【IoT業界探訪vol.17】LINE BOT AWARDグランプリ受賞のアンドハンドに聞く「アイデア実現のための秘訣」

今年4月に行われたLINE BOT AWARDSでグランプリを受賞した「&HAND / アンドハンド」が、今年12月11日から5日間、東京メトロ銀座線で実証実験を開始する。

これはなかなか珍しいニュースだ。なぜなら「アンドハンド」は、ワークショップから生まれたアイデアだからである。近年、アイデアソン・ハッカソンなどのワークショップやコンテストで広くアイデアを募る機会が増えているが、受賞作品が社会実装に至るケースはそう多くない。


12/11~15に銀座線にて実施される実証実験の告知。車内広告などで広くサポーターを募っている。

社会実装には、賞を見据えた即席チームでは乗り越えるのが難しい多くの問題が発生する。それらを乗り越え、大日本印刷、東京メトロ、LINEとの実証実験に至ったアンドハンド。「アイデアを実現するための秘訣」について「アンドハンド」プロジェクトの中心人物であるワークショップデザイナーのタキザワケイタさんにお話を聞いてみた。


「アンドハンド」プロジェクトの中心人物であるワークショップデザイナーのタキザワケイタさん


アンドハンドの紹介

「アンドハンド」は、BeaconとLINEをつかって、「交通困難者」と「手助けしたい人」をマッチングするサービスだ。

例えば、電車で座っていて、目の前に立っている女性が妊婦さんかどうかに確信が持てず、席を譲りそびれてしまった、という経験はないだろうか。

妊婦さんだけでなく、障害や加齢が原因で、交通機関を使うことに難しさを感じている「交通困難者」と呼ばれる方々は、「周囲に助けを求めること」の敷居の高さから、限界を超えて我慢してしまうことが多いという。

そんな時に、交通困難者は専用のBeaconデバイスを携帯し、電源をONにすることで、周囲の「手助けする意思のある登録サポーター」のLINEに「近くに困っている方がいます」といったメッセージを送信することができる。

登録サポーターは、使い慣れたLINEでアンドハンドのChatBotと会話し、交通困難者が必要としているサポートをスムーズに提供出来るという仕組みだ。


交通困難者がサポートを必要としたときに即座に手が伸ばせるよう設計されたアンドハンド用ビーコンモジュール(試作)。左上から、マタニティマーク型、聴覚障碍者向けキーホルダー型、外国人旅行者用バングル型、ヘルプマーク型、視覚障碍者向け白状取り付け型。

妊娠初期の妊婦同様、外見からはわかりにくい聴覚障碍者の悩み。電車の遅延情報などをアナウンスで把握することが難しいが、周囲には助けを求めづらいという。

通信距離が短いBeaconの特性を生かし、手を差し伸べられる範囲で助けを求めている人と、サポーターをつなぐのがアンドハンドの特徴である。


サポート依頼のテンプレートをうまく利用することでアンドハンドは様々な交通困難者にフィットしたサービスを提供するインフラとして活用される。


アンドハンド誕生のきっかけ

アンドハンドは、上手くマッチングができていない「やさしさ」をテクノロジーの力で行うという新しい形の珍しいサービスだ。そして、サービスが生まれたきっかけも珍しいものだった。

ワークショップデザイナーとしての10年以上のキャリアを持つタキザワさんは「ワークショップの可能性を突き詰めてみたいという思いがあった」と語る。

長いキャリアの中、様々な形のワークショップを運営してきたというタキザワさん。アンドハンド創出プロセスの報告資料(特に71ページ以降)では懐の深さがうかがい知れる。

ワークショップのアウトプットの8割は、参加者で決まってしまう。しかし、その中でもプログラムデザインやファシリテーションによって参加者の能力を引き上げ、質の高いアウトプットへと導くのがワークショップデザイナーの腕の見せ所だ。

では、もし能力の高いメンバーだけでワークショップをやったら、どんな共創の場が生まれ、どんなアウトプットになるのか?タキザワさんは試してみたかったのだという。

そして、『最強のメンバーでのワークショップから生まれたアイデア』は、Google主催のプロジェクト「Android Experiments OBJECT」での2作品のグランプリを受賞、「LINE BOT AWARDS」でもグランプリを受賞した。



