MAKERS OASISが見せつけたメイカーの強さ(2) 地場産業×メディアの融合!ものづくりをエンタメ化する新たな試み

メ~テレ(名古屋テレビ放送株式会社)が、2月4日・5日に開催した「MAKERS OASIS(メイカーズオアシス)」。テクノロジーとイノベーションを世界に発信する祭典「TechGALA」の公認コラボレーションプログラムとして、名古屋市中心部のオアシス21で実施された。
今回は前回の「MAKERS OASISが見せつけたメイカーの強さ(1) 名古屋の中心から世界に発信、「つくる楽しさ」が未来を変える!」に続き、後編として「ものづくりをエンタメ化する新たな試み」を中心にレポートしたい。


地方局がキーに?メイカームーブメントを次のフェーズに進めていく「場づくり」

今回のMAKERS OASISは、メ~テレが「ものづくりのコンテンツ化」と名古屋という土地柄の相性の良さを信じ、積極的に取り組んできた活動の成果のひとつといえる。今回のイベントでメイカー文化を盛り上げる上で、「つくる場」と「見せる場」の関係性は重要であり、サステナブルな「見せる場」の維持に地方メディアが果たせる役割が大きいことを感じることができた。

そこで、メ~テレが「見せる場」づくりのためにどのように地方局ならではの取組をしてきたのかの紹介と、メイカームーブメントを次のフェーズへ進めるために求められる「場づくり」について紹介していきたい。

「モノづくり」の見せ方にこだわってきたメ~テレの取組

2017年、メ~テレは開局55周年を記念して、ハッカソンを題材にした番組「メイキンクエスト」を制作した。この番組では、メイカーたちとものづくりに縁の深い芸能人がチームを組み、一般の視聴者にも関心を持ってもらえる形でハッカソンをエンターテイメント化した。

参加者を見分けやすいようにユニフォームを作ったり、「各チームの作業内容をテレビ的に伝えやすくする」ためにタレントを各チームに加入させるなど一般視聴者が観戦しやすくするよう工夫をこらしたハッカソン番組「メイキンクエスト」。

その流れを受け、2023年・2024年には、学生向けハッカソン番組「エレクトリックシープ」を放映。この番組では、学生が3日間でプロトタイプを仕上げる過程を描くが、より深い視点で作品を伝えるため、チーム内にSF漫画家を組み込むという工夫が施された。SF的な視点もビジュアルやストーリーを加えることで、視聴者が作品の背景や将来像を想像しやすくなる。それだけでなく、チーム内の情報共有や発想の飛躍、深掘りにも大きく貢献したという。

プロトタイプだけでは伝えきれない最終製品イメージや世界観の伝達に視聴者に伝わりやすい漫画を活用。

テレビは視覚情報しか届けることができないメディアだ。その制約の中で、メ~テレは「ものづくりの楽しさ」を視聴者に伝えるために、どのように「見せるか」にこだわってきた。この姿勢こそが、メ~テレが持つ強みであり、マス層に対してものづくりの魅力を広めるための重要な要素となっている。


モノづくりを見せる場づくりのためのマネタイズ

メ~テレの強みは、単に魅力的な番組を制作するだけでなく、ものづくり企業との密接なつながりを築いている点にある。

ハッカソンを取り上げる際には、地場の企業から素材や技術を提供してもらうことで、その企業の認知度向上につなげるだけでなく、学生ハッカソン番組「エレクトリックシープ」では、学生と企業双方にとって採用や就職のきっかけとなるような番組設計を行い、協賛の意義を高めている。

MAKERS OASISの協賛を務めたレバテック株式会社も人材、案件マッチングサービスを業とする。優秀なメイカーは貴重な人材だけに、その掘り起こしができる「見せる場」作りに協力的な企業も多い。

また、情報番組では地場のものづくり企業の製品を取り上げる際に、中国でも強い影響力のあるインフルエンサーと連携し、海外向けSNSで動画を配信するなど、認知拡大の工夫を凝らしている。

海外SNSで60万人近いフォロワー数を誇るJulie氏がリポーターを担当。日本の手仕事に対する注目度も高かったようだ。

さらに、中部地方で盛んなレジャーである「キャンプ」に着目し、地場産業と結びつけた番組と連動したWebメディアを運営。クラウドファンディングサイトと連携し、購買促進を図ることで、出品企業の負担を抑えながら売上向上に貢献するなど、新規の取り組みも実施している。

地元愛知で開発されたキャンプ道具の紹介をするハピキャン。地上波での放送だけでなく、購買行動に直接繋げやすく情報をストックできるwebメディアも運営する。

こうした先進的な取り組みを実行するには、リソースやアイデアの制約もあるかもしれない。しかし、その根底には、
・地場の企業との関係性を深め、魅力的な取組みや製品をコンテンツ化し、最終的に収益化につなげる姿勢
・企業の課題(求人や販売促進)を地元メディアのアセットを活用して解決する意識

を持ち続ける戦略がある。

また、メ~テレは新たな収益モデルとして、広告代理店を介さない広告枠の直販にも取り組み、話題を集めている。自社の利益を確保しながら、地場企業との共存共栄を図るサステナブルなアプローチを模索しているのだ。

