ロボットゆうえんち、あつぎロボットフィールドを開設 競技を超えた交流を目指し各種ロボコンコース常設

株式会社MANOI企画によるロボットイベントの企画・運営等を行う「ロボットゆうえんち」は、2020年9月5日に各種ロボット競技会(ロボコン)専用コースを常設した「あつぎロボットフィールド」を開設すると発表し、オープン前日の4日に記者発表会を行なった。

場所は神奈川県厚木市の本厚木駅から徒歩5分足らずの場所にある「アミューあつぎ」3F。これまで修理工房兼事務所として活用していたスペースを拡張する。常設されるコースは、二足歩行ロボット競技の「ROBO-ONE」用Cリング、自律ロボットによる迷路探索競技「マイクロマウス」クラッシックコース、山形発の配管探索競技「パイプロボコン」スタンダードコース。今後、さらに増やしていく予定。

ロボコンコースを常設するだけでなく、設備を一般開放し、主に子どもたちを対象としたロボット講習会等を開催する。神奈川県の「さがみロボット産業特区」と連携して、厚木市とともに「いつでもロボに会える街あつぎ」の実現を目指す。

利用料金は1日500円(一般、高校生以下は300円)を予定。半日券は100円引き。1年間有効の年間フリーパスポートは一般 8,000円、高校生以下は 5,000円(いずれも税込)。9月は、オープン記念として各種教室・講習会を無料で開催する(要・予約)。

■ 動画


「新しいことをやるなら今しかない」

ATUMO「アイドロイド」

オープニングは、ロボットゆうえんちも参加している厚木市の「あつぎものづくりブランドプロジェクト(ATUMO)」によるロボットアイドル「アイドロイド 9」 によるロボットダンスから始まった。曲は子ども達にも人気の「パプリカ」。

■ 動画

ロボットゆうえんちは全国各地の科学館やデパートなどで、主に子どもたち向けにロボット体験操縦イベントや工作教室、販売、ロボット製作などを事業として行なっている。ロボットゆうえんち代表の岡本正行氏は、クラウドファンディングでの支援者や厚木市などに感謝を述べ、ロボコンについて解説した。様々なロボコンの常設コースを設置したスペースをオープンすることは岡本氏にとって「長年の夢だった」という。

ロボットゆうえんち代表 岡本正行氏

繰り返しになるが、ロボットゆうえんちは移動型イベントを主な事業としている。新型コロナウイルスによる相次ぐイベントの中止・自粛の影響により、同社の売上は急減。3月にはゼロになってしまったという。だから逆に「新しいことをやるなら今しかない」と考えて、敢えてこの時期のオープンを決めたと岡本氏は述べた。今後しばらく、移動型イベントは難しくなることから地元密着型スタイルを選び、ロボコン自体もROBO-ONEはオンライン化、マイクロマウスは動画投稿形式となっている。だが誰もが自宅でロボット開発ができる環境を持っているわけではない。そこで、ロボコン参加者たちに常設フィールドを活用してもらいたいと述べた。

併設されているロボットパーツショップの面積も広くなった

また、日本のロボットを取り巻く環境を考えても「今しかない」と考えたと岡本氏は続けた。日本は「ロボット先進国」の座から滑り落ちつつある。岡本氏は「先頭集団にはいるがトップは走っていない。新型コロナ禍でさらに差がつくこともあり得る」と述べ、日本国内とは大きく異なる中国DJI主催のロボコン「ロボマスター」の盛り上がり方や韓国でのロボコンの社会的プレゼンスを紹介。「いま作らないと、この差はどんどん開いていく」と語った。

ショップには作業スペースも併設

オリジナルグッズも販売中


幼児向けロボット教室も開催

幼児向けロボット教室も開催予定

今回、ロボットゆうえんちでは幼児向けロボット教室も新たに開催する予定だ。プログラミング教育が小学校でも必修になったことから、いま、子ども向けプログラミング教室はブームとなっているが、月謝は平均およそ2万円くらいと、それなりの金額だ。また継続する子どもたちが少ない点が課題だと指摘。運営する側から見ても「通常のプログラミング教室は設備投資が高いことと長く継続してくれる人が少ないことから月謝が高めに設定されている」という。

そこで、幼児向けからロボット教室をはじめ、小学校から中学校に至っては実際のロボコンに出場することで目標を持たせ、長く継続してもらうことを目指して、月謝を 5,000円と安く設定した。9月は無料とする。

