漱石アンドイドが芋坂の「羽二重団子」本店に登場 「吾輩は猫である」朗読等を披露!二松學舍大学「漱石ゆかりの地を巡る」第一弾

今日は私の小説『吾輩は猫である』にも登場させた団子屋に来ることができ、とてもうれしく思います。友人である正岡子規もこの店の団子を大変好んで食べていました。正岡は「芋坂も 団子も 月のゆかりかな」という句を詠んでいます。

落ち着いたゆっくりとした口調で漱石がそう語りかけた。


二松学舎大学特別教授として活動中の漱石アンドロイドが、5月18日、羽二重団子 本店のリニューアルオープンに駆けつけ、挨拶や小説「吾輩は猫である」の朗読などを披露した。店内でお団子を食べながら漱石アンドロイドを見た来店客からは「瞬きや目の動きがリアル」「目を細めて笑う顔が可愛い」「呼びかけたら手を振ってくれた、すごい」「漱石ってこういう声だったんだ」などの声が聞かれた。偉人との時を超えた出会いは驚きをもって迎えられたようだ。

「羽二重団子」本店のリニューアルを記念して店内に漱石アンドロイドを一日だけ展示


「吾輩は猫である」の「芋坂の団子屋」

「羽二重団子」(はぶたえだんご)は創業200年の歴史を持つ団子屋さんで「芋坂の団子屋」と呼ばれている。正岡子規が足繁く通ったお店として知られていて、日記「仰臥漫録」にも登場する。

「羽二重団子」本店は日暮里駅から徒歩約5分、王子街道の碑がめじるし

文政2年(1819年)に創業した本店がこのたびリニューアルオープンした

正岡子規の句と、羽二重団子の由来

夏目漱石が店に訪れたという明確な記録はないものの、漱石と子規は親友関係にあり、漱石の小説「吾輩は猫である」でも触れられていることから、おそらく漱石も訪ねたのではないかとされている。そんな背景から、この日は漱石アンドロイドが来店。冒頭ような挨拶のあと、小説「吾輩は猫である」の朗読などを披露するパフォーマンスを行った。

著者もせっかくの機会なので「漱石セット」を注文した。猫の最中が可愛い



偉人が目を合わせて手を降って応えてくれる新体験

パフォーマンスは一回20分程度、全8回の予定だったが、その合間には来店客が漱石アンドロイドの写真や、漱石とのツーショット写真を撮って楽しんだ。漱石アンドロイドは、パフォーマンスは自律的に動作し、それ以外は遠隔操作が行われた。目にカメラが搭載されているので、来店客の呼びかけに応えて目を合わせてニッコリと笑ったり、手を降って写真撮影に応える素振りも好評だった。




■来店客に目を合わせて手を降る漱石アンドロイド


小説「吾輩は猫である」の朗読とエピソードを披露

予定された時刻どおりにパフォーマンスが始まると、漱石はまず冒頭に紹介した挨拶からはじめ、更に次のように続けた。

さて、私の小説の中では、こちらのことを芋坂の団子屋と書きました。せっかくですから、その一節を読んでみましょう。

「多々良、散歩をしようか」と突然主人が云う。先刻から袷一枚であまり寒いので少し運動でもしたら暖かになるだろうと云う考から主人はこの先例のない動議を呈出したのである。行き当りばったりの多々良君は無論逡巡する訳がない。
「行きましょう。上野にしますか。芋坂へ行って団子を食いましょうか。先生あすこの団子を食った事がありますか。奥さん一返行って食って御覧。柔らかくて安いです。酒も飲ませます」と例によって秩序のない駄弁を揮ってるうちに主人はもう帽子を被って沓脱へ下りる。

ここは、苦沙味先生が教え子である多々良を軽い運動がてら散歩に誘う場面です。(うーん、)これだけ団子団子と連呼すると、やはり食べたくなるものですね。団子を想うあまり「花曇り おやつに食うは団子かな」という句まで詠んでしまったこともありました。いやはやお恥ずかしい。しかし(この体では)食べられないのが残念でなりません。
みなさんは、ぜひじっくり味わってくださいね。