MAKERS OASISのイベントプロデューサーを務めたメ~テレの伊藤理氏はメイキンクエスト、エレクトリックシープのプロデューサーだけでなくテレビ局では前例のないインサイドセールス部門(広告枠の直販)設立の立役者でもある。番組作りで培われた地場企業との強いパスや「前例のないものを」と苦闘するメイカーたちへの共感がこのような試みの実現にもつながったのだろう。(写真提供:メ~テレ)

地場ではないが中部地方のモビリティ企業とのオープンイノベーションプログラムなどに積極的な企業のピックアップも欠かさない。メイカーフェアなどでの展示から始まったモビリティ企業ICOMAの生駒氏

これは、資金が豊富なキー局ではむしろ実現しづらい取組みだ。取材先としても広告出稿先としても地場製造業と密接につながっている地方局だからこそ可能なアプローチである。

その成果の一つが、今回のMAKERS OASISの協賛・協力企業の多さに表れている。

出展企業も兼ねる協力企業も多い。展示を取材する中で「普段から目を向けてもらっている」関係性の強さを感じた

地場産業だけでイベントを構成すると、産業振興センターで行われる展示会のような雰囲気になりがちだ。しかし、メ~テレはそこから「ものづくりの楽しさに没頭するメイカー」たちをピックアップし、「テレビ局」が持つエンタメ化のノウハウを活かして、繁華街でのイベントとして成立させた。

この手法により、メイカームーブメントと地場製造業の活性化を両立させるとともに、番組やイベントを通じた収益確保も実現している。このようなアプローチは、メ~テレの長年の経験があってこそかもしれないが、地方メディア全般にとって参考にできる姿勢ではないだろうか。


地方発イノベーションを目指してサステナブルなメイカーシーンをつくっていく

2024年4月、日本を代表する「つくる場」であるDMM.makeが閉鎖された。東京では、DMM.makeやTechShopのような大規模なメイカースペースの時代から、雑居ビルの一角などに小規模なメイカースペースが点在するスタイルへと変化してきた。

そして、2025年12月には、日本最大の「見せる場」であるMaker Faire Tokyoの運営母体がオライリー・ジャパンからインプレスに移管された。この出来事はメイカー界隈で大きな話題となった。Maker Faire Tokyoの継続は発表されているものの、メイカースペースの変遷と同様に、何らかの質的な変化が求められるフェーズに入ったのは間違いないだろう。
こうした流れの中で、MAKERS OASISに参加できたことは非常に大きな刺激となった。


これまでも地方イベントへの参加経験を通じて「大きなものや動くものをつくるメイカーが地方には多い」「製造業の現場の知識を活かした本格派メイカーがいる」といった、東京のメイカーとは異なる特色があることは感じていた。

しかし、今回のMAKERS OASISで驚かされたのは、「テレビ局」という存在が、メイカー文化と地場産業を結びつけ、一般層の目に触れる場を作り出していたことだ。フジテレビの経営問題が大きく取り沙汰されるなど、テレビ局の存在意義が問われる中で、地方テレビ局が地場の製造業と連携し、メイカー文化を活性化させる動きを見せていたのは新鮮な発見だった。


ワクワクして作る姿を一般層に見せ、体験させ、メイカー:未来のイノベーターを増やす

メイカーが日本のイノベーションを加速し、地方の活性化につながるのであれば、その広がりを支える存在として地方テレビ局の持つアセットは極めて重要だ。テレビ局が持つ「マスに伝わりやすいコンテンツづくりの知見」「スポンサーの確保力」「リアルイベントや他メディアとの連携ノウハウ」は、メイカー文化のさらなる普及に大きな貢献ができるはずだ。

メイカームーブメントが誕生してから約20年が経ち、成熟期に入った今、つくる場と見せる場だけでなく、その間の接点やその先の展開に対して、地方テレビ局が果たせる役割はますます大きくなるだろう。

「テレビはオールドメディア」と呼ばれ存在意義を問われることが増えた昨今、今回のMAKERS OASISを通じて地方局がそのアセットを再評価し、新たな役割を見出している姿を見ることができた。

今後も、こうした意外なプレイヤーがメイカーシーンに参入し、新たな価値を生み出してくれることに期待したい。

豊田合成が協力している「氷じゃないスケートリンク」の上を謎のマシンが走り回る交流走行会。イベントフィナーレを飾るこの会場でメイカー同士の交流も加速していた。

(写真提供:メ~テレ)

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梅田 正人

大手電機メーカーで生産技術系エンジニアとして勤務後、メディアアーティストのもとでアシスタントワークを続け、プロダクトデザイナーとして独立。その後、アビダルマ株式会社にてデザイナー、コミュニティマネージャー、コンサルタントとして勤務。 ソフトバンクロボティクスでのPepper事業立ち上げ時からコミュニティマネジメント業務のサポートに携わる。今後は活動の範囲をIoT分野にも広げていくにあたりロボットスタートの業務にも合流する。

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