日本ストライカーが本社を拡張移転、ショールーム付きに 人工関節置換術用ロボット「Mako」訓練施設も

日本ストライカーは医療従事者の製品体験価値向上を目指し本社を拡張移転したと発表し、2025年4月24日に記者会見と内覧会を開いた。西新宿の新宿ファーストタワーにある新本社オフィスでは、整形外科領域で日本で初めて薬事承認を受けたロボティックアーム製品である手術支援ロボット「Mako(メイコー)」システム、救急医療の現場で導入が進む電動ストレッチャーなど、ストライカーが提供するソリューションを医療従事者が体験できるショールームも整備した。
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■グローバルな医療テクノロジー企業 ストライカー 創業80年近く経った今もCAGR16%で成長中
日本ストライカー株式会社 代表取締役社長の水澤聡氏は、同社の事業環境や今後の成長戦略についてプレゼンを行なった。水澤氏はまず「今回の本社移転は単なる引越しではなく、新たなチャプターとして出発するマイルストーンだ」と述べた。
日本ストライカーは、米国・ミシガン州に本社を置く、グローバルな医療機器メーカー・ストライカーコーポレーションの日本法人。ミッションは「Together with our customers, we are driven to make healthcare better(顧客と一体になってより良い医療を実現していく)」。
ストライカーは1946年創業。創業者は整形外科医のホーマー・ストライカー。彼は当時の医療機器に不満を持ち、昼間に診療を行いながら、夜間に自宅で新たな医療機器を開発していったという。1937年には体位を変えやすくする回転式ベッドを開発、さらに1946年にギブスカッターなどを開発した。
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現在のCEOはケビン・ロボ氏。現在、メドサージ(医療・手術用機器)、ニューロテクノロジー、オーソペディクス(整形外科)関連分野などの領域において、医療機器・サービスを提供しており、2023年実績で75カ国以上において53,000人の社員が1億5000万人の患者に貢献している。上場以来、コロナ禍だった2022年以外は、売上高平均成長率16%で成長を続けている。グローバル売上高は226億米ドル。成長を実現するためのドライバーがイノベーティブな製品で、M&Aも活発に行なっている。医師の意見を重視して開発やM&Aを行っているという。近年は特に、デジタル技術、ロボット技術、AIなどを搭載した製品群を提供している。
■日本法人は5つの物流拠点、7つの事業部で製品導入を推進
日本でも同社は積極的な投資を続けており、国内に5つの物流拠点を持っている。従業員数は2024年12月末の数字で1,132名。脳や腹部の末梢血管を扱う事業部や脳外科や顎顔面を扱う事業部、救急医療や集中治療関連製品を扱う事業部などのほか、人工関節手術用製品、脊椎手術用製品、内視鏡手術システム、骨折・外傷治療手術用製品を扱う事業部など7事業部があり、それぞれが連携することで事業を進めている。
水澤氏は「ペイシェントジャーニーを一貫してサポートする。One Strykerでのトータルソリューションを提案する」と語った。昨今は病院経営も厳しくなっているが、導入先のフィナンシャルサポートも行いながら、製品導入を進めているという。
今回の本社移転は中期経営計画のマイルストーンの一つ。大規模な医師向けセミナーも行えるスペースもあり、「日本の医療の向上に努めたい」と語った。
■オフィスコンセプトは「Upward Spiral」
ショールームでは救急から診断、治療計画、手術、術後の回復支援まで、幅広い疾患領域に対応するストライカーの製品が一堂に展示されている。施設のポイントについては、同社コーポレートコミュニケーション・ブランディング本部長の山代有紀氏が紹介した。
山代氏は「Upward Spiral」という理念を紹介した。「社内外のステークホルダーを巻き込みながらビジネスを大きくし、医療の未来を具現化するという方向性を示す言葉だ」と述べ、同社オフィスのコンセプトを紹介した。ミッションとバリューを掲示した入り口のレセプションから、同心円状にスパイラルが伸びていくようなデザインとなっているという。
