英国の農業は、労働力不足と従事者の高齢化という構造的な課題に直面している。食料供給網の長期的な安定性が問われる中、テクノロジーによる解決策としてロボット技術が大きな注目を集めている。
深刻化する労働力不足
政府の最新データによると、英国の農業従事者は全労働人口のわずか1.3%にあたる約45万2900人であり、この数は減少し続けている。イングランドでは、2024年から2025年にかけて農場労働者数が約2%減少したことが報告されている。
この問題に拍車をかけているのが、従事者の高齢化である。主要農家の約40%が65歳以上である一方、45歳未満はわずか15%にとどまり、次世代への継承が大きな課題である。
サプライチェーンへの影響
これらの構造的な問題は、食料サプライチェーンに直接的な影響を及ぼしている。近年の報告では、英国の生産者の半数近くが生産量の削減を余儀なくされ、一部の園芸事業では2020年以降、生産規模を最大30%縮小した例もある。また、多くの分野で労働力と資材のコストが総生産コストの40%以上を占めるなど、農家の経営を深刻に圧迫している。
解決の鍵を握る農業用ロボティクス
こうした複合的な課題に対し、英国のスタートアップ企業Extend Roboticsは、ロボット工学とインテリジェントオートメーション技術を解決策として提示している。
同社が開発する農業用ロボットは、もはや実験段階のものではなく、現場での実用的なパートナーとなりつつある。繊細さが求められる果物や野菜の精密な収穫、剪定、生育状況の監視といった、反復的で時間的制約のある作業を自動化することが可能だ。
この技術は、人間の労働者を完全に代替するのではなく、その能力を拡張することを目的としている。ロボットが物理的な作業を担うことで、熟練した作業員は作物管理やプロセス最適化といった、より付加価値の高い業務に集中できるようになる。
これにより、季節労働への過度な依存を減らし、コストを削減すると同時に、労働者一人当たりの生産性を向上させることが期待される。
産学連携で進むブドウ収穫の自動化
Extend Roboticsは、その技術を実際の農場で証明するため、ロンドン大学クイーン・メアリー校と連携し、Saffron Grange Vineyardにおいてブドウ収穫ロボットの実証実験を進めている。
精密な作業が求められるブドウ収穫を自動化するこのプロジェクトは、ロボット技術が品質を維持しながら収穫効率を大幅に向上させる可能性を示す具体例である。
このような産学連携の先進的な取り組みは、技術に精通した若い世代を農業分野に引きつける魅力ともなり、次世代の農業を担う人材育成にも繋がる。Extend Roboticsは、データに基づいた意思決定を支援し、英国農業が世界の市場で競争力を維持するための持続可能なモデルを構築することを目指している。