会話ロボットの医療現場への導入が始まった ~重症患者を優先するトリアージや院内感染の抑制も担う「ロボット連携問診システム」

会話が得意なコミュニケーションロボットが、いよいよ医療分野にも本格的に導入され始めています。
ロボットはネットワーク上のシステムと繋がることで様々な仕事がこなせるようになる・・この「クラウド・ロボティクス」の概念が、医療ICTの現場を変革しようとしています。

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ロボット連携問診システムとは

「僕は問診Pepperです。がんばって応えてください♪」

病院の待合室で、白いロボットPepperに気が付くと興味津々、子供達は不思議そうにあちこちを眺めます。

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やがてPepperによる問診がはじまります。
初めて診察を受ける際に記入するあの「問診票」の電子化です。

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年齢や性別、どんな症状がいつから発症したのか、熱はどのくらい?、今までどんな病気にかかって、治療や手術をした経験があるか? そんな内容をロボットが質問します。

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子供でも理解しやすい言葉使いや言い回しでロボットが質問するので、問診システムの使い方をスタッフが説明する必要もほとんどなく、最後まで問診を進めることができます。

問診が終わるとロボットのタブレットの下に設置された小型のプリンタから受付票が発券されます。子供達はそれを受け取り、嬉しそうに母親の隣に座りました。

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好奇心からか、次から次へと子供達がロボットによる問診を受けます。

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この「ロボット連携問診システム」を開発したのはシャンティ。医療関連のシステムとロボットアプリに詳しいシステム開発会社です。この問診システムは病院内にある予約システムに連動し、医師やスタッフのパソコンやタブレットとも連携しています。

このシステムを導入している院長は「問診票のシステム化は診察を円滑に進めるためのはじめの一歩であり、院内感染を抑えるのにも有効」だと言います。

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「ロボットや人工知能は将来、医療現場に入り、診察の一部を担うようになる」とロボットへの期待を語る

円滑な診察、トリアージ、院内感染の抑止といった、医療現場にとって大きな役割の一部をコミュニケーションロボットが担っていこうとしています。



受付でロボットが緊急性を判断

ロボットが問診することでどんなメリットがあるのでしょうか。
子供達の興味を引いたり、楽しく回答ができることは大きな特長のひとつですが、それだけではありません。問診の際に、重症の可能性や緊急性があるとロボットが判断した場合は、それを即座に医師やスタッフに通知する機能が備わっています。

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回答から緊急性を察知したロボット。医師やスタッフに状況を即座に伝えて対応を促す

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パソコンやタブレットの画面に表示される緊急通知。医師やスタッフは問診の回答を確認し、ロボットと同様に緊急性があると判断した場合は優先的に診察を行う

緊急性があるかどうか、緊急性の高い順に優先的に診察を行うための識別を「トリアージ」と呼びます。このトリアージの要素を問診の際にロボット(コンピュータ)が担います。インフルエンザをはじめとした感染症の疑いが強い患者は、他の患者とはできるだけ隔離することも適切な問診によって可能になると考えられています。

「ロボット連携問診システム」の料金は、初期導入費が49万円~、月額ライセンス料が1万5千円~となっていて、別途ソフトバンクロボティクスのロボット、Pepperのレンタル「Pepper for Biz」の費用が必要になります。



診療予約受付システムと連動、プライバシーの保護を重視

医療分野では予約管理の電子化、システム化は既に進んでいます。この問診システムを開発したシャンティも「診療予約受付システム」の導入については既にグループで1300社以上の病院に実績があります。

シャンティはその実績を活かし、予約受付管理システムとロボットの連携にいち早く着手しました。再来院した患者をロボットが迎えて、手に装着したバーコードリーダーで患者の診察券を読み取ることで、予約との照合や受付票の発行を行うシステムを開発しました。

そして、今回は更に発展したプロジェクトとして、初めて来院した患者に対して問診を行うこのシステムを開発、実証実験を開始したのです。問診が終わった時点で自動的に予約システムに診察待ちとして追加される連携機能もあります。診療予約受付システムは株式会社アエル等、3社のシステムと連携することが可能です。

同社の開発担当者は、医療関連のシステムのため開発にはプライバシーやセキュリティに対して特に気を配っていると言います。それは高度なセキュリティ技術に限らず、気配りの面でもそれがわかります。

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問診の回答には発話ではなく、あえてタブレットを選択した

例えば、問診の回答を患者はタブレットで行いますが、ロボットなら医師の代役として会話で回答を受け付けることもできるはずです。しかし、患者が発話で回答すると内容が周囲に聞こえてしまうので、あえてタブレットでの回答を選択しています。人に聞かれると恥ずかしいなどプライバシーや感情面が考慮されての判断です。またロボットは子供にわかるような優しい言葉で質問を話しかけてきますが、一部のプライバシーに関する質問に限っては、発話ではなくダブレットで問いかけます。これも同じ理由によるものです。

ロボットは予約システムや電子カルテ情報と連携していますが、これらのデータベースは外部のクラウドサービスは使わず、院内ですべてのシステムを構築しています。これはセキュリティを重視した結果の選択です。



