【IoT業界探訪vol.15】「なくす」がなくなる社会の引き寄せ方、MAMORIOの見る未来とは-紛失防止タグのMAMORIOさんに聞いてみた(その4)-

前回はいくつものターニングポイントを経て、スタートアップ企業が大きく成長していく姿をお伝えした。
様々な逆境を乗り越えて成長しているMAMORIOだが、今後はさらに「『なくす』をなくす。」未来に向かってユーザー層や利用シーンを増やしていく必要があるだろう。

今まではある意味「物珍しさ」が原動力になっていった部分があると思うが、「紛失防止タグ」がより一般化した段階において取る戦略や、そのさらに先の未来について、MAMORIO株式会社 COOの泉水さんにお話を聞いてみた。




MAMORIOの目指すサービスと未来

編集部

前回では、これまでMAMORIOが歩んできたドラマチックな歴史をおききしましたが、これから目指す方向性や連携先などについて、聞かせていただけますか?


泉水氏

一つはB2B分野ですね。例えば、業務用PCの紛失対応で、よくあるのが BIOSロックやデータが暗号化されているとか。
そもそもなくさなければいいわけですが、現状では実際紛失防止と言うの話になるとケンジントンロックのチェーンぐらいしかないですよね 。そこに大きな市場があるんじゃないかと思っています。



ケンジントンロックの安心感は健在だが、フリーアドレスオフィスの普及や、ノートPCの外部持ち出し機会の増加など、運用スタイルがマッチしなくなってきている。

編集部

たしかに、ケンジントンロックは古典的ながら強力ですが、電車内での置忘れや、業務情報の入ったスマートフォンへの適用など、シーンによってはそぐわない場合もありますね。
今まで民生分野でチャンネルを増やしてきたMAMORIOさんですが、B2Bの分野ではどのように切り込んでいくのでしょうか。


泉水氏

僕らがB2B営業を一切してかけていくというのは難しいので、そこはITベンダーさんとかと一緒に攻めていくことを考えています。
例えばSky株式会社さんのように資産管理ソリューションを作っている会社などですね。
まだアプローチしたことはないですが、もともとそれぞれの業界にいた人たちと新しいMAMORIOの価値を作っていくことができればと思っています。


編集部

他業種の方々と連携してあらたなソリューションを作るのは今までも取り組まれていましたからね。


泉水氏

そうですね。今までも高齢者ペットにMAMORIOを付けていただいて見守りサービスを展開したり、物品管理に使いたいというような取り組みも試していただきました。そのように新しいサービスを試してみたい企業の方にどんどん参入してもらう。

すると、どうなるか。
物品管理用にMAMORIOを活用している輸送車が偶然落し物を見つける、ペットを散歩させているユーザーが迷子のお年寄りを見つける、というように知らず知らずに相互に役立つプラットフォームへと育っていく。



テレビ朝日では撮影機材の管理にMAMORIOが活用されている。多種多様な機材を目視するのは限界があるが、電波ならばキャッチすることが可能だ。

編集部

使う目的はそれぞれ違っても、クラウドに位置情報をアップロードすることに関しては変わらないわけですから、お互いに協力し合えるわけですね。


泉水氏

また、それ以外にも様々な施設の方と連携して、遺失物センターで紛失物を定点計測するMAMORIO Spotも増やしています。
現状では私鉄各社さんや、百貨店の高島屋さんなどの遺失物センターなどに配置していただいています。
デバイスが持つLTE回線でアップロードするので、電源をお借りするだけで設置ができ、導入もしやすいのではないでしょうか。
最近は一気に広がってますね。
他にも、たとえばコンサート会場やスタジアムなど、イベントごとにも相性がいいのではないかとおもっています。



電源さえあれば、LTE回線で落とし物センターをIoT化できるMAMORIO Spot。この簡便さは短時間のイベント会場に売り込むための大きな強みだ。

編集部

すでにあるイベントやスペースと連携していたり、au損保さんと紛失に関する保険を打ち出したり、IoTのサービスは「実世界で既存のビジネスをされている方々といかにうまく連携するか」で広がり方が変わってきますね。


