【神崎洋治のロボットの衝撃 vol.23】ソフトバンクはなぜ自動運転事業に参入したのか? SBドライブに聞く 未来のクルマ社会

2016年4月、ソフトバンクは先進モビリティと合弁で「SBドライブ株式会社」を設立し、自動運転技術を活用したスマートモビリティサービスの事業化に乗り出しました。ソフトバンクグループや「Yahoo! JAPAN」(以下Yahoo!と表記)との連携やシナジーで強みを発揮する考えです。

そして第一弾として北九州市と連携協定を締結したことを発表。まずは自動運転によるバス運行の実現へ向けてスタートを切りました。また、先週は第二弾として鳥取県八頭町との締結も発表しました。

「なぜソフトバンクが自動運転技術に着目したのか?」「ソフトバンクが描く未来のクルマ社会とは?」「Yahoo!との連携にどのような効果を期待するのか?」等、SBドライブの社長 佐治友基氏、COO宮田証氏、CTO須山温人氏に話を聞きました。


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SBドライブ株式会社の代表取締役社長 佐治友基(さじ・ゆうき)氏


ソフトバンクが描く未来のクルマ社会

神崎(編集部)

ソフトバンクグループがなぜ自動運転の事業化に着手するのでしょうか


宮田(敬称略)

今は各家庭で、個人がクルマを所有して運転していますが、将来のクルマ社会は「サービス」が中心になると考えています。とりわけウェブサービスです。


神崎

クルマ社会がウェブサービス中心になるんですか?
ずいぶんと突飛な話に聞こえます。


宮田

よく言われている話なんですが、現在はクルマの利用は生活時間の1割程度、ほとんどクルマは使われていなくて眠っている状態です。近い将来、クルマは今よりもっと共有して利用されるようになります。更に自動運転車の時代になれば、クルマは必要なときだけに使う、ウェブで呼び出して出発地と目的地を指定すると、スマートカーが迎えに来て目的地まで送ってもらう、そんなサービスが中心になっていくと考えています。

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SBドライブ株式会社のCOO 宮田証(みやた・あかし)氏


神崎

なるほど。それでクルマがウェブサービス化するということですね。


須山(敬称略)

エンドユーザが「どこからどこに行きたい」とか「どこでモノを受け取りたい」とか、そういう情報はスマートフォンなどでYahoo!が一元的に管理するようになると考えています。


宮田

そんな時代が来たときに重要となるのは移動通信とウェブサービスです。ソフトバンクは移動通信やIoT(Internet of Things)にチカラを入れていて、「Things」のひとつにクルマがあると考えています。そしてYahoo!はインターネットやウェブサービスの国内最大級の事業者として、今までの知見を活かすことができる最も良い位置にあります。自動運転の新しい時代を迎えるに当たって先鞭をつける意味でも、ソフトバンクグループとして事業を開始しています。




SBドライブはどんな会社なのか?

神崎

ソフトバンクが描くクルマの未来像はイメージできました。SBドライブは何をする会社なのでしょうか。


佐治(敬称略)

SBドライブはクルマを造る会社ではなく、通信とサービス、技術をトータルで提供する会社です。通信というのは次世代の5Gを含めてクルマに最適化されたものを見据えています。通信には更にセキュリティも重要になってきます。既に、車載インフォメーション機器への期待が高まってきています。例えば、お客様がオススメ観光ルートをダウンロードして、そのルートを自動運転車に送って実際に走るとなると、インフォテーメントとクルマ制御系が繋がったときにセキュリティ技術がとても重要になります。ソフトバンク・テクノロジーという会社がスマートフォン向けのセキュリティ事業を行っているんですが、そこで培った技術がスマートカーでも活かせるということで、大手自動車メーカーやサプライヤーの方々も大変注視している分野となっています。


神崎

クルマや端末で稼ぐわけでもないし、通信費で稼ぐというものでもなく、通信費を含んだ自動運転システムの運用サービスを事業とするわけですね



自動運転の技術については「先進モビリティ」が自動車メーカーやサプライヤー、大学や研究機関、関連省庁と摺り合わせながら進めていく予定です。先進モビリティは、東京大学生産技術研究所 次世代モビリティ研究センターの技術を基に自動運転技術を軸とした先進的なモビリティ社会の実現を目指す企業です。

