製造業・三品産業で活躍する協働ロボット カワダ「NEXTAGE」の活用シーン - (page 2)

人がやるべき仕事とロボットがやるべき仕事の切り分け 資生堂における協働ロボット活用

株式会社資生堂 生産部 生産基盤強化グループ 那須工場設立準備室 製造部準備グループ グループマネージャー 小林毅久氏

株式会社資生堂 生産部 生産基盤強化グループ 那須工場設立準備室 製造部準備グループ グループマネージャーの小林毅久氏は、資生堂・掛川工場でのメイキャップ製品製造現場での協働型ロボット(NEXTAGE)導入について紹介した。なお資生堂では見学・質問ほかを一切受付けておらず、今回の講演が唯一とのこと。

資生堂でのロボット導入の背景には、労働環境の変化と、化粧品市場ニーズの変化の2点がある。化粧品市場では大半の生産が小ロットで、2,000個以下となっている。同時に、化粧品は新製品発売時には生産数量が必要でラインを回すが、一定時期を過ぎると少数オーダーしか入ってこなくなる。そのため、特定製品向けの生産設備の開発はリスクとなる。

資生堂では従来から「自分たちの設備は自分たちで」といったかたちで対応してきたという。さらに多品種対応のため「人の手作業」と「専用機械」の中間領域でのロボット活用を考えた。ここでいうロボットとは協働型だけではなく従来型産業用ロボットも含む。たとえば、ラベル検品作業をパラレルリンクロボットを使って自動化したりもしている。

小林氏は、過去にもロボット・自動化設備の取り組みはすすめてきたが、「挫折の繰り返しだった」と振り返った。製品が変わると搬送方法が変わって設備一新コストが必要になったり、業者やオペレータが変わるとノウハウやポイントが伝わらず、生産性が落ちてしまう。また前述のように生産数量もすぐに変わってしまうことで優先順位も変化してしまい、結果として設備の改善・改良が進む前に止まってしまっていたという。そこでロボットと設備の組み合わせを「リアレンジ」する生産技術力と、ロボットを発想豊かに使いこなす現場力の確立を目指した。

具体的に検討を開始したのは2014年。2015年に開発スタート。2016年から現場に導入した。コンセプトは人とロボットの共存。化粧品は五感に頼った検査が重要だ。これは、市販の検品機械ではなかなか置き換えることができない部分もあり、資生堂では「人にしかできない作業」だと考えた。そして、単純繰り返し作業をロボットで代替することを目指した。

判断がいる作業、人の五感に頼る検査と作業、そして管理作業は人固有の作業とし、ロボットは繰り返し、重労働、複雑・繊細な作業をやると切り分けた。

資生堂では、川崎重工業「duAro」やライフロボティクス「CORO」など様々な協働型ロボットを検討したなかで、最終的にカワダロボティクスの「NEXTAGE」を選定した。単純な移載作業だけではなく、複数工程・複雑な作業ができる点を評価したという。最初は、ロボットで何ができるか試すために、ライン上を流れてきたものをオリコンに入れるといった単純作業から試した。



口紅のフタかけ作業の自動化

現在は、口紅のフタかけ作業を自動化している。口紅は、外観検査をして、口紅本体部をしまったあとに、キャップをかけ、ベルトコンベアに流す。このキャップをかけるときに万が一でも口紅本体に傷をつけてしまったら商品にならなくなってしまう。なので、非常に繊細、かつ多くの繰り返し作業となり、作業者には肉体的にも精神的にも負担がかかる。そのため、この自動化ニーズが現場からも高かったという。そこで、まずはこの作業を自動化した。

ハンド開発には破損しても、すぐに取り替えられるように3Dプリンタを活用し、部品供給機の開発も内製で行った。部品供給はロボットよりも難しかったという。そしてロボットの機能を引き出すために工程の組み替えなどの検討を行った。従来は外観検査を3名で行なっていたが、それを一人とし、そのあとにロボット3台を並べた。ロボットは、完成した口紅が入ったフォルダーを引き寄せて、その上にふたをかけて、ベルトに流していく。全てを電気制御にするのではなく、一部は、NEXTAGE自体に機械スイッチを押させている。また、故障時に対応が取れるように、物理的安全面はガチガチにはしていないという。ロボットに何かあっても、すぐに人と入れ替えられるようになっている。