泉水氏

そうですね。
また、連携に関するもう一つのアプローチとして、SDKを無償で提供しているので、各社さんのオリジナルアプリの中にMAMORIOのサービスを組み込む、というようなこともできます。例えば、先ほど紹介したペットの見守りをするFanimalさんはオリジナルのアプリの中にMAMORIO SDKを組み込んでいますね。

現状は迷子のペットを捜すことに使っているわけですが、それぞれの企業さんがもつ独自の知見をアプリに組み込めば、「ペットと飼い主が同時に外出している=散歩の距離を計測」とか、「ペットと一緒にいる時間を計測」といったこともできます。


散歩した距離や、ペットと触れ合った時間を表示するFanimalオリジナルアプリ。「スマートフォンがビーコンの信号を受信している状態」をどうとらえるかで、活用方法が広がる。

編集部


SDKの無償提供によって、MAMORIOのフレキシンプルな特徴が活きるアイデアがどんどん出てきそうですね。こういった紛失以外の使い方に関するアイデアはどんどん出てきそうです。
そういったサービスが、MAMORIOの価値を高め、ユーザーが増え、メッシュが広がり、さらに実現可能なサービスが増える。という正循環で「『なくす』をなくす。」社会に近づけていきそうですね。
では、今後MAMORIOが普及していった先には、どのような目標を持っているのでしょうか?


泉水氏

MAMORIOは2020年のオリンピックの時に遺失物の早期返還プラットフォームを作ることを目標にしています。

日本は世界で唯一落とし物が帰ってくる国といわれていて、海外の教科書では日本の落し物に関する文化が教科書に掲載されるぐらい世界的には尊敬されている文化なんです。
東京オリンピックの誘致プレゼンの時に「おもてなし」ってやりましたよね。

あの丁度前の文脈が落し物に関するところだったんですよ。ただ、これは日本人の個々の倫理観によるものなんですよね。
僕らは海外の人が日本に来た時に落し物は本当に帰って来たという感動だけではなくて、日本人は財布から何から全てIoT化されたものを持っていて、それを活用するためのMAMORIO Spotが公共インフラとして活用されている。
日本って言うのは本当にすごい国なんだというところを見せたいです。



落とした現金の3/4が手元に戻る日本文化は英Guardian誌でも驚きをもって伝えられた。オリンピックに向け増え続ける海外旅行者に、そのさらに先、「『なくす』がなくなった社会」をぜひ体感してもらいたい。

編集部

たしかに、日本のインフラのすごさを海外の人に体験してもらうのにオリンピックはいい機会かもしれないですね。


泉水氏

日本ってITに関しては負けちゃったじゃないですか。でも IoTで日本が得意な「モノ」の分野が改めて重要視されるようになってきたのでこれで勝てる可能性があるんですよ。
まだまだ、これだけの小型のIoT機器を安定して製造するのは日本じゃないと難しいですからね。
ここで僕らは日本人独自の文化とIoTを絡めて、サービスを含めたプラットフォームで勝ちに行きたい。



編集部

IoT機器に日本の文化を組み込む、というのが新しいですね。
「電子マネーと個人認証が発達したら財布の持ち逃げする意味がなくなる」みたいに、「テクノロジーで文化が変わっていく」、ことって大いにありそうな気がします。

たとえば、MAMORIOがアメリカみたいな銃社会で流行った場合、「落とし物を持ち逃げしようとした瞬間に持ち主が帰ってきて、銃を片手ににらみ合い」なんてことを考えたら、持ち逃げ自体が減りそうじゃないですか。
それをきっかけに治安自体が向上するきっかけになったりしたら痛快ですよね。


泉水氏

あと、防御的な考えですが、海外の製品が日本に入ってきた場合は、MAMORIOはユーザー同士のメッシュや、MAMORIO Spotの敷設など、社会インフラ化されているローカルアドバンテージがあるので、切り崩すのが難しいんじゃないかと思いますね。


編集部

逆に海外のタグをMAMORIOアプリで検知することは可能なんですか?


