【IoT業界探訪Vol22】日本で人気の落し物タグ「MAMORIO」が狙う世界展開への道筋とは
「なくすをなくす」を目指し、落とし物防止タグを作っているMAMORIO。
その新商品「MAMORIO FUDA(読み:マモリオ フューダ)」のネーミングに「おまもり」や「おふだ」が含まれているのは一目してわかるだろう。
また、落し物を探すサービスも、「拾ったものが落とし物センターや交番に届く」ことを前提としている点などは、日本ならではの社会に対する信頼感が感じられる。
このように「和のテイスト」を強く押し出した製品が海外からどう受け止められるのか、興味がある読者は多いだろう。今後の海外展開はどのように考えているのか。株式会社MAMORIOのCOO泉水 亮介さんにお聞きしてみた。
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日本古来の思いをかたどったMAMORIOと海外の反応
編集部
お守りの形を模したMAMORIO、今回はお札のように貼るから「FUDA(フューダ)」、名前はMAMORIOの製品は、かなり強く和のテイストを感じますね。
泉水さん
MAMORIO自体がオマモリのアナグラムですし、「なくすをなくす」ためのお守りみたいな物になっていきたいよね、ってスタートしてるんですよ。
また、日本の文化に根ざした「落とし物をきちんと届ける」という高い倫理観が、MAMORIOのサービスのベースにあります。
「古くからある文化」と、「テクノロジーによって『なくすをなくす』という先端的なビジョン」のギャップ。
MAMORIOのサービスのイメージに強いインパクトを加えるためにはどちらの要素も外せないと考えています。
編集部
古くからある価値観が「なくすがなくなった世界」、新しい世界を作っていくデバイスに繋がっていく感じは面白いですね。
たしかに「落とし物を届ける日本の文化」が無ければ「持ち逃げされるかもしれないからブザーが鳴るようにしないと」とか、「一度落としたら戻ってこないならクラウドトラッキングは必要ない」となってしまいますから、デバイスとしてもサービスとしてもMAMORIOはあの形にならなかったんでしょうね。
編集部
MAMORIOは2020年のオリンピックの時に訪日外国人の方々を感動させるような遺失物の早期返還プラットフォームを作ることを目標にしていますよね。
ここ最近、海外イベントでの露出が続いていましたが、反応はいかがでしたか?
泉水さん
海外には様々な「落とし物防止タグ」があるので、僕らも厳しいんじゃないかなと思っていたんですが、反応はかなり好意的でしたね。「小っちゃいね!」「いいじゃん!」という声が多かったです。tileやそれ以上に大きなタグに見慣れていた人たちにとって、この小ささはかなり衝撃的だったようです。
また、海外の製品は、持ち逃げを防止する、音で探したい、という要望からブザーがついてるのですが、ブザー機能がないMAMORIOにも、「シンプルですごくいいし、ブザーがなくても気にならないよ」という反響があり、良い意味で予想を裏切られましたね。
あと、結構可愛いっていう声も多かったですね。
編集部
かなり好意的ですね。
泉水さん
実はMWCの方には、FUDAの試作品を持っていったんです。FUDAの初めて目にした同業他社の社長からは、「これはすごい。」「ぜひサンプル送ってくれ」と、かなり良い反響が得られました。
そこでFUDAは新しい物として認識されたんだという手ごたえをつかみましたね。
編集部
そういうふうに言ってもらえると自信になりますね。以前、シリコンバレーの人たちにメンタリングを受けたときにこてんぱんに言われていたことを自分たちでWantedlyで掲載されてましたよね。それを見て「シリコンバレーは恐ろしいところだ」と思ってたのですがそこまでではなかったという事でしょうか。
泉水さん
いえ、サンフランシスコの目は正直CESやMWCより厳しかったですね。参加したTech Crunchはスタートアップの祭典なので、やはりビジネスモデルについてかなり厳しい意見が多かったです。