めいめいロボット工房 八木美恵子氏

幼児向け講座を担当する、めいめいロボット工房の八木美恵子氏と八木茂氏によれば、幼児向けの遊びから入る講座で、アルゴリズムの基本である逐次処理、繰り返し、条件分岐の3つを学ぶものになるとのこと。教材はアーテックやマテルのもの等を用いる予定。

子ども向け知育教材も販売する

また高校生もフォローする。パイプロボットのロボコンについては、もともとミニ四駆のような部品で構成されていることから趣味としても展開できないかと考えているという。岡本氏は、幼児から高齢者までを繋いでいくことで「ロボコンを文化としていきたい」と述べた。

また、倒立振子を使った玉乗りロボットのロボコン用のフィールドとして、厚木のジオラマも作る予定で構想中だという。岡本氏は「全世界を基準にして『いつでもロボットに会えるまち・あつぎ』を目指していきたい」と語った。

いま一押しされている製品は「おすわりATOM」。組み立て済み完成品。

ロボットゆうえんちがこれまでに委託されて作ったロボットなど

一部サーボモーターは特価販売中


多様な競技者が集い情報を交換する

■ 動画

続けて、各ロボコン関係者様からのビデオメッセージが紹介された。ロボコン競技のあらましと合わせてご紹介する。

一般社団法人 二足歩行ロボット協会 理事長 西村輝一氏

ROBO-ONE」は二足歩行ロボットによる格闘競技。無線で操作されるロボットが、リング上で3分間3ノックダウン制で戦う。例年、9月と2月に大会が行われている。

一般社団法人 二足歩行ロボット協会 理事長の西村輝一氏は「ロボット開発においては三現主義(現場、現物、現実)が重要。あつぎロボットフィールドがあることはロボット開発を行い、ロボット競技に参加する人たちにとっては非常に有効だ。ぜひ使っていただき、開発を進めてもらいたい。9月のROBO-ONEもリモート大会として行われるが、地域でチームを作って参加してほしい」と語った。

公益財団法人ニューテクノロジー振興財団理事で東京工芸大学工学部准教授の鈴木秀和氏

マイクロマウス」はマイコン搭載の小型の迷路探索ロボットを使った競技。ロボットはフィールド4隅に設定されるスタート地点から迷路を辿って最短・最速ルートを探索したあと、中央のゴールまでのタイムを競う。1980年から行われている歴史あるロボコンでもある。

公益財団法人ニューテクノロジー振興財団 理事で、東京工芸大学工学部准教授の鈴木秀和氏は「複数のロボットコンテストの競技台が一つの場所においてあるのは珍しい。多様な競技者が集い情報を交換することでロボット業界活性化に寄与するだろう。厚木市はロボットに力を入れている街でもある。あつぎロボットフィールドがロボット情報発信の中心地となることを期待しているし我々も協力していきたい」と語った。

一般社団法人パイプロボット普及協会理事長 船橋吾一氏

「パイプロボコン」は2019年にできたばかりの新しいロボコンで、透明配管内のコースを走破するまでのタイムを競う。配管ロボットの普及・利用促進を目的としている一般社団法人パイプロボット普及協会が主催して、ロボットゆうえんちが運営している。一般社団法人パイプロボット普及協会理事長で、その中心となっている弘栄設備工業株式会社 社長の船橋吾一氏は、「我々はロボットゆうえんちと共にパイプロボコンを作り上げてきている。我々は建築設備業を担う団体。コースであるパイプをいちばん多く取り扱っていることからパイプロボコン構想に繋がった。建設業界振興と合わせて、ものづくり日本の再構築の原動力となってもらいたい」と語った。

パイプロボコン。

小型ロボットを無線で操作する


競技を超えた技術の交換を期待

神奈川工科大学ロボット・メカトロニクス学科 知能機械研究室 兵頭和人教授

神奈川工科大学ロボット・メカトロニクス学科 知能機械研究室の兵頭和人教授は「玉乗りロボット」競技について紹介した。ロボットゆうえんちの岡本氏は、神奈川工科大学では非常勤講師として「ロボット業界で働くことはどういうことなのか」といった内容を3年生むけに講義している。そのなかでは毎年、商品企画をつくってみようというワークショップを行い、最終的には「ATUMO(あつぎものづくりブランドプロジェクト)」にプレゼンをしている。

