New Innovations、ハンバーガー調理ロボット「Burger Cooker」の開発を発表 累計調達額は68.1億円に

株式会社New Innovationsは2025年5月27日、ハンバーガー調理ロボット「Burger Cooker」を開発していることと、店舗向け注文KIOSK端末・調理指示システムの統合ソリューション「Store Meister」を発表した。また宿泊業の清掃・搬送業務にも進出する。

合わせてシリーズBラウンドの資金調達も発表された。スパークス・アセット・マネジメント株式会社が運営する未来創生3号ファンドをはじめとする10社および経営株主等を引受先とした約11.6億円の第三者割当増資を実施した。これにより、New Innovationsの累計調達額は68.1億円となった。

New Innovations代表取締役 CEO 兼 CTO の中尾渓人氏(左)と取締役COO兼CFOの山田 奨氏(右)。New Innovationsの累計調達額は68.1億円に

「必ずしも飲食業のDXだけを目指しているわけではない」と強調するNew Innovations代表取締役 CEO 兼 CTO の中尾渓人(なかお・けいと)氏にオンラインで話を聞いた。


■New Innovationsの現在

New Innovations代表取締役 CEO 兼 CTO 中尾渓人(なかお・けいと)氏

New Innovationsは、2018年に中尾氏が創業したスタートアップである。当時、中尾氏は17歳で、高校在学中だった。もともとはロボット製作費用や大会出場費用を稼ぐために既にシステム開発事業を手掛けており、取引先が300を超えたことから同社を創業したという。「人類を前に進め、人々を幸せにする」を理念としOMO(Online Merges with Offline)を主軸とする事業を展開している。2025年5月現在の社員数は40名弱。


■スマートコーヒースタンド「root C(ルートシー)」はソリューションサービスを目指す

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2021年にはスマートコーヒースタンド「root C(ルートシー)」をリリースした。「root C」はスマホアプリを通じて高品質コーヒーを注文・決済できるサービスだ。ユーザーは種類や受け取り場所、時間を指定すると、その時間にコーヒーが「root C」のロッカーに納められているので、それを受け取るという仕組みだ。2025年5月現在、19箇所で運営されている。メカの最終アセンブリーやソフトウェアは内製である。補充などの業務はパートナー企業に委託している。

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現時点では自社直営での出店は少し控えているという。2025年3月には「法人向けソリューションプラン」をリリースした。要するに「root C」を無人販売プラットフォームとして提供し、各社のブランドで活用してもらうというサービスだ。

「2023年くらいからカフェチェーンと話をはじめ、現在では7大カフェチェーンほぼ全てと話をしている」という。「我々自身が肌感を持って実事業をやっていることは大事だが、コーヒーチェーンを目指しているわけではない」と考えて、ソリューションとして「root C」を提供する仕組みを進めている。「2025年内には象徴的な提携の発表をすることが目標」だという。

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■かき氷の全自動調理ロボット「Kakigori Maker」

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2024年には「日本国内や韓国などで、かき氷のマーケットが大きくなっている」ことから、サントリーと話を進め、かき氷の全自動調理ロボット「Kakigori Maker」を発表した。スカラロボットやデプスセンサを組み合わせたロボットで、現在の展開台数は30台程度。サントリーグループのプロントコーポレーション社の運営店舗「和カフェ Tsumugi」のほか、大阪・関西万博におけるサントリー社の出展店舗で活用されている。

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かき氷の単価は上昇しており、かき氷店の坪売上は上がっている。ロボットを使うことで工数や人件費を削減できるだけでなく、どの店でもベテランなみのかき氷を作ることができるようになる。スタッフの腱鞘炎も防げる。なおプロント以外の他の会社とは「来年の夏の商談をしている」とのことだった。


■製造業向けクラウド図面管理システム「図面バンク」

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これら飲食向けソリューションのほか、2023年からは製造業向けクラウド図面管理システム「図面バンク」というサービスも展開している。図面と関連書類を紐づけて保存できる。過去の図面から類似形状を即座に検索することで、図面を探す手間と人件費を4割削減できるとしている。

もともとは自社用に独自で開発していた図面管理システムを外販したものだ。外部のツールは「機能面と価格面が微妙」だったという。価格は、現在は月額4.8万円(税別)からとなっているが、当初想定していた板金加工業者など小規模な会社だけではなく、装置メーカーや大手製造業も活用してくれるようになったことから、エンタープライズシステムと組み合わせるといった使い方も増え、料金も変わってきているという。総ユーザー数等は非公開だが「4桁くらいのオーダー」とのことだった。


■省スペースで設置可能なハンバーガー全自動調理ロボット「Burger Cooker」は開発中

「Burger Cooker」外観。大型冷蔵庫くらいの大きさで、内部で素材の組み立て・包装を行う。ハンバーガーは中央ロッカー部に出てくる

さて今回、新たに開発が発表された「Burger Cooker(バーガークッカー)」は、モバイルオーダーやPOSシステムと連携して自動でハンバーガーを作るロボットだ。調理過程の自動化によってヒューマンエラーや衛生リスクを低減。ピークタイムでも均質な商品提供を実現する。また人件費・教育コストを削減しながら、高い品質と生産性を両立する全自動調理ロボットだとされている。最大60食分の食材を保管可能だとされている。

