【森口将之コラム:モビリティの未来 vol.6】世界各国の自動運転バス、電動バス事情「日本のバスは世界基準に追いつけるか」

自動車の世界では自動化に電動化、そしてライドシェアに代表される共用化と、激動の波がひとかたまりになって押し寄せている。でもこれは乗用車に限った話ではない。

以前紹介したソフトバンク・グループのSBドライブの取り組みは、地方の路線バスの自動化だったけれど、これ以外にも日本では2020年の東京五輪パラリンピックを前に燃料電池バスが走りはじめるなど、バスの世界でも改革が進んでいるからだ。

でも日本が最先端かというと、そうでもない。デザインやユーティリティまで含めれば、ヨーロッパやアメリカが一歩進んでいるという感じもする。


パリの電動バス

例えば筆者が良く訪れる都市のひとつパリでは、フランスが2040年にエンジン車両を販売禁止するという衝撃的なアナウンスをする前から、2025年までにディーゼルエンジンのバスを全廃して、8割を電動バスに置き換える「Bus2025」プロジェクトを進行中だ。

すでにハイブリッドバスや天然ガスを燃料としたバスはあちこちで見ることができる。そして日本ではコミュニティバスという名前でおなじみの小型バスは近年、電動車両が目立つようになった。

パリだけではない。驚いたのは6月に訪れたル・マン24時間レース。地元フランスのアルピーヌ・ティームがゲストの送迎のために使っていたのが電動バスだったのだ。


ルマン アルピーヌチームの電動バス

レーシングカーはCO2をたくさん出すので帳尻合わせという意味があるのかもしれない。

それにしてもさすがフランス、やはりデザインが印象的だ。特に小型バスはスマートだったりスクエアだったり個性的なフォルムが多くて、思わず乗ってみたくなる。車内も洒落ている。パリの路線バスはイメージカラーのグリーン基調で爽やかな雰囲気。それでいて優先スペースはオレンジに色を変えてひと目で分かるようにしている。


パリの路線バス 車内の様子

パリでもうひとつの発見は、ハイブリッドバスの床が後ろまでずっとフラットだったこと。エンジンが発電に専念し、タイヤを回すのはモーターだけなので、このような構造が実現できたようだ。日本の路線バスは低床といいつつ床が低いのは中扉までで、後方は従来のバスと同じという構造が多い。パリのバスのほうが一歩進んだ設計と言えるかもしれない。

日本のバスメーカーに技術がないからではなく、バスの運行事業者が全低床バスに興味がないというわけでもない。以前ヨーロッパの公共交通を取り上げたときにも書いたが、日本の交通事業者は運賃収入をベースとして運行している。そのため設備投資に割く予算は限られており、車両を購入する際にも安さを優先する。だからメーカーも開発費用を抑えた車両しか供給できない。

逆に欧米の公共交通は税金を投入して運営しているから、先進的なデザインやメカニズムの車両・インフラが積極的に導入できるのである。その一例がフランスのルーアンで2001年から使われている自動運転システム。運転席上にカメラを設置し、停留所近くの路面に2本の点線を描き、この点線をカメラが認識することでハンドル操作を自動化。車両と停留所の隙間をわずか5cmまで詰めることで乗り降りを楽にしているのである。


ルーアンの自動運転バス

バスと言えば最近、黒部ダムへ向かう関西電力のトロリーバスが2018年の秋で運行を終了し、電動バスに切り替わるというニュースが入ってきた。日本でトロリーバスが走っているのは黒部ダムを含めた立山黒部アルペンルートの2系統だけ。そのひとつが消滅するというのだからニュースだ。

日本ではこのようにトロリーバスは絶滅危惧種である。ところが海外ではしばしば見ることができる。筆者が乗ったことがあるのはフランスのリヨンとスイスのローザンヌ。ともに内陸にある坂が多い街だ。


