ソフトバンクが報道陣に異例の通達 林要氏は「リーダーではなかった」 その全容と詳細
ソフトバンクロボティクスは、報道陣向けのメールにて異例の通達を行った。それは、元同社の社員である、現GROOVE Xの代表取締役 林要氏に関する表現についてだ。
ソフトバンクロボティクスは、
(ソフトバンクのプレス向けメールより転載)
とGROOVE Xの代表取締役である林要さんについて述べ、「Pepperの『父』『生みの親』『(元)開発者』『(元)開発責任者』『(元)開発リーダー』などと呼称する」ことは表現が不適切だとした。
ソフトバンクロボティクスは、これまでにも「数回にわたって事実と違った呼称を使わないよう林氏サイドに対し申し入れ」をしてきたが改善が見られないため、今回の通達に踏み切ったのだという。
なぜこのような事態になってしまったのだろうか。今回までの流れを振り返りつつ、ロボスタなりの解説を加えていく。
たびたび開発リーダーとして紹介
確かに「Pepperの父」という点においては、孫さんがもっとも適しているだろう。しかし、「開発リーダー」などの表現も違うとなると、話は変わってくる。
今回の報道において、ロボスタなりに順を追って解説を加えていきたい。話は林要さんがソフトバンクロボティクスに在籍していた時に遡る。
記憶をたどれば、2014年9月、Pepperが最初に発表された3ヶ月後に開催された「Pepper Tech Festival 2014」において、トークセッション 「クリエーターから見たPepper開発実情」に林要さんはソフトバンクロボティクス 開発チームからモデレーターとして登壇した。
この動画が当時のセッションの模様だが、冒頭の挨拶で林さんは「開発リーダー」と名乗っている。
また、SNSなどでも話題にのぼっているが、2014年8月にソフトバンクのHPに掲載された林要さんのインタビューでは「『Pepper』の開発リーダーを務める」と紹介されていた(現在は修正されている)。
2015年6月に掲載されたソフトバンクグループが運営する「ビジネス+IT」の記事では「Pepperの父親ともいうべき存在」という表現をしている。
その後、2015年8月に放映されたテレビ東京の「ガイアの夜明け」では、林要さんに密着をしている。以下は「広報会議」に掲載されている、PepperのPRコンサルティングを行っていた野呂氏のコメントだ。
(中略)
林さんが中心となってロボットに心を作っていく瞬間と、その苦悩の裏側を赤裸々に見せていく。
そして、2015年9月7日付で林要さんはソフトバンクロボティクスを退社した。退社の真相については「日経カレッジカフェ」に掲載されている通り、「開発における時間軸のずれ」だったという。
これら、同社のHPも含めた「開発リーダー」という表現について、ソフトバンクロボティクスは「リーダーという当時の紹介は誤りだった。おわびして訂正する」と朝日新聞に対して説明している。
「紹介の仕方が誤りだった」と言われて納得する…という類のものでもない。GROOVE Xにとっては林要さんの経歴に関わることだからだ。
ソフトバンクロボティクス在籍時を知る者として
現在ロボットスタート(ロボスタ運営元)に在籍している社員のほとんどが、林要さんがソフトバンクロボティクスに在籍していた頃からの顔見知りだが、ほぼ全員が林要さんはPepperの事業を主導していた人の筆頭格であると認識していた。何かあれば「林をご紹介します」と言って、取材対応もして頂いた。
しかし、これはあくまで内情を知らないからこその認識だった可能性もなくはない。
(ソフトバンクのプレス向けメールより転載)
今回プレス向けに送られたメールのこの箇所では、「技術開発の責任者又は中心的存在であること」を否定しているのであって、「プロジェクトの中心的存在であった」という表現なら正しいのだろうか。この点は、現在ソフトバンクロボティクスの広報に確認中だ。
ソフトバンクロボティクス広報より回答があった。以下に掲載する。
「当時のPepperプロジェクトは巨大で数多くのプロジェクトが並行して動いていた。目的別にチームが細分化されており、林要さんは一時期そのチームの一つでリーダーをしていた期間もあったが、それはプロジェクト全体のリーダーという立ち位置ではなかった。
PMO室というのは、プロジェクトマネジメントオフィスの略。ただし、そこの室長と言えど、技術開発全体の責任者ではなくPepperのプロジェクト全体の責任者ではなかった。事務局長という位置づけで各チームが円滑に進むよう管理を行なうポジション。全体を率いる立場ではなかった。
開発リーダーという単語は、それを聞くと「Pepperの開発を率いていた存在」「Pepperの父」のような印象を与えかねないため、是正を求めた。」
Pepperの父という表現について
ロボスタでは、Pepperの父という表現をタイトルに使って、2016年3月に林要さんのインタビュー記事を掲載した。
その数ヶ月後、ソフトバンクロボティクスの冨澤社長にインタビューをさせて頂いた際に、席に着くや否や「Pepperの父という表現は間違いだ」と指摘された。
確かに「Pepperの父」という表現が適切かどうかでいうと、冒頭で説明した通り適切ではなかっただろう。その後、林要さんをロボスタで取り上げる際には、「ソフトバンクロボティクスでPepperの開発責任者を務めた」などと表現をしてきた。
また冨澤社長は「彼に部下なんていなかった」とも加えた。周囲に賛同を求めると、6,7人が黙って頷いたのだった。
なぜこのタイミングで通達が出たのか
では視点を変えて、なぜこのタイミングで通達が出たのかを考えてみたい。大きな理由は、GROOVE X側の広告展開が「行き過ぎだった」点にあると思う。GROOVE Xは昨年12月4日、同社の資金調達の報告を報道陣向けに行い、それと同時に二つの広告展開を明らかにした。一つは、あのイーロン・マスクが経営するSPACE Xの社屋前に広告を出すということ。そしてもう一つが、ソフトバンクの本社がある汐留に広告を出すということだった。
汐留に広告を出した理由について、林要さんはBUSINESS INSIDERの取材にこう答えている。
あくまで孫社長へのオマージュだとしており、他意はなかったかもしれない。実際、林さんは孫さんを心底尊敬している。ソフトバンクに入社したのも、トヨタ自動車に在籍中に入学したソフトバンクアカデミアで、孫さんから直々に誘われたからだった。林さんの退職時にも孫さんの微笑ましいツーショットがFacebookに載せられた。
しかし、この汐留への広告掲載について、ソフトバンクの受け止め方は違ったのであろう。「Pepperに対する挑戦」と受け取られても仕方ないと言える。
当初、リーダーとして認められていなかった?
