【IoT業界探訪vol.16】ボタン一押しで困りごとが解決! 「MAGOボタン」が実現したシニア向けサポートネットワーク(前編)

センサとネットワークが交錯するのがIoT機器であり、そのハイテクなデバイスは世の中に多大な影響を与えつつある。しかし、一方で、よりアナログなデバイスで世の中を変えていこうとする会社がある。それが「三河屋」の名前を冠したMIKAWAYA21株式会社だ。

サザエさん宅の勝手口に「ちわー三河屋でーす」と毎日御用聞きにくるサブちゃん。現代となってはなかなか見られない光景だが、この距離感で提供されるサービスは、日々の生活でこまごまとした困難に直面するシニア世代にとっては非常に魅力的なサービスだと感じる。

同社は、そんなサザエさんのサブちゃんのように、シニア世代の各家庭の御用聞きが簡単にできるような「MAGOボタン」というデバイスの開発をおこなっている。「MAGOボタン」は一見すると、クイズ番組の早押しボタンのような「ゆるい」見た目だが、シニアの生活にとけこむ中で、様々な困りごとを解消し、充実した生活を送ってもらうための一手になるかもしれない。

今回は「MAGOボタン」とそれにつながる「まごころサポート」サービスを展開するMIKAWAYA21株式会社の代表取締役社長 青木慶哉さんと、取締役の小暮政直さんにお話を聞いた。


MIKAWAYA21株式会社の代表取締役社長 青木慶哉さん(右)と、取締役 小暮政直さん(左)




MAGOボタンの機能

「ボタン」と言われて思い浮かぶ姿そのままのデザイン。生活の中で程よい親近感と存在感がある。

MAGOボタンの持つ機能は非常にシンプルだ。主な機能は二つ。

一つ目は、困りごとがあるシニアが、家においてあるMAGOボタンを押すと、コンシェルジュから電話が入り相談に乗ってくれるという機能だ。相談の結果、電話越しのアドバイスやオンラインサービスで済むものもあれば、地域密着展開をしているサービス店舗がスタッフを派遣して困りごとを解決してくれる場合もある。

二つ目の機能は、音声による情報案内サービスだ。これは、ゴミの日や日常のアドバイス、生活上のちょっとしたスケジューリングなどを音声で案内してくれるというもの。単調になりがちなシニアの生活にリズムを取り入れつつ、その日の天候や、服薬など、ユーザーに合わせた情報を提供してくれる。

MAGOボタンがハードウェアとして持つ機能はいたってシンプル。しかし、その見た目とは裏腹に、MAGOボタンを通じて実に様々なサービスが提供されている。

今回はこの「MAGOボタン」が開発されるまでの経緯について、お話を聞いてみた。



MAGOボタンの誕生と、「まごころサポート」ネットワーク

編集部

MAGOボタンを見るとその外観のシンプルさと、その裏側で展開される多様なサービスに驚いてしまいます。御社(MIKAWAYA21)はどういった会社なのでしょうか。



青木氏

弊社は、新聞屋さんなど全国各地で地域密着の仕事をされている皆さまと協力して、シニアの方の困りごとのお手伝いをする「まごころサポート」というサービスを全国で展開している会社です。

1980年代に100万人もいなかったシニアの一人暮らしが2025年には700万人を超えると言われています。シニアの一人暮らしは困り事を感じる事がすごく多いので、地域密着タイプの商店、サービス事業者さんにそのサポートをして頂くためのネットワークを広めていたんです。

「30分500円で困り事を解決しに行く」という気軽さもあって、今では1ヵ月で8千~1万件くらいの困り事をまごころサポートで解決しています。


編集部

それはすごいですね。全国でそのサービスは受けられるんですか?


青木氏

全国で400か所のネットワークができています。このネットワークで全国のシニアの生活を支える社会インフラを作る、というのがMIKAWAYA21のミッションです。

そのネットワークの中では、サポート事例なども共有されており、全国のシニアの本音や困りごと、その解決策や喜ばれたポイントなど、あらゆる情報が集まっているのです。そのため、様々な企業の方から、新規のシニア向け製品やサービスの開発にあたって相談を受けたりすることもあります。



常にシニアのお茶の間から暮らしを見守るIoT機器のイメージ。

青木氏

そんなシニアの情報が蓄積する中で感じていたことは、やはり海外で企画、生産されたスマホやデバイスをシニアにフィットしたものにするのは非常に難しいということです。そこで、自分たちで、100歳のお婆ちゃんでも使えるネットワーク端末を作ろうと思いました。

