製造業・三品産業で活躍する協働ロボット カワダ「NEXTAGE」の活用シーン


発表から10年の協働型ロボット「NEXTAGE」  ヒューマノイド技術を活用、人のパートナーに

カワダロボティクス株式会社 取締役 五十棲隆勝氏

2019年1月16日から18日の日程で、「第3回ロボデックス ロボット開発・活用展」が東京ビッグサイト西ホールで開催された。

1月17日には「三品産業で活躍する協働ロボット」と題されたセミナーが行われ、カワダロボティクス株式会社(https://www.kawadarobot.co.jp)取締役の五十棲(いそずみ)隆勝氏が、同社の協働ロボット「NEXTAGE」開発の背景、これまでの展開と現状、そして将来について概説した。

カワダロボティクスは、橋梁や建築鉄骨などを事業とする川田テクロノロジーズ株式会社のグループ企業の一つとして2013年に創業(カワダの沿革はこちら https://www.kawadarobot.co.jp/history/)。親会社である川田工業株式会社で開発されていた協働ロボット「NEXTAGE」は、今年で発表から10周年にあたる。

同社がロボットに携わるようになったきっかけは、経済産業省の「人間協調・共存型ロボットシステムの開発(HRP)」に携わったことから。産総研が主体となって実施した「HRP」は、人間と協調、共存して複雑な作業や変化のある地形を柔軟に移動できる人型ロボットの実現を目指したプロジェクトで、人が指示を出し、ヒューマノイドが単純作業を行うというねらいだった。川田グループはもともと橋梁建設や土木を主要事業としているが、当時から今後の技能継承などにおいて課題を感じており、その出口の可能性の一つとして模索する一環としての参加だったという。

こうして開発されたのが研究開発用プラットフォームのヒューマノイドロボット「HRP」シリーズで、これが後の「NEXTAGE」開発へと繋がることになる。カワダロボティクスは最新モデルである「HRP-5P」の設計にも関与しており、同社のロボット技術は全て、ヒューマノイド開発を通じて培われたものだ。

「HRP」で開発されたHRP-1SやHRP-2は、様々な研究に用いられた。10年から15年前だが、今でもその成果は引き継がれている。五十棲氏は2007年に描かれたロードマップを示し、「この中になかったものをカワダが手がけることになった」と当時を振り返った。




新しい考え方のロボットで労働集約的環境を変える

当時、カワダの技術者の多くはロボットではなく航空工学出身だった。というのはカワダはもともと、ヘリコプターの技術を持っており、航空機のパイロットの養成や防災用ヘリやドクターヘリの機体組み立てなどを手がけていたからだ。ゆくゆくは完全自社製のパーソナルヘリコプターを開発したいと考えていたという。

そのなかでロボットに後に結びついた技術の一つが、パイロットのアシストを行う「姿勢安定・自動操縦システム」である。今日の自動運転のように各種センサーとコンピュータを使って機体を安定させ、また人間の操作とも協調する。それらが後のロボット開発に活かされた。たとえば、人間の操作力、位置、速度に反応できる制御周期を持った、応答性の高いアクチュエーターの開発である。

いっぽう川田には従来型の産業機器の知見はなかった。そこで、それらの勉強をしているなかで、従来の高精度・高荷重の産業用ロボットとは異なる、人間より高い運動性能で生産効率を向上させる自動機を実現できないかと考えはじめたのだという。

製造現場の環境は良くなっており、生産管理はできている。だが労働集約的であり、人がずらっと並んで作業していること自体は変わっていない。五十棲氏らは、そのなかで「ロボットができることが何かあるはずだ」と考えた。また同時に世の中のものづくりのニーズも、大量生産から多品種少量、多品種変量生産へと変わってきた。その結果、従来の生産設備の考え方ではついていくことが難しくなってきていたのである。製造品質を落とさずに、フレキシブルで、かつ現場要因の訓練期間は短くといったことが必要とされていた。

