【IoT業界探訪vol.15】「なくす」をなくすフレキシンプルなデバイスとは?-紛失防止タグのMAMORIOさんに聞いてみた(その1)-

モノをなくしたことがない。そんな人はおそらくいないだろう。
その損害を補填する、「保険」などのサービスもあるが、価値を金銭に置き換えている以上、返ってくるのは「なくしたもの」ではないという本質的な欠陥がある。

これは決して、心情的な問題だけではない。
小指の爪ほどのメモリでも64GBは入る。今や学生でもテラサイズのデータを持ち歩いている人もそう珍しくはない。
そうした大量のデータを持ち歩く人々にとって重要なのは、「同じ金額のもの」ではなく、「なくしたもの」そのものなのだ。

今回紹介するMAMORIOは、そういった古くて新しい問題「紛失」をなくそうという挑戦的な製品だ。

しかし、挑戦的な製品は、裏返せば「なじみのない製品」ともいえる。
今回の「IoT業界探訪」では普段よりも長く時間を取って「紛失防止タグ」という新規の商品分野がAmazon Launchpad(※)のランキングで1位を取り続け、ついには上半期の一位になるまでのストーリーをMAMORIO株式会社 COOの泉水亮介さんに聞いてみた。

IoTスタートアップに興味がある方にとって実になるお話が多いので是非読んでほしい。

※Amazonが国内外の有望なスタートアップの製品を紹介、販売する特設ストア。日本ベンチャーキャピタル協会(JVCA)や、クラウドファンディングのMakuake、シードアクセラレーターのABBALabなどとともにスタートアップの成長を加速するべく、今年一月から開始したプログラム。




MAMORIOの機能紹介


まずはMAMORIOの仕様を紹介しよう。

商品名 MAMORIO
販売元 MAMORIO株式会社(旧社名:株式会社落し物ドットコム)
URL https://MAMORIO.jp/
サイズ / 重さ 縦35.5mm×横19mm×厚さ3.4mm / 3g
電池 リチウム電池 / 最大で1年間利用可能
(利用環境により短くなる可能性あり)
電池交換プログラムあり(有償)
通信方法 Bluetooth4.0(Bluetooth Low Energy)
有効距離 約30m
価格 3,780円(税込)
カラー BLACK / RED / BLUE / YELLOW / GRAY
付帯サービス MAMORIOあんしんプラン(任意加入 / 有償)

MAMORIOは一定周期でBluetoothで信号を発信する、いわゆる「ビーコン」だが、スマートフォンや、クラウドと連携することで次のような機能を実現している。



1.アラート機能

この機能は非常にシンプルだ。
MAMORIOはMAMORIOアプリをインストールしたスマートフォンと通信し、スマートフォンは通信できたタイミングでの位置情報をクラウドにアップロードし続けている。
そして、MAMORIOとスマートフォンが一定距離離れたら、そのタイミングで通知がとどく、という仕掛けだ。
その際の通知には最後にMAMORIOとスマートフォンが通信したタイミング、つまり「紛失した」場所の位置情報が添付されており、その場所に参考にMAMORIOを探すことができる。



2.みんなで探す機能

他のMAMORIOユーザーのスマホがデータを収集、クラウドに送信するのがポイントだ。

もう一つの機能は非常にユニークで、無くしたものを他のMAMORIOユーザーの力を借りて探す機能だ。
たとえば、電車の中にMAMORIOを忘れた場合、アラート機能で取りに行こうとしても、忘れたタイミングでの位置情報は役に立たない。
先ほど紹介したように、MAMORIOはBlueTooth LEのビーコンであり、ビーコン単体で位置情報をクラウドにアップロードすることはできないため、動き続ける電車の位置までは特定できないのだ。
そこで、現在位置をクラウドにアップロードするためにどうするか。
他のユーザーの端末を使うのである。

MAMORIOはMAMORIOアプリがインストールされた他ユーザーのスマートフォンを介して位置情報をクラウドに送信することが可能なのだ。(MAMORIOアプリからは、自分が登録したMAMORIOの位置情報しか見れないようにマスクされている。)
MAMORIOユーザーが増え、メッシュが細かくなればなるほど「なくしたもの」が見つかりやすくなるというユーザー同士が助け合う世界観はMAMORIO独特のものだろう。






③MAMORIO Spot

設置されている交通機関は東急電鉄、相鉄、小田急電鉄、京王電鉄、西武鉄道、江ノ電など、東京メトロなどでも実証実験が進み、今後も増えていくことが予想される。

今年に入ってメディアに取り上げられることが多くなり、ユーザー数の増加に伴い「みんなで探す機能」も増強されているが、それでも運悪く、ユーザーのメッシュをすり抜け、見つからない場合もあるだろう。
そんな時に頼りになるのがMAMORIO Spotだ。