シニアに特化した「スマホの代わりになる物」を作ろうじゃないかと。

もう1つは「まごころサポート」を見える化したいと考えていました。「まごころサポート」は「困ったとき」に「お電話」を頂いたら地域の新聞販売店の方などがすぐ飛んで行くというサービスですが、それを常にテーブルの上に見える形置いておくことで「安心」になる。

「まごころサポートを見える化したい」、「シニア向けのスマホの代わりになる物を作りたい」という2つの目的が合わさって出来上がった製品が「MAGOボタン」なんです。


編集部

「シニアに特化した『スマホの代わりになる物』」とのことですが、シニア向けの端末にはどのような機能が必要だと考えたのでしょうか。


青木氏

一つは情報を提示する機能ですね。シニア向けで考えると、生活や健康に密着した新しい情報を音声で運んで来てくれるというのは大事なことです。

もう一つは、いざと言う時に誰かと繋がる機能。これは単なる通信というレイヤーではなく、若い人で言うところのSNSのように、外の世界との「つながり」を感じさせる機能という事ですね。

これら2つの要素をボタン1個に集約させたのがMAGOボタンです。

様々な事業者の方から、シニア向けにネットワーク端末を販売するための相談を受けましたが、ファミレスの呼び出しボタンぐらいのシンプルさでなければ、IT機器と距離を置きたがる70歳以上の方には扱えません。


編集部

コンセプトは非常に明快ですね。それを実際に制作する段階では、様々なご苦労もあったのではないでしょうか。



小暮氏

制作に関しては青木が吸い上げた要望を私が実装していますが、なかなか大変ですね。もともとは趣味の延長でプログラミングをしていましたが、この会社に入ってから本格的に習得し始めたので。ただ、シニアの方々からのニーズを吸い上げ、事業者さんの役に立つ機能に落とし込んでいくというのは非常にやりがいを感じます。ハードウェアに関しては、自分で基板から起こした部分もありますが、コアとなる部分に関してはさくらインターネットさんのモジュールをつかっているので、大分助かりました。


編集部

なるほど、SIMを使ってクラウドサービスを利用するタイプの製品ということだと思うんですが、やはりお年寄り向けのサービスではWifiタイプは難しい、というご判断でしょうか。


青木氏

はい、そこは「シニアの方に本当に使ってもらえるか」を考えると「いい製品だから光回線を引いてね」というのはあり得ません。スマホを渡しても、家の電話機の横に置いてあったりするのが現場のリアルです。「箱から出してコンセントにさせば使い始められる」という作りは、シニアの方の習性をご存知の方から高い評価を頂いています。


小暮氏

また、IoT機器の開発にあたっては、シンプルな機能から始めてもサーバー側で色々な機能を付加していくことができる、というのが非常にいいですね。MAGOボタンのもう一つの重要な機能が「声での通知」なわけですが、「誕生日をお祝いするメッセージを入れよう」「服薬確認をできないかな?」というような小さな思い付き一つを実行に落とし込むときのスピードは、うちみたいな会社だと圧倒的に早いですよね。誰かとコンセンサスをとらないと前に進まない、という会社ではないですから。

そういった面でのスピード感を考えるとIoT機器は、大企業よりも、うちみたいな会社のほうが向いているのかもしれないとは思いますね。



MAGOボタンのアナウンス機能は、サーバー側で柔軟にメッセージを変えることができるので、アイデア次第でシチュエーションに合わせたメッセージを出しわけることができる。IoT機器ならではの柔軟なシステムを使いこなすのは、たしかに種々の決定や実行にかかるコストが低いベンチャーのほうが向いていると言えるのかもしれない。

編集部

「まごころサポート」のネットワークをベースに、情報提示の面でこれからも進化し続けていくという事ですね。次回の記事では情報を提示する、アナウンス機能のほうをお聞きしていきたいと思います。

関連サイト
MIKAWAYA21株式会社

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梅田 正人
梅田 正人

大手電機メーカーで生産技術系エンジニアとして勤務後、メディアアーティストのもとでアシスタントワークを続け、プロダクトデザイナーとして独立。その後、アビダルマ株式会社にてデザイナー、コミュニティマネージャー、コンサルタントとして勤務。 ソフトバンクロボティクスでのPepper事業立ち上げ時からコミュニティマネジメント業務のサポートに携わる。今後は活動の範囲をIoT分野にも広げていくにあたりロボットスタートの業務にも合流する。

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