建築家・黒川紀章氏が設計したメタボリズム建築の代表作『中銀カプセルタワービル』(銀座・東京)は老朽化のため解体工事が進んでいる。
建築・都市のデジタル化などを手掛ける株式会社gluon(グルーオン)は、同ビル解体着工前に名建築の価値を後世に残すため「3Dデジタルアーカイブプロジェクト」を始動。専門家らとともに複数の計測技術をかけ合わせ、建物を3次元で記録し、3Dデータによる保存を行っている。
プロジェクトでは、これまでに建物のありし日の姿をスマートフォンで撮影できる『中銀カプセルタワービルAR』の公開に加え、新たに建物の中に入って内部を巡ることができる『中銀カプセルタワービルVR』を公開した。なお、VRはβ版で、今後、入れるエリアが徐々に拡大される。
なお、同プロジェクトは、「 中銀カプセルタワービルA606プロジェクト」と協同で学術的調査を行い記録保存に取り組んでいる。
東京・銀座の中銀カプセルタワービルは、日本を代表する建築家の黒川紀章氏の設計で1972年に完成。1960年代に日本の建築家・都市計画家のグループによって展開された建築運動「メタボリズム」の思想を体現する建物として世界的に知られているが、老朽化のため、2022年4月12日から解体着工が進んでいる。
3次元で建物を立体的に記録
中銀カプセルタワービルの記録には、ミリ単位で正確な距離を計測できるレーザースキャンのデータと、一眼レフカメラやドローンによって撮影した2万枚以上の写真データを組み合わせて、建物全体をスキャンすることで、実空間の情報をまるごと3次元データ化し、デジタルアーカイブとして後世へ残していく。従来、建物の記録には写真や図面による2次元での記録が一般的であったが、平面的な写真や図面だけでは記録しきれない複雑な形状や構造の立体的な記録に加えて、住人が工夫して暮らす中で改変した軌跡や経年変化した建物の姿をありのままに記録した。
■【動画】3D Digital Archive Project – Nakagin Capsule Tower
■【動画】3D Digital Archive Project – Nakagin Capsule Tower AR
『中銀カプセルタワービルVR』を公開
中銀カプセルタワービルをVRゴーグルやスマートフォンで見ることができるVRを公開。VRはclusterとVR Chatで無料で楽しむことができる。現在、『中銀カプセルタワービルVR』β版では、A棟の地下室、1階エントランス、3階テラス、6階ブリッジやA606、12階ブリッジやA1302、塔屋を巡ることが可能だ。
■【動画】中銀カプセルタワービルVR – VRChat / cluster
「メタバース」に世界的な名建築を保存する
昨今、バズワードとしてエターテインメント領域のみならず、ITやビジネス業界まで幅広い分野で注目を集めている「メタバース」。3Dデジタルアーカイブプロジェクトは、これまでにも菊竹清訓氏設計の名建築『旧都城市民会館』(宮崎・都城市)や、キングオフ銭湯と称される『大黒湯』(東京・北千住)をXR技術によってメタバースに復元してきた。中銀カプセルタワービルのデジタルアーカイブでも、細密な計測データをもとに建物を生成し、メタバース上に再び人々が集い、コミュニティを醸成することを目指している。
株式会社gluon