サンフランシスコはtileの本拠地でもありますし、シリコンバレーの投資家たちは、こういうジャンルのガジェットは知ってるんですよね。
なので、どうしても「で、tileと何が違うの?」っていう質問から聞かれることが多かったです。一般のお客さんたちにはMAMORIOの評価はよかったんですけどね。
編集部
それは大変でしたね。ただ、そのお話を聞いて、「それでもいいんじゃないか」という気が少ししています。この前、中国企業に勤めている友人と「日本が勝つためにはどうすればいいのか」という話をしていたんですが、『中国人が価値を感じない物』じゃないと多分勝てないんじゃないか、と言われて納得してしまったんですよね。
泉水さん
逆説的ですね。たしかに、中国のメーカーや投資家の人に「これすげーいいね」って思われたら、すごい勢いでつくられてしまいますからね。
編集部
現状は良くも悪くも、投資家然とした人たちはMAMORIOさんの世界観や高い倫理観を背景としたサービスの良さをきちんと理解できないけれども、一般の人は良いと感じてくれている。このギャップに攻めどころがあるような気がするんです。
あと、もし売れた後にスペックやサービスの表面をなぞって真似ても、根底にある文化や思想がわかっていないと、サービスのクォリティや展開は真似できない。そういった意味ではIoTならではの勝ち方がある気がしてきます。
泉水さん
うちの増木も、
「製品のコピーはできるけど、カルチャーと組織だけは絶対にコピーができない。」
「組織作り、カルチャー作りが創業社長の役目だ。」
と常々言っていて、かなり力を入れています。社全体にMAMORIOらしいサービスを作るためのカルチャーが根付いている事を強く感じますね。
編集部
そういった海外の反応を見て、改めて自分たちの持つカルチャーへの気付きもありそうですね。
前回お聞きしたときには日本をまず固めるみたいな話をおっしゃってたような気がするんですけれども、海外の展示会に出展したり、ということは海外の方も若干意識をされ始めているということでしょうか?
泉水さん
僕らの最終目標は「世界中から『なくすをなくす』」なので、いつかは海外にも出ていく必要があります。
ただ、「明日海外進出しよう」といきなりはできないですよね。
例えば、今年、来年、どこかの国でモデル地域で展開し、そこで顕在化した課題を検討して、勝ち筋が見えてからになるでしょうね。
例えば、2020年に我々がIPOしたタイミングで資金調達、海外展開する、というようなのは有りうるシナリオかなとは思ってます。
今はどのオプションが最適かというのを見極めている形ですね。
編集部
2020年への道筋をお聞きすると、意外とすぐに海外での実証実験のニュースもお聞き出来そうなので、そのお知らせを楽しみにしています。今日は長い時間ありがとうございました。
一年ぶりのインタビューを終えて
「世界中の情報を整理し、世界中の人々がアクセスできて使えるようにすること」。有名な「Google のミッション」だ。それと同じような形でMAMORIOのミッション、「なくすをなくす」を解釈すると、「ユーザーとモノとのアクセスを保ち続け、整理し、利用可能である状態にすること」になるだろう。IoTに関して「あらゆる製品をネットにつなげる」というようなことをあげている会社は多いが、MAMORIOのアプローチは身近だが壮大だ。
「なくすがなくなった世界」には電化、非電化を問わず物品、人の流れをトラックし続けるシステムが必要になる。しかし、様々なコラボレーションプロジェクトやサービスを生み出していく開発チームと、多様な用途に対応する「フレキシブル+シンプル=フレキシンプルなハードウェア」を軸にまい進するMAMORIOであれば、その未来に近づくことができるのではないだろうか。
すくなくとも今回お聞きした様々なコラボレーションやFUDAの発売でその手応えを強く感じることができたはずだ。
「日本らしさ」を製品に込めたIoTサービス、という面白いアプローチで世界を舞台にどう戦うのか、今後もMAMORIOの行末を見守っていきたい。