またSBドライブは、ソフトバンクとは通信回線や通信サービスで連携し、Yahoo!とはウェブサービスや広告で連携、先進モビリティが開発した自動運転車両をベースにして、公共交通機関であれば旅客事業者や自治体に、物流であれば物流事業者等に、カスタム車両と通信サービス、メンテナンス等をトータルパッケージで提供していく計画です。

まずは公共交通から手がけ、その第一弾として自動運転バスの実現に向けて北九州市と連携協定を締結したことを発表しています。今後、研究会を立ち上げて自治体や大学、地域の旅客事業者等と実現に向けた協議を進めていく考えです。


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スマートモビリティサービス実現に向けたネットワークSBドライブ 公式ホームページより

神崎

ソフトバンクグループは日本国内の移動通信事業者として一角を担っていますが、次世代の5Gは単に通信速度が上がるという変化ではなさそうですね。


佐治

はい。ユーザにとって通信料金は安ければ安いほど良いというところがあります。そのため今後通信スピードが100倍速くなったからといって、100倍の通信料金がもらえるということにはなりません。しかし、将来の5Gの時代になると、自動運転バスに特化したネットワークや自動運転タクシーに特化したもの、それらの環境で実証実験を経て高い経験値を持った通信サービスに価値が見いだされ、専門性の高い通信ソリューションが求められていくと考えています。


神崎

Yahoo!が重要な位置にあるようですが、もう少し具体的に役割を教えてもらえますか?


宮田

Yahoo!は移動に関するコンテンツやサービスを持っています。例えば「Yahoo!地図」「Yahoo!乗換案内」「Yahoo!カーナビ」など移動することに役立つアプリや情報は多く利用されていますが、自動運転バスなど新しいモビリティにもいち早く連携して、移動そのもののポータルとしてユーザの皆様に利用して頂きたいと思っています。


須山

例えば、技術面ではYahoo!が持っているデータの解析技術や広告連携の技術を自動運転のサービスにも活かすことができます。地域の店舗と連携し、クーポンを出稿することでユーザの移動にかかる費用をゼロにする「O2O」(Online to Offline)での利用も考えられます。

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SBドライブ株式会社のCTO 須山温人(すやま・あつと)氏



公共交通から自動運転の実現を目指す

神崎

先日、北九州市との連携協定を発表しましたが、あの連携は北九州市で自動運転バスの導入をめざすということなのでしょうか。


宮田

現時点で完全な自動運転の実現には、技術的にも法律的にもハードルは高く難しいと考えています。だからといって技術や法律が揃うまで待っていればいいというものでもなくて、今からできることはやっていこうという考えのもとで北九州市と発表したのが自動運転バスのカタチです。
どこもかしこも走れる自動運転車に比べて、走行ルートが決まっている路線バスの方が、現状では実現性がはるかに高く、欧州でもこの夏から自動運転バスの実用モデルが始まろうとしています。



欧州では自動運転バスのプロジェクトが先行していて、2016年夏にはオランダのヴァーヘニンゲンで無人の自動運転シャトルバスの実用化が始まる予定です。6人乗りの小型のシャトルバスで走行時間は約17分、リモート監視による運行が予定されています。またスイスのシオンでも15人乗りのバスの運行が発表されていて、SBドライブではこのような事例を参考に、北九州市をはじめとして全国の自治体で自動運転バスの導入を推進することを最初のビジョンとして掲げています。

宮田

ただ、現在の公共バス事業がどこも成長しているかと言えばそうとも言えません。バスと言っても地域によって様々な課題とニーズがあります。例えば北九州市は地方都市でベッドタウンです。また、観光地であれば大勢の人が集まる場所や移動するルートがだいたい決まっていて、ベッドタウンと観光地ではバスに求められるニーズが異なります。震災復興を目指す地域にはまた別のニーズがあり、離島での利用、過疎が進む地域など、それぞれ別の課題とニーズがあります。それらの課題解決に向けた取り組みを並行して行っています。


