【IoT業界探訪Vol21】コラボと商流の力で「IoTガジェット」から卒業するMAMORIO

「なくすをなくす」を目標に掲げ、新製品である「貼るMAMORIO」、FUDA(読み:マモリオ フューダ)を発売したMAMORIO。前回の記事では、FUDAの特徴や開発の経緯などにクローズアップしてお伝えした。
しかし、MAMORIOについて知りたいことはそれだけではない。昨年のインタビューから約1年、いま勢いに乗っているハードウェアスタートアップとして、格段に増えたコラボや新たな商流。
そこから彼らが感じた手応えとその後の展開について、株式会社MAMORIO COO 泉水 亮介さんにお話を聞いてみた。



コラボの力で「なくすをなくす」インフラが広がっていく

編集部

前回取材させて頂いたときから、MAMORIO Spotの数が増えましたよね。


MAMORIO Spotとは

MAMORIO Spotとは、落し物防止タグ「MAMORIO」をつけた落とし物が届いたら、それをユーザーのアプリに通知が送付される場所のこと。その通知によりユーザーはどこに落し物が届いたのかを知ることができる。駅構内の落し物センターなど、様々な場所に設置されている。

泉水さん

そうですね。先日は、ついにJR東日本さんでも実証実験を開始させていただくことが出来ました。ようやく、という印象ではありますが、これについては基本的には今まで導入してくださった私鉄各社さんでのノウハウをいかに横展開していくか、というお話につきますね。



施設中の落とし物が集中する遺失物センターに置かれたMAMORIO Spotがクラウドに情報を送信。ユーザーはその情報をもとに落とし物を取りに行けばよい。MAMORIO Spot置くマン、こと泉水さんの活躍により設置されている施設は続々と増殖中だ。

編集部

「コンセントさえあれば運用が可能」というMAMORIO Spotの機能もあるでしょうし、スマホアプリでのお試しが無料というハードルの低さも効いていそうですね。駅以外にはどういった場所にスポットを置き始めたのでしょうか。


泉水さん

新しい試みとしてはサンリオピューロランドさんで置いていただくことができました。昨年夏には、隅田川花火大会にスポットを置かせていただきましたが、イベントや、テーマパークなどのレジャースポットへも今後進出していきたいですね。


編集部

たしかに、そういった場所では財布を出す回数も多そうですし、移動や激しいアクティビティが多いから落とし物も多そうですね。人混みが多いからクラウドトラッキングもうまく働きそうですし、MAMORIOの効果が高そうですね。


クラウドトラッキングとは

ユーザーが落としたMAMORIOを他のユーザーのスマートフォンが補足、位置情報をクラウドに送信する。その情報をもとにユーザーの手を離れた落とし物がどこにあるかをトラックし続けることができるサービス。

泉水さん

実際に某千葉県の夢の国でMAMORIOユーザーの方が財布を見つけた話がかなりバズりましたね。東京の大久保で盗まれた財布をトラッキングしたら、実際にそこのトイレで見つかったという事件です。

途中からはMAMORIOの方でもユーザーコミュニケーションを担当している部署がご協力させていただきました。



クラウドトラッキングにより夢の国のトイレで補足された財布は、MAMORIOの威力を知らしめた。

編集部

すごいインパクトですね。それにしても、色々な施設の落とし物センターに関するデータを持っていたり、スタッフがこういう事例をキャッチアップしていたり、「なくすをなくす」ためのインフラづくりが凄いですね。


泉水さん

そういった意味では、先日採択された日本郵政さんとのコラボレーションは新しいインフラづくりに向けた取り組みと言えるかもしれません。

これまでのMAMORI Spotの置き方は、どうしても都市とか駅の周辺とか人が集まりやすいところが中心だったんですが、街中を走り回る郵便局のバイクに付けたらどうなるのかという実証実験をやったんです。

世田谷区の郵便局のバイク30台に設置したんですが、データを見ると本当に区内をくまなく走ってることがわかり「全ての郵便配達員の方がMAMORIOアプリがインストールされたスマホをもって仕事をしてくれたら、落とし物の発見率は相当上がるだろうな」と思える結果でしたね。



町中をくまなく走り回る配達員をSpot化すれば、どこに落とし物をしても見つかるはず。その明快なアイデアが伝わりやすかったのか、日本郵政が主催する「POST LOGITECH INNOVATION PROGRAM」では、観客賞を授賞した。

編集部

たしかに、落とした場所が人通りが少ないところであれば、MAMORIOをインストールした人が通りかかる可能性はなおさら下がってしまいますが、郵便配達員のように一日一回はくまなく地域を回ってくれる、という事であればクラウドトラッキングの弱点が一気に解決されそうですね。


