ソニーが送信距離100Kmの新技術でIoT向けLPWAに電撃参入、十勝平野の全域をカバー、クルマの高速走行でも利用可

2017年4月、ソニー(ソニーセミコンダクタソリューションズ株式会社)は、独自で開発中のLPWA技術を発表した。
「LPWA」とはLow Power – Wide Areaの略称で、IoT業界では3GやLTEなどの携帯ネットワークやWi-Fiと併用する無線通信ネットワークとして期待されている。「IoT」の普及、特に屋外での利用にとって要となる技術でもあり、「SIGFOX」や「LoRa」などの規格がLPWAの標準化を目指してひしめき合っている分野だ。
名前のごとく、ローパワーで広範囲をカバーするのが特徴だ。ローパワーと言うと「力が無い」と想像するかもしれないが、実際は電力の消耗が少ない「省電力」を意味する。

ソニーのLPWAの実証実験に使用されている送信機(端末側)と受信機。現時点ではこの技術は端末側からの送信のみで、受信には対応していない。展示ブースはたくさんの人で賑わっていた


最大の特徴は長距離通信

このソニーの新技術、名前はまだない。
テレビチューナーや誤り訂正技術など、ソニーが今まで培ってきた技術を駆使して、LPWAに適した技術として昇華させた。
最大の特徴は、山頂クラスに受信基地局を設置すれば約100km遠方の距離からの送信を受信できること。
先日、東京ビッグサイトで開催された展示会「IoT/M2M展【春】」にソニーのこの技術が出展されると言うので顔を出すと、東京スカイツリーと東京近郊地図の模型が展示されていた。これ、東京近郊から送信して、東京スカイツリーに設置した受信基地局で受信が確認できた地点を色づけしたもの。それによれば、ソニーの研究所がある厚木付近からでも十分に通信が可能ということだ。ちなみに色のないところは電波が届かなかったのではなく、実証実験を行っていない場所とのこと。

スカイツリーに設置した受信基地局で首都圏近郊をカバー

展示ブースで話し聞くと、「実証実験では富士山の五合目に設置した基地局へ、奈良県の日出ヶ岳から送信できた」と言う。その距離は274km。特別な高さの基地局でのテストとは言え、広大なカバー範囲だ。例えば山頂や稜線に基地局を設置し、登山者が送信端末をザックに入れて移動すれば、万が一の遭難時にも登山者の居場所が特定できる確率は大きく高まる。実験では栃木県日光市の男体山とソニーがある神奈川県厚木市で通信できたと言う。この超広域カバーは、牧場や農地などでの利用にも有効に利用できそうだ。

ひとつの受信局で十勝平野の全域をカバーすると言う。牛や羊にタグを付け、ひとつの受信局でも現在位置を測定できるようになる?


車載でも使える

もうひとつの特徴はクルマのように移動している端末からでも通信が可能なこと。実証実験では時速40km走行のクルマでは安定した通信が可能で、100kmで移動中でも通信が可能だったとのこと。
屋外での通信は自動車との通信が大きな役割を担う可能性があるので、この結果はますます頼もしい。ちなみに他の規格の「SIGFOX」や「LoRa」は通信可能距離は10〜50Km程度と言われている。
その他も含めて、ソニーでは4つの特徴をあげている。

長距離伝送
ひとつの受信機で最長274Kmの伝送実験結果

移動性能
高速移動中でも利用可能、時速100Km以上でも実績あり

安定通信
ノイズの多い都市部でも誤り訂正と波形合成の技術で高感度

低消費電力
コイン電池1個で動作可能、デバイスの小型化が可能




サブGHz帯のデファクトスタンダード争いは熾烈に

この技術で使用する電波の周波数帯域は920.6MHz~928.0MHzのプラチナバンド(38チャンネルのうちの1チャネルを使用)。0.4秒以下のパケットを繰り返す送信が可能で速度は80bps。端末からは送信専用の一方向通信となる。消費電力は1日1回、位置データを送信する場合は、コイン電池で10年動作可能だ。

3G/LTEのケータイ通信では「プラチナバンド」と言う呼び方が馴染みあるが、IoT関連の通信業界では800〜900MHz帯を「サブGHz帯」と呼ぶ。SIGFOXやLoRaもこの周波数帯を使用するが、電波の回り込みが大きいので飛びやすいことと、免許不要の周波数帯があることが理由のひとつにもなっている。
免許不要の周波数帯は「アンライセンスバンド」と呼ばれ、現在の法律のまま進行すれば、Wi-Fiと同様、設置や増設をユーザーや事業者が任意に行うことができる。これは利用者にとっては大きな利点となる。

ソニーが想定するユースケース。子どもや高齢者の見守り、メーターモニタリング、後継者支援、ライドシェアのアセット管理、スキー場やアウトドアでお互いの位置推定/遭難対策

ユーザーやメーカー、システム開発事業者にとって、LPWAに期待を寄せるもうひとつの大きな理由が「通信コスト」だ。LPWAの場合、無数のIoT端末が接続される可能性があるので、ボリュームディスカウントが前提となる。

SIGFOXの場合は、京セラコミュニケーションシステムが独占提供となるが、1端末あたりの「年間」の通信費用は100円程度まで下げることを公言している(ボリュームディスカウントで)。この金額はまさに破格のコストで、LoRaではロールモデルで1端末あたり「月間」の通信コストで50〜60円(数千台規模で導入時)だ(ソラコムの所有モデルの場合)。
ソニーの新規格はまだ実証実験の段階なので、どのような規格になり、いくらくらいの運用コストになるかは今後の検討になるとしている。


なお、展示会の同ブースでは既に実証実験を共同で開始している中部電力やアイオーデータ機器、日本システムウェアなどが共同展示をしていた。

ABOUT THE AUTHOR / 

神崎 洋治

神崎洋治(こうざきようじ) TRISEC International,Inc.代表 「Pepperの衝撃! パーソナルロボットが変える社会とビジネス」(日経BP社)や「人工知能がよ~くわかる本」(秀和システム)の著者。 デジタルカメラ、ロボット、AI、インターネット、セキュリティなどに詳しいテクニカルライター兼コンサルタント。教員免許所有。PC周辺機器メーカーで商品企画、広告、販促、イベント等の責任者を担当。インターネット黎明期に独立してシリコンバレーに渡米。アスキー特派員として海外のベンチャー企業や新製品、各種イベントを取材。日経パソコンや日経ベストPC、月刊アスキー等で連載を執筆したほか、新聞等にも数多く寄稿。IT関連の著書多数(アマゾンの著者ページ)。

PR

連載・コラム