RobiZy総会記念セミナー「ロボットビジネスの成功ポイント」で農業ロボットInahoの菱木氏らが講演

2019年5月16日、特定非営利活動法人ロボットビジネス支援機構(略称 RobiZy、https://www.robizy.co.jp)による「RobiZy総会記念セミナー ロボットビジネスの成功ポイント」が開催され、注目の農業ロボットスタートアップ・inaho株式会社代表取締役の菱木豊氏らが講演した。「RobiZy」とは、ロボットビジネスに関する調査研究・事業活動の支援することにより、継続的なロボットビジネスの実現を図ることを目的として活動しているNPO。



今後は業界特化のロボットSIerが出てくる

東大名誉教授 佐藤知正氏。RobiZy理事長

まずはじめに「ロボットビジネスと地方創生・地域活性化」と題して、RobiZy理事長、東大名誉教授で「World Robot Summit」実行委員長の佐藤知正氏が、相模原市での中小企業における産業用ロボット導入事例や、ロボットSIerを中心としたエコシステム充実の重要性、国が推進する「Society5.0」の流れなどを解説した。

相模原市のように中小の機械メーカーが集積した地域には「隠れSIer」が既に多く存在しており、ロボットを使いこなすことは十分できると述べ、そのような事例が100集まればエコシステムを形成できるという。ロボット本体とインテグレーション費用の割合は、4:6、あるいは3:7くらいであり、食品工場レベルでは総額1億円くらい、飲食店くらいであれば1000万円くらいだと佐藤氏は述べた。


企業規模とロボット導入予算、作業内容

そして今後はそれぞれの業界に特化したSIerが出てきて、ロボット自体ではなく、サービスを定額で売るようなモデルで裾野を広げることができるのではないかと語った。佐藤知正氏は「ロボットを作る人と使う人がタッグを組んで新しいビジネスを作っていってもらえれば」と講演を締めくくった。


ロボットのきめ細やかな使いこなしがRaaS産業を拓くという


収穫ロボットを活用したスマート農業

inaho株式会社 代表取締役 菱木豊氏

inaho株式会社(https://inaho.co)は2017年に創業。アスパラガスやキュウリなどの収穫ロボットを中心として一次産業のAIロボティクス化を事業としている。現在のメンバーは17名。

inahoのロボットは画像を使って作物を認識し、収穫適期かどうかを判断して自動で収穫するロボットだ。アスパラガスやキュウリなどを、直射日光があたっている外乱の強い環境でも認識して収穫することができる。ソフトウェアやハードウェアは全て自前。

特定の作物だけに特化するのではなく汎用的にいろんな野菜が取れることを目指しており、たとえば、エンドエフェクタ(ハンド)部分の上下を入れ替えるだけでアスパラガスとキュウリの収穫をチェンジすることができる。ビニールハウス間の自立移動も可能。このロボットを使うことで、雇用人数が減っても作付け面積を広げられるという。


雇う人が半減しても農家の所得が2倍になる未来を目指す

また、RFIDやトレース用のラインを使って施設内をロボットが移動しながら収穫することで、どのハウスのどの場所でどれだけの収穫があったのか、位置情報に基づいたデータが取得できるようになる。それによって従来にない精密な農作業ができるようになるという。


RFIDなどを使って位置情報に基づいた作物データを取得

作物を見るセンサーにはToF、画像認識にはディープラーニングを用いている。重なりあっている部分などはやはり判別が難しいが、見えている部分から全体を推測するアルゴリズムなどを導入して収穫率を上げているという。ソフトウェアは内製。


認識部分から欠けている部分を予測して補完

ロボットアームも内製化している。もともとは東工大と一緒に開発していたが現在は内製化しているという。5軸のアームだが費用は30万円くらいに抑えた。


汎用パーツを使うことで全体のコストを抑えている

菱木氏は、農家と一緒に開発を進めている点を強調した。現場で試しながら開発を進めることで、車幅40cm以下に抑えればだいたいどこの圃場でも入れるといったことがわかるという。

inahoのビジネスはRaaSモデルを取っている。ロボット本体を販売するのではなく、レンタルし、収穫に応じたマージンをとる。ロボットを使っているので、収穫したときの重量がわかり、市場での取引価格もわかっているので、たとえばそこから15%マージンをとるとすれば、農家の売り上げが1000万円なら150万円がinahoの取り分となる。ロボットの導入費用は無料だ。

RaaS型ビジネスモデルでロボットをレンタル、売り上げマージンを課金

カメラやセンサーはどんど良いモノが出る。ハードウェアもソフトウェアも最新の良いものを提供するためには、このモデルのほうが良いと考えたという。

inahoのロボットの収穫率は、昨年は50%くらいだったが、現在は75%くらいだという。菱木氏は「100%採るのは未来永劫無理」だと述べた。そして「収穫率を上げると農家の手間が減る。すると多くの農家は生産面積を増やす。そうしたら我々の売り上げも増える」と語った。もちろん休んだり、他の営業努力をする農家もあるだろうが、それはそれで良いという考え方だ。菱木氏はinahoの位置付けについて「我々は農家と共同事業を行なっているサービス事業者。ロボットメーカーではない」と語った。