プロジェクトを継続させるために

さて、今回の記事の目的、「受賞後のプロジェクトを継続して開発していくためには」に迫るため、タキザワさんからのお話に注目してみよう。

タキザワさんが言うには、プロジェクトを継続する上での障害は大きく分けて3つあるという。

大きなものは、モチベーションの変化、状況の変化、役割の変化だ。
その乗り越え方についてタキザワさんに語ってもらった。


モチベーションの変化への対応

編集部

受賞後も継続して開発されているというのは非常に珍しいケースだと思うんですが、どのようにモチベーションを維持しているんでしょうか


タキザワ

コンテストに応募するフェーズは、自由にアイデアを発想していくので、刺激的で楽しいです。しかし、受賞後の社会実装のフェーズでは、細かい交渉ごとやスケジュール管理など、いわゆる「面倒な調整業務」がほとんどになります。そこに対してモチベーションを持ってもらうには、マインドセットをし直す必要があります。そこで一度チームを解散し、メンバーを再構成しました。その中で意識したのは、「プロジェクトの辞め方」です。


アンドハンドのアイデア創出時のメンバー。クリエイティビティを重視したメンバー構成はワクワクするが、調整業務にシフトするにはマインドセットの変更が必要かもしれない。

編集部

人を集める、とか、辞めさせないではなく、「プロジェクトの辞め方」ですか?


タキザワ

メンバーがチームを抜けれるタイミングをつくってあげることで、目的が変化したプロジェクトに自分が参加する意義を改めて考え直してもらったんです。現在の「アンドハンド」プロジェクトチームは、「タキザワの知人で組んだ最強打線でコンテストに応募しませんか?」と声をかけて結成し、最初にメンバー全員でこのプロジェクトで成し遂げたいことを表明する所から始めました。
「最強メンバーとして選ばれた」という自信と、プロジェクトに参加する意義を全員で共有することで、モチベーションをキープして受賞まで走りぬくことが出来ました。


それぞれのプロジェクトへの参加意義と目的を表明する。自分の中での確認や、相互理解だけでなく、プロジェクトを多面的にみるためにも良いプロセスだ。

タキザワ

そして、受賞後に一区切りつけたんです。「この後の社会実装のフェーズは、これまでと違って面倒くさいことばかり。このタイミングで辞めても十分にキャリアに活かせる。辞めるなら今です。」ということを伝えて、チームを解散しました。そのうえで、今後の事業化フェーズに参加したいメンバーだけ集まってもらいました。


編集部

最終的には、何名の方が集まったのでしょうか?


タキザワ

Google・LINEのコンテストでのグランプリ受賞メンバーは8名でしたが、誰も辞めませんでした。そして、今回も同様に参加意義を表明する事から始めました。なんとなくで参加するのではなく、自らのミッションを持ち、それを全員で共有している状態は、チームとしての一体感を生み出します。また、LNE BOT AWARDSで獲得した賞金を開発費に使うことも、全員の意思で決めました。


編集部

活動資金があるという事は活動を継続する上で心強いですし、自分の賞金を有効に使いたいというモチベーションにも繋がるかもしれませんね。




状況の変化

編集部

メンバーの全員が本業を持っているということは、状況の変化で参加が継続できなくなる可能性もありますよね。そのような場合はどのように対処しているんですか?


タキザワ

本業の状況やライフイベントなどによって参加機会が減ってしまう場合でも、周囲が理解しやすい状況を作りました。最初のワークショップで、アイスブレイクと自己紹介を兼ねて「最近の個人的な悩み事」を共有してもらったんです。良い所だけでなく悪い所もお互いに理解することは非常に重要です。そうすることで休みやすく、辞めやすく、そして戻ってきやすいチームにつながったと思います。

現在、メンバーは増えているのですが、「いつでも辞められる」からこそ続けられる。そして、ヴィジョンに共感いただいた方が、気軽に参加できるということを意識しています。


