【医療ICTにMR活用】薬の保管場所をメガネ型端末が誘導!ホロレンズで調剤業務を効率化、ミスを防ぐ「調剤薬局支援システム」、シャンティが開発

株式会社シャンティは米Microsoft社製のホロレンズを使った「調剤薬局支援システム」を発表しました。膨大な在庫の中から薬を効率的、かつ正確に用意するために、注目されている「MR」技術を活用したシステムです。
処方箋を見るだけで、薬がどの棚に保管してあるかをホロレンズが光や矢印で視界に指し示してくれます。また、それぞれの薬をいくつ取ればいいかも表示されるので数量の間違いも防ぐことができます。


シャンティは今月より実証実験を開始し、実験結果を踏まえて改善を行い、来春には発売したい考えです。
実証実験を行う、神奈川県藤沢市の「あけぼの薬局」を取材しました。


ホロレンズを使った作業の流れ

シャンティが発表したシステムは、下記の流れで利用します。

まず、薬剤師は頭部にホロレンズを、指には非接触のセンサー装置を装着します。

ホロレンズを装着した薬剤師が処方箋を確認します。ホロレンズは処方箋を読み込み、記入されている薬剤を認識してデータベースと照合します。


用意すべき薬剤が薬局内のどこに保管されているかが、薬剤師が装着したホロレンズの視界に光や矢印で表示されます。


ホロレンズで見た視界。必要な薬が保管されている引き出しを光と矢印で知らせる

薬剤師はその指示に従って薬の棚に移動し、薬をとってトレーに入れます。その際に何錠(何シート)取るべきかも視界に表示されています。


棚から薬を取り出す際、指に装着した非接触のセンサーが予め棚に貼ってあるRFIDタグと通信し、薬に間違いがないかを照合します。もし、間違っていれば警告が表示されます。正しければ在庫管理システムと連携して在庫数量を変更します。


複数の薬を用意する場合は、次の薬の位置をホロレンズが表示しますので同様に作業を繰り返します。
ホロレンズは効率的な作業を促進するため、薬剤師が移動する導線も考慮します。例えば、棚が近い薬から順番に明示したり、複数人の薬剤師が調剤して交錯する環境では、ぶつからないようにルートを調整する機能も実装予定です。


処方箋で指示されたすべての薬剤の準備が完了したら、他の薬剤師による監査を受けます。複数のチェックによって投薬ミスを防ぐためで、これは多くの薬局で行われています。このとき、準備した薬剤の写真をホロレンズで撮影することができます。撮影した画像は、万が一のトラブルに備えて記録のためにサーバに自動送信して保管されます。

■ ホロレンズで見た視界の動画


MR、RFID無線通信、文字認識等、先進ICT技術を導入

このシステムでは複数の先端技術が利用されています。
ホロレンズはマイクロソフトが発売しているウェアラブル・コンピュータです。大きめのメガネのような形状ですが、これだけで単体のコンピュータです。実際の視界に、コンピュータが作りだした矢印やアイコン、文字や数値などを重ねて表示する技術が「MR」(Mixed Realityの略:複合現実と訳す)です。


ホロレンズは音声による操作にも対応しています。また、カメラも搭載されているので、装着したまま処方箋を読むことで、画像と文字認識機能を使って準備する薬を特定しています。
薬剤師が取った棚が正しいかどうかのチェックは「RFID」という無線技術を使って行われます。棚に貼ってあるRFIDタグに、薬剤師の指先に付けたセンサーが近付くと通信が行われ、正しい薬を取り出したかどうかの確認をしています。


指先に装着したセンサーが、棚の中に貼ってあるRFIDタグと通信する

RFIDタグ。非接触通信が可能なので、センサーを近づけるだけで正しい棚かどうかを判断できる。1枚のコストは50円前後


薬局における効率化の課題

薬局は医師の処方箋に従って、顧客に薬剤を正確に提供(投薬)することが仕事です。
ホロレンズを使った作業手順は既に解説したとおりですが、一般の薬局では次のような流れで薬が準備されています。

受付 処方箋を受け付ける
調剤 処方箋に記載されている薬を用意する
監査 用意した薬に間違いがないかを他の薬剤師が確認する
投薬 用意した薬を顧客に渡して会計を行う

ここで最も注意をはらうのが「薬の取り間違い」です。
薬剤の種類は10,000種類を超え、似ている名前の薬や成分が同じジェネリック薬(後発薬)などもあり、処方箋どおりに正確に用意するのには最新の注意と何重ものチェックを行っているのが実状です。

リンデロンVG(左)とV(右)など、名称が似ている薬やジェネリックなどがあり、取り間違いを防ぐことに最新の注意が必要

実証実験を行う「あけぼの薬局」の店長 曽我氏によれば「この薬局に在庫している薬の種類は約500〜600種類。大きな薬局では2,000~5,000種類以上を取り扱っているところもあります。種類が多いので最新の注意を払っていますが、棚から取る段階では取り間違いもまれに起こります。また、繁忙期などは、派遣された薬剤師が薬の用意を行いますが、場所に不慣れな場合は薬を探すのに相応の時間がかかり、取り間違いが起こる確率も高くなります。わたしたち薬局では、処方箋で指示された内容どおり正確に用意するために、必ず他の薬剤師が確認・照合するチェック作業を行っています。このシステムによって一連の作業が素早く効率的で正確に運用できるようになるか、実証実験で確認していきたいと思います」と語りました。

インタビューに応える「あけぼの薬局」の店長 曽我寿仁氏


医療現場にロボットやICTを促進

開発したシャンティによれば、この「調剤薬局支援システム」は100万円以下で販売することを目標に開発を進めているということです。また、薬を保管する棚の変更など、登録データの修正等は、パソコンなどを使って薬局側で簡単に行える管理ツールを用意する予定です。実証実験は来春まで行われて、明らかになった課題を改善していくことはもちろん、調剤薬局システムとの連携を進めていく予定です。

シャンティは「ロボットと共に 未来をみる」をテーマに、医療ICTの導入を進めています。過去にはソフトバンクの「Pepper」を問診や疾患啓発に活用するシステムを発表しています(関連記事を参照)。

神奈川県では「さがみロボット産業特区」の取組みとして、公募型「ロボット実証実験支援事業」を実施していますが、この「調剤薬局支援システム」もそのひとつとして採択されています。
また、シャンティはこのシステムのほかに「健康管理・健康啓発アプリ連動ロボットシステム」も実証実験支援事業に選ばれていて、現在、北里大学病院との連携を進めています。


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ロボスタ編集部

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