富士防災警備とテクノロード、屋外向け警備ロボット「アルジスX」を開発 宮下公園で実証実験

富士防災警備株式会社と、ロボット・宇宙機器の試作開発を行っている株式会社テクノロードは、屋外巡回用警備ロボット「ALGIS X(アルジス テン)」を開発した。

「ALGIS X」は自律走行機能を持つ屋外向け警備ロボット。大きさは幅72cm × 奥行き115cm × 高さ125cm。重量は100kg。足回りはゴムクローラーベルトで不安定な悪路にも対応可能。登坂角度は16度。最大12cmまでの段差を乗り越える。走行速度は低速モードで時速2km。高速モードで時速5km。

「ALGIS X」側面

ベースはクローラーロボット「UNIBO」を使用

連続稼働時間はセンサー利用状況によって異なるが、主に運用を想定している夜間一晩くらいは保つという。充電時間は8時間。AC100Vで充電できる。

■ 動画

超音波やレーザーセンサー、バンパーセンサーなどを使った障害物回避・衝突防止・緊急停止機能、状況に応じた安全なコースの自動選択などの基本機能のほか、時間指定で自動起動し、全方位LiDARで自己位置を推定しながら、あらかじめ設定した敷地内ルートを走行する。全天候型で雨天にも使用可能。携帯回線通信範囲内であれば屋内でも運用できる。

正面にスピーカーやLED投光器

全方位LiDAR、監視カメラ、ネットランチャーなどを装備

監視カメラ、LED投光器を備えており、巡回中にはカメラ画像を常時録画する。警備運用時にはサーモカメラによる熱源検知で「不審者を検知した」と判断すると、パトライトを点滅させて自動追跡する。同時に、警備員・コントロールPCに即報する。コントロールPCから遠隔操作を行うことで不審者を追跡したりできるほか、双方向通信スピーカーによる誰何・威嚇機能も備えている。赤と青の閃光で動きを抑制するグレアブラスターあるいは捕獲用のネットランチャーも装備可能だ。

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渋谷・宮下公園で実証実験

渋谷・宮下公園でのテスト走行の様子

「アルジス X」は渋谷区と宮下公園の指定管理者である宮下公園パートナーズ(代表企業:三井不動産株式会社、構成企業:西武造園株式会社)の協力の下、3月1日から15日までの日程で、宮下公園で実証実験を行っている。宮下公園は渋谷のランドマークの一つ。2020年7月28日に、公園×商業施設×ホテルが一体となった「ミヤシタパーク(MIYASHITA PARK)」としてリニューアルオープンした。

実際の実証実験は主に夜間に行われている(富士防災警備提供)

ロボットが巡回警備するのは屋上の公園部分。全長約330mの屋上公園である。ボルダリングウォールや約1000㎡の芝生ひろばなどがある。実証実験では公園閉園時間帯(23:00〜翌8:00の間)に巡回警備を1〜2回実施する。残念ながら一般の人が見ることはできない。1回の所要時間は約20分。各種機能の作動状況、稼働安定性、警備サービスとしての有効性の確認を行っている。

■ 動画

特に検証しているのは、既存の警備オペレーションのなかにロボットをどう馴染ませるかという点だ。ユーザーインターフェースやソフトウェアも検証する。現場で運用することで「ここにこのボタンが欲しい」「警備員からすると、この情報が欲しい」といった現場からの意見や要望、情報を吸い上げることができるので、それらを機能改善に反映させる。またユーザーである公園側の意向も聞く。

実験後は、できるだけ早いうちに常駐警備施設への導入による本格商用化を目指す。問い合わせは既に来ているという。

■ 動画




マンパワーに頼らない警備のかたちを探る

富士防災警備株式会社 第二常駐営業部 部長 小林良平氏

富士防災警備は1970年創業。従業員数は約1000名、年間売上は約50億円。施設警備を主に行っている中堅警備会社だ。富士防災警備ではロボットと警備員の組み合わせで現場運用を考えているという。「アルジスX」の開発経緯や運用形態について、富士防災警備株式会社 第二常駐営業部 部長 小林良平氏らに話を聞いた。

教育コストの高さや就労ビザの問題、業界慣習などによって外国人に頼ることも難しい警備業界は、人手不足問題が深刻化している。他の業界と比較しても求人倍率は飛び抜けており、優秀な人材採用は難しい。「働き方改革」が進む中、残業もさせられないのでさらに人手不足が進んでいる。そこで富士防災警備でも「マンパワーに頼らないかたちの事業のかたちを模索していきたい」と考えて、12年ほど前から、代表の鶴賀孝宏氏のリーダーシップにより、自社で警備ロボット開発を行ってきた。同社では、マンパワーに依存しない事業について、さらなる成長を目指すことから「アンビシャス事業」と呼んでおり、衛生改善評価システム等の事業化にも取り組んでいる。