互いのパーソナルな困りごとの共有。アイデアの種になるだけでなく、社会的な役割やスキルだけにとどまらない深い相互理解につながった。



役割の変化

編集部

受賞前後でチームの役割が変化するというお話をされていましたが、まずはその理由から教えていただけますか。


タキザワ

アンドハンドのような社会インフラを実装するようなサービスの場合、個人が寄り集まったチームやスタートアップではハードルが高いですが、大手企業と提携することで実現の確率が高まるということは十分にありえます。自分たちの場合は、さまざまな可能性を検討した上で「アンドハンドが目指す社会インフラを実現できる企業と組む」という判断をし、複数の企業にアプローチした結果、大日本印刷、東京メトロ、LINEとの提携に到りました。



LINE、大日本印刷、東京メトロという、アンドハンド実現に向けて連携した名だたる企業達。特に大日本印刷との連携に際してはチームメンバーであり、同社社員である松尾さん(写真左から3人目)が経営層と交渉したという。

編集部

どのように進めて、どのような役割分担をされたのですか。


タキザワ

まず、個人の集まりだと対企業とのやりとりに限界があるので、コアメンバーを中心にPLAYERSという一般社団法人を設立しました。アンドハンドの社会実装を目指す際に、インフラ化については提携企業で実現できると確信していますが、それだけではダメで、アンドハンドのサービスやヴィジョンをより多くの人に知ってもらい、共感してもらい、サポーターになってもらう必要があります。
「アンドハンド」プロジェクトチームはサービスのエバンジェリストとして、ヴィジョンの発信や刷新、先行リサーチやプロトタイプ開発、展示会への出展、HPやSNSでの情報発信などを通じてサポーターを増やし、事業化の支援をしています。



実証実験に向け、様々なイベントやメディア露出でサポーターへの認知を図る。サービスの向上にはサポーターへの認知率が欠かせないアンドハンドでは必須の役割だ。

編集部

スーパープログラマーがいるようなチームだったとしても、堅牢な社会インフラを構築するのは大きな企業さんに任せた方がよいかもしれません。サービスのヴィジョンと方向性が一致したプロトタイプをスピーディーに開発し、それを発信することに特化したほうが持ち味が活かせるような気がします。




一番大切なモチベーションの源泉とは

編集部

今回のように大きな企業を巻き込んだプロジェクトになった場合、「後には引けない」という状況になると思うんですが、それもプロジェクトをやりきるモチベーションにつながったという事はないでしょうか。


タキザワ

それも要因の一つとしてあると思います。LINEさんからは4月に受賞後、「プロジェクトの進捗を6月のLINE CONFERENCEで発表したい」というお話をいただき、そこで提携企業を発表できるように慌ただしく動きました。最終的には企業提携だけでなく、年内の実証実験の実施についても発表したのですが、それによって実証実験を成功させるという、次のモチベーションにつながっていきました。


2か月で大手企業との連携をきめ、半年間で実証実験へ。メンバー全員が本業を持っているとは思えないタイトなスケジュールだ。

編集部

本業もあり忙しい中で、課題とスケジュールを設定してそれを実現するためには、さらにモチベーションを高めていく必要がありますよね。先ほどおっしゃっていたように作業内容は調整業務なども多くなっていたと思います。一番大切な「プロジェクトを完遂させるためにモチベーション」を高めていくために、どのような手法を取られたのでしょうか?


タキザワ

PLAYERSのステートメントは「一緒になってワクワクし、世の中の課題に立ち向かう」です。

つまり、「一緒になって=共創して」、「ワクワク=自分たちが楽しんで」、「世の中の課題に立ち向かう=解決できるかは分からないけどチャレンジする」ということを、宣言しています。

このように、「自分たちで課題を見つけ、共感する仲間と一緒にチャレンジを楽しむ」というスタンスであれば、モチベーションを高く保ち活動を継続していけるのではないかと考えています。


編集部

私も今後ワークショップをする際にはその点を意識していきたいと思います。本日はありがとうございました。



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梅田 正人
梅田 正人

大手電機メーカーで生産技術系エンジニアとして勤務後、メディアアーティストのもとでアシスタントワークを続け、プロダクトデザイナーとして独立。その後、アビダルマ株式会社にてデザイナー、コミュニティマネージャー、コンサルタントとして勤務。 ソフトバンクロボティクスでのPepper事業立ち上げ時からコミュニティマネジメント業務のサポートに携わる。今後は活動の範囲をIoT分野にも広げていくにあたりロボットスタートの業務にも合流する。