リヨンのトロリーバス

ディーゼルバスでは登り坂での排気ガスが気になり、しかも内陸ゆえそのガスが留まりやすいので好ましくないという判断なのだろう。

立山黒部アルペンルートも坂道が多いうえに、走行ルートの多くがトンネルなので、排気ガスを出さないトロリーバスを導入したという。しかしトロリーバスは電車と同じように架線が必要。長いトンネルの中の架線の保守点検は大変だろう。加えて電気自動車に使うバッテリーが進化したことで、架線に頼る必要がなくなったことも大きいようだ。

そしてもうひとつ、日本でトロリーバスを走らせるには厄介な法律がある。車体まわりはどう見てもバスなのに鉄道扱いになることだ。海外では同じ道をトロリーバスとディーゼルエンジンバスが交互に走るようなシーンをよく見かけるけれど、日本では鉄道とバス、2種類の申請をしなければならない。

最新の電動バスは、トロリーバスのように屋上から集電装置を伸ばして充電を行う方式が主流。乗務員がプラグを差したり抜いたりする必要がなく、路面から床下に電気を流すより安全である。黒部のバスにもこの方式が導入されるという噂だ。

ヨーロッパのようにトロリーバスをバスの仲間としておけば、同じ集電装置で走行中も充電できるから、長距離電動走行が可能となる。でも日本のバスのルールでは充電できるのは停車中だけ。バスの電動化を進めるためにもルールを変えるべきじゃないかと思っている。

ではアメリカの路線バスはどうか。この国では珍しく公共交通が充実しているオレゴン州ポートランドを紹介しよう。

街を走るバスはヨーロッパに比べるとゴツい。これは多かれ少なかれ他の都市にも言える。まさにアメリカンだ。車体の先端に付けた大きなガードが、その印象を盛り上げる。


ポートランド自転車ラック付きバス

ところがしばらくすると、これはガードではないことが判明した。自転車を載せるためのラックだったのだ。バス停まで自転車で来た人が都心に向かう際に、ここに愛車を載せてバスに乗り、都心のバス停で降りたら再び愛車にまたがり目的地へ向かう。スマートなモビリティライフが実践できる。

日本は鉄道もバスも、一部の例外を除いて自転車をそのまま車内に持ち込むことができない。折り畳んで袋に入れることが義務づけられる。でも欧米では鉄道は車内に持ち込め、バスはこのようにラックに載せることで、サイクリストも公共交通を利用できるようにしてある。さまざまな交通をうまく組み合わせて便利な街にしていこうという意識が伝わってきた。

でも日本のバスは、他のアジア諸国に比べれば進んでいるんでしょ?と思うかもしれない。たしかにタイの首都バンコクを訪れた時は、灼熱の地であるにもかかわらずクーラーがない車両もあって(そのぶん運賃はクーラー付きより安いらしいが)驚くこともあった。しかし一方で、最近世界各地で採用例が増えているBRT(バス高速輸送システム)も導入していた。


タイ・バンコクのバス。冷房が有るものと無いものがある。

BRTとは専用レーンや屋根付きの停留所、連節バスなど、鉄道に近い設備を用意することで、バスでありながら鉄道に近い定時性や快適性を追求した交通システム。日本でもBRTを名乗るバスはあるけれど、多くは連節バスを走らせることが目的になってしまい、渋滞では相変わらず遅れがちという中途半端なサービスで終わっている部分は変わらなかったりする。

日本の鉄道はさまざまな部分で世界最先端を実感する。だからこそバスも負けずに頑張ってほしい。各国のバスを見て乗ってみるたびにそう思う。

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森口 将之

1962年東京都生まれ。早稲田大学卒業。自動車専門誌編集部を経て独立。自動運転からクラシックカーまで幅広いジャンルを担当。新聞、雑誌、インターネット、ラジオ、テレビなどで活動中。自動車以外の交通事情やまちづくりなども精力的に取材。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。著書「パリ流環境社会への挑戦」(鹿島出版会)「これでいいのか東京の交通」(モビリシティ)など。

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