これからの産業機器ができることは何か。海外へと生産現場が移るなかで、国内にものづくりをもう一度戻すためには何が必要か。カワダでは、1996年ごろから市場を探索していた。なおヒューマノイド技術を活用することは当時から決まっていたという。



「活人化」を目指した協働型ロボット

そして2004年から2006年、セル生産用のヒューマノイドロボットの可能性の探索を、ある家電メーカーと本格的に行いはじめる。まずは部品をローディング/アンローディングする作業をロボットで代替することで「省人化」ではなく「活人化」できないかと考えた。この作業自体には双腕は必要なかったが、当時のプロトタイプのときから、まずはプラットフォーム化したロボットを作り、それを進化させていくといったことを想定し、双腕・頭部ビジョンを備えていた。同時に、安全技術の研究を産総研と進めた。

事業としては、カワダとしては「Made in Japan」の復活を目指し、開発と販売促進を自社業務として、販売・製造を外部に委託するオープン・リソース事業とするというコンセプトを立てた。2006年には、人とヒューマノイドが仕事を共有する新しい働き方の提示という事業ポリシーを確立した。人とロボットを組み合わせた高品質・安定したものづくりを目指した。そして2007年、スペックを固めた。

しかし、共同開発を進めていた家電メーカーとの計画は、頓挫してしまう。実は既に導入も決まっており、その直前の段階だった。



グローリー、花王などでの活用

しかしながら諦めきれないカワダは、2009年の「国際ロボット展」に「NEXTAGE」を参考出展する。

そして展示会での出会いをきっかけに貨幣計数機などを製造しているグローリー株式会社への導入が決まった。当時、NEXTAGEの導入実績はまだなかった。しかしながらグローリーは、最初から、20台入れて現場を活人化するという構想を持っていたという。

ロボットは、単体では何もできない。だがグローリーは優れた周辺機器のエンジニアリングを持っていたことから、NEXTAGEの機能が存分に活かされることになった。五十棲氏も、これには驚いたという。

また、花王株式会社には2014年から試験導入され、花王独自のオリジナルのクランプハンドと並列供給機を使って、チューブ容器をパウチに投入、さらにヒートシールして箱詰めする作業を行なっている。パウチに入れるときには吸着ハンドやエアを用いる。手先のちょっとした工夫で作業効率をあげることができる。作業不良は圧力センサでチェックする。

こちらもやはり、メーカー独自の技術には「さすがだ」と感じているという。いまではNEXTAGEは、電機・電子部品の組み立てだけではなく、三品産業に活用されている。



新型も開発、安全性を重視

2018年には新型「NEXTAGE」を公開。可搬質量を従来の片腕1.5kgから2.5kgへ、両腕3.0kgから5.0kgへと引き上げ、高速化した。カワダとしては、現在導入されている製造現場だけではなく店舗裏なども含めて、人がやらなくてもいい作業のロボットでの代替をさらに進めたいと考えており、THKインテックス、グローリー株式会社、株式会社日立ハイテクノロジーズなどとパートナーシップを組んで事業を進めている。

人がやっている作業に関してはパワーを上げるよりは安全性を重視し、安全基準のISOの取得も目指しているという。いっぽう、重量構造物を扱っているカワダの本業のほうにロボット技術を適用できないかという話もあるそうで、そちらについてはまた別カテゴリーとして考えているとのことだった。

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森山 和道

フリーランスのサイエンスライター。1970年生。愛媛県宇和島市出身。1993年に広島大学理学部地質学科卒業。同年、NHKにディレクターとして入局。教育番組、芸能系生放送番組、ポップな科学番組等の制作に従事する。1997年8月末日退職。フリーライターになる。現在、科学技術分野全般を対象に取材執筆を行う。特に脳科学、ロボティクス、インターフェースデザイン分野。研究者インタビューを得意とする。WEB:http://moriyama.com/ Twitter:https://twitter.com/kmoriyama 著書:ロボットパークは大さわぎ! (学研まんが科学ふしぎクエスト)が好評発売中!

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