り上げてもらったことによって、当社がPepperはもとより、AIやIoTの技術にも強いんだ、ということを多くの人に認知してもらった良い機会となったと感じています。

(クリックして拡大)




ロボット、AI、IoTには夢やチャンスが溢れている

編集部

PACに参加するにはどのような技術が必要でしょうか。

松山

はじめの一歩はとても簡単です。Pepperには「コレグラフ」という専用の開発ツールが提供されていますので、それを利用すれば簡単にロボアプリを開発することができます。ただ、目を引くものだったり、他とはひと味違うものを開発したいと思えば、クラウドのシステムと連携するのが得策かもしれません。Pepperを端末にしてクラウドにシステムを展開していくことで、とても高度なことも可能になります。

編集部

具体的には、Pepperを「Microsoft Azure」などと連携させるということでしょうか。

松山

そうですね。自分たちがやりたいことをクラウド側で作り、特別な機能はAzureなどのAPIを活用すれば、比較的短時間で面白いことが実現できると感じています。Azureには興味があっても、今まで使ってみる機会がなかったという開発者や学生の人も多いと思いますが、PACのようなコンテストはこれらを勉強する良い機会として捉え、気軽にやってみるのがオススメです。やってみれば案外すぐにできてしまうものですよ(笑)。

編集部

なるほど。とにかく踏み出すことが大事ですね。
開発者がコンテストに参加して受賞した結果を持って会社の上司にプロダクトとして提案するというアプローチもあるかもしれませんね。

松山

そうですね。”アプリ開発の技術はあるけれど何を作ったらいいかわからない”という人もいれば、”アイディアはたくさんあるんだけど、プログラミングの技術がない”という人もいると思います。それらの人々が即席でチームを組んで、参加できるのがハッカソンやコンテストの良いところだと思いますので、会社単位にこだわらず、開発者と企画担当者、プロデューサー、デザイナーなど、いろいろな人たちが声を掛け合って参加してみると、交流も拡がって良い結果にも繋がるのではないかと感じます。

編集部

PACに出場したり、受賞することで仕事面ではなにか変化があったでしょうか。

松山

お問合わせを頂く件数は増えました。出展した作品がコンセプトモデルだったので、受賞したシステムそのものの引き合いがあったわけではありませんが、AIやIoTデバイスと連携したものだったので、当社がロボットだけでなく、人工知能やIoTにも積極的だということのアピールに繋がり、AIやIoTのシステム開発関連の相談が増えています。
また、PACに入賞したことで、ソフトバンクさんの営業や企画チームの方からビジネスの相談が増えたこと、普段は接点のない大企業の方からもお声がけ頂けるようになったことも、大きな変化だと思います。

編集部

Pepper関連のアプリではどのようなものの引き合いが多いでしょうか?

松山

Pepper for Biz用のロボアプリマーケットに出しているSynApps FAQ 「あるあるQ&A」というアプリが好評を頂いています。
Pepperともっと喋りたい、もっと対話形式のコンテンツを増やしたい、と考えている企業の方に導入してもらっています。お問い合わせ(FAQ)に絞った質問回答アプリですが、導入時の意図解析のトレーニングなどがないため、導入が簡単ですぐに実践で活用できるのが特長です。ホテルやモールなどの受付で「トイレはどこ?」とか「何がお買い得なの?」といったお客様からの簡単なお問合わせに回答したり、社内コールセンターのような目的で使われているようです。

編集部

個別の開発案件ではどのようなものが多いのでしょうか?

松山

個別の開発案件としては、AI関連のシステムのご相談が多いですね。「とにかくうちもAIを使って何かをやりはじめたい」というレベルのものから、さまざまです。Pepperなどのロボットを使ったシステムとは限らないのですが、Microsoft AzureなどのAIとPepperを絡めたシステムを多数開発したり、コンテストに出品していることで、AI開発に強い会社という良いピーアールに結果的に繋がっていると思っています。




賞金100万円のPepperアプリ開発コンテスト、参加受付中


Pepper App Challenge 2017 Autumn」はロボットに未来を感じる人なら誰でも参加できるアプリ開発コンテストだ。個人でも法人でも参加できる。
Pepperの本体を持っていなくても開発ツール「コレグラフ」内で、仮想のPepperを動かしてテストすることができる。また、近くのアトリエやアトリエサテライトでPepper本体を借りてテストしてみることも可能だ。

応募作品の受付の締切は2017年10月25日。決勝は 2017年11月22日(水)に東京「ベルサール汐留」で開催される。
最優秀賞として賞金100万円と限定グッズ、その他、AIソリューション賞、IoTテクノロジー賞、ビジネスイノベーション賞として賞金10万円ほかが用意されている。
世界をリードするコミュニケーションロボットの技術者、開発者、プランナーを目指して、参加してみては如何だろうか。可能性は目の前に拡がっている。
詳細は公式「Pepper App Challenge 2017 Autumn」を参照。

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ロボスタ編集部

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