佐治

北九州市は国家戦略特区に指定されている地域で、自動運転を実現するためにいろいろな実証実験を行うことができると考えています。今は未だありませんが自動運転車専用の道路とか、自動運転車に特化した信号、運転上のルールなどを作ったり試すことができる可能性があり、試験運用した結果や新たな知見から国に提案したり働きかけを行うことなどもやっていきたいと思っています。


神崎

北九州市の例ではどんなことからはじめて、いつ頃の実用化を目指すのでしょうか。


佐治

北九州市はバス網が発達している地域です。既存のバス網と重ならないところで、住民が喜んだり、赤字路線を補填するなどで自動運転バスの活用を検討していきます。そのためにまずは住民のニーズや公共交通網に関する調査研究から進め、配車アプリの開発やシステムの検証による利便性の追求、走行実験、地域活性化のロールモデル検証などを経て、2018年以降に実用化を目指す予定です。

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北九州市での実用化へ向けたスケジュール 住民のニーズや公共交通網に関する調査や研究会を行い、2018年以降の実用化をめざす


神崎

北九州市の例に限らず、公共交通機関の反応はどうですか?


佐治

日本全国、多くの公共交通機関の方は、自動運転はまだ先の話だろうと思いつつも、運転手が足りない、赤字路線があるが住民のことを考えると廃止にもできないなど、様々な課題も抱えているので、協業できる部分があれば使いたいと考えられています。




スマートモビリティ社会の実現へ できるところからやる

神崎

当面はパートナーを募集したり、自動運転バスの実現に向けた研究会が主な作業となりますか?


佐治

バスやタクシー等の旅客系と運送などの物流系がありますが、それぞれ分けて、できるところから始めようと考えています。その意味で私有地であったり、公道であっても制限区域を設けて自動運転の環境が整備できるところは、簡単なルートでも走らせることから始めようと思っています。

旅客系の場合、クルマや人が少なくて道路がガラガラだったり、駅から観光地までは一本道で自動運転バスがあるととても便利になって観光事業も盛り上がったり、ホテルや旅館、施設等の送迎車としての需要や期待度がとても大きい地域など、さまざまなケースがあります。最初は念のために運転手が乗った状態で自動運転を始めるかもしれませんが、そう言ったところから優先して、できるだけ早い時期に少しずつでも実現していきたいと思っています。

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自動運転を活用したサービス例 自動運転バスの定時運行からはじめ、徐々に運行範囲を拡げることでオンデマンド化が実現する(※北九州市とSBドライブとの連携協定関連資料より)


佐治

自動運転バスや送迎バスなど決まったルートでの運行をはじめていき、徐々に行けるところが増えて運行範囲が拡大すれば、オンデマンド化した「スマートモビリティ」の実現に繋がると思っています。


神崎

先進モビリティは自動隊列走行の技術を持っていますね。


佐治

高速道路における自動隊列走行の実証実験を検討しています。先進モビリティの青木社長が参加したNEDOのプロジェクトで、テストコース内(オープン前の高速道路)での実証実験を2013年に終えているので、今後どのようにその技術を実用化するか、大手物流事業者の方々と話を進めている最中です。
※NEDO:新エネルギー・産業技術総合開発機構


神崎

自動隊列走行は運転手が運転するトラックの後ろを自動運転車が隊列を組んで追従していくしくみですね。カルガモの親子のように。技術的なことは先進モビリティや自動車メーカーが研究していくと思いますが、SBドライブとしてはどのような課題に向けた検討が必要なのでしょうか。


佐治

ひとつは環境整備です。例えば東京-大阪間を有人運転のトラックが自動運転車を引き連れて移動する場合、どうしても運転手に多くの負担がかかるので、高速道路区間のサービスエリアなどで休む方法や手段が必要になります。これを具体的に研究したり検討するのも課題のひとつです。また、法律的には牽引が許可されている長さや、自動隊列走行が該当する電子牽引についての改定や制定などが必要になりますので、その働きかけが必要です。自動隊列走行ができるドライバーの育成やスキルの向上などの課題もあります。



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自動隊列運転のイメージ例 ※先進モビリティの公式ホームページより