その自社で開発していたロボットシリーズの名前が「ALGIS」だ。通常はロボット掃除機として日々の掃除を行い、センサーが侵入者を検知した場合に犯行の邪魔をするロボットから、シニアカーを改造した移動警備を行うロボットまで開発しており、「ALGIS 7」まで開発を行っていたという。主に遠隔操作型のロボットだった。

さらに「屋外での自律走行警備ロボットを開発したい」と考えた富士防災警備では、当初はアメリカ製のロボットとRFIDタグを使ったシステムを検証。しかし、なかなかうまくいかなかった。そこで東京都中小企業振興公社のロボット相談および導入前適正化診断を通じたコンサルティングを受けて、今回の専門企業による開発と導入へと至ったという。


人の8〜9割程度のコストを目指す

「ALGIS X(アルジス テン)」

目的は省人化。人手不足の処方箋の一つとしてのロボット導入だ。当初は、同社が警備を請け負っている、ある工場敷地への導入を想定していた。そこでは24時間体制で2名が警備を行っている。夜間警備にロボットを導入することで1.5人で良くなるのではないかという想定だった。

警備ロボットは人による既存の警備サービスのなかで使われる機材の一つなので、使用コストはロボット一台のコストで決まるわけではない。ロボットの運用についても、巡回回数等の条件によってサービス料金が変わる。警備員の人件費にかかる警備サービス料金と、それをロボットに置き換えたときにどうかという比較になる。導入している現場ユーザーの支出が下がり、警備会社側にとってもロボットに置き換えることで人件費が浮いて利益が出るのであれば、ロボット導入へと進むことになる。

富士防災警備では、人件費ベースで「1割から2割は安くなる」ことを期待しており、顧客にはロボットと人による警備の組み合わせの中から最適な警備サービスを提案するとのこと。

ロボットの遠隔モニター画面

なお、固定カメラとロボットとの比較については、「固定カメラは敷地が広くなればなるほどケーブルの敷設も大変で、コストがかかる。広いところを巡回するロボットにもメリットがある」とのことだった。


ROSを使って高速開発、本体もモジュール化でカスタマイズ可能

株式会社テクノロード 代表取締役 杉浦登氏

富士防災警備から、ロボットを開発したテクノロードに出された要件は、屋外で自律走行ができることと、夜間の不審者検出ができること。そして検知した場合に遠隔操作で対処ができることだった。夜間は警備員が仮眠している場合がある。そのため検知後に自動追尾する機能も要望として出した。

ロボットの受託開発を行っているテクノロードでは、これまでの経験を生かしてロボット用ミドルウェアの「ROS (Robot Operating System) 」を活用した。ROSには、地図作成や自己位置推定、SLAM (Simultaneous Localization and Mapping)、経路計画など移動ロボットの自律走行機能開発のために必要な機能がまとめられた「navigationパッケージ」等がそろっていて広く活用されている。テクノロードでもそれらを活用しつつ、加えて、各種センサーを活用してアルゴリズムレベルでカスタマイズするためにソフトウェアを追加で開発した。

ロボットはブラウザベースでモニター・操作が可能

加えて、クラウドと連携してログをクラウドに自動保存する機能など警備関連の機能の開発を行った。不審者検出はテクノロードにとっても新しいチャレンジで、アイデアを出し合った。画像とAIを活用するという案も出たが、主な運用が夜間であることを考慮してサーモカメラによる検知とした。

またバンパーセンサーの信号等はROSを介さずに直接マイコンに取り込んですぐにロボットを止めるようにしている。そのようなROSを使うかマイコンで直接制御するかといった部分は同社のノウハウが活かされている。

足回りをクローラから車輪に変えることも容易な構造となっているとのこと

ロボットは今後、他の機器を追加したり新規のセンサーに入れ替えたり、足回りをクローラから車輪に切り替えたり、あるいはこのロボットのベースを警備以外の他の用途に転用することも可能なようにモジュール化されている。現場に合わせたカスタマイズが比較的容易な構成になっているという。


将来はロボット活用前提の施設が増える

富士防災警備とテクノロードの開発メンバー

富士防災警備では、地上移動のロボットに加えて、ドローンの活用なども視野に入れているそうだ。ただ、現状ではフロア間移動にも課題があり、既存の工場や施設にドローンを入れるのは、それなりにハードルが高い。しかし、「将来は、最初からロボット活用が想定された施設設計が進むのではないか。そうなると、より効率的な使い勝手の良いロボットができるのではないか」とのことだった。

夜間警備の様子(富士防災警備提供)

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森山 和道

フリーランスのサイエンスライター。1970年生。愛媛県宇和島市出身。1993年に広島大学理学部地質学科卒業。同年、NHKにディレクターとして入局。教育番組、芸能系生放送番組、ポップな科学番組等の制作に従事する。1997年8月末日退職。フリーライターになる。現在、科学技術分野全般を対象に取材執筆を行う。特に脳科学、ロボティクス、インターフェースデザイン分野。研究者インタビューを得意とする。WEB:http://moriyama.com/ Twitter:https://twitter.com/kmoriyama 著書:ロボットパークは大さわぎ! (学研まんが科学ふしぎクエスト)が好評発売中!

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