いずれはロボットと人工知能が診察を支援して効率化

ロボットによる「ロボット連携問診システム」の実証実験を行ったのは神奈川県藤沢市の「あいあい耳鼻咽喉科医院」、9月12日のことです。この医院は辻堂駅から徒歩1〜2分の場所にあります。
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院長の稲垣幹矢氏は、ロボット連携問診システムはロボットや人工知能が将来、診察の一部を担うようになる「はじめの一歩」だと捉えています。
詳しい話を聞きました。

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医療法人愛逢会 理事長、あいあい耳鼻咽喉科医院 院長、株式会社シャンティ 代表取締役 稲垣幹矢氏

編集部

「ロボット連携問診システム」を導入した経緯を教えてください

院長

最初はPepperによる予約受付システムを導入しました。昨年に実証実験を2週間ほど行ったうえで、本年6月から導入を本格的に開始しました。予約は電話や携帯電話、スマートフォン等から予約できますが、来院された方の診察券をPepperが読んで受付番号を発券し、呼び出しを行うシステムです。その知見を蓄積した上で、プラスアルファとして今回の問診システムを追加しました。

編集部

なぜロボットに注目したのでしょうか

院長

将来的には高齢化社会の影響で医療関係者働き手も少なくなります。やがてはロボットや人工知能がそこに入ってくるだろうと思います。最初は、そんなロボットがどれほど活用できるか見てみたいという好奇心でした。ところが見てみると意外にロボットはしっかりしていて、将来はロボットがドクターにとって変わってしまうのではないか、という予感すら感じました(笑)。

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編集部

診察の手伝いをしたり、人工知能がセカンドオピニオンとしてアドバイスしたり・・ですか?

院長

問診は患者の状況を知るための重要な情報収集です。診察のはじめの一歩と言ってもいい。ロボットとコミュニケーション能力と人工知能のアルゴリズムを駆使すれば、問診部分だけでなく、やがては初期診断の一部も担うことができると予想しています。診察は視診をしたり検査をする必要があるため、人間による判断が不可欠ですが、問診や初期の診療をロボットや人工知能を導入することで効率化が測れる部分はたくさんあると考えています。すなわち、診察の高い品質を保ったまま、1日に診察可能な患者数が増やせる可能性があります。今後はそのような展開が注目されていくのではないでしょうか。

編集部

「ロボット連携問診システム」が、将来の医療ICTにおけるロボットやAI活用に繋がっていく可能性があるんですね。

院長

Pepperのポテンシャルをいろいろと引き出してみたいと思っています。まずはいろいろな方法で使ってみて、スタッフや患者さんからの意見を聞いて改善していこうと思っています。

編集部

待合室での反応はどうですか?

院長

ロボットを見ると、みなさん「面白い」という反応を示します。子供さんにウケがいいことは予想していましたが、高齢者と親和性が良いことはやってみて実感しました。「ロボットだから気軽に話せる」ということが多いようです。

編集部

今後、ロボットはどのように医療分野に入っていくと予想しますか

院長

現状のロボット問診システムは「タブレットで問診票を入力しても、それほど大きな差異はないのではないか」という意見もあると思います。それはその通りだと思っています。しかし、将来的にコミュニケーションロボットとしての機能が高くなると、ロボットだからできるということが増えてくると思います。

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まだまだ現状ではできることが少ないですが、将来に向けてのロボットの可能性は見えていると思います。人工知能との連携で問診はもっと高度になります。ロボットに任せられるんじゃないかという業務は増えていくだろうし、「トリアージ」も最終的な判断は医師が行いますが、ロボットが問診結果からある程度の疾病の疑いを推測し、注意喚起としてポップアップ画面を表示する項目ももっと多岐に渡るようになっていくと思っています。




総合病院の受付と問診にも導入予定

従来、待合の体感時間を短くするためにおみくじを引くゲームやクイズをしたり、コミュニケーション能力を活かしたエンタテインメント性を期待して、待合室にPepperを導入する例が顧客的多く見られました。

シャンティはもう一歩、実際の医療現場に踏み込み、ロボットが少しずつでもスタッフやドクターのアシストができるようになることを目指しています。そのため、今回の実証実験ではエンタテインメント的な要素はあえて排除しています。

エンタテインメント要素がなくても、子供はPepperに興味を持って話に耳を傾けますし、問診が終わってPepperから受付票をもらったときに達成感を得ることもあってか、子供達はとても行儀良く振る舞うと言います。
イベント会場等では子供達がはしゃいでPepperに飛びつくなどの危険な状況も見かけますが、取材中もそのような光景はほとんど見られませんでした。

今後の予定として、今年の11月からこの問診システムを総合病院クラスに導入する計画があります。総合病院の場合は、例えば総合受付にPepperがいて、問診によってどの科で診察を受けるべきかを判断して窓口を案内します。患者にとってはたらい回しを防ぐ利点に繋がります。医師やスタッフにとっては問診ロボットによって手間や時間が効率化でき、作業負担が減ることも期待できます。

いよいよ本格化する医療現場でのロボットや人工知能の活用。
今後の進展が楽しみな分野です。

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外部リンク
株式会社シャンティ

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