自動運転車のレベル

SBドライブが物流分野で実現しようとしている自動隊列走行は、先頭車両は運転手が操縦するレベル2、後に続くのは完全自動運転のレベル4です。

自動運転にはレベル1〜4が設定されていて、レベル4が完全自動運転システムです。

レベル1:運転手が操縦 自動ブレーキ等の安全運転支援システムがサポート 実現済み
レベル2:運転手が操縦 自動運転に一時的な切り換え可能
レベル3:システムが操縦するが運転手は必要
レベル4:完全自動運転

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自動走行システムのレベルと実現期待時期 出典:内閣府 SIP(戦略的イノベーション創造プログラム)「自動走行システム 研究開発計画 2015」より

各レベルの内容を見るとわかりますが、レベル1は運転手が操縦して自動ブレーキなどの「高度運転支援システム」(ADAS:エーダス:Advanced Driving Assistant System)等が支援するシステムです。歩行者などの障害物がクルマの前に予期せず飛び出した場合、自動でブレーキ操作を行う機能も含まれていて、多くは実用化がはじまっています。

次の段階として実用化が期待されているのがレベル2です。運転手は必要で、一定の状況下において運転中、一時的に自動運転に切り換えるしくみのものです。渋滞で前のクルマと一定の間隔を保って低速走行したり(渋滞時追従支援システム:Traffic Assist)、高速道路で車線変更を行ったり、自動追従走行などが例になります。どちらもいくつかのメーカーによって技術的には実現していて、海外では実用化されているものもあります。日本では安定性と検証を進めると共に、法律の整備を待つ段階でもあります。



ソフトバンクグループの技術と知見を集結

神崎

ソフトバンクグループが自動運転技術を活用したサービスをやる「強み」は通信インフラとその技術、Yahoo!が持つ豊富なコンテンツや今まで培ってきた広告ネットワークやその技術ですか。


佐治

スマートモビリティ社会の実現には他にもたくさんの要素が必要です。

ソフトウェアでは、自動運転タクシーを呼び出すアプリ、運行ルートの管理や運行全般のマネジメントを行うツール、バスやタクシーの乗客にあわせて表示するリコメンド機能付き広告配信サービス、乗客の乗り心地の良い環境を提供するコンテンツやサービス、乗客の状態を把握するツールなど、さまざまなものが考えられます。

また、スマートフォンで提供しているツールやコンテンツ、ヘルスケア事業の知見、物流事業のネットワーク、地方自治体との連携も必要です。ソフトバンクグループにはこれらを専門に取り組んでいる会社がありますので、その技術や知見すべてが強みになります。

将来的に事業化が実現すれば、いろいろな地域のスマートカーで利用できるサービスの提供を目指しています。

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「スマートモビリティ社会をできるところから実現させていきたい」(佐治氏)



ソフトバンクグループはモバイルや、Pepperなどのロボティクスがお馴染みですが、実は前述の会話にも出たデータ分析やセキュリティ関連事業を行う「ソフトバンク・テクノロジー」、物流事業のロジティクスサポート事業を行う「SBフレームワークス」、人材紹介や就職紹介サイトを運営する「SBヒューマンキャピタル」などがあります。SBドライブではこれらのグループ企業と連携し、自動運転車におけるスマートカーの通信セキュリティ、スマート物流事業、自動運転で地域創生なども目指していく考えです。

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神崎 洋治

神崎洋治(こうざきようじ) TRISEC International,Inc.代表 「Pepperの衝撃! パーソナルロボットが変える社会とビジネス」(日経BP社)や「人工知能がよ~くわかる本」(秀和システム)の著者。 デジタルカメラ、ロボット、AI、インターネット、セキュリティなどに詳しいテクニカルライター兼コンサルタント。教員免許所有。PC周辺機器メーカーで商品企画、広告、販促、イベント等の責任者を担当。インターネット黎明期に独立してシリコンバレーに渡米。アスキー特派員として海外のベンチャー企業や新製品、各種イベントを取材。日経パソコンや日経ベストPC、月刊アスキー等で連載を執筆したほか、新聞等にも数多く寄稿。IT関連の著書多数(アマゾンの著者ページ)。

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