川田テクノロジーズ、中小企業向けの小型軽量双腕ロボットを試作 目標は作業性とコストの両立

第38回 日本ロボット学会 学術講演会(RSJ2020)が2020年10月9日から11日までの日程で行われた。新型コロナウイルス禍のなか開かれた今回のRSJはオンライン開催。主にZoomを使って行われた。

二日目に行われたサービスロボットのセッションでは、川田テクノロジーズ株式会社 技術研究所の星野由紀子氏が、中小事業所での軽作業を想定した「小型軽量双腕ロボット」の開発について発表した。今回はあくまで学会発表であり、発売を予定したものではないとのことだが、今後の上市が待望されているタイプのロボットだと思う。レポートしておきたい。


作業性とコストの両立を目指す

軽作業向けのロボット開発のための設計指針

人手不足が言われ始めて久しい。しかしながら中小企業には、なかなかロボットが導入されない。そこそこ作業ができて安い、すなわち「作業性」と「コスト」が両立するロボットが少ないためだ。そこで川田テクノロジーズでは中小事業所での軽作業を研究開発ターゲットとして、ロボットの研究開発・試作を行った。

目標は「ロボットに関する知識がない人が使えるロボット」。一般に産業用ロボットがターゲットとしない軽作業を対象にする。具体的にはパッケージ加工会社や物流関連会社、デパート、小売店、市場、土産物屋などの中小事業所での、物を揃えたり、箱詰めしたり、袋詰めしたりする作業だ。そのためオーバースペックにならないように、コンパクトで軽く、安く、使い勝手のいいロボットを目指した。

ロボットの場合、周辺機器や教示の手間によっても作業性は変わるが、それらのコストも含めた目標コストも作業に見合うように抑えることが目的だ。目安はロボットで作業を代替したときの人件費である。おおよそパートタイマー二年分の人件費を目指した。

具体的な想定作業は、お歳暮などでのビールの箱詰め。ロボットは、幅15cm程度、重さ500mlのペットボトルや缶を箱に詰めるものとした。ロボットの作業領域は作業領域A3程度。コストを考慮し、手先位置精度は2cm程度とした。実際の作業の実現方法も含めてハードウェアとソフトウェアを開発した。


お歳暮のビールの箱詰めができる水平多関節の双腕ロボット

川田テクノロジーズ 技術研究所が試作したロボット

実際に試作されたロボットは、水平多関節の小型軽量双腕ロボットである。高さ53cm、重さ約 14kg。自由度は左右アーム合わせて8。コントローラや電源も小型化し、専用の架台を必要とせず、作業台の端にくっつけて動かせるようなものとなった。双腕とした理由は、作業速度の向上や作業バリエーションなどを想定したため。双腕であれば、ハンドチェンジャーを使用することなく2種類のハンドを用いることもできる。

小型軽量化のためのリンク機構

アームのリンクには平行リンクとバネによる自重補償を採用し、常にハンドを下向きにできる機構とした。ハンド自体も指先を薄くして缶が掴めるようにし、また自由度の追加なしで缶を箱に対して斜めにしてスムーズに入れられるように工夫されている。使用したモーターの出力は40W程度。複雑なセンサーなどは使っていない。タクトとコストに見合うだけの価値が出せないからだ。

軽量ハンド


一箱あたり30秒弱でのギフトセット箱詰め作業が可能

ギフトセット箱詰めシステム

想定した缶のギフトセット箱詰め作業では、ロボットの横に缶の供給機を配置し、後方からロボット本体下を通って組み立て済みの空箱がロボット前面の作業領域に供給されるようにした。ロボットの設置面積と動く範囲を狭めることでタクトを上げた。

実際に350mlの飲料缶を合計12本、4本の缶をギフトセット3段に詰める作業実験を行ったところ、1箱あたりおおよそ29秒で入れられたという。また、1箱あたり29秒で連続40箱の作業を行うこともできた。実際の作業では、一人の作業員が3箇所で缶を補充しながら面倒を見るといったかたちを想定している。

一人の作業者が3台のロボットシステムの面倒を見る想定


中小企業の現場で本当に使えるロボットを

今回のシステムのコストは、単体ならば、ほぼパートタイマー二年分の人件費くらいですむという。今後については、試作システムを実際の作業現場で検証したり、他の作業パッケージを検討する方向性が考えられるとのこと。

繰り返しになるが、このロボットは現時点ではあくまで試作であり、販売の予定はない。実際のロボットの現場導入時にはSIerによるセッティングが必要となるが、星野氏は「SIerによるティーチングなども含めて、コストが見合う値段にしなければならない」と語った。このまま売れるようなものにする必要があるのだという。

つまり、現場がロボットのことを特に知らない人たちであっても、ポンと入れれば使えるようなものにしなければならないということだ。安価で簡単に人手を代替できるロボットはずっと望まれている。ロボット開発だけでなく事業開発も含めて、今後の展開に期待したい。


関連サイト
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森山 和道

フリーランスのサイエンスライター。1970年生。愛媛県宇和島市出身。1993年に広島大学理学部地質学科卒業。同年、NHKにディレクターとして入局。教育番組、芸能系生放送番組、ポップな科学番組等の制作に従事する。1997年8月末日退職。フリーライターになる。現在、科学技術分野全般を対象に取材執筆を行う。特に脳科学、ロボティクス、インターフェースデザイン分野。研究者インタビューを得意とする。WEB:http://moriyama.com/ Twitter:https://twitter.com/kmoriyama 著書:ロボットパークは大さわぎ! (学研まんが科学ふしぎクエスト)が好評発売中!

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