インダストリー4.0のスマートファクトリー実現に向けた技術開発と研究を行う「ロボカップインダストリアル」、そのルールを徹底解説

ドイツでは政府の政策として「インダストリー4.0」の名称でスマートファクトリーの開発や研究が推進されている。簡単に言うと、規模にかかわらずICTによって工場をデジタル化することで効率をあげようというもの。将来のスマートファクトリーではロボットを活用して完全自動化を目指していき、目指すは少量多品種の生産や大量多品種の製造「マスカスタマイゼーション」だ。


ロボカップインダストリアルはその思想に沿ったと言えるもので、移動可能な産業用ロボットによる物流や倉庫管理システムの完全自動化をテーマにした競技。工場のラインが自動で変更になったり、製造する製品が変わっても、ロボットが自律的に判断してラインの変更に対応する技術までもが研究対象となっている。


そのため、産業用ロボットやスマートファクトリーに興味のある人にはぜひ見てもらいたい競技なのだが、競技をパッと見ただけでは観客にはルールがわかりにくい。

そこで、競技の実況も担当している龍谷大学の植村渉氏にルールやしくみ、技術的なことなどを聞いた。

■ロボカップ インダストリアル 動画 (実況しているのが植村氏)

龍谷大学 理工学部 講師 電子情報学科 博士(工学) 植村渉氏



「MPS」と移動式ロボット「Robotino」を使う競技

フィールドには四角いボックス型の機械が14台配置されている。フィールドは中心から左右対称になるように設定され、2つのチームが同時にフィールド全体を使って競技を行う。

14台のMPSと、移動式ロボットを用いて競技を行う。これがMPS

四角いボックス型の機械はメカトロニクス装置「MPS」(modular production system)ステーションと呼ばれ、それぞれが製造機械をイメージしたものだ。部品を供給したり、部品を組み上げたり、ベルトコンベアーの用途など、各MPSがそれぞれ様々な役目を持っている(MPSはFesto Didactic社の開発)。
動き回ることができるロボットが各チームから3台参加する。これには同じくFesto社が開発した移動式ロボット「Robotino 」シリーズを用いて、上部に各チームがセンサー等を取り付けたりグリッパーを開発したりして参加する。このRobotinoロボットがエリア内を動き回り、それぞれのMPSから部品を受け取ったり、受け取った部品を入れて加工するなどを行い、最終的に製品を作り上げて、納品することがゴールとなる。

左の四角い箱型のものがメカトロニクス実習装置「MPS」、右が移動式ロボット「Robotino」が並んでいるところ。「探索」フェーズでは移動式ロボットがMPSの側面のQRコードのような模様(ALVARタグ)を読んでMPSの機能と位置を把握する

「MPS」の上部にはそれぞれ異なる製造関連機械が設置されている

競技では難題が与えられる。運営がそれぞれのMPSの場所をランダムに配置し、各チームは競技がスタートするまでそれらMPSの位置関係がわからない。まずは移動式ロボットでそれを把握しなければならない。
インダストリー4.0ではラインを自由に組み替えることが想定されているため、製造機械を想定したMPSをロボット自身でみつけて作業をすすめることが求められる。


「検索」フェーズと「生産」フェーズで構成される競技

すなわち、ロボットがまず最初に行うタスクはMPSを「探索」すること。探索フェーズではRobotinoロボットがフィールド内を動き回り、MPSのQRコードのような模様を読んで、どの機械がどの位置に配置されているかを把握する。ロボットが正確に認識すれば、MPSの表示灯のランプが緑に点灯し,得点するしくみだ。

次は「生産」フェーズだ。製造する製品を知らされたロボットは適切な部品を機械から受け取り、それを組み上げる機械へと運び、機械が組み上げると成功となる。

どんなものを組み上げるかと言えば、例えば下写真のようなもの。組み合わせる順番を変えることで別の製品を製造するタスクになったりする。

製造の素材。リングや蓋で構成されているが、タスクとしては組み合わせによって異なる製品になる

どの製品を作るかというオーダーを受けたら、Robotinoロボットが所定のMPSに移動して部品供給を受ける。

バーツを供給するMPS。移動式ロボットが製品製造に必要な所定の部品をとってくる




作業の最後は、配送センター(を想定したステーション)に持ち込んで終了となる。


ドイツ語圏のチームが強い

今回、参加しているのは6チーム。初日から総当たり戦を行い、今日で4チームに絞られ、準決勝まで行われた。
明日は決勝戦と3位決定戦が行われる。

参加しているのは6チームでドイツやドイツ語圏のチームが強い。

■28日時点のスコア

      Carologistics (210) ドイツ
      ER-Force (67) ドイツ
      PYRO (64) フランス
      Solidus (58) スイス
      GRIPS (58) オーストリア
      BabyTigers-R (50) 日本

29日終了時の速報によれば、30日に行われる決勝戦には「Carologistics」と「GRIPS」が進出し、三位決定戦には「Solidus」と「ER-Force」が進出することになった。

残念ながら日本チームは良い成績が残せていないが、最後にこの競技の難しい点を聞いた。
「実際のフィールドを用意してのテストや開発ができないことですね。これだけのフィールドを用意して、MPSやRobotinoを揃えて模擬的に開発環境を作るのが簡単ではありません。とはいえ、この競技を多くの方々に知って頂きたいので、将来はジャパンオープンなどの大会が開催できるように検討していきたいと思っています」(植村氏)

実用的な産業技術の研究開発に直結する競技だけに、今後の展開が非常に楽しみな競技だ。


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神崎 洋治
神崎 洋治

神崎洋治(こうざきようじ) TRISEC International,Inc.代表 「Pepperの衝撃! パーソナルロボットが変える社会とビジネス」(日経BP社)や「人工知能がよ~くわかる本」(秀和システム)の著者。 デジタルカメラ、ロボット、AI、インターネット、セキュリティなどに詳しいテクニカルライター兼コンサルタント。教員免許所有。PC周辺機器メーカーで商品企画、広告、販促、イベント等の責任者を担当。インターネット黎明期に独立してシリコンバレーに渡米。アスキー特派員として海外のベンチャー企業や新製品、各種イベントを取材。日経パソコンや日経ベストPC、月刊アスキー等で連載を執筆したほか、新聞等にも数多く寄稿。IT関連の著書多数(アマゾンの著者ページ)。

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