泉水さん

そうですね。あと、私達がサービスの本筋である「なくすをなくす」ためのインフラを強化することで、こういったMAMORIO関連サービスを利用している方にも、一気にメリットを提供できるのはいいですね。
MAMORIOはシンプルでフレキシビリティが高い「フレキシンプル」なシステムなので、「認知症・高齢者向けのお出かけ支援サービス」や「自転車の盗難を防ぐサービス」「ペットの迷子を防ぐサービス」などを展開する皆様にも利用していただいてます。

さまざまなサービスへの展開が可能なMAMORIO。

泉水さん

MAMORIOを使ったサービスを開発したい皆様に向けて使いやすいSDKを公開することで利用分野を広げていただき、僕らは「なくすをなくす」基本サービスに注力して、互いのサービスを支えるインフラ部分を整備していく、という形で発展していきたいと思っています。
まだまだ法的な規制の問題などがありますが、インフラ整備の中で更に深く日本郵政さんと連携していれば、旅先で落としたものがMAMORIOで見つかり、そのまま自分の家まで届けてもらえるというような未来もあり得ます。


編集部

そこまでいったらすごいですね。



泉水さん

我々は日本人の持ち物をIoT化していくのと併行して、日本郵便さんや、MAMORIOスポットを置かせて頂いているパートナーさんと一緒に「落とし物発見」のためのインフラ「MAMORIO Spot」を増やしていく。そして落としたものが皆さんの手に自動的に帰ってくる「物がなくならない社会」の実現に繋げていきたいと考えています。


編集部

街中以外での利用用途はどのように考えてますか?

たとえば、株式会社ウフルの松浦さんは「オフィス内で人流や機材の動きなどをMAMORIOでトラックして効率化につなげた」事例をよくお話されていますが。


泉水さん

FUDAになったことで、MAMORIOをつけられる備品が多くなり利用用途が拡がったため、今後法人需要は大きく広がっていくでしょうね。

それに対しては、提携パートナーの方々とのソリューションのほか、自社でも新たなサービスを考えています。例えばインターロップで展示した企業向け紛失防止サービス『MAMORIO OFFICE』などですね。


IT導入決裁者向けのインフラ系技術の展示会、インターロップで展示されたMAMORIOの企業向け紛失防止サービスMAMORIO OFFICE。物品に貼るだけで使えるFUDAと合わせてオフィス内での「なくすを、なくす。」にも強みを見いだせそうだ。

泉水さん

それ以外にも、FUDA型になったことでコラボレーション先の方々からの色々な要望に応えやすくなりました。

これまで金型を改造しないと対応できなかった刻印や形状の変更がやりやすくなったんです。なので、ロゴを刻印している部分を無地にして企業さんのロゴをいれたり、外形をキティちゃんの形にするなんてこともできると思いますよ。


編集部

いい意味で一気にIoTガジェット感がなくなりますね。


泉水さん

そういう「IoT製品らしくないところ」は意図的に作っていますね。今までのIoT製品とは違う使い方をしてほしい。そのためには、これまでと違うモノづくり、違う売り方をしていかないといけないと思っています。




商流の開拓から生まれる新しいIoTユーザー

これまでのIoT製品とは違う使い方をしてほしいと語る泉水さん。そのためには既存ユーザーとは違う層に届けるためにも、新たな商流を開拓していくことが必須だ。新たな商流から生まれる、新たなスタイルとユーザー。MAMORIOはどの商流から「なくすをなくす」世界を広げていくのだろうか。

編集部

新しい売り方というお話をされていましたが、前回お話を聞いた時にはヨドバシカメラさんでの販売が始まって半年ほどの時でしたね。



『落とし物防止タグ』という馴染みのない商品分野を伝えるための苦心が見て取れるヨドバシカメラでの展示

泉水さん

そうですね。現在は主に、スマートフォンのアクセサリという位置づけで取り扱っていただいています。ブースもきちんと作っていただいて、「落とし物防止タグ」というものを知らない人にもイメージしやすいメッセージングをしてくださっていたので、非常にありがたかったです。そこから更に伊勢丹さんや蔦屋書店さんなどにも置かせていただくことで購買層をさらに広げている手ごたえがありますね。


編集部

たしかに、Amazonや自社のECサイトでは、「落とし物防止タグ」を調べた人に対して販売していくことはできますが、リアル店舗ではただ通りがかった人に対しても、認識してもらう機会が増えますね。


