【5Gで8Kライブ配信する未来】ソフトバンクとシャープが「5G」でバスケ国際試合の映像を通信実験!ライブ映像を報道陣に公開

ソフトバンクとシャープは、さいたまスーパーアリーナで行われたバスケットボールの国際試合、ドイツ対チュニジア戦を、次世代通信技術「5G」を使い、高精細な8K映像でマルチアングルでライブ配信する実証実験を行った。この様子はお台場にある「5G×IoT Studio」お台場ラボで、報道関係者に公開された。ライブ映像に関してはシャープの8K Labが担当した。



高精細な8Kの映像を5Gで配信

今回の実験のポイントは大きく2つ。


「8K」マルチ映像をモバイル通信

ひとつは高精細で大容量の「8K」映像をモバイル用の電波に乗せて通信したこと。さいたまスーパーアリーナに設置した2台の8Kカムコーダーで撮影したバスケットボールの試合映像を、MPEG-DASHという通信プロトコルで、かつ一般のブラウザ等でも視聴できるHTTP形式で通信した。映像技術面ではシャープがリードして行った。お台場ラボには77インチの大画面テレビが3台と、立体音響を実現する次世代スピーカーがセットされ、現地のバスケットボールの試合の様子が約10秒遅れのタイムラグで再生された。


5Gでのストリーミング

もうひとつは通信技術に「5G」を使用した実験であること。5Gのストリーミング映像はなめらかでスムーズ、8Kのマルチ映像の通信に十分対応できることが実験でひとまず明らかになった。
ただ、実験電波の認可の都合で、実験環境は少し複雑で実用的なモバイル環境とは遠いものとなった点が残念だ。将来の実用的な環境を想定したデモであれば、5Gの電波を受けて大画面デバイスが8K映像を表示するデモが見たいところだが、公開されたデモの様子ではテレビの中継を観るのと変わらないため、デモ自体は驚きを感じるものではなかった。




5G通信を通じて8K映像をストリーミング

実験で行われた環境はこうだ。
さいたまスーパーアリーナに設置した2台の8Kカムコーダーで撮影したバスケットボールの試合映像をエンコード(圧縮)、ソフトバンク通信網の専用線(有線)で「お台場ラボ」まで送り、お台場ラボ内のコンテンツサーバーにUDPベースで転送(コーデックにはH.265 HEVCを使用)。音声と映像の同期等を行った上で配信、シールドルーム内で5G通信の送受信を行う。通信は「28GHz帯」で400MHz帯域を使う。5G通信で受けたデータをGPUボードを搭載したパソコンでデコードして大画面と高音質スピーカーで再生する、というしくみだ(全体で約10秒の遅延だが、5G通信では10ms以内の遅延で通信)。

端末側から見ると、コンテンツサーバーにストリーミング映像を要求して視聴する形態。いわばYouTube動画を観るのと同じようなしくみだ。1カメラあたり100Mbpsで2視点、3本の映像が送られるため合計で300Mbpsの通信が5Gを通して行われた。

今回の実験で使用された5Gの仕様(上)と、シールドルーム内の機材構成

もしも途中の5G通信で送受信がボトルネックになれば滑らかなストリーミングができないはずだが、今回の実験ではボトルネックになることなく、スムーズな映像が再生されていた。ただし、数10秒に一回程度の割合でブロックノイズが走る状況もあり、8K映像としては今後のブラッシュアップが必要な部分もわずかながら感じられた。

■お台場ラボで公開された8Kライブ映像 5G通信を使用


将来の8K映像配信と5Gネットワーク

次世代通信「5G」にはさまざまな分野から期待が集まっている。そのひとつが大容量通信を必要とするモバイル環境での映像配信だ。5Gでは高速性と大容量性が向上するので、スポーツ観戦やコンサート中継など、モバイル環境でどこでもライブ配信が楽しめたり、どこでもライブビューイングが実現できるようになるとされている。

今回の実証実験では、8K映像配信と5G通信においてソフトバンクとシャープが持っている考えに、それぞれ興味深いと感じる部分があった。コンテンツサーバをインターネット上に配置するのがオープンなアクセスを誘導するには最適と思われるが、ソフトバンクは8K映像ほどの大容量データになるとインターネット環境が通信のボトルネックとなり、リアルタイム配信は難しいケースがあると見ている。

インターネット上にコンテンツサーバを配置した場合は、膨大な通信データへ多くの視聴デバイスからアクセスが集中するとインターネット環境がボトルネックになる、という見方もある(インターネット上に設置することが現実的ではないという意味ではなく、ベストエフォート環境などを考慮して、アクセス集中時などで大きな負荷がかかることが予想される)

そのため、コンテンツサーバは高速性が担保できるキャリアの通信網内に設置して、5G通信によって直接、ユーザーの端末に届けるしくみが有効としている。

キャリア通信網にコンテンツサーバを設置すれば、(この図では)ソフトバンクユーザーは5Gで快適な動画の視聴が可能。一方で他のキャリアのユーザーは高画質のサービスは受けられない

これが最適解だとすると、将来的には中継を行うキャリアのユーザーだけが5G通信でのリアルタイム配信の恩恵が受けられることになり、ライブ配信が普及した際にはキャリアを選択する大きな要素のひとつになりそうだ。


8K映像が通信網に上がっていることが重要

また、現在はモバイル通信ではスマートフォンやタブレットなど、せいぜい10〜15インチ程度の画面サイズが一般的だ。その環境に8Kほどの高精細映像が必要なのかという議論があるだろう。この点について両社は下記のようにコメントしている。
「今回の実験では、私達開発側としてはMPEG-DASHのマルチセグメントを実証実験できたことが重要な要素のひとつとなっています。MPEG-DASHでは、現状使われている2K、高精細の4K、8Kの映像データをすべて配信し、ネットの混雑状況やユーザー側の選択によって画質が変えられるという特徴があります」


現時点では8K映像がモバイル環境でどれほど必要かは未知数だが、これらをマルチバンドで配信することで、スマートフォン、タブレット、大型テレビ、ライブビューイング向けの超大型ビジョンなど、幅広く対応できる点が将来の可能性を広げられる、と見ているようだ。そして、その環境を実現するためには8Kの高画質映像が通信網のコンテンツサーバに上がっていることが重要になる。

ソフトバンクは「今後の展開として、今回の実験ではコンテンツサーバを用いたライブ配信がメインだったが、編集会社が映像処理を行うサービスだったり、カメラ映像をAIによる画像解析に使うなど、様々な用途に展開できると考えています」と語った。

コンテンツサーバだけでなく、リアルタイム編集やAIによる解析など、エッジコンピューティング(MEC)と連携した幅広い展開を構想している

今後も「5G」の動向、ビジネス展開に注視していきたい。


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神崎 洋治

神崎洋治(こうざきようじ) TRISEC International,Inc.代表 「Pepperの衝撃! パーソナルロボットが変える社会とビジネス」(日経BP社)や「人工知能がよ~くわかる本」(秀和システム)の著者。 デジタルカメラ、ロボット、AI、インターネット、セキュリティなどに詳しいテクニカルライター兼コンサルタント。教員免許所有。PC周辺機器メーカーで商品企画、広告、販促、イベント等の責任者を担当。インターネット黎明期に独立してシリコンバレーに渡米。アスキー特派員として海外のベンチャー企業や新製品、各種イベントを取材。日経パソコンや日経ベストPC、月刊アスキー等で連載を執筆したほか、新聞等にも数多く寄稿。IT関連の著書多数(アマゾンの著者ページ)。

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