泉水氏

ビジネス的なメリットも考慮しないといけないので、一概にイエスとは言えませんが、技術的には可能です。
MAMORIO本体はBLE(Bluetooth Low Energy)の仕様に沿って周期的にブロードキャストしているだけなので、周期的なブロードキャストをしてくれるのであれば、タグだけでなく、あらゆるBLEデバイスをMAMORIOアプリで検知可能ともいえますね。


今後も増えていくことが予想されるBluetooth機器。使用していないタイミングでMAMORIOと同規格の信号を発すれば、紛失対策になるのではないか?などと想像が広がる。

編集部

海外の製品や企業とアライアンスを組んで、サービスだけでなく文化を輸出していくことができたら、と考えると楽しみですね。
最後に、将来、MAMORIOが目指す「なくす」がなくなった社会はどうなっていくとおもいますか?


泉水氏

現在僕はほとんどのものにMAMORIOにつけているんですが、忘れ物や紛失に煩わされる時間が本当に無くなりました。外出前に一個一個持ち物を確認しておく、ということまで含めて、全く考える必要がなくなる。
必要なものを持っていなければ、通知がきますからね。
そんなことに時間を使うよりも、楽しいことやクリエイティブなこと、人間らしいことに時間を割くことができる、そういう社会ができるんじゃないでしょうか。

それに、僕らは「忘れられる」プロダクトを作りたい。
例えば、「コンビニが無かった時代」ってもう思い出せないじゃないですか。わざわざ銀行探してお金おろしてたっけ?とか、公共料金払ってたっけ?とか。
そういう感じで、MAMORIOが当たり前になって、
「MAMORIOが無い時代って、落し物したらどうしてたんだっけ?」
「え?!勘だけで探して警察に届けて終わりだったの?」
なんていう未来になって欲しいです。


MAMORIOが内蔵されている「なくさない商品」たち。今後も続々と増えていくことを期待したい。

編集部

なるほど、完全に所在がわからなくなってしまうこと以外に、「自分が必要としているタイミングで手元にないこと」まで防げる、ということができれば、格段にストレスなく生活を送ることができそうですね。そういったことに煩わされる時間が完全に「ゼロ」になることで生まれる心の余裕は相当なものでしょうね。
面白いアプローチですが、実現したら確かにそうなるんだろうな、と思えました。
本日は面白いお話をありがとうございました。今後も様々な連携サービスの発表を楽しみにしています。



今回の取材を通してMAMORIOさんにお聞きした知見は、IoTスタートアップに注目する読者にとって、大いに参考になったのではないだろうか。

ポイントを振り返ると、
・コンセプトにこだわり極限までシンプルにしたプロダクトでサービスを提供する。
・顧客と密接なコミュニケーションをとることで、イノベーター層、アーリーアダプター層、アーリーマジョリティ層へ、適切なタイミングで商品を浸透させる。
・シンプルなプロダクトの汎用性を活かし、既存のサービスと様々な形で連携して付加価値を生み出す。
・国内で熟成させた製品を、海外へと展開する際には、プロダクト単体ではなく、倫理や文化、インフラの力など、総合力で勝負していく。

点が強く印象に残った。

「人間らしく豊かな生活」を目標に展開されるサービスは多い。

しかし、その中でも「モノを所有したい」という、人間の根本的な欲求の裏側にある「紛失リスクに起因するストレス」から解放する、というMAMORIOが目指す未来は斬新ながら説得力があったと思う。

今後も、IoTスタートアップ各社が実現しようとしていく未来像に迫っていきたいと思う。

関連サイト
MAMORIO株式会社

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梅田 正人
梅田 正人

大手電機メーカーで生産技術系エンジニアとして勤務後、メディアアーティストのもとでアシスタントワークを続け、プロダクトデザイナーとして独立。その後、アビダルマ株式会社にてデザイナー、コミュニティマネージャー、コンサルタントとして勤務。 ソフトバンクロボティクスでのPepper事業立ち上げ時からコミュニティマネジメント業務のサポートに携わる。今後は活動の範囲をIoT分野にも広げていくにあたりロボットスタートの業務にも合流する。

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