泉水さん

リアルな店舗でさらに認知が拡がって、例えばヨドバシさんであれば、3万円のカメラを買ったときに「ポイントでMAMORIOいかがですか?」なんてことになってくればいいと思うんですよね。


編集部

カメラ、PC、ゴルフ用品、自転車、ヨドバシAkibaにある商品は、MAMORIOの事例として挙がっていたものだらけですね。

レジの下で電池を売っているのをよく見かけますが、電池よりもMAMORIOをつけたいなんてこともあり得るかもしれません。


泉水さん

MAMORIO FUDAであれば、「ストラップ穴」というガジェットの文脈から外れたものにもつけられるので、圧倒的に販売する場所を増やすことが出来ると思うんですよね。楽器やスポーツ用品店、文具店なんかもそうかもしれません。



蔦屋書店での展示の様子。今後は電化製品の文脈から外れた商流への展開も増えていくだろう。

泉水さん

また、「無くしたくないもの」だけでなく、家などに「忘れたくないもの」ということで言えば高級なお店で買うものだけでなく、普段持ち歩いているものにつけるのも良いかもしれません。



MAMORIO FUDAの発売以降、利用用途に上がることが増えた「IQOS」や「モバイルバッテリー」。高価というほどの値段ではないが、家に忘れた時に買うのには抵抗がある。しかし一日持っていないとツラい。そんなものに使われるようになったという。

泉水さん

MAMORIOを買える場所が増えたと言っても現在400店舗ぐらい。全国平均で言ったら1県に10店舗もないですし、それも首都圏に偏ってます。MAMORIO FUDAは、過去の商流にこだわらず、普通の人が使うコンビニのような場所にも販路を広げていければと思っています。



泉水さん

もしコストが格段に下がった場合、スーパーマーケットでものを買ったときに貼られるテープぐらいの感覚で使われていくでしょう。

その時にはおそらくBluetoothではない手段になっていると思いますが、たとえば、RFIDをスマホで読めるようになって、コストが大幅に下がるということもあり得ない未来ではないですからね。


編集部

民生品のIoTというと「家電」「ガジェット」という文脈が強いですが、どんどんそこを意識させない製品、サービスになっていこうとしているのを感じます。

以前のインタビューでも「あらゆるBluetooth機器をMAMORIOにする」アイデアなどをお話されてましたが、本当にハードウェアにこだわらないですね。


最近増えつつあるトゥルーワイヤレスイヤフォン。筆者は速攻で片方なくしたが、それぞれが出しているBluetooth信号がMAMORIO化されていればそういう悲劇が防げただろう。(image:Apple)

泉水さん

そのプロジェクトについてもまだまだ動いてますよ。

まだ詳しくは言えないんですけど、以前CEATECなどで発表したMAMORIO Insideという、色んなBluetooth製品をMAMORIO化していくプロジェクトがあります。既存のBluetoothを積んでいるデバイス、例えば、スマートウォッチや、スマートグラスがMAMORIOの機能も持っているというものです。

この企画は継続しているので、近いうちに製品が出てくる予定です。


編集部

落とし物防止タグの最大手、Tileさんもついに上陸しましたが、同業他社さんも取り込むようなプラットホームに出来たらすごいですね。
ここ最近、海外での展示やプレゼンなどもされていたようですが、次はそこについてお話を聞かせてください。




IoTスタートアップが過ごす一年の密度

提携する施設がぐっと増え、ユーザーがメリットを実感できるようになったこと。それがここ一年でのMAMORIOの大きな変化だろう。「なくすをなくす」という一般層にもわかりやすいサービス。それに加えて新たな商流やコラボレーションサービスの開発により「落とし物防止タグ」「IoT機器」というジャンル自体をより一般層に近づけられた手応えがあったのではないだろうか。

しかし、そのようにして徐々に開拓され始めた日本のIoT市場に昨年末「落とし物防止タグ」全米王者Tileが上陸した。海外での展示などを経て感じた海外メーカーとの違い、海外市場への展望などを次回はお聞きしてみたい。

ABOUT THE AUTHOR / 

梅田 正人

大手電機メーカーで生産技術系エンジニアとして勤務後、メディアアーティストのもとでアシスタントワークを続け、プロダクトデザイナーとして独立。その後、アビダルマ株式会社にてデザイナー、コミュニティマネージャー、コンサルタントとして勤務。 ソフトバンクロボティクスでのPepper事業立ち上げ時からコミュニティマネジメント業務のサポートに携わる。今後は活動の範囲をIoT分野にも広げていくにあたりロボットスタートの業務にも合流する。

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