これまでの収穫率の向上実績

RaaSモデルには課題もある。メンテナンスも自社で行なっているため、inahoでは、ロボットをレンタルする農家について制限をかけており、支店からの車での移動距離が半径30分以内にあることとしている。そのほか、ハードルは色々あるという。inahoではまず、九州と関東近郊でビジネスを広げようとしている。

菱木氏は高齢化が進む農業について「今後、農業人口は半減するが需要側は5%しか減少しない。施設園芸の生産性は2000年ごろからずっと横ばい。このままでは野菜の値段が倍になる」と述べ、労働集約で野菜栽培の作業のうち6割以上をしめる収穫作業の負担を減らしたいと語った。その手間さえ減れば、もっと野菜を作りたいと考えてている農家は多いという。

2019年2月から本格展開しており、これまでの実演などでのロボット導入意向は好評とのこと。デモ会参加者182名のうち、意向書の獲得率は91%。これまでの2ヶ月で概算すると面積合計3000a、農家売上高11億円なので、実際に稼働させたらinaho側として1.3億円くらいは売り上げが上がるのではないかと述べた。


これまでの農家の反応は良好

菱木氏は今後五年のスケジュールとして、収穫ロボットは指数関数的に普及すると述べ、2020年に400台運用、2022年には8400台運用を目標としているとした。そして「テクノロジーを使って農業の未来を変えていきたい」と語った。


2022年までのinahoの拠点設置計画

四国にも3拠点を設置

inahoの5年スケジュール


見守りシステム「AI viewlife」

エイアイビューライフ株式会社 安川徹氏

2015年経済産業省主催ロボット介護機器開発導入促進事業において、「ネオスケア」で「見守り支援機器(介護施設型)」の優秀機器認定を取得したことから。2017年4月エイアイビューライフ株式会社(https://aiview.life)を設立した安川徹氏は、同社のAIカメラを用いた見守りシステム「AI viewlife」の現状や今後を紹介した。

「AI viewlife」は広角IRセンサーで部屋のなか全体を「見える化」。離床やずりおちなどの危険を探知すると介護者のモバイル端末に通知して事故を未然に防ぐ。転倒やうずくまりなど部屋内の異常も検知できる。個室でも多床室でも使える。他のセンサーと組み合わせることで生体異常の通知なども可能。介護者の夜勤での働き方を変えるものだという。介護者のストレス軽減、オーナーのリスク低減にも繋がる。

日常生活データを数値化できるので、最適な介護プランを立てることにも繋がる。クラウドを使うことで地域の医療ネットワークや遠隔地に住む家族も見守りに参加できる。課題はネットワークが必須であるため、まだネット環境がないところでは導入ハードルが高い点だ。


「AI viewlife」導入理由

「AI viewlife」見送り理由

今後は、コミュニケーションロボットを使って被介護者とセンサーのあいだにワンクッション入れることで、本当に重要度の高いアラートだけを通知するといったかたちを模索する。そのためには一社だけではなく総合的な枠組みが必要だと感じているという。


今後はコミュニケーションロボットとも組み合わせる


変わり者が世の中を変える

合同会社ツクル 代表社員 三宅創太氏

このほか、合同会社ツクル代表社員でRobiZyアドバイザーの三宅創太氏は「ロボット・IoTの社会実装と地方創生取組」と題して、破壊的イノベーションが進行中の社会の変化について、予見可能な面もあるのだからスピード感を持って取り組んでいくべきだと述べた。


RobiZy副理事長、三井住友海上火災保険(株) 営業推進部 北河博康氏

最後にRobiZy副理事長で三井住友海上火災保険株式会社 営業推進部の北河博康氏は、170会員を超える規模となったRobiZyと保険会社がロボット事業を推進することについて、現在のドライブレコーダー搭載の自動車保険(https://www.ms-ins.com/personal/car/gk/mimamoru-dr.html)を例にして語った。かつてはドライブレコーダー自体が珍しかったが、今ではドライブレコーダーを貸与する保険商品が主力となっていることから「時代は変わる」と述べ、今はイノベーションを起こすチャンスだと語った。メーカーや販売者だけではなく色々な人が集まっているのがRobiZyであり、「(ロボット事業に取り組んでいるような)変わり者が集まることで世の中を変えることができる。あなたが動けば世界が変わる」と語った。

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森山 和道

フリーランスのサイエンスライター。1970年生。愛媛県宇和島市出身。1993年に広島大学理学部地質学科卒業。同年、NHKにディレクターとして入局。教育番組、芸能系生放送番組、ポップな科学番組等の制作に従事する。1997年8月末日退職。フリーライターになる。現在、科学技術分野全般を対象に取材執筆を行う。特に脳科学、ロボティクス、インターフェースデザイン分野。研究者インタビューを得意とする。WEB:http://moriyama.com/ Twitter:https://twitter.com/kmoriyama 著書:ロボットパークは大さわぎ! (学研まんが科学ふしぎクエスト)が好評発売中!

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