ショールームは各科の商品が並べられており、領域を超えて同社の製品を紹介できる点がメリットとなっている。ワークショップルーム「C-Lab」では実際に体験して製品特徴を学べる。その様子をセミナールームにリアルタイムに送って学ぶこともできる。
人工関節手術を支援するロボティックシステムのMako(メイコー)システムのためのトレーニングセンターを8Fの入り口に設けたほか、医療従事者以外のステークホルダー向けのスペースも設けている。同時通訳システムなど海外との連携もしやすい会議室も備えた。
なおデザインエッセンスは日本庭園。グローバル5万人の社員に対して、「日本の東京のオフィス」であることを感じてもらうために日本庭園デザインを一部に取り込んだ。植木やしつらえなどを日本風にしたほか、壁も一部左官仕上げになっている。山代氏は「コーポレートブランドを体現・発信する場所としたい」と語った。
■人工股関節・膝関節置換術に用いられる手術支援ロボット「Mako(メイコー)」システム
人工関節置換術用のロボット「Mako(メイコー)」システムについてはもう少し詳しく紹介したい。Makoは2006年に米国で開発されたロボティックアーム支援システムである。ロボットといっても完全自動で手術を行うわけではない。人間の医師がロボットアームを動かすことで、骨を切るアシストを行う。
日本国内ではMakoによる人工股関節全置換術(THA)が2017年10月に薬事承認。そして2019年6月1日付で保険適用を取得して本格的に販売開始された。その後、人工膝関節全置換術(TKA)への適用も認められた。変形性股関節症や変形性膝関節症などで、人工関節置換を行うための手術に用いられている。人工関節を入れるためには、まず骨を切って位置や空間を確保する必要がある。そのための手術を支援する。
「Mako」システムは、ロボティックアーム、カメラスタンドモジュール、ガイダンスカートからなる。まずCT撮影画像をもとに策定された3D術前計画にもとづいて、事前に骨盤傾斜や可動域シミュレーションを行なって、インプラント(人工関節)設置位置を検証する。そしてターゲットとなる骨を切除する角度や深さを設定する。精度は0.1度,0.5mm単位。そしてロボットアーム先端に付けられたデバイスを医師が操作することで手術を行う。
患者の患部にはピンを入れて「骨盤トラッカー」を固定する。これがマーカーとなる。カメラがこの骨盤トラッカーの動きを見ることで、システムは関節との位置関係を把握する。術中に患者の体位が動いても追従する。
骨を切除するときに、治療計画にない位置に刃先が差し掛かると、自動的にロボットアームにロックがかかり、動きを制御することで、血管や人体、神経など周囲の組織を保護する。骨の削り過ぎも防げる。これらの機能により安全かつ低侵襲で、正確なインプラントの設置や、従来の術式よりも早期の回復や在院日数短縮が可能になる。
バージョンアップを続けており、現在の「Mako」はハードウェア・ソフトウェアともに3代目。術前計画のソフトウェアも2代目となっているとのことだった。
適用した症例数は2018年以降の6年間で3万例。日本での導入台数は非開示だが、ストライカーが日本導入前に見積もった以上のペースで導入されているという。ストライカーでは年間数百症例の手術を行う病院を見込み顧客として考えていたが、「症例数が多くなくてもMakoを導入することで集客しようとしている病院もある。新しい機材を使って良い結果を出したいと思っている医師も多い。我々の想像を上回る勢いで普及している」(水澤氏)とのことだった。エビデンスもだいぶ出てきているという。
ロボットの見方 森山和道コラム
日本ストライカー
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森山 和道
フリーランスのサイエンスライター。1970年生。愛媛県宇和島市出身。1993年に広島大学理学部地質学科卒業。同年、NHKにディレクターとして入局。教育番組、芸能系生放送番組、ポップな科学番組等の制作に従事する。1997年8月末日退職。フリーライターになる。現在、科学技術分野全般を対象に取材執筆を行う。特に脳科学、ロボティクス、インターフェースデザイン分野。研究者インタビューを得意とする。WEB:http://moriyama.com/ Twitter:https://twitter.com/kmoriyama 著書:ロボットパークは大さわぎ! (学研まんが科学ふしぎクエスト)が好評発売中!