日本イーライリリーが会話ロボット「Tapia」(タピア)で小児患者が治験に参加しやすい環境づくり 6医療機関で実施へ

製薬会社の日本イーライリリーは、小児患者が治験に参加しやすい環境づくりのため、2019年11月より、MJIのたまご型ロボット「Tapia(タピア)」を活用して治験継続を支援するパイロット運用を開始したことを発表した。治験とは、くすりの効果と安全性を人で調べる臨床試験のこと。

パイロット運用ではTapiaを活用して小児を対象とした治験の啓発、治験参加者の募集、同意説明文書の説明などを行い、参加者の治験継続を支援。6医療機関で約14~16ヵ月間にわたりタピアを設置して行う。


小児の治験は成人に比べて参加・継続がされにくい

小児用医薬品の開発において、小児治験参加者を集めるのは難しく、大きな課題の一つとなっている。その背景には、治験の認知度が低いことに加えて、成人に比べて小児患者の絶対数が少ないこと、「小児」には乳幼児から中高生まで幅広い世代が含まれており、その対応が必要であることなどがある。

また、診察中に医師と保護者だけで意思決定が進み、小児患者自身が理解・納得を得ぬまま治験が進んでしまうことも少なくないという。そのため小児用医薬品の開発は、小児患者や保護者からのニーズが高い一方、成人用医薬品の開発に比べると参加・継続がされにくい現状がある。


タピアが動画でわかりやすく説明

タピアは発話機能と液晶画面による動画再生機能を搭載した、たまご型のコミュニケーションロボット。患者はタピアに表示されている治験についての説明動画や同意説明の補助動画を音声付きで見ることで「治験とは何か?」「参加したら自分は何をすればよいのか」などについて知ることができる。

治験の説明 イメージ

動画で治験に興味を持った患者は、医師や治験コーディネーターに質問することでより詳細な説明を受けることができる。治験実施医療機関側は同意説明補助動画を一緒に確認することで、患者の治験に関する理解度を知ることができ、その理解度に応じてより効率的に解説を行うことができる。

治験の説明 イメージ

医師と保護者だけで意思決定が進むという課題においては、タピアの画面に表示されたキャラクターが「今日話したいことある?」といった質問を患者さんに投げかけ、その答えを紙に印刷する機能を使用する。その紙を持って診察に望むことで、医師や保護者が小児患者のコミュニケーションをサポートできるような工夫がされている。

キャラクター イメージ

再来院時には、初回来院時に取得したQRコードを使うことで、タピアの画面にキャラクターが表示され、今日の調子などをざっくばらんに話しかけられたり、自分の治験がどの程度進捗したかを確認したりすることが可能。パイロット運用では、6医療機関で約14~16ヵ月間にわたりタピアを設置する。

■実施概要
◼対象疾患:若年性特発性関節炎
◼期間:2019年11月~2021年2月
◼対象医療機関: 全国6施設(宮城1、東京 1、神奈川 2、大阪1、鹿児島1)

日本イーライリリーはパイロット運用の結果をもとに、今後開始する小児対象の治験において患者が参加しやすく、継続しやすい治験実施のためにタピアなどのツールを活用していく。成人を対象とする治験においても同様のツールの使用を拡大していく予定。

日本イーライリリー臨床開発本部本部長の藤本賢二郎氏は次のように述べている。

日本イーライリリー臨床開発本部本部長 藤本賢二郎氏
「今回のデジタルテクノロジーの活用によって、課題となっていた小児患者さんの治験への参加および継続を促進できることを期待しています。弊社は今後も、新しいテクノロジーを活用し、多様な患者さんのニーズに沿った臨床開発を目指していきます」


2016年にはPepperを活用したパイロット運用を実施

日本イーライリリー株式会社は、米国イーライリリー・アンド・カンパニーの日本法人。人々がより長く、より健康で充実した生活を実現できるよう、革新的な医薬品の開発・製造・輸入・販売を通じ、「がん、糖尿病、筋骨格系疾患、中枢神経系疾患、自己免疫疾患、成長障害、疼痛」などの領域で日本の医療に貢献している。

同社は患者の治験に対する認知向上と参加促進のため、これまでも様々な取組みを展開してきた。2016年からは、患者が参加しやすいように、患者や治験コーディネーターから治験の手順や資材について意見をもらい治験を変える「CoLAB」というプロジェクトを導入し、約10の疾患を対象とした治験で実施している。

具体的には、これまで患者さんの「来院スケジュールに配慮して規定の来院日の許容期間を広げることで来院日の調整をしやすくする」 「プラセボの設定を無くす」 「対象疾患に対して日本で広く使われている薬剤を併用可能にする」といった変更を行った。

また昨年9月からは、人型ロボット「Pepper」を用いた治験啓発に関するパイロット運用を開始し、全3医療機関を対象に行われた実験の結果、実施医療機関全てにおいて治験に関する患者さんからの問い合わせが入るなど、治験に対する認知向上と治験参加者拡大に貢献してきた。

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山田 航也

横浜出身の1998年生まれ。現在はロボットスタートでアルバイトをしながらプログラムを学んでいる。好きなロボットは、AnkiやCOZMO、Sotaなどのコミュニケーションロボット。

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