「落とし物をとどける」文化がある日本では、意外なほど「落とし物センター」に届くことが多い。もし届いた「落とし物センター」にMAMORIO Spotが設置されていれば、ユーザーにSpot名が通知され、受け取りに行くことができるという仕組みだ。

どのサービスも非常にシンプルながらMAMORIOが考える「なくす」をなくす社会をどのようなアプローチで実現しようとしているか、その一端をうかがい知ることができる。
では、このような仕様がどのような設計思想の中から生まれたのか、MAMORIO株式会社 COOの泉水さんにお話を聞いてみよう。




ZERO UI、Flexinple(フレキシンプル)、MAMORIOを特徴づける設計思想とは

編集部

最近、紛失防止タグが一般的になってきていますが、その中でもMAMORIOは非常に特徴のある機能を持っていると思います。
特に注目すべき点はどこでしょうか。


泉水氏

具体的に言うと、サイズですね。2015年に開発して以来、僕たちの製品はずっと世界最小クラスなんです。
色々なシーンにマッチした使い方ができ、紛失したくないものにつけて常に持ち歩くことができる。そのサイズは非常に苦労して実現したものです。


編集部

具体的にはどのようにして実現したのですか。


泉水氏

MAMORIOの中にハードウェア設計、製造の専門家がいなかったからかもしれませんが、「常識外れ」ともいえるようなアプローチをとることで何とか実現できました。
たとえば、僕らのハードウェアは最近まで電池に直接はんだ付けされていました。電池ソケットを使うと、体積が大きくなってしまうからです。
また、外装の組み立てに関しても超音波溶着を使っていました(現在は製法を変更)。

どちらも、音や熱による部品へのダメージなどを考えると普通のハードウェア設計者であれば取らない手法かと思います。
しかし、工程内で不良率が多少高くても、国内の良質な量産メーカーと協力して、しっかりした検品体制をしき、不良品を市場に出さないアプローチをとることで、この大きさに納めたわけです。



コインケースに入れても違和感がない大きさ、「厚み」に仕上がったMAMORIO。

編集部

通常であれば、生産工程での不良率を課題に挙げて設計することが多いとおもいますが、しっかり検品して消費者に不良品が届かなければ問題ないですからね。
とはいえ、そこまで大胆なアプローチをとるほどに、MAMORIOにとってサイズは重要なんですね。


泉水氏

小さくすること、シンプルにすることはMAMORIOを語る上で非常に重要なファクターです。それを徹底するために重要な設計思想として【ZERO UI】というものがあります。
MAMORIOには、電源のスイッチ、操作ボタン、音を鳴らすためのスピーカー、インジケータとなるようなLED、振動モーターなど、あらゆるUIがありません。電池の交換もできません。
普通に紛失防止タグの仕様を作ると「部屋の中で探す時のために音を鳴らしたい」というような要望が出てきます。しかし、僕たちは敢えてその機能を付けませんでした。
僕らの紛失の定義は、「モノの場所を知りたい時に、全く手がかりがない状態」です。

MAMORIOのアラート機能で、「自宅で紛失した」ことさえ分かっているのならば自宅を探せば出てくる、それは僕らの定義では「紛失」ではない。
MAMORIOには「紛失」を防ぐための機能以外は必要ないのです。


編集部

なるほど、解決すべき問題の定義づけが明確であれば、製品の形が定まってきますね。



泉水氏

音をならす、という仕様を盛り込むと、スピーカーが必要になります。
また、スマホから音を鳴らすための信号を受信するために「待ち受け」という概念が発生し、待機状態を保つために電池の消費が激しくなります。

そうすると1年間電池を持たせるために大型の電池が必要になる。どんどん大きくなる要素がたまっていってしまいます。
だから、そこを割り切って、ビーコンとしての機能だけにする。
そうすることで、サイズはコンパクトになり、電池寿命が長くなります。
さらに、音を出すための隙間も殆どないので、財布などに無造作に入れられてもそうそう壊れることはありません。

実際、JALさんとの実証実験では、空港で雨ざらしの中、トラックに引きずられて大きな振動にさらされるような機材に装着されても、MAMORIOは殆ど壊れませんでした。
僕らは、あくまでデバイスを「サービスを実現するための手段」ととらえ、シンプルな機能に絞っています。

そうすることで「小型、堅牢、長電池寿命」を実現し、機能に関してはアプリ側かサーバー側で対応する。という設計思想をとっています。



屋外作業がデフォルトの機材に無造作に設置されているのは信頼性の高さの顕れだろう。過剰スペックになりがちなmade in Japan製品の品質の高さだがこのシチュエーションでは非常に頼もしい。