ただし、公開されたのは外観のみ。あくまで「開発を行っていること」が公開されたにすぎない。

New Innovationsで2021年から開発を行っていた自動調理ロボットの一つで、肉自体は焼かない。「肉は焼かないが、加熱、冷却、保冷、保温などを自動化し、あらかじめセットしておいたバンズ、パティ、トマトやチーズ、レタス、マヨネーズやケチャップなど各種ソース類をアッセンブリして提供できるロボット」(中尾氏)だという。

さらに包装もできるという。バーガーチェーンの包装方式には紙で包むタイプ、ボックスに入れるタイプ、そしてパウチで圧着するタイプがある。いずれの包装方式も取ることができるという。

中尾氏が特にプッシュするのは「Burger Cooker」のサイズだ。大きさは幅900mm×高さ1800mm×奥行き750mm。小型化することで全体が「5人家族用の大型冷蔵庫くらいのサイズに収まっている」。そのため「既存の業務用冷蔵庫を一個撤去してもらえれば、そこに『Burger Cooker』が収まる」そうだ。

「これが弊社の一番の強み。我々は『車輪の再発明』はしないが、枯れた技術+新しい技術で、今までなかったものを作る」と述べ、「横幅5mとか、セントラルキッチンにしか入らないサイズでハンバーガーを作るのでは意味がないと考えて、スペースでいうと左右ではなく上下を使って調理をするようにしたことが一番の特徴」だと語った。

生産能力は最大120食/時、1食あたり55秒/食とされている。ただし実物の詳細は公開されていないので、実際にハンバーガーが出来上がって出てくるのを目で見るまでは期待するしかない。今回は、「開発段階が進んだ。開発を模索していたフェーズから『できるぞ』となった」ことと、ビジネス上の判断で、開発していること自体の発表となったとのことだった。

「現在はグローバルな大手のハンバーガーチェーン数社と話をしている状況。先方の材料を支給して頂いて、我々の本社で実際にハンバーガーを作り、包装まで行って、先方の商品企画や品質保証の人に実際に食べてもらっている」(中尾氏)。そして「このあと先方のテストキッチンに持っていって、実際に動かすことになる」とのことで、「2025年内にコンシューマーの目に触れる場所に設置されることはまずない」という。

なお、「ハンバーガー以外の食べ物のロボットの開発も行っている」そうだ。今後の発表に期待しよう。


■店舗向け注文KIOSK端末・調理指示システムの統合ソリューション「Store Meister」

非対面ソリューション「Store Meister」。2021年にブルーボトルコーヒーのポップアップストアでも活用された

合わせて発表された店舗向け注文KIOSK端末・調理指示システムの統合ソリューション「Store Meister(ストア・マイスター)」は、店舗におけるオーダー管理、顧客管理ソリューションである。KDS(キッチンディスプレイシステム)による各種オペレーションのデジタル化のほか、注文や決済を無人化するKIOSK端末を提供する。

従来から同社が持っている無人で商品を受け渡せる設備、付随する決済システムそのほかをまとめて、ソリューション・パッケージとしたものだ。今までも個別取引で開発していたものをプロダクト化した。現在、ある書店向けにも展開しようとしているとのことだった。


■技術の発展と生活の豊かさを同じ方向に

今回の第三者割当増資の引受先

New Innovationsは、ロボット開発や飲食店向けソリューションを展開することを目的とした会社ではない。では具体的には何を目指しているのだろうか。

「テクノロジーによる発展と、人々の豊かさや幸せが同じベクトルを向いて推進できるのであれば何でもいいです。科学技術だけが進歩して、人のつながりや生活の営みがなくなることは目指したくない。異常な射倖心を煽ったり中毒を高めるためのものも自分たちはやりたくない。人間は生身で存在している。情報処理だけではなく、結局はフィジカル世界のアクチュエーションとセンシングをやらなければならない。リアルな世界との接点が絶対に必要。だから結局はロボティクスに帰ってくる。実体が存在していて、生産行為を挟む産業構造のなかで戦っていくことは変わらない。僕らとしては最終製品を売って世界に出荷していくことが目標なので、次世代メーカーとしてのありようを目指している」(中尾氏)。

どんなことが楽しいのかとも聞いてみた。「自分たちが関わった製品が実装されていって、自分が商業施設に行ったときに目にとまるとか、気にせずに飲食に行くと動いていたりすると、なんとも言えない喜びを感じます。自分たちが作って出荷したものが、なんてことなく普通に毎日使われる機械になって動いている、そんな状態になることがすごく嬉しいです」とのことだった。

New Innovationsでは現在、技術開発だけではなく、営業や事業開発、マーケティング、生産管理などの人材を募集しているとのことだ。

関連サイト
株式会社New Innovations

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森山 和道

フリーランスのサイエンスライター。1970年生。愛媛県宇和島市出身。1993年に広島大学理学部地質学科卒業。同年、NHKにディレクターとして入局。教育番組、芸能系生放送番組、ポップな科学番組等の制作に従事する。1997年8月末日退職。フリーライターになる。現在、科学技術分野全般を対象に取材執筆を行う。特に脳科学、ロボティクス、インターフェースデザイン分野。研究者インタビューを得意とする。WEB:http://moriyama.com/ Twitter:https://twitter.com/kmoriyama 著書:ロボットパークは大さわぎ! (学研まんが科学ふしぎクエスト)が好評発売中!

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