毎年ボツになっているそうだが、昨年度の学生が「厚木では大道芸をやっているから玉乗りを競ったらどうか」という提案を行い、それが受け入れられ、玉乗りロボコンの企画へと繋がったという。

兵頭氏は「いろいろな競技の色々な人が集まることで、競技を超えた技術の交換が起こる」と多様性の重要さを指摘した。たとえばマイクロマウスで自分の向きを知るために使われているジャイロセンサーは使い方次第でコースを速く走れるかどうかを左右する。同時にジャイロは二足歩行ロボットの安定化にも用いることができる。兵頭氏は「技術交換のなかでお互いの競技レベルが上がっていく」と述べ、「同じ市内でも一緒に練習会をするのはなかなか難しい。だが常設施設があると日程を決めることも簡単。ロボコンを行う団体には団体ごとにノウハウがあるが、ノウハウを交換できるとお互いにレベルが向上していく」と常設コース設置の意義を語った。

学校法人創志学園 クラーク記念国際高等学校 厚木キャンパス キャンパス長 大平嘉彰氏

このほか、学校法人創志学園 クラーク記念国際高等学校 厚木キャンパス キャンパス長の大平嘉彰氏も挨拶した。クラーク記念国際高等学校は通信制高校で、全国に1万人の生徒がいる。通信制だが全日制に近いスタイルの高校で、本厚木にもキャンパスがあり、200名近い生徒が通っている。

クラーク記念国際高校では子供たちに自信をつけるために、好きなことやらせるなかで将来を考えさせるといった教育を行なっているという。大平氏は「ロボットゆうえんちの岡本さんと話をするなかで、強い教育熱を感じた。クラーク記念国際高等学校としても是非、ロボットゆうえんちさんの力を借りて、ロボコン部を創部したい」と語った。

また次年度にはテクノロジー専攻を立ち上げる予定で、そちらではロボットを使った数学などを学ばせる予定。大平氏は、「好きだな、楽しいなと感じたり、失敗をするなかから得意になってもらい、好きなロボットを仕事にできる、そういう人を育成したい」と語った。


本当の利用者層は未知数?

パイプロボコン操縦体験の様子

このほか、ROBO-ONEの優勝経験プレイヤーであるくぱぱさん、くままさんや、ロボットゆうえんちの「園長」であるGIYさんによるROBO-ONEのデモバトルや、パイプロボコンの操縦体験が行われた。パイプロボットの操作は案外難しく、筆者のタイムは50秒程度だった。これでも早いほうだとのことだった。

なおくぱぱさんとくままさんは、9月15日にオンエア予定のTBS「マツコの知らない世界」の「ロボットペットの世界」にゲストとして出演する予定だ。

■ 動画

堀口春奈さん(左)と岡本氏(右)

今回のイベント司会は、厚木の魅力をPRするゆるキャラ「あゆコロちゃん」のお姉さんとして厚木市のPR等で活躍している堀口春奈さんが行なった。ロボットゆうえんちでは「あゆコロちゃん」のロボット、「あゆコロちゃんロボ」も作っている。

あゆコロちゃんロボットと堀口春奈さん

ロボットフィールドの実際の運用についても伺った。主に、週末での活用を想定しているとのこと。会見では子どもたちへの教育が強調されていたが、今のところ予約している人の半分は社会人とのことだった。

今後設置予定のロボコン競技場については子どもたちが怪我しにくいものに限って構想中とのこと。また今後大会なども行われるが大規模なものはアミューあつぎの6Fにあるより大きな会議室など別会場で行うことを想定しているとのことだった。

昭和30-40年代に作られた通称「相澤ロボット」のうちの一つ。岡本氏や神奈川工科大の兵頭氏らが修理した
関連サイト
ロボットゆうえんち

ABOUT THE AUTHOR / 

森山 和道

フリーランスのサイエンスライター。1970年生。愛媛県宇和島市出身。1993年に広島大学理学部地質学科卒業。同年、NHKにディレクターとして入局。教育番組、芸能系生放送番組、ポップな科学番組等の制作に従事する。1997年8月末日退職。フリーライターになる。現在、科学技術分野全般を対象に取材執筆を行う。特に脳科学、ロボティクス、インターフェースデザイン分野。研究者インタビューを得意とする。WEB:http://moriyama.com/ Twitter:https://twitter.com/kmoriyama 著書:ロボットパークは大さわぎ! (学研まんが科学ふしぎクエスト)が好評発売中!

PR

連載・コラム