編集部

なるほど、しかし、ここまで徹底的に機能をそぎ落とすというのはすごいですね。


泉水氏

これはスタッフ全員に、代表の増木の哲学が浸透していたからじゃないかと思います
弊社のコア・バリューの一つは、「Go Flexinple!」と言う言葉で表現されています。
シンプルを究極まで追及するとフレキシブルになるというものです
MAMORIOはここまでシンプルになっているからこそ老人の見守りや、ペットの迷子防止といった多様な使い方ができるのだとと思います。


編集部

なるほど、風呂敷が、形状ではなく、結び方を工夫することで道具としての汎用性を高めているのに似ていますね。
他にもシンプルさに気を付けている点はあるんですか?


泉水氏

機能改善の提案について気を付けていますね。
MAMORIOでは、毎週月曜日の朝一番にユーザーレビュー、サポートのクレーム、twitter のエゴサーチ等を社員全員で見て機能改善案を検討しているんです。
電池交換をさせて欲しいとか音が鳴って欲しいとか、いろいろな要望の中からみんなが「いいな」と思った内容を実現します。
良いことほど早くやるという風土なので、本当に全員が良いと思ったものに関しては翌週に実装されてることもあります。
しかし、アプリが複雑になっては意味がないので一個機能が追加されたら1個何かを削る。そう決めています。
だから、この一年間、MAMORIOアプリの外観は変わってないんですよ。
その裏側では、より使いやすいように改善されていますけどね。



ユーザー、スタッフの声をすくい上げ迅速に動いていく社風だというMAMORIO。

編集部

改善の速さもさることながらシンプルに関して本当に徹底していますね


泉水氏

今後Bluetoothはより高機能になっていくと思いますが、MAMORIOは、シンプル、小型、低コストを追求していきます。


編集部

コストについてのお話しも気になりますね。made in JAPANでしっかりしたモノづくりをしていて、サーバー利用料も込みだと考えると、この値段に抑えたのは苦労もあったんじゃないでしょうか。
MAMORIOはサービス内容から想定されるユーザーがITリテラシーが高い「ガジェット好き」ではないから、月額課金で決済させる値付けは難しそうですし。


泉水氏

原価率を考えるとMAMORIOは相当なバーゲンプライスです。ただ、五千円、一万円だったとしたら、自分たちでもMAMORIOを買えないだろうな。と思うんです。そういった意味では、値段を含めて「自分たちがほしいものを作った」という感じですね。
あとは、量産効果と技術の進化で将来的に数百円で買えるようになることを目指して頑張っています。


編集部

そこまでの量産効果が狙える量を目指すとなると、MAMORIOが世の中に満ち溢れて、最終的には「モノ」の形は消えてなくなっていくのが目標かなと思いますね。



セレクトショップ「コレクターズ」で販売されたMAMORIOグローブ。片手を紛失しただけで用をなさなくなってしまうため、1セットにつき2個のMAMORIOが内蔵されている。

泉水氏

実際にその方向に動いています。具体的にはOEMをすすめていて、MAMORIO入りのなくさないキーケース(スバル様の新車購入特典)や、手袋を片手だけなくすことを防ぐためにMAMORIOが内蔵されたMAMORIOグローブがすでに出てきています。
最終的には、intel insideのように何かを買ったら必ずMAMORIOが入っていて、紛失しないようになっている、というのが僕らのゴールですね。


今回のインタビューでわかるように、設計思想から製品の仕様まで、明快な道筋が見えるのが、MAMORIOの特徴の一つだ。
しかし、スタートアップ企業の少人数での開発体制が「コンセプトの共有」という面で有利とはいえ、「紛失防止タグ」というこれまでになかった製品分野のなかでここまで明確なコンセプトを打ち出すことができたのはなぜか。
MAMORIO制作の動機について、次回で聞いてみよう。

関連サイト
MAMORIO株式会社

ABOUT THE AUTHOR / 

梅田 正人
梅田 正人

大手電機メーカーで生産技術系エンジニアとして勤務後、メディアアーティストのもとでアシスタントワークを続け、プロダクトデザイナーとして独立。その後、アビダルマ株式会社にてデザイナー、コミュニティマネージャー、コンサルタントとして勤務。 ソフトバンクロボティクスでのPepper事業立ち上げ時からコミュニティマネジメント業務のサポートに携わる。今後は活動の範囲をIoT分野にも広げていくにあたりロボットスタートの業務にも合流する。

PR

連載・コラム