林さんは、自著「ゼロイチ」発売時のダイヤモンドオンラインのインタビューにて、このように発言している。
「お前の情熱が足りないから、プロジェクトが動かないんだ!」
(中略)
しかし、僕はこの言葉に孫社長の思いやりを感じました。なぜなら、この叱責によって、周囲の人々に「Pepperのリーダーは林である」と強く示すことになるからです。
林要さんは、社内ではトヨタ自動車から転職をした新参者であった。この孫社長の一言でリーダー的な存在になったのかもしれない。当時から関わっていた社員たちは人によって受け止め方がそれぞれ違っていたのかもしれない。
GROOVE Xにとって追い風となるか
この先、新たな通達があるまでは、林要さんを開発責任者と表現するメディアは少なくなることだろう。誤っている可能性があれば、メディアとしてもその紹介文を使いづらくなるのは確かだ。
ただ、林要さんの名前は、すでに色々なところで「売れて」いる。NHKで対談を行ったり、テレビ番組にも取り上げられる機会が増えた。そして、今回の一件で、本来興味なかった層にまで、林要さんの名前がリーチしたと思う。林さんへの応援の声も高まったと言えるかもしれない。
本当はロボスタでは今回の件を記事にするつもりはなかった。ただ、業界の事情を知っている立場として、記事は掲載しなければいけないと考えたため、今回の掲載に至ったのである。
しかしながら、ロボットを応援するメディアとしては、ロボットの良い面で情報が拡散して欲しいなと心から感じている。
報道関係各位
ソフトバンクロボティクス株式会社の人型ロボット「Pepper」に関する表現についてご認識いただきたいことがあり、以下の通りお願い申し上げます。
元弊社社員であり、GROOVE X株式会社の代表取締役である林 要氏についての報道において、林氏をPepperの「父」「生みの親」「(元)開発者」「(元)開発責任者」「(元)開発リーダー」などと呼称することで、あたかも林氏が弊社在籍当時Pepperの技術開発の責任者又は中心的存在であったかのような印象を与える表現が散見されます。
しかしながら、林氏が弊社又はソフトバンク株式会社に在籍中に、Pepperに関して、企画・コンセプト作りやハード又はソフトの技術開発等、いかなる点においても主導的役割を果たしたり、Pepperに関する特許を発明したという事実はございません。また、事実として、当社またはソフトバンク株式会社のロボット事業において「開発リーダー」という役職や役割が存在したことはありません。
従って、林氏にPepperの「父」「生みの親」「(元)開発者」「(元)開発責任者」「(元)開発リーダー」等の呼称を用いるのは明らかな誤りであり、お客様や投資家の皆様等に対しても間違った印象を与えかねず、Pepper事業のオーナーである弊社といたしましても看過することはできません。
これまでも弊社は数回にわたって事実と違った呼称を使わないよう林氏サイドに対し申し入れを行ってまいりましたが、改善がみられないため、今回改めて前述の認識についてメディアの皆様にお伝えさせていただくことにいたしました。
メディアの皆様におかれましては、今後林氏について報道される際は、「Pepperプロジェクトの(元)プロジェクトメンバー」など、Pepperの技術開発の責任者又は中心的存在であったかのような印象を与えない呼称を使用していただきますようお願い申し上げます。
ソフトバンクロボティクス株式会社
代表取締役社長 兼 CEO 冨澤 文秀
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ロボットスタート株式会社ロボットスタートはネット広告・ネットメディアに知見のあるメンバーが、AI・ロボティクス技術を活用して新しいサービスを生み出すために創業した会社です。 2014年の創業以来、コミュニケーションロボット・スマートスピーカー・AI音声アシスタント領域など一貫して音声領域を中心に事業を進めてきました。 わたしたちの得意分野を生かして、いままでに市場に存在していないサービスを自社開発し、世の中を良い方向に変えていきたいと考えています。