また、いきなりラインに入れるのではなく、全く同じラインを空きスペースに設置。テストを繰り返し、人材育成をしてから入れた。模擬ラインを作ることで、様々なアイデアが生まれたという。これには新入社員が頑張ったとのこと。

現在、ベルト作業だけではなく、小ロット生産にも活用されている。導入前は5名だった作業から工程を入れ替え、4名+ロボットとした。ロボットがフォルダーを寄せて、口紅のふたをとって、クリーナーにかけて、完成した口紅に乗せていく。



ファンデーションの仕上げもロボットで ロボットが箱入れまでを行う

ファンデーションの仕上げにもロボットが活用されている。仕様書とスポンジ、ファンデーションをワンセットとして、箱に入れ、外箱に入れて出荷する作業だ。材質も異なり、構成材料が多いため、自動化が難しい。また中の仕様書などもブランドによって訴求ポイントが異なるため、規格化されていない。ケースの組み立て・検査も複雑だ。

具体的には仕掛かり品の粉末表面を目視検査し、透明容器をかぶせ、スポンジ、能書き、仕掛かり品の3品セットを挿入して、印字して完成品とする。そして完成品を3個ずつ輸送箱に挿入し、物流レーベル2種添付したあとに、オリコンにおさめる。最初のファンデーション表面検査や汚れ落としは人で、残りをロボット化した。この自動化は、かなりのチャレンジで、NEXTAGEを使った自動化ノウハウを持つグローリーの助けを借りて行なった。

自動化においては、作業手順とタクトが詳細に分析され、各作業が標準化されていることが大前提だ。工程設計においては、ハンドチェンジをせず、人の感性による検査とロボットカメラによる検査をすみわけさせ、カートリッジ供給による複数材料の切り出し、そして2台のロボットを組み合わせて作業させた。



現場で圧迫感のないロボットであることも重要

なおNEXTAGE導入にあたっては、現場で働く6-7割が女性であることから、圧迫感の少ない人型デザインのロボットであることや、IoT技術を活用した生産数量管理もポイントだったという。安全に関しては念のためロボットと人の間に透明アクリル板を設置して分離した。ロボットは周辺機器から提供される紙箱を組み立ててラベルを貼り、カメラで確認して最後にオリコンに入れる。

中に入れるスポンジ、能書き、仕掛かり品の3種セットはカートリッジで一つにまとめられて供給される。ロボット導入にあたってハンドカメラ検査を行うことになり、それによって品質が向上したという。いっぽう、全てカメラで撮影するためにタクトは伸びてしまっているため、労働生産性は1.12倍になっただけだった。その後、動作の見直し、ハンド・周辺装置の改良、検査項目の絞り込みによって、現在は1.4倍となっている。今後は、人に類似ラインを複数担当してもらうことで、労働生産性2倍を目指す。

双腕ロボットの適応工程としては、サイクルタイムが長い作業で、3D画像処理を使用しない作業、ワークが静止しておりつかめるもの、構成材料が少ないものが向いていると考えているという。小林氏は「何をロボットにやらせ、何をさせないか。そして環境・人つくりが重要であり、部材の供給と工程設計が重要だ」と述べた。また「同じロボットを使って別の工程の自動化に取り組める生産技術力がロボット利用拡大においては重要だ」と講演を締めくくった。

ABOUT THE AUTHOR / 

森山 和道

フリーランスのサイエンスライター。1970年生。愛媛県宇和島市出身。1993年に広島大学理学部地質学科卒業。同年、NHKにディレクターとして入局。教育番組、芸能系生放送番組、ポップな科学番組等の制作に従事する。1997年8月末日退職。フリーライターになる。現在、科学技術分野全般を対象に取材執筆を行う。特に脳科学、ロボティクス、インターフェースデザイン分野。研究者インタビューを得意とする。WEB:http://moriyama.com/ Twitter:https://twitter.com/kmoriyama 著書:ロボットパークは大さわぎ! (学研まんが科学ふしぎクエスト)が好評発売中!

PR

連載・コラム