■漱石アンドロイドのパフォーマンス

そしてこの後、漱石自身の自己紹介を行い、小説「吾輩は猫である」の朗読へと続いた。


朗読後は、「吾輩は猫である」を執筆したきっかけ、執筆当時の漱石をとりまく家庭環境や感情などについてが語さられたが、それはまさに漱石本人が吐露しているように感じられた。


孫の房之介氏の声を元に学生達が制作

漱石アンドロイドの声は、漱石の孫にあたる夏目房之介氏の肉声がベースになっている。房之介氏の声を大量に録音して音素・音声解析を行い、録音された肉声を参考にしたり、漱石の声を知っている人に意見を聞くなどして、漱石の声を再現した。朗読は房之介氏の音声の生録音からなるものだが、挨拶や語りなど、ところどころで音声合成技術を使い、シナリオで話している。制作は主に二松學舍大学の学生たちが行っている。学生達は小説や文学、歴史を研究し、「漱石だったらこう言うだろう」「漱石ならそうは言わないと思う」と想像を膨らませながら論議し、シナリオを作り、コンピュータに発話させ、イントネーションやアクセントを調節して、見事にアンドロイドとしての夏目漱石の語りを現代に蘇らせている。


夏目漱石は14歳の頃、漢学を学ぶため「漢学塾」に通った。その塾が今の二松学舎大学の前身である「漢学塾二松学舎」だ。漱石は小さな頃から漢詩が大好きで、作詩の腕前や漢学塾での成績はかなりのものであったと言われている。こうした背景もあり、学校法人二松学舎の創立140周年記念事業として、アンドロイド研究の第一人者である大阪大学大学院基礎工学研究科 石黒浩教授監修のもと、朝日新聞社の協力で漱石アンドロイドは制作された。



「漱石ゆかりの地を巡る」イベントを今後も企画

現在は、二松学舎大学特別教授として、学生や生徒、一般向けに講義や朗読を披露しているが、二松学舎大学では「漱石ゆかりの地を巡る」と題して、漱石アンドロイドを夏目漱石ゆかりの場所で稼働展示したり、パフォーマンスを披露していく予定だ。今回の「羽二重団子 本店」はその第一弾という位置付けになっている。
羽二重団子の澤野氏は今回の稼働展示について次のように語っている。

澤野氏

私ども「羽二重団子」の200周年と本店リニューアルオープンにあわせて、それを記念する面白いイベントのアイディアはないかと探していたところ、「夏目漱石さんのアンドロイドがいるみたいだから、ご来店頂けないかお願いしてみたら?」と家内から助言をもらいました。それがきっかけで二松學舍の広報の方に連絡をとったのがきっかけで今日を迎えました。
漱石さんと当店のご縁としては、正岡子規さんがとても当店をご愛顧くださっていたという記録がありますので、親交のあった漱石さんにも団子のことをお話になられたり、漱石さん自身の小説でも取り上げて頂いていますので、おそらく漱石さんにも食べて頂いたことがあるのではないかな、と考えています。
漱石アンドロイドについては精巧な動きにとてもびっくりしています。今まで漱石さんに抱いていたイメージにとても近いものになっていますね。

株式会社 羽二重団子 代表取締役 澤野修一氏

「漱石ゆかりの地を巡る」として日本全国を巡ることになれば、夏目漱石ファンにとってはとてもうれしいイベントとなるだろう。二松学舎の学生たちの努力で、音声合成のシナリオにも磨きがかかり、漱石の小説の朗読のみならず、現代小説の朗読や、来場者との自然な会話なども実現するかもしれない。
続報があればロボスタでもお伝えしていきたい。

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神崎 洋治
神崎 洋治

神崎洋治(こうざきようじ) TRISEC International,Inc.代表 「Pepperの衝撃! パーソナルロボットが変える社会とビジネス」(日経BP社)や「人工知能がよ~くわかる本」(秀和システム)の著者。 デジタルカメラ、ロボット、AI、インターネット、セキュリティなどに詳しいテクニカルライター兼コンサルタント。教員免許所有。PC周辺機器メーカーで商品企画、広告、販促、イベント等の責任者を担当。インターネット黎明期に独立してシリコンバレーに渡米。アスキー特派員として海外のベンチャー企業や新製品、各種イベントを取材。日経パソコンや日経ベストPC、月刊アスキー等で連載を執筆したほか、新聞等にも数多く寄稿。IT関連の著書